YA・SU・ME! その1
テトテ集落で開催された大感謝祭も盛況のうちに終了しました。
魔道船の試運転も予想以上に好評を博しまして、予想通りテトテ集落の皆さんからも
「あの魔道船をぜひテトテ集落にもこさせてください」
って声を多数頂きました。
そのことは以前から考慮はしていました。あくまでもまずはガタコンベ―ブラコンベ―ララコンベの3都市で試験運行を行ってみて、問題点等が特になければ順次行き先を拡張していこうと考えているわけです。
それを聞いたテトテ集落の皆さんは大歓声をあげていきました。
で、その大歓声を聞いたアルリズドグさんが今度は僕の元にやってきて
「当然ティーケー海岸にも就航させてくれるんだよな」
って言ってきました。
「えぇ、もちろんそれも予定してますから」
「あっはっは、さっすが店長!わかってるじゃないか」
そう言って、アルリズドグさんが僕の背中を張り飛ばしていきました。
相変わらず手荒い歓迎ですけど、これもアルリズドグさんが僕のことを気に入ってくれているからこその態度なのを理解していますので、僕も笑顔を返していきました。
その後、魔道船に乗ってガタコンベへと戻って来た僕は、勇者ライアナと一緒に、魔道船にのって一緒に帰ってきたみんなを見送りつつ、荷物を店に運び込んでいきました。
すると、自然発生的に今日の打ち上げをしようみたいな流れになっていきまして、急遽おもてなし酒場で打ち上げが始まっていきました。
ここには現在オトの街のネプラナさんが責任者として勤務しているもんですから、その話がすぐにオトの街に伝わり、今日の祭りに参加していたラテスさんやネリメリアさんも駆けつけて来ました。
そのせいで、ルアが露骨に嫌そうな顔をしていました。
「これ、ルア。子供もいるんだから飲み過ぎたらだめにゃよ!」
「わ、わかってるって……ったく、しこたま飲もうと思ってたのに……」
ネリメリアさんとそんな会話を交わしながら、ルアは複雑そうな表情をその顔に浮かべていました。
ヨーコさんはテマリコッタちゃんが疲れて寝てしまったもんですから家まで送っていったために不参加でしたけど、それを差し引いても酒場の中にはかなりの数の人々が集まっていました。
そんなみんなに即されて、僕はいきなり開会の挨拶をするように祭り上げられてしまったんですけど、
「え~、じ、じゃあ皆様今日はお疲れ様でした!乾杯!」
そう言って、タクラ酒の入った樽のジョッキを掲げていきました。
「ご主人殿、ひねりがなさ過ぎでござる!」
「でもそんなダーリンを愛してるキ」
祭りの最中からしこたま飲んでいて、すでに出来上がっているイエロとセーテンがやんややんやの歓声を上げる中、宴会は無事に始まっていきました。
しかしまぁ、あれですよね……僕自身、自分が結構タフな方だとは思っていましたけど、毎朝夜明前に起きて調理作業を行い、店員として店を切り盛りし、必要なら追加の調理をしつつ営業を続け、閉店後は各支店の売り上げ状況を確認しながら翌日以降の商品準備の方針を微修正。帰って来たパラナミオ達と遊びながら夕食と風呂を済ませると、その後はスアとお話しながら子作りに励んでいます。
で、最近はその後に魔道船の運行計画を練り上げたり、春に向けての新商品を考えたり、新しいキャンペーンを考えたりしていたんですが……そんな忙しく頑張っていた僕に、その時は突然訪れました。
「……あれ?」
この日、いつものように夜明前に目を覚ました僕なんですが……異常に体が重いんです。
確かに、パラナミオとリョータが左右から僕に抱きついていますので物理的にも重たいんですけど……どうもそれだけではない感じです。
(ひょっとして、昨日の酒が残ってるのかな?)
そう思いながら立ち上がった僕は、机の上に準備しておいたスア製の酔い覚ましの飲み薬を飲み干していきました。
しかし、体の不調がまったく取れません。
いつもの二日酔いなら、この薬を飲めばほんの数秒で治っていたはずなんですが、今日は全く駄目です。
アレ? 気のせいかな……なんか床がすごく近くに見えるような……
バタン
そんな音が聞こえたと思った次の瞬間、僕の目の前がブラックアウトしていきました。
うん? なんだこれ……まっくら? なんで……あ、こ、こんなことしてる場合じゃないんだ……早く厨房にいかないと……
◇◇
「……ダメです、よ」
僕が、無意識に伸ばした手の先に、スアの顔がありました。
スアは、起き上がろうとした僕の上にのしかかって、それを阻止しているようです。
よく見ると、僕の周囲にはパラナミオとリョータとアルト、それにいつもならこの時間は寝ているはずのムツキまでもが少女の体に変化していて、みんなでベッドに横になっている僕の周囲を取り囲んでいます。
「……って、あれ? みんななんで僕の周囲にいるの? あ、起こしちゃったのかな?ごめんね」
僕はそう言いながら、改めて立ち上がろうとしました。
そうそう、早く厨房に行かないと……
すると、そんな僕の体を、スアだけじゃなくパラナミオ達までもが一緒になって押さえつけてきました。
「パパだめです!」
「パパ、休んでください!」
「あ~え~」 (だーめー)
「絶対に行かせないにゃしぃ!」
「おいおい、みんな一体どうしたっていうんだ?」
びっくりした表情を浮かべた僕の前に、スアがずいっと顔を寄せて来ました。
その顔は真剣そのものです。目がマジです。全く笑っていません。
そんなスアは、僕の鼻を押さえながら言いました。
「……旦那様、倒れたの、よ」
「え?」
スアの言葉を聞いた僕は、目を丸くしてしまいました。
みんなの話を総合しますと……どうやら僕は今朝、厨房に行こうとしてそのままぶっ倒れて意識を失ってしまったみたいです。
最初に気付いたスアが、大慌てで僕を助け起こそうとして、僕に押しつぶされて動けなくなっているところでパラナミオが目を覚まして……と、まぁ、スアが魔法を使うことを忘れてしまうほどパニクっていた事からも、事態がいかに深刻だったかわかって頂けたんじゃないかと思います。
確かに、僕は朝から晩まであれこれ頑張っていました。
ただ、この世界でのコンビニおもてなしは夕方5時には閉店していますし、週末に定休日もありますので元いた世界で24時間365日休みなく店を開けていた頃に比べれば楽なことこの上なかったわけです。
ですが、最近は支店のことをあれこれ気にかけたり、先のテトテ集落の大感謝祭の調整をおこなったり、魔道船の準備をしたりして、と、まぁかなり無理をしていたのは事実です。
で、以前から疲れがたまったらすぐにスア特製の疲労回復薬を飲んで鋭気を養っていたんですが……そんな僕に、スアが疲労回復薬の注意書きを指さしていました。よく見るとそこには
『過度の疲労状態でこの薬の服用を続けていると肉体に負担がかかる可能性があるため、この薬に頼り過ぎることなく適度な休憩をとってください』
……それを読んだ僕は、眼前のスアに向かって
「正直、ごめんなさい」
そう言いました。
うん、そうだよな……確かに無理してた。で、この薬に頼ってた……頼り過ぎてました。
スアによると、この薬で疲労を回復していると、薬が効いている間は元気そのもののため、異常が感知出来ないそうなんです。
で、薬が切れた途端に、溜まりに溜まっていた疲労が押し寄せて来て、僕は倒れてしまったというわけです。
スアは、僕にまたがったまま
「……ごめんなさい、旦那様の疲労、気がつかなかった、の」
そう言いながら、その顔に泣きそうな表情を浮かべていました。
で、僕はそんなスアの頭を優しく撫でていきました。
「いや、悪かったのは僕の方だよ……みんなにも心配かけちゃってごめんね」
僕はそう言いながら、スアだけじゃなく、パラナミオ達へも視線を向けていきました。
で、僕が体を起こそうとすると、
「「「ダメ!」」」
再びみんなが一斉に僕を押さえつけてきました。
「パパ、何かすることがあったらパラナミオが代わりにやりますから!」
「リョータも頑張るよ」
と、言いながら、パラナミオとリョータが僕の顔をのぞき込んで来ました。
その後方には、アルトとムツキ、それにスアの顔もあります。
ですが……
「あ、あのさみんな、気持ちはすごくありがたいんだけど……と、トイレくらいは行かせてくれないかな?」
僕は、少し恥ずかしそうにそう言いました。