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ドンタコスゥコ商会と魔道船と その1

 お花見の翌日から、魔道船コンビニおもてなし丸の航路を若干変更しました。
 ブラコンベからララコンベにいたるコースを少し寄り道気味にわん曲させまして、ブロロッサムの木が群生している上空を通過するようにしたんです。
 一度行ったおかげでスアの転移魔法ですぐに現地にまで行くことが出来るようになっていますので、事前にブロロッサムの木の精霊達の元を訪れた僕は、みんなにこの上空を魔道船が定期的に通ることになることを伝えました。
「みんなの綺麗な花を1人でも多くの人に見てもらおうと思ってるんだけどいいかな? 迷惑なら辞めるからさ」
 僕がそう言うと、精霊達は
「迷惑なわけがないじゃろう!」
「そうじゃそうじゃ! 多くの人々に妾達の美しい姿を見てもらえるのじゃろう?」
「これに勝る喜びはないのじゃ!」
 と、みんな嬉しそうに喜びの言葉をあげていました。
 ただ、ひとしきり喜びあった一同はですね、
「で、じゃ、店長殿よ、物は相談なのじゃが……」
「上空を通過する魔道船を手厚く歓待することは、我らもやぶさかではないのじゃがの」
「……ほれ、魚心あれば水心と言うであろう?」
 と、まぁ、みんなそう言いながら僕にしなだれかかってきたんですけど……えぇ、要は定期的に美味しい食べ物を差し入れしてほしいって言ってるわけですよ、精霊達ってば。

 翌日……

「ねぇ、何かしらこの『ブロロッサムの丘行き』の魔法袋って?」
 コンビニおもてなしの支店や関係店に品物を運んでくれているハニワ馬のヴィヴィランテスが、今日から新たに追加された荷物を目ざとく見つけた上で、大きなため息をつきました。
「まったくもう、ホント馬使いが荒いんだから」
 そう、ブツブツ言っていたのですが、
「で? この真新しい転移ドアがそうなのかしら? 新しいブロロッサムの丘行きのドアなのかしら?」
「あぁ、そうなんだ。よろしく頼むよ」
「はいはい、わかりましたわよぉ」
 ヴィヴィランテスは、そう言うとブロロッサムの木の丘行きの転移ドアをくぐって、精霊達に食べてもらうお弁当やスイーツの詰まった魔法袋をちゃんと届けに向かってくれました。
 ホント、文句を言いながらも仕事はきっちりこなしてくれるヴィヴィランテスのこういうところには、いつも助けられています、はい。

 で、ブロロッサムの木の精霊達なのですが、
「なんと!?毎日食べ物を差し入れてくれるじゃと!?」
「よくて週に1度くらいかと思っておったのに」
「これは張り切らねばならぬな!」
 と、まぁ、皆さん届いたお弁当を前にして気合い満々の様子だったそうです。
 その結果、ブロロッサムの木の精霊の皆さんは上空に魔道船コンビニおもてなし丸がやってくると、その花びらを空高く舞い上げまして、魔道船の周囲で花びらたちを舞い踊らせてくれるようになりました。
 しかも、地上では皆がブロロッサムの木の姿のまま枝をまるで舞いでも舞っているかのように動かしてくれてもいるんです。
 その一糸乱れぬ綺麗な動きはあっと言う間に魔道船の乗客の皆さんの口から街の人々へと伝わっていきました。
 その結果、その光景を一目見ようと今まで以上にチケットを求めるお客様が殺到してきたんです。
 本来であれば、運行時間を短縮して魔道船の本数を増やしたいところなのですが、大半の乗客の皆様は現在のところ魔道船に速さではなく空の旅を満喫することを求めておられるわけです。
 なら、今のところはこのままの状態で運航を続けていき、様子を見た方がいいだろうと思った次第です。

◇◇◇

 そんな魔道船の運航が始まって数日経ちました。
 月末を迎えたガタコンベの街に、荷馬車が列を成して入って来ました。
 毎月月末恒例ドンタコスゥコ商会の皆さんが、今月も仕入にやってきたわけです。
 先頭を進んでくる荷馬車の操馬台から、身軽な感じで飛び降りたドンタコスゥコ商会会長のドンタコスゥコは、僕の前まで駆け寄ってくると
「やぁやぁ店長さん、今月もお世話になるですよ」
 その顔に人なつっこい笑顔を浮かべながら右手を差し出してきました。
「えぇ、今月もよろしくお願いします……くれぐれも羽目を外しすぎないでくださいね」
「しないしない、したこともな~いでありますよ」
 どの口が言った?と、一瞬言いそうになった僕ですが、大人ですし社会人ですからね、ここはグッとこらえて……
「は? どの口が言ってるのかしら?」
「って、ファラさん、なんで僕が我慢した言葉を言っちゃうかなぁ」
 いつの間にか僕の横に姿を現した、おもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんは、その顔に不敵な笑みを浮かべながらドンタコスゥコを見下ろしています。
 で、それをドンタコスゥコも負けじと見上げているのですが……気のせいでなく、その膝がガクガク震えています。

 コンビニおもてなしの商品の卸売りに関する業務はおもてなし商会の担当をしてくださっていますファラさんに一任していますので、当然ドンタコスゥコ商会に品物を卸売りする際の窓口もファラさんが行っているわけです。
 少しでも安く仕入れたいドンタコスゥコは、毎回毎回手を変え品を変えしてどうにかファラさんを出し抜こうとするのですが、今までその努力は一度として実を結んだことがありません。
 その結果、ドンタコスゥコにとってファラさんは、まさに天敵たる存在になっているわけです、はい。

「あら? もう恐怖で震えてるのかしら?」
「馬鹿言うんじゃありませんですねぇ、こ、これはただの武者震いですねぇ」
「ふぅん、ま、そういうことにしておいてあげようかしら」
 ファラさんはそう言うと、その顔に不敵な笑みを浮かべました。
 そんなファラさんの前で、ドンタコスゥコは相変わらず膝をガクガクさせています。
 ……どう見ても、今回の勝負の行方も、もう決まっていると言っても過言ではなさそうです。

◇◇◇

 で、ガタコンベにやってきたドンタコスゥコ達は、その初日を息抜きに使うのが常となっています。
 で、いつものようにおもてなし酒場に併設されています荷馬車係留所に荷馬車を止めると、皆さん続々と酒場の中に入って行きます。
 まず、酒場の2階と3階にあります宿屋の部屋を人数分確保すると、宿に併設されています大浴場にみんなで入っていきます。
 この大浴場、公表していませんがララコンベの温泉のお湯をスアの魔法で引き込んでいるんです。
 なので、普通のお風呂よりも断然疲れが取れるわけです、はい。
 なんで内緒にしているかと言いますと、ここでララコンベの温泉に入れるとなったらガタコンベからララコンベ温泉に行くお客様が少なからず減ってしまうかもしれないじゃないですか。それを考慮した上での配慮なわけです、はい。
 で、そのお湯が温泉と気がついていないままに、ドンタコスゥコ商会の皆さんは
「いやぁ、広いお風呂は疲れが取れるですねぇ」
 そう言いながら、今回も大浴場を心ゆくまで満喫していた次第です。

 で、入浴が終了すると、みんな揃って酒場に集合します。
 そのままオールナイトでぶっ潰れるまで飲み続けるのがドンタコスゥコ商会の皆さんの酒の飲み方なわけです。
 ドンタコスゥコ商会は女性ばかりの商会ですし、そんな女性達がぶっ潰れるまで飲んでていいのかなぁ、と思ったりもするんですけど、
「他の都市ではちゃんと猫を被っていますからねぇ」
 そう言って笑うドンタコスゥコ……ですが、普段からこんな赤裸々な姿を見せられ続けている僕としましては、すぐにその言葉を信じる事が出来なかったわけです、はい。

 僕がそんな事を思いながら、ドンタコスゥコ商会の皆さんのために料理を作っていると、
「あれ何?」
「え、どれどれ?」
「ほら、あれ」
 なんか、ドンタコスゥコ商会の皆さんが窓の側に集まってしきりに外を見つめていました。
 よく見ると、その先には魔道船コンビニおもてなし丸の姿が見えました。
 ちょうど辺境都市を一周して戻って来たところなんでしょう。
 このまま裏の川の上流にあります発着場の池に着水するはずです。
 で、その魔道船を、ドンタコスゥコを筆頭にした皆さん、目を丸くしながら見つめ続けていたわけです。

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