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5号店開店 その8

 僕は、シャルンエッセンス・トルソナ・グリアーナに加えてスアのアナザーボディ4体と一緒に荷物を運び込むために本店へ戻っていきました。
 5号店で販売するために備蓄しておいた品々、ペリクド工房のガラス製品やルア工房の武具類、それにテトテ集落の衣類などは現在コンビニおもてなしの地下倉庫に収納してありますので、そこで魔法袋に荷物を詰めて、それを5号店へと持ち込んで……そういった作業をしようと思っていたのですが、そんな僕達の前にスアが転移魔法で出現しました。
「……これを送ればいい、の?」
 スアは、そう良いながら冷蔵倉庫の隣にあります常温倉庫の中に保管されている木箱の山を指さしました。
「うん、そうだけど」
「……じゃあ」
 頷いた僕の前で、スアは水晶樹の杖を取り出し、それを一振りしました。
 すると、倉庫の中にあった木箱の山が一瞬で消え去りました。
 5号店に戻ってみますと、先程まで本店の地下倉庫の中にあった木箱の山が5号店の店内の壁沿いに綺麗に並んでいるではありませんか。
「うわぁ、スア。助かったよ」
 僕が思わず歓声をあげると、シャルンエッセンス達も同様に笑顔で声をあげています。
 その声を聞きながら、スアは
「……お役に立てたのなら、嬉しい」
 そう言いながらニコニコ微笑み続けていました。

 僕達は、早速木箱の中身を空っぽの棚へ並べて行きました。
 スアは自分の担当の場所、魔法薬の棚へ商品を並べています。
 重い物が多い武具はグリアーナが。ガラス製品をシャルンエッセンスが。そして、魔道書やその他の雑貨類をトルソナが、それぞれ所定の棚へと詰め込んでいます。
 僕は、その間を行き来しながら指示を出すのがメインの仕事ですね。
 2号店で店長をしていたシャルンエッセンスはともかく、トルソナとグリアーナの2人は何をどうやって陳列するのかまったく知らないわけですから、
「グリアーナ、その武具は棚じゃなくてこっちの壁のフックを使って展示販売してくれるかい」
「了解、ここにかけたらいいんだな」
「うん、そう。あ、トルソナ、その本はあっちの棚にまとめて並べてね。巻数表示のあるものはその順番に並べてくれるかな?」
「はい、わかりました!……えっと、この魔道書が……」
 僕は2人の間を行き来しながら指示を出し、その手伝いをしながら陳列をすすめています。
 2人は、初めて行う作業なもんですから手際よくとはいきませんが、一生懸命頑張ってくれています。
 僕の説明もしっかり聞いてくれていまして、一度言った指示を何度も繰り返さなければならないなんてことはありません。
 そういう意味ではホントいい人を雇うことが出来たと思うわけです、はい。

 スアのアナザーボディ達も手伝ってくれたおかげで、品物の棚入れは程なくしてほぼ完了しました。
 その間にルア達は、本店の厨房にあるパン焼き用のオーブンを取り外して5号店の地下へと運び込んでいます。
 すでに地下のパン工房は出来上がっているそうで、このオーブンを、あらかじめ準備してあるスペースへはめ込めばいいだけなんだとか。
 で、このオーブンなんですが、これは僕が元いた世界で使用していた物なもんですから電気で動いています。本店では屋根の上にあります太陽光発電システムによって作られた電気を使用して動いていますが、当然5号店には太陽光発電システムなんてありません。
 そこで、電気自動車おもてなし一号を収納している外の倉庫の中にあったコードリールを使いまして、厨房内のオーブン用の電源からコードを引っ張ることにしました。転移ドアをくぐったらどうなるのか若干心配だったのですが、特に問題なく通過することが出来ましたので、そのままコードを5号店の地下まで伸ばしていきました。
 ただ、スアによりますと……この転移ドアを閉じてしまうとその間の空間が一時的に途絶されてしまうらしく、このコードリールのコードも切断されてしまうんだとか……
 なので、コードリールをもう一個準備しまして、転移ドアのところで2つを繋ぐ形にしました。
 こうすれば、転移ドアを閉じる際にコードリールもはずしておけば線が途絶することもありません。オーブンを使用する際には2つのコードリールを接続して、転移ドアを開けっ放しにしておけばいいわけですしね。

 で、電気オーブンを無事地下に設置し終わったルアは
「それ! 今度は本店の厨房の改修だ!」
 そう、声をあげると工房の従業員達を引き連れて本店へと移動していきました。
 ルア達が先程まで作業していた地下室に降りて見ますと、そこには立派なパン工房が出来上がっていました。
 広さで言えば、本店の厨房の3倍近くあります。
 電気オーブンの他に、魔石で作動させる大型魔道オーブンもすでに設置済みです。魔石による動作システムに関しては、この世界で一般的に使用されている物を電気オーブンの仕組みに極力近づけた作りになっていまして、コンビニおもてなし特製の逸品になっています。
 当然ながら、スアの研究の賜物です、はい。
 ルアからは、
「この魔道オーブン、王都とかに販売出来るぜ、絶対!」
 そう言われているのですが、スア的には、
「……まだ、量産はちょっと……かな」
 そう言って首をかしげていましたので、スアの納得のいく品物が出来上がるまで待つことにしようと思っている次第です、はい。
 本店の営業が終了していたので、パン担当のテンテンコウ♂・トレイナとトラーナの3人に5号店まで来てもらいまして、早速このパン工房を見てもらいました。
「うわ……す、すごい」
 室内を見回したテンテンコウ♂は、目を丸くしながらキョロキョロしています。
 トレイナとトラーナの2人も同様です。
「というわけで、急で悪いけど明日からここでパンを作ってもらえるかな?」
 僕がそう言うと、テンテンコウ♂は、
「わかりました! す、すぐに道具を持って来て試してみます」
 そう言うなり、本店への転移ドアのある階上へ向かって走っていきました。
 その後ろを、トレイナとトラーナも追いかけていきます。
 これでパン工房の準備も大丈夫でしょう。
 本店の厨房も、ルアのことですから今日中に改修を終えてくれるはずです。
「となると……あとは店員か……」
 今、この5号店には、店長の僕に加えて、副店長のシャルンエッセンス、店員のトルソナとグリアーナの計4人がいます。
 おもてなし商会のオープンはもう少し先ですので、最低あと1人は店員が欲しいところです。
 ナカンコンベ商店街組合には5人の斡旋をお願いしていて、すでにグリアーナが派遣されてきていますので、あと4人斡旋されてくる予定になっています。
「そうだな……レトレにどんな感じか確認しに行ってくるか……」
 僕はそう思いながら1階へと戻っていきました。
 すると、作業を終えて店内の掃除をしていたはずのシャルンエッセンス達が店の玄関のあたりに集まっていました。
 よく見ると、一同の前に一人の見知らぬ女性が立っています。
「あぁ、店長、ちょうどよかった……」
 グリアーナがそう言いながら僕へ視線を向けたのですが
「お、あんたが社長か?」
 建物の前に立っていた女性は、そう言うと僕に向かって笑顔で駆け寄ってきました。
「社長はん、お初におめにかかります。ウチはジナバレア、商店街組合からの紹介でやってきましたんや」
 そう言い、ニカッと笑ったジナバレアは、
「いやぁ、社長聞きましたで、今日、向かいのドンタコスゥコ商会でえらい儲けたそうやないですか。そういう勢いのあるお店で働けるなんて感激やわ」
 そう言いながら僕の腕を掴んでブンブンと振り回してきました。
 そんなジナバレアですが、僕より若干背は低く……といっても190cmある僕ですからね、女性では高いほうですね、そしてかなり細身です。で、来ているシャツなんですが……白い半袖シャツに『守銭奴』と書かれています……ってか、この世界にもこの言葉あったんだなぁ……
「あぁ、このシャツ? いかしてるやろ? ウチが自分で手書きしたんやで」
「え? そうなの?」
 ジナバレアの言葉に、僕は一瞬目を丸くしました……ってか、わざわざこんな服を自分で作って着てるって……
「まぁ、ちゅうわけでや、金の計算なら任してや。それなりに経験してきてるさかい即戦力間違いなしやで」
 そう言いながら、ジナバレアは僕に商店街組合からの書類を渡してきました。
 それによると、ジナバレアは商店街組合で経理の手伝いの仕事をしていたそうです。
 あの組合の中で経理をしていて、なおかつ組合から斡旋されてきたとなると、本人が言っているように即戦力の期待が高いです。
 これでとりあえずコンビニおもてなしを開店するのに最低限必要な人数が揃ったことになります。
(となると、明日からプレオープン出来るかも……)
 僕は、そんな事を考えながら、ジナバレアを含めた全員をレジの方へと連れて行きました。
 明日からプレオープンするとなるとレジの使い方を覚えてもらわないといけませんからね。

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