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ブロロッサムの木の下にはね…… その1

 魔道船コンビニおもてなし丸の運航が始まって数日が経ちました。
 本来1時間で就航出来る行程を、空の旅を楽しんでもらうためにあえて2時間かけて運航したのですが、これがすごく好評でして、利用してくださったお客様達は皆さん、
「いやぁ、空を飛んで移動出来るなんて最高だったよ」
「空からの景色最高ね」
「絶対また利用するよ」
 笑顔で口々にそうおっしゃってくださっています。
 で、皆さん下船すると同時に次の予約チケットを購入しようとなさるのですが、すでに販売中の予約チケットは残らず完売していて、すでに2週間先まで当日券しか残っていない状態のため、次回チケットが販売になるまでしばらく待ってもらうしかありません。
 予約チケットがこんな状態になっていますと、僕の脳裏に元いた世界の嫌な記憶が蘇ってきました。
 こういった入手困難な人気チケットが登場すると、漏れなくダフ屋とかいう定価で購入したチケットを何倍もの高値で転売しようとする人が出てくるのが世の常なわけです。
 その夜、僕はこのことを早速スアに相談してみました。
「どうかな、スア。なんとか出来るかい?」
「……うん、それくらいなら簡単、よ」
 スアはそう言うと、笑顔で胸を叩きました。
 で、翌朝。
「……はい、これ」
「え? もう出来たの?」
 スアはそう言って僕に数冊のノートを差し出しました。
 中を開きますと、そこにはチケットの購入希望者が名前を記入する様式があらかじめ印刷されています。
「これに購入者の名前を書いておいて、チケットの使用者と購入者が同じかどうかチェックするのかい?」
 僕は、思った事を言ったのですが、この方式だと少し問題が生じてしまいます。
 と、言いますのも、魔道船のチケットは購入が困難なものですから、新規チケット発売日には家族や知人から頼まれたチケットまで買いに来ている方も多いからです。それに、急な用事などで他人に譲渡するケースもあるでしょう。そういう方々にまでご迷惑をかけてしまうのはどうかな、と思ったのですが、
「……記入はダミー、よ」
 スアはそう言いながらそのノートを指さしました。
 スアによりますと、魔法がかけられているのはノートその物なんだそうです。
 このノート、形はノートなんですけど自分の意思を持っているそうなんです。
 で、このノートに購入希望者が手を乗せると、その人物の思考を読み取りまして
『チケットを個人・または家族や友人のために購入』しようとしているのか、
『転売目的で購入』しようとしているのかを即座に識別し、後者だった場合店員の脳内に思念波でそれを伝えるように設定されているそうなんですよ。
 ふむ、となると、その思念波を受けた店員には
「お客様、この規約に違反するような行為はございませんね?」
 って、『チケットの違法転売の禁止』をうたっている購入規約をわざと見せるように事前に指示しておいて様子を見て見ようか、と、そう考えた次第です。

 早速この日からそのノートをコンビニおもてなし丸の予約チケットを販売しているコンビニおもてなしの各支店に配布し対応方法を指示しておいたところ、ブラコンベの2号店で早速該当者が3名出たそうです。
 いずれも、2号店店長のシャルンエッセンスが応対して、
「お客様、大変恐縮でございますがこの利用規約に違反するような行為はございませんですかしら?」
 そう念押ししたところ、3人ともあっという間にしどろもどろになっていき、最終的には
「急用を思い出した」
 と言って帰っていったそうです。
 ブラコンベは、この一帯では一番大きな辺境都市ですし、人の出入りも結構多い都市なんです。
 なので、こういった行為を行って一儲けしてやろうと目論む輩も多いと以前から聞いていただけに、僕も心の中で「あぁ、やっぱりブラコンベかぁ」と思った次第です。
 ちなみに、このコンビニおもてなし2号店にはおもてなし酒場も併設しているのですが、酔客が暴れた時用に黒骨騎士(ブラックボーンナイト)を配置しています。
 これ、パラナミオの自信作なんですよ。
 サラマンダーのパラナミオは召喚魔法を使用出来るのですが、最近安定して上位召喚魔を召喚出来るようになってきているんです。 
 で、この用心棒役の黒骨騎士(ブラックボーンナイト)は、普段は店の物陰の中に潜んでいるのですが、有事にはすぐに姿を現してくれるよう設定されている次第です。
 上位召喚魔なので日の光を浴びても粉になって消えてしまいませんしね。
 コンビニおもてなし食堂エンテン亭にはスア製のもっと強力な召喚魔が配備されていますので、こちらの店でも今までトラブルが発生したことがないわけです、はい。
 食い逃げをしようとした輩は何人かいましたが、全員召喚魔によって捕まっています。
 こう言ってはあれですが、下手に傭兵を雇うよりも安心安全なわけです、はい。

◇◇◇

 この日、僕はスアと一緒にスアの研究室にいました。
 え~、もちろん夫婦の営みをいたすためですが、今日はその前に別の一仕事をしています。
 スアに、この近隣の地図を映像で表示してもらいまして、魔道船の航行経路の確認をしているんです。
 このまま3都市間の航行が安定していけば、ティーケー海岸やテトテ集落にも航路を延長してもいいな、と思っているものですから、そのシュミレーションをしてみようと思った次第です。
 で、スアが魔道船から入手した最新の土地データを地図映像に反映させてくれていたのですが、
「ん? なんだこれ?」
 僕は、その一角を見ながら思わず声をあげました。
 それは、ブラコンベからララコンベへ向かう途中、魔道船の航路から少し外れた場所なのですが、森の一角が広範囲でピンク一色になっている箇所があるんです。
 僕が、そこを見つめながら首をひねっていると、スアが魔法でその一帯を調べてくれたのですが、
「……ブロロッサムの木が、群生してる、わ」
「ブロロッサム?」
「……そう、こんなの、よ」
 スアはそう言うと、僕の目の前にウインドウを表示させ、その中にブロロッサムの木を表示してくれたのですが、このブロロッサムって僕が元いた世界で言うところの桜の木そのものなんですよ。
「へぇ、こんな場所があるんだぁ。そう言えばもう春だしなぁ」
「……旦那様の世界にも、ブロロッサムがあった、の?」
「うん、こんな木があったんだ。でね、春に綺麗に花を咲かせてね、その花の下でお花見をしたりしたんだ」
「……お花見? 花祭りみたいな、の?」
「まぁ、そんなもんかな。屋台も出たりして、人もいっぱいやって来るからさ、とても楽しいんだ」
 スアの反応を見ていますと、この世界には桜……というか、このブロロッサムを見ながらお花見をするという習慣はないみたいです。
 
 が、

 僕の話を聞いたスアなのですが、
「……お花見、楽しそう。みんなで行きたい、ね」
 目を輝かせながらそう言ってきました。
 普段、薬草や魔石採取に行く以外ではほとんど家に籠もっているスアがこんな反応をするのは若干珍しいです。
 僕は、そんなスアを見つめながら、
「そうだね、今度のお休みにでもみんなで行ってみようか」
 そう言いました。
 すると、スアは嬉しそうに微笑みながら、コクコクと頷きました。

 で、その影響でしょうか、この後の夫婦の営みはいつもよりちょっと激しかったような気がします。

 え~、公開になったスアのイラストをご覧になっている皆様。
 スアはこう見えても*00才を超えているエルフですからね。
「……そんなにいってない、ってば」
「あぁ、まぁ、とにかく成人済の一人前のレディーなんですってことで、よろしくお願いします」

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