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イエロとセーテン、ナカンコンベに行く その2

 ナカンコンベで開店して以来、コンビニおもてなし5号店は順調に客足を伸ばし続けています。
 特に定期魔道船の運行が始まって以降、客足が目に見えて増えています。
 当然、定期魔道船を利用するお客さんが乗船前に食べ物や飲み物を購入していかれたり、その逆で、下船してきたお客さんが5号店でちょっと買い物をしてから街へ繰り出してくださっているわけです。

 定期魔道船コンビニおもてなし丸の運行は、操舵をメイデン、案内係を勇者ライアナのコンビによって行われているのですが、ここまで特に問題が起きることなく運行が続けられています。
 ……正直なところ、メイデンがいつか何かしでかすんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたのですが、今のところその気配はまったくありません。
 それどころか、最初の頃はいつのまにか脱走してブリリアンに引き戻されるなんてことを頻繁に繰り返していたことがまるで嘘のように、最近では脱走することもなく操舵に専念してくれています。
 あまりにもメイデンがおとなしくなったもんですから、先日ブリリアンに、
「メイデンが急におとなしくなった気がするんだけど……」
 って、聞いてみたことがありました。

 と、いいますのも……
 現在のメイデンは保護観察処分中のため、操舵中はスアが遠隔監視し、それ以外の時間はブリリアンが自分の小屋で一緒に暮らしながら監視してくれているからなんですよね。

 で、そんな僕の質問に対し、ブリリアンは
「そうでしょうとも、このブリリアン、ようやくメイデンの扱い方がわかってまいりましたので」
 そう言って胸を張りました。
「あの者は常に自らの欲求が不満状態だったです。そのためその欲求を満たそうとしすぎるがあまり、脱走という奇行を重ねていたわけですよ」
「ほうほう」
「つまり、その欲求不満状態を解消してやればよかっただけのことだったのです。そうすればあの者も『きちんと仕事をこなして私の小屋へ戻れば欲求不満を解消してもらえる』という安心感を持つことが出来、落ち着くのではないかと推測したのですが……その結果は見ての通りだったわけです」
「なるほど……つまりブリリアンがメイデンの欲求不満を夜な夜な家で解消してあげているわけだ」
「そういうことです」
 そう言ってブリリアンは胸を張りました。
「……ところでブリリアン」
「はい、なんでしょう?」
「理屈はわかったんだけど……メイデンの欲求不満をどうやって解消してあげているんだい? 今後のために一応教えてもらえたらと思うんだけど……」
 そう続けて聞いたのですが、するとブリリアンは
「い、いや……そ、その……それはですね……そ、そう! ま、まだ改良の余地があるため、今は明かせないのですよ、うん」
 なんか、急に口ごもりながらそう言いました。
 顔を真っ赤にして、明後日の方向を見つめながら妙にそわそわしながらそう言うんですよね……
 まぁ、ブリリアンがそう言うんですから、その方法が完成したらまた改めて聞かせてもらおうと思っています。
 ……しかし、あのどうしようもない超ドMなメイデンをここまでおとなしくさせてしまうなんて、ブリリアンは一体何をやっているんでしょう……そういえばこの間、仕事を終えたメイデンが
「ブリリアンお姉様、今日もご褒美を……」
 とか言いながらブリリアンの小屋に向かって息を荒げながら帰っていってた気がしたんだけど……

◇◇

 とまぁ、そんなことを思い出したりしながら仕事に没頭していた僕ですが……
 今日も、3回ピアーグへ駆け込んで弁当の追加作成をお願いしました。
 それくらい、おもてなしのお弁当が大人気なわけです。
 数種類ある弁当には様々な方法で調理した肉が入っているのですが、その肉がとてもおいしいと大評判なんです。
 生姜焼きにしたり、タレでつけ込んでから焼いたりと、調理方法にもあれこれ工夫をこらしてはいますが、何よりこの肉自体が美味しいというのが評判の一番の理由です。
 それもそのはずです。
 何しろ、コンビニおもてなしの弁当に使用されている肉というのは、この世界でも滅多に手に入らない高級食材とされている魔獣達の肉なのですから。
 特にガタコンベ周辺に多く生息しているタテガミライオンは、1匹倒すのにも10人規模のパーティでかからないと歯が立たないほどの獰猛性と、群れで狩りをする狡猾さなども兼ね備えているもんですからなかなか倒せないのがあたりまえな害獣なのですが、その肉は非常に美味とされていまして、王都にある高級食堂の最高級コースメニューのメイン料理に用いられるほどなんだとか。
 コンビニおもてなしでは、そんな、僕が元いた世界で言うところのA5、松坂・神戸牛に勝るとも劣らないこの超高級食材を惜しげもなく弁当に使用しているわけです。
 人気が出ない方がおかしいと言えなくもありません。

 そんな高級食材をふんだんに使用することが出来ているのも、すべてはイエロとセーテンのおかげなわけです。
 コンビニおもてなしの店員として、ガタコンベ周辺へ狩りに出かけている2人は、毎日のようにタテガミライオンを中心に害獣指定されている魔獣達を狩りまくってきてくれているんです。
 2人は、この世界最高の武闘大会と言われている辺境都市バトコンベの大武闘大会において圧倒的な強さを見せつけたほどの実力者ですからね。
 剛剣でなぎ払うイエロと、俊敏さで襲いかかっていくセーテンのコンビの前に、タテガミライオン達も為す術なく狩られまくっているわけです。
 で、2人は1ヶ月の間に4回、ガタコンベの東西南北と狩り場を変えています。
 と、いいますのも、タテガミライオンをはじめとした魔獣の子供は生まれて一ヶ月で成獣に成長するんです。
 つまり、北で狩りをしまくってから次に東・南・西と狩り場を変えて、1ヶ月後にまた北へ戻れば新しい群れができあがっているというわけです、はい。
 いつもはおもてなし酒場で酒をかっくらっている姿しか目にしないイエロとセーテンですが、この2人がコンビニおもてなしの屋台骨をがっちり支えてくれているといっても過言ではありません。

 そんなことを考えていると、
「店長殿、帰ったでござるよ」
「ダーリンただいまキ」
 ナカンコンベ周辺へ狩りに出かけていたイエロとセーテンが帰ってきました。
 5号店の扉を開けて入ってきた2人は満足そうな笑みをその顔に浮かべています。
「お帰り。2人ともその様子だと結構狩れたのかな?」
 僕がそう言うと、2人は顔を見合わせながら笑い出しました。
「いや、店長殿、ここ(ナカンコンベ)は良いですな。初めて手合わせする魔獣が多くて楽しかったのですが、何よりあのような大物と相まみえることが出来るとは思いませんでしたぞ」
「まぁ、アタシとイエロにかかればたいしたことはなかったキ」
 そう言うと、2人は再び声をあげて笑い始めました。
「で、店長殿、仕留めた魔獣を冒険者組合に届け出てから、その肉を持ち帰ったのでござるが、さてどこに入れておけばよいでござるか?」
「あぁ、じゃあ2階の倉庫に……」
 僕がそう言うと、イエロは
「店長殿、それは無理でござるなぁ」
 そう言いました。
 その言葉に、首をかしげた僕だったのですが、イエロとセーテンに連れられて店の外に出た僕は、その言葉の意味を一瞬で理解しました。

 店の前の街道には、ちょっとした小山ほどの大きさはあろうかという超巨大イノシシもどきの死体がおかれていたのです。ちなみに、脳天をみごとに唐竹割りされていました。
「なんでもこの害獣、ナカンコンベの周辺を荒らし回っていた奴らしかったでござる。おかげで冒険者組合からたんまり報酬がもらえたでござるよ」
 そう言ってイエロが僕に渡してくれた布袋の中には、金貨がぎっしり詰まっていました。
 ざっと数えたところ……10億円/僕が元いた世界換算はあるでしょうか……
 ほかにも狩りまくってきた害獣の報奨金も含まれているそうなのですが……まさにこれ、一攫千金です。

 後で調べてわかったのですが、この超巨大イノシシもどきは正式名称をデラマウントボアと言うそうで、すさまじい勢いで突進してくる上に、その超堅い皮膚は魔法を跳ね返す特殊効果をも持ち合わせているらしく、討伐が極めて困難な害獣なのだそうです。
 ちなみに、その肉はくせがあるものの珍味中の珍味とされているんだとか……
 なお、このデラマウントボアなのですが、あまりに被害が甚大だったため魔法使いを中心にした討伐隊が編成されたらしいのでござるがそれでも狩ることが出来なかったらしいのですが……そんな大物を2人で仕留めてきたイエロとセーテンって……

 そんな巨大なデラマウントボアを、軽々と持ち上げてここまで運んできたらしいイエロ。
 そのためデラマウントボアの周囲には、イエロの後を付いてきたと思われる野次馬達がすごい数集まっています。
 その光景を前にして、2人は楽しそうに笑っています。
 僕は、このデラマウントボアをいかにして調理したものかと、腕組みしながら思案していました。

 多分、デラマウントボアの肉をコンビニおもてなしが手に入れたって噂は今日中にナカンコンベ中に広まるでしょうからね。
 明日には特製弁当を作って店頭に並べないと、と思っているわけです、はい。

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