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もしもし? その3

 マクローコがコンビニおもてなし5号店に駆け込んできています。
 で、その手には赤く明滅しているトーキングシェルが握られています。
 そのトーキングシェルは赤く明滅しながら、
『異常事態・異常事態』
 と連呼しているんですよね。
「なんだこれ?」
 スアからこんな機能のことは聞いていませんでしたので、僕は首をひねりました。
 僕はさしあたってスアから聞いていた事を思い出していきました。
「……このトーキングシェルの中に通話水晶が入っていて、この殻の中で、その通話水晶の持ち主とトーキングシェルが会話しているはずだよな……」
 そうつぶやいた僕はトーキングシェルの殻の蓋をあけてみました。
 
 ……すると、

『誰か助けて~~~~~~~~』
 って女性の声が聞こえてきたんです。
「な、なんだなんだ!?」
 僕は、慌ててそのトーキングシェルの中から通信水晶を取り出しました。
「もしもし!? どうなさいました?」
 僕が慌てて通信水晶に向かって話しかけたところ
『え? 誰? 人? 人なの!?』
 そんな返事が返ってきました。
「はい、人です、先ほどまでの予約システムから変わっております」
『よかった……じゃ、ない!お願い助けて、今すぐ!』
「え? ど、どうなさったんですか?」
『お客とアフターしてたらさ、いきなり5人がかりで襲われて……今、トイレに逃げ込んでるんだけど、もう戸が壊されそうなのよぉ、お願い助けてぇ!!!』
 通信水晶の向こうの女性は、どうやら一刻の猶予もない状態のようです。

 おそらく、どこかの建物の中に連れ込まれているのでしょう。
 で、藁にもすがる思いで、この通信水晶に向かってエス・オー・エスを話続けたのだと思われます。
 でも、このトーキングシェルはコンビニおもてなし美容室マクローコのお店の予約に関する会話しか出来ないため、エス・オー・エスばかり言い続ける女性の言葉を理解出来なかったため赤く明滅しながら『異常事態』を連呼していたのでしょう。

「……で、大至急なんとかしなきゃとは思うんだけど……」
 僕はその通信水晶を持ったままその場で足踏みしていました。
 状況はだいたいわかりましたけど……この通信水晶の通話相手が今どこにいるのかまではわからないわけです。

 すると、そこにスアが現れました。
「……旦那様が困っているのを感じた、の」
「あぁ、スア! 助かった!」
 心配そうな表情をその顔に浮かべながら僕に向かって『……どうした、の?』的な表情を浮かべているスアに、僕は、
「実はこの通信水晶の向こうの情勢がかくかくしかじかで……」 
 と、事情を説明していきました。
 その言葉を、ふんふんと頷きながら聞いていたスアは、
「……だいたいわかった、わ……まかせて」
 そう言いながら右手を振りました。
 すると、その手に魔法樹の杖が出現しました。
 スアは、その杖を僕が持っている通信水晶にそっと近づけました。
 すると、杖にくっついている水晶部分が光り始めました。
「……ん、場所わかった、わ」
 そう言うと、スアは通信水晶に向かって何やら詠唱しました。
 続いてスアは、その場で転移ドアを生成しはじめました。
 で、それが完成すると、
「……この向こう、が、現場、よ」
 そう言いました。
 で、僕は、鬼人の剣豪グリアーナと、マクローコと一緒にやってきていたゴーレムと一緒にそのドアをくぐっていきました。

 ……なんということでしょう

 僕の目の前には、薄暗い部屋が広がっていました。
 奥のベッドルームらしき方向からは、何やら怪しい匂いが漂ってきています。
 明らかにこれ、性的に興奮させるための麻薬的な薬ですね。
 で、その壁の一角に扉があります。
 どうやらその扉がトイレのようでして、その周囲にいかつい男達の姿がありました。

 ですが、その男達は全員気絶していたのです。

 スアが召喚したと思われるすっごくいかつい8本腕の骨騎士(スケルトンナイト)がですね、5人の男達の頭をその8本の腕で掴んで壁に何度も叩きつけ続けているのです。

 ……これはあれですね、スアが転移ドアを生成する前に通信水晶に向かって詠唱していたあれによって召喚されたのでしょう。

「おいおい店長、もう片づいてるじゃないか」
 部屋になだれ込んできたグリアーナは、久々に暴れられると聞いていたため気合い満々の様子で剣を構えていたのですが、自分の出番がすでに終了していることを悟り、つまらなさそうな表情をその顔に浮かべていました。

 そんな中、トイレの戸をこそっと開けて女の人が姿を現しました。
 で、その女の人はドアの周囲を見回していたのですが、そのすぐ横で骨騎士が女性を襲おうとしていた男達を完全KOしているのに気がつくと、安堵の息をもらしながらトイレから出て来ました。
「ありがとぅ……まさかホントに助けにきてくれるなんて思わなかったよぅ」
 その女性はそう言うと、何度も何度も僕たちに向かってお礼を言いながら頭を下げ続けていました。

◇◇

 その後僕たちは、女性を襲おうとした男達をゴーレムに担いでもらってそのまま衛兵の詰め所へと連行していきました。
 で、こいつらを衛兵の皆さんへ引き渡したのですが
「こ、こいつら風俗店の女性を専門に襲い続けている件で指名手配されてる奴らですよ」
 そう言いながら、その男達を縛り上げていきました。
 衛兵達は、早速その男達を尋問するために衛兵詰め所の奥へ、その男達を連行していきました。
「賞金とかは後で届けさせるから」
 衛兵の1人にそう言われた僕達は、今度は女性を送っていきました。
 最初、ご自宅へお送りしようとしたのですが、
「アタシ、一人暮らしだからさ……家はちょっと嫌だな」
 そう言うと、
「ねぇ、アンタが一緒にいてくれない? 今晩だけでいいからさ……サービスするから」
 僕に向かってしなだれかかりながら甘い声を出してきたんですよね。
 スアが、魔法でこの女性を用水路にたたき込もうとするのより一瞬早く、僕はこの女性を引き離し
「そうだお店に行きましょう、お店に!」
 そう言い、風俗街の中にあるこの女性が勤務している風俗店まで送り届けていきました。
 女性はひどく不満そうでしたけど、そのまま用水路にたたき込まれるよりは……ねぇ?
 僕は、そのことを繰り返しその女性に告げ、どうにか納得してもらいました。

 帰り道、ぷぅっと頬を膨らませたスアが、僕の腕に抱きつきながら
「……私の、だもん」
 そう言い続けていたのは言うまでもありません。

◇◇

 コンビニおもてなし5号店の店員達が風俗店店員連続暴行事件の犯人を逮捕したという今回の一件はあっという間にナカンコンベ中に広まっていきました。
 マクローコのお店の予約用に配布した通信水晶がエス・オー・エスの送受信にも使用出来るって噂も一緒に広まったもんですから、通信水晶を欲しがる風俗街のお姉さん達がさらに続出しました。
 今まで他の美容室に通っていた女性達までもが、この通信水晶をお守り代わりに持っておきたいがために、今まで通っていた美容室を辞めてマクローコのお店を利用し始めたほどなんですよね。
 ただ、今のままではがま口木人形は、今回のようなエス・オー・エス案件に反応出来ません。
 そこで、スアがトーキングシェルに改良を加えてくれました。
 この通信水晶に対してですね、
『助けてー!』
 って言葉が投げかけられた時だけ、がま口木人形の中に新たに仕掛けられた魔石の魔法が発動し、先ほどの骨騎士が出現し、通信水晶を媒体にして助けを求めている女性のところへ転移していく仕組みを追加してくれたんです。
 で、そんな仕組みになったって噂を聞いた風俗街のお姉さん達がさらに大挙してマクローコのお店に殺到していったのでした。

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