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南方より来たりて その3

 その女性の方は、どうやらダークエルフのようですね。
 スア同様に耳が長いのですが、肌が日焼けしている感じです。
 で、その女性は相変わらずクスクス笑いながら
「そこの魔法使いさんの見立ては正解よ……でもね、タルケンをあんまり責めないでやってくれるかしら。 あの男もね、この都市のためにって気持ちがなきにしもあらずなのよ……ただねぇ、脇が甘くて甘い話に目がなくて虚栄心の塊で……あらやだ、ホントのことを言ってたら、いいところがどんどん少なくなっていくわね……」
 そう言いながら、女は大きなため息をつきました。
 で、僕たちがじーっと見つめていることに気がつくと、その女は小さく咳払いをすると
「ま、まぁ、ね、そんなわけでタルケンは欠点が多いんでね、いつもはアタシがその補佐をしてあげてたのよ……それがさ、ここしばらくアタシが野暮用でこの街を離れてたんだけど、その間にあの馬鹿、どこの馬の骨かわからないような商会の口車にのせられて、あんな粗悪品を掴まされてたってわけなのよ」
 そう言いながら再び大きなため息をつきました。
「……で、なんであなたがここにいらしたのです?」
 僕の言葉に、女は
「いえね、野暮用を済ませて街に戻ったらさ、店を任せてたタゴマ……ウチの店員なんだけどさ、その娘(こ)が「流行病が蔓延してるらしくてお客さんがかなりいらしたのですが」って言ってたもんだから、あれこれ調べてみたらタルケンの馬鹿が下手打ってたのに気づいてね、で、そのタルケンを叱りとばしにあいつの魔法治療院に行ってみたらここに殴り込みに行ったっていうもんだから、慌てて駆けつけてきたわけよ」
 そう言いながら、三度大きなため息をついていきました。
「そうそう挨拶がまだだったわね、アタシはフラブランカ。このナカンコンベで魔法雑貨の店をやってるわ。魔法治療も行っててね、風俗街のみんなもいつもはアタシが診てあげてるのよ」
 その女~フラブランカがそう言うと、テリブルアが手を叩きました。
「あぁ、そういえば患者さんがよく言ってた。いつも診てくれてる人がいなくてで困ってるって」
「そ。それがアタシ……ほんと嫌なタイミングで野暮用にかり出されちゃってねぇ……」
 そう言うと、フラブランカは軽く頭を下げ、
「まぁ、そう言うわけで、あのタルケンの相談役もさせてもらってる手前、謝罪させていただくわね。あの馬鹿が迷惑をかけて申し訳なかったわ」
 そう言いました。
「けじめでね、あの馬鹿にあの粗悪品を万能薬って嘘言って売りつけたやつらにも痛い目を見てもらってくるからさ、それで勘弁してもらえないかな?」
「まぁ、うちの店というか診療所としましても、潔白が証明されたのでしたらそれで……」
「え~、あんだけ言われてあっさり過ぎないか店長?」
 僕の言葉に、テリブルアがつっかかってきました。
 すると、そんなテリブルアの肩をスアがポンポンと叩きました。
「……旦那様が良いんだから、いい、の」
「そ、そうなんですかぁ?」
 スアの言葉を受けて、テリブルアは渋々といった感じではありますが、口を閉じました。
 で、その様子に、フラブランカはにっこり微笑むと、
「タルケン(あの馬鹿)にも後できつくお説教しとくからさ。ホント今回迷惑かけちゃってすまなかったね」
 そう言い、再度頭をさげてから僕たちに背を向けました。
 その時です。
「お、お前達!? な、なんなんだこの薬は!? こんなすごい薬どうやって……って、あれ? ふ、フラブランカじゃないか、なんでここに……」
 タルケンが血相を変えて診療所に戻ってきました。
 スアの魔法役を手にしていたタルケンは、フラブランカを見るなり真っ青になっています。
 そんなタルケンに、フラブランカは見るからに不機嫌そうな表情を浮かべると、
「あんたね! アタシはさ、口酸っぱくして言ったわよね? 怪しい商会の薬には手を出すなって。何度だまされたら気がつくのよ!」
「い、いや、あの……じ、実際にだな、あのポルテンなんとかって商会が持ってきた薬はすごく高性能だったんだ、なぜか私が使用した薬が粗悪品になっててだな……」
「そんなの、あんたに見せた薬だけが本物だったに決まってるでしょ? それで信用させて粗悪品を売りつける。悪徳商会の常套手段じゃないのさ!」
「え、えぇ!? そ、そうなのか!?」
「ったくもう、このスカポンタンがぁ!」
 そう言うと、フラブランカはタルケンの首根っこをむんずと掴むと、そのままタルケンを引きずって診療所から連れ出していきました。
「……な、なんか、すごかったね」
 僕は、フラブランカとタルケンの後ろ姿を見送りながら、思わず苦笑していました。
 スアとテリブルアも同様に苦笑しています。

 ……しかし、さっきのフラブランカとタルケンの会話ですが
『……実際にだな、あのポルテンなんとかって商会が持ってきた薬は……』
 ってタルケンが言ってた気がしたのですが……ポルテンなんとか……ポルテンチップ商会……
「……ま、まさかなぁ」
 そんなことを考えながら、僕は再度苦笑しました。

 で、まぁ、どうやら一件落着したみたいですので、僕たちは仕事に戻っていきました。

◇◇

 ちなみに、おもてなし診療所ですが……
 ガタコンベとナカンコンベに診療所がありまして、医師として常勤しているのはテリブルア1人なわけです。
 そのため、テリブルアは、

 昼間はガタコンベ
 夜間はナカンコンベ

 と、勤務地を変えています。
 ですが、どちらの診療所も24時間開店しているんですよね。
 と、いいますのも……

 昼間はナカンコンベの診療所の入り口の扉が転移ドアになってて、ガタコンベの診療所にある転移ドアにつながっているんです。
 で、夜間は逆に、ガタコンベの診療所の入り口が転移ドアになってて、ナカンコンベの診療所にある転移ドアにつながっているんです
 
 それぞれの診療所のドアにスアが魔法で細工をしてくれているおかげで、テリブルアは一カ所にいながらにして2つの都市の患者さんや薬の購入希望者の相手が出来るようになっているんですよ。
 テリブルアが暗黒大魔導士で寝なくても大丈夫だからこそ出来る芸当なんですけど、僕が元いた世界で言えば完全に労働基準法違反なもんですから、出来ればもう1人か2人、治療魔法を使用出来る魔法使いの方を雇いたいな、とは思っているんですけど、テリブルアクラスの魔法を使える魔法使いってなかなかいないんですよね……スアに魔法の大半を封印されてこれですから、フルパワーのテリブルアがどれだけすごかったか……思い出しただけで背筋がぞっとします。

 ちなみに、僕と一緒に店に戻ってきたスアがですね、
「……さっきのフラブランカ……あの人も暗黒大魔導士、よ」
 そう言いました。
「え? あ、暗黒大魔導士ってそんなにいるもんなの?」
「……そうでもない……2人揃うって、結構珍しい、よ」
「あ~、やっぱそうなんだ。でも、そうなると、あの人もテリブルアみたいに世界征服を狙ってる感じなのかな?」
 僕がそう言うと、スアは首を左右に振りました。
「……なんかね、孤児の面倒をみてるみたい……すごくいい人、よ」
「へ~、そうなんだ」
 僕とスアは、そんな会話を交わしていきました。

◇◇

 で、この日はこれで終わったのですが……

 よく朝のことです。
 早朝、食堂ピアーグへ向かっていると、商店街の裏街道に何やら人だかりが出来ていました。
 気のせいか、焦げ臭い匂いもしています。
 僕は、電動バイクのコンビニおもてなし君1号を止めると、人だかりの方を覗いてみました。
 すると、裏街道の中の建物が1つ、真っ黒焦げになっているのが見えました。
 で、周囲の人たちの声に耳を傾けてみると……
「ここ、何をやってた店だっけ?」
「前はさ、雑貨屋があったんだけど、こないだ閉店してからはなんか変な店が入ってたよ」
「あ、知ってる。健康になる魔法グッズとかを馬鹿みたいに高い金で売りつけてたんだろ?」
「あとさ、全然効果のない薬も売りまくってたみたい。タルケンさんの魔法治療院が被害にあったとか」
「で、この店、なんて名前だっけ?」
「看板は出してなかったけど……確か、ポルテンチップ商会とか……」
 ……噂話を聞きながら、僕はこめかみを押さえました。
 ……どうやら、やっぱりあのポルテントチーネといいますか、ポルテンチップ商会が一枚かんでいたようですね、今回の一件には。

 ……ってことは、この建物を真っ黒焦げにしたのって……

 そんなことを考えていた僕の脳裏に、フラブランカさんの顔が浮かんでいたのは言うまでもありません。
 とりあえず、フラブランカとまた話すことがあったら怒らせないようにしようと心に誓った僕でした。

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