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みんなで休日 その2

 ナカンコンベの街中へと出た僕達一家は、街道のやや端の方を一塊になって進んでいます。
 しかし、改めて見回して見ますと、このナカンコンベがいかに大きいのかということを再実感することが出来ます。
 街道そのものが、ガタコンベの倍はあります。
 その街道を、人々が所狭しと行き交っているのです。
 休日の昼間ともなると、ガタコンベやその近隣で最も大きな都市であるブラコンベでも、人通りは平日の半分以下に落ち込むのが常なのですが、このナカンコンベはむしろ逆に人が増えている感じです。
 まぁ、僕が元いた世界基準で考えればこの方がしっくりくるといいますか、当たり前ではあるのですが、この世界にきてからはほぼ始めて経験するだけに、僕も少しびっくりしています。
 そんな中だからこそ、子供達が迷子にならないように気を配らないと……そう思った僕は自分の周囲にまとわりつくようにして歩いている子供達へと視線を移しました。
 僕の右手にアルト・左手にムツキが手をつないで歩いています。そんな僕の後方をパラナミオとリョータが僕の服の背中の端をつまむようにして持ちながら歩いています。
 恐らく、最年少の双子姉妹アルトとムツキに僕と手をつながせて、その後方から2人の様子を見てくれているのでしょう。
 まぁ、そんなことをしなくても、スアが僕達の周囲に結界を張ってくれているので、僕達が人混みに紛れてしまうことはほぼないんですけど、その気遣いがさすがお姉ちゃんお兄ちゃんだな、と思った次第です。
 ちなみに、このスアの結界はですね、周囲の人々がなんとなく僕達の周囲に足が向かなくなるといった感じの物になっています。
 ほんとスアってば色んな魔法を使用出来るんだなぁ、と僕は内心で感心していました。
 すると、僕の脳内思考を察知したらしいスアが、
「……いえ、その、そ、それほどでも……」
 そう言いながら、照れり照れりと身をくねらせていました。

◇◇

 5号店を出て、役場前を通過した僕達は、このナカンコンベでよく知っているお店、食堂ピアーグへと向かいました。
 この界隈は、高級食堂ポルテントチップが営業をしているせいで、相変わらず女の子目当ての男達の比率が異常に高いです。
 ……ですが、よく見るとそんな男達に混じって僕達のような子供連れの親子の姿も見受けられます。
 その親子連れは、僕達が向かっているピアーグにほぼ漏れなく入っています。
 恐らくですが、早朝営業を始めたピアーグを出勤途中に利用していたパパさん達がですね、
「美味しい食堂を知ってるんだよ。今度の休みにみんなで行ってみよう」
 てな感じで、家族皆を連れて来てくれた感じなのかもしれませんね。
 で、僕達もその親子連れに続いてピアーグに入りました。
 すると、
「いらっしゃいませぇ!……って、あれ?店長さんじゃないですかぁ」
 そんな僕達に、元気に接客を行っていたマーリアが笑顔で駆け寄ってきました。
「今日は休みを利用してプライベートで来てるんだ。店長は勘弁してよ」
「あはは、わかりました。じゃあ皆さん、こっちの席へ~」
 マーリアはそう言いながら僕達を席に案内してくれました。
 見たところ、店内のおよそ半分くらいの席がお客さんで埋まっています。
「昼の時間帯に、こんなにお客さんが来てくださるなんて久しぶりなんですよ。向かいにポルテントチップが出来てからだと始めてかもしれません」
 マーリアは笑顔でそう教えてくれました。
 僕は席に着くと、店内を見回していきました。
 古めかしい作りの店内ではありますが、床から天井までしっかりとい清掃が行き届いていますので清潔感に溢れています。
 普通、こういった老舗の建物のお店ってどこか埃っぽかったりするもんですけど、そう言うのが一切ありません。
これは僕達コンビニおもてなしも見習わないといけませんね。
 そんなことを思っていると、マーリアが注文していた日替わりランチを持って来てくれました。
 使用されている食材は、すべてコンビニおもてなしが弁当を作成するのに使用しいている食材です。
 コンビニおもてなしの弁当作成を請け負ってもらう代わりに、食堂で提供する食材にコンビニおもてなしの食材を使用しても構わないってことにしているからなんですけど、その影響はやはり大きいようですね。
 同じランチを食べている皆さんの様子を横目で見ていますと、
「うん、これはうまい!以前もうまいとは思っていたけど、さらにうまくなってるな!」
「ホントね、これはホントに美味しいわ」
 そんな感じで皆さん漏れなく笑顔で食事を口に運んでいます。
 ……で、よく見るとですね、そんなお客さんに混じって妙な格好の人が数人混じっています。
 目深にフードを被って顔を隠しているその女の1人をよく見てみると、向かいのポルテントチップ商会で働いている女の子に間違いありません。先日、ポルテントチップを敵状視察に行った際に、僕の接客をしてくれた女の子ですよ、この女の子。
(ひょっとして敵状視察に来ているのかな?)
 最初そう思った僕なのですが、そんな僕の前でその女の子はランチを一心不乱に食べています。
 あれはどう見ても本気で食事に没頭している感じですね……もし仮に敵状視察としてやってきていたとしても、その立場を忘れているようにしか見えません。
 そんな僕の周囲では、子供達が定食を口に運び続けています。
「パパ、これおいしいれふ!」
 口いっぱいにおかずを頬張りながらパラナミオが笑顔で僕に話しかけてきました。
 すると、他の3人も同様に笑顔で頷いています。
 ちなみに、今子供達が食べている定食はですね、僕が食べている普通の定食よりも量が少なめになっています。
 僕の提案で始まった、いわゆるお子様ランチです、はい。
 全体の量を減らした分お値段もリーズナブルに設定してあるおかげで、他のテーブルに座っている子供連れのお客様達は漏れなく子供用にこのお子様ランチを頼んでいます。
 なお、超小食なスアも子供達と同じ量のランチを食べていますが、こちらは「レディースランチ」って名前に変更されています。
 スア以外にもやはり小食な女性ってのはいるわけです。でも、そんな女性の皆様が「お子様ランチ」を頼むのはやはり気が引けるでしょうから、内容は一緒でもその名前だけ変更したらどうかな、と僕が提案したのですが、店内にはスアと同じくこのレディースランチを食べている女性客の姿が多数見受けられます。
 ちなみに、お子様ランチとレディースランチの差って、山盛りご飯の上に旗が立っているかどうかの差だけなんですよね。
 ちなみにこの旗には3種類ありまして、

 ピアーグの旗
 ナカンコンベの旗
 そして、コンビニおもてなしの旗

 以上の3種類です。
 なんでも、子供達の中にはこの旗を全部集めたいがために
「来週も来ようね! 絶対だよ!」
 そう親にねだっている姿も見受けられるんだとか。

 そんなわけで、ピアーグのランチを堪能した僕達です。
 ナスアと少し話でもと思ったものの、お昼が近くなったせいで厨房の中にいるナスアとライへの2人はてんてこ舞いしていましたので、軽く手を振って店を後にしました。

「……すごく美味しかった、の……旦那様のご飯の次、くらい」
 食べ物には割と無頓着なスアが、珍しく満足そうな表情でそう言いました。
 子供達もそんなスアの言葉に笑顔で頷いています。
 そんな僕達は、ナカンコンベ商店街のほぼ中央にあります中央広場へと移動していきました。
 以前、ここでコンビニおもてなしの試験販売をしようとしたことがあったんですよね。
 ただ、ここに向かう前にリヤカー屋台がお客さんに囲まれてしまったもんですからその計画は挫折した次第です。
 なので、僕も始めてこの中央広場へ足を踏み入れました。
 中央広場は、ブラコンベのそれの3倍はありそうな広さです。
 その中を、多くの人々が行き交い、或いはベンチに座って談笑したりしています。
 そんな広場の中では、大道芸的な物を披露しながらおひねりを集めている人々の姿も見受けられました。

 歌を歌う人……あれはトキ人さんですかね……ちょっと独特な歌声です、はい。
 踊りを披露する人、
 似顔絵を描く人、
 と、まぁ、多種多様な人々の姿が見受けられます。

 そんな中、
「はいよぉ、今日もロジクワールドサーカス、見てってくれよぉ」
 ピエロに扮した男が、器用に一輪車に乗りながらお手玉を披露している一角がありました。
 よく見ると、そのピエロの後方には、いろんな亜人達が控えていまして、いろんな芸を披露しています。
「パパ! パラナミオあれを見たいです!」
 そのロジクワールドサーカスを見つけたらしいパラナミオも、目を輝かせています。
 僕的にも少し興味がありましたので、僕達は小走りにそのロジクワールドサーカスが芸を披露している一角へと移動していきました。

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