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5号店開店 その5

 大声を上げてイエロを指さしているグリアーナ。
「き……貴様……ここであったが百年目ぇ!!」
 そう言うが早いかグリアーナは背負っている大きな剣を抜き、イエロに斬りかかっていきました……って、えぇ!?
「ちょ!? ちょっとグリアーナ!?」
 僕は大慌てでグリアーナに駆け寄ろうとしました。
 ですが、そんな僕の眼前でイエロは、
「あぁ、誰かと思ったらグリアーナではござらぬか」
 涼しい顔でそう言うと、右手を伸ばしました。
 で、その右手で……と、いいますか、親指と人差し指2本だけでグリアーナが振り下ろした大剣をあっさり掴んだイエロは、そのまま剣ごとグリアーナを持ち上げてしまいました。
 剣だけでもかなり大きいですし、グリアーナも細身とはいえかなり長身ですので軽くはないはずです。
 ですが、そんなグリアーナを指2本だけで持ち上げてしまっているイエロ。
 イエロ自身も結構細身……グリアーナと違って出るとこはすごく出ているんですけど、腕もそんなに筋肉ムキムキって訳ではないのに、すごい力です、ホント。
「久しぶりでござるな。健勝でござったか?」
「え、え~い離せ離しやがれ!」
「相変わらず威勢だけはいいでござるな。もう少し剣の腕の方も精進した方がよいでござるよ」
「う、うるさい!これでもそれなりに鍛錬してんだよ!お前が規格外すぎんだよ!」
「そんなことはござらぬ。拙者もまだまだ修行の道半ばでござるよ」
 満面笑顔のイエロに対し、そのイエロに指二本で持ち上げられたままのグリアーナは半泣きになりながらじたばた足を動かしています……もっとも、びくともしてませんけどね。
「イエロ、知り合いなのかい?」
「幼なじみでござる。一緒に修行の旅をしていた時期もあるでござるよ」
 イエロはそう言って笑いました。
 そんなイエロに対し、指二本で持ち上げられたままのグリアーナは、
「ば、馬鹿野郎! 貴様とアタシは生涯のライバルだろうが!」
 そう声を荒げているのですが、おもいっきり涙目になっているので、そろそろ可愛そうな感じです。
 僕に即されたイエロによって、ようやく床に降ろされたグリアーナは、バツが悪そうな表情を浮かべながら剣を背の鞘に戻していきました。
 そんなグリアーナを見つめながら僕は
「じゃあ、グリアーナが言ってた、その額の角を折ったライバルってイエロのことなんだ」
 そう言いながらイエロへ視線を向けたのですが、
「は?」
 そんな僕の視線の先で、イエロは『なんでござる、それ?』みたいな顔をしながら目を丸くしています。
「グリアーナの角は、自分が崖から足を踏み外して転がり落ちた際に折れたはずでござるが……」
「わーわーわーわーわーわーわーわーわー」
 首をかしげながら言うイエロなんですが、グリアーナは顔を真っ赤にしながら馬鹿でかい声をあげて必死にごまかそうとしています。
「ば、ばっきゃろ! そもそもあんときは、てめぇが『この切り立った崖道を走ると鍛錬になりそうでござる』とか言ってアタシを無理矢理連れてったんだろうが!」
「む? あの程度の崖道、そう苦にならなかったでござろう?」
「ぐぬぬ……」
 イエロの言葉に必死に反論しようとしているグリアーナですが、その度にドツボにはまっている感じです……なんか、見てて可愛そうになってくるといいますか……

「グリアーナは、口と見た目はなかなかでござるが、剣の腕はからっきしでござるからな」
 イエロに改めてそう言われ、またぞろ文句を言い返そうとしたグリアーナですが、
「ですが、気遣いの出来る非常に優れた人材でござるゆえ、ともにコンビニおもてなしのためにがんばろうではござらぬか」
 そう言ったイエロに肩をバンバン叩かれたグリアーナは、
「ま……まぁ、そりゃ、そのつもりだけどよ……とにかくだ、剣でも接客でもイエロ、貴様には負けねぇからな!」
 顔を真っ赤にしながらイエロに怒声を張り上げていきました。
 ……グリアーナってば、地声が半端なくでかいんで、2人の横でこのやりとりを見聞きしていた僕は、そっと耳を塞いていたんですけどね。

◇◇

 早速コンビニおもてなし本店の2階にありますおもてなし寮へ入寮することになったグリアーナなのですが、トルソナ姉妹が入って来たこともあって部屋が不足気味なもんですからイエロと同室になってもらいました。
 イエロは最古参ということもありまして今は1人部屋なんですよね。
「あぁ、構わなぬでござるよ。知らぬ仲ではござらぬしな」
 そう言って快諾してくれたイエロです。
 で、その2人ですが、
「では、再会を祝すでござる!セーテン達とおもてなし酒場で飲むでござる」
「イエロ貴様、酒でもアタシは負けねぇからな!」
 そう言いながらおもてなし酒場へ向かって行きました。
 気軽に肩を抱くイエロに対して、グリアーナは文句こそ言っていますがその手をふりほどこうとはしていません。
 何のかんの言いながらも幼なじみですしね、根っこでは仲良しなんだと思います。

 そんな2人を見送っていると、
「あ、店長、いいとこに」
 2号店のシルメールが声をかけてきました。 
 なんでも、シャルンエッセンスが移動した後の店のことで相談があるとか。
「今まではさ、アタシが店長補佐をしてたんだけど、今後はこいつに補佐を任せてもいいかな?」
 そう言うシルメールの横には、単眼族のチュパチャップの姿がありました。
 基本的にシルメール元で働いている元メイドの1人としてなんでも一生懸命頑張っているチュパチャップです。
 シルメール達シャルンエッセンスのメイド達が不良メイド丸出しだった時期でも、ただ一人まともに会話出来た人だったんです、チュパチャップは。
「あぁ、いいんじゃないかな。チュパチャップはいつも一生懸命頑張ってくれてるし、適任だと思うよ」
 僕はシルメールに向かってそう言うと、その横で緊張気味な表情を浮かべながら直立不動になっているチュパチャップへ視線を向けました。
「じゃ、チュパチャップよろしく頼むね」
「は、はい! い、い、一生懸命がんばります!」
 チュパチャップは声を裏返らせながら深々とお辞儀していきました。

◇◇

 夕食後。
 僕は本店の向かいにありますルア工房へ足を運びました。
「あれ? 店長じゃん。珍しいなこんな時間に」
 赤ん坊のビニーを抱っこしながら僕を出迎えてくれたルア。

 ちなみに旦那さんのオデン六世さんは、夕方から翌朝まで街の夜間警らを行っています。

 で、僕はルアと、コンビニおもてなし5号店の事で打ち合わせをしていきました。

 今日、試験販売が大盛況だったわけです。
 なので、店舗部分だけでも完成を急いでもらい、店内で試験販売を行えないかな、と思ったわけなんですよ。
 そうすれば、試験販売を行いながら、今は本店で修行中のトルソナや今日から新たに加わったグリアーナ、新店長補佐のシャルンエッセンス達に新店舗での販売になれてもらえるんじゃないかな、と思ったんですよ。
 それに、今日あれだけの人が集まったわけです。
 明日は、噂を聞きつけた皆さんがさらに殺到してくるんじゃないか、と予測出来ます。今日以上のお客さんがリヤカー屋台に殺到してしまうと、街道を塞いでしまい通行の邪魔になりかねませんからね。
「店舗部分を営業出来るようにすればいいんだな?それならそんなに難しい話じゃない。明後日には出来るようにしてやるよ」
 ルアはそう言って笑ってくれました。
「助かるよ。じゃ、僕もその方向であれこれ調整させてもらうね」
「おう、任してくれ!」
 ルアは笑顔を浮かべながら僕の肩をバンバンと叩いてきました。
 ホント、頼りになる姉御です、ルアってば。

◇◇

 本店裏にあります巨木の家に戻った僕を、
「パパお帰りなさい!」
 パラナミオ達が笑顔で出迎えてくれました。
 さっき一緒に夕飯を食べてたんですけど、こうしてお出かけてから戻るといつも熱烈に出迎えてくれるんですよね、我が家の子供達は。
 それが、たまらなく嬉しいんですけどね。
 僕は、
「はい、ただいま帰りました」
 笑顔でそう言うと、僕に抱きついてきたパラナミオ・リョータ・アルトを抱きしめました。
 すると、
「む、ムツキもぉ!」
 そう言いながら、少女形態に魔法で成長したムツキが家の奥から駆けてきたのですが、どうやらムツキは僕と一緒にお風呂に入る気満々だったらしく、素っ裸のまま走ってきてます。
「こらこらムツキ、何か着なさい」
「パパになら見られても構わないにゃしぃ」
 結局そのまま僕に抱きついて来たムツキ。
 そんなムツキに苦笑を浮かべながらも、僕は4人の子供達を改めて抱きしめていきました。

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