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テトテ集落大感謝祭みたいな その2

 いつもなら、真っ先に行列が出来るはずのララコンベ温泉饅頭なんですが、今日はパラナミオ達が先にお酒を配っているもんですからテトテ集落の皆さんはこぞってそちらへ集まっています。
 そのため開店休業状態の僕は、並べ終わった商品をチェックしながら、たまにやってくるお客さんの相手をしていました。
 すると、テトテ集落の長、ネンドロさんが笑顔でやってきました。
 ちなみに、手にはすでにタクラ酒が握られています。
「そうそう、店長さんにお願いがあったんですにゃあ」
「お願いですか?」
「えぇ、実はですにゃあ、この集落で次の週末にお祭りがあるんですにゃあ。去年までは集落の中だけで細々とやっておりましたにゃあけど、今年はみんな元気でございますにゃあで、外部からも屋台の出店者を募集して盛大に行おうとおもっておりますにゃあ。そこで、店長さんにもぜひ屋台を出していただけにゃいかと思っておりますにゃあ」
 去年の今頃って、まだこのテトテ集落とはつながりがありませんでした。
 だから、この集落で祭りが行われていたというのも初耳ではあったのですが、いつもお世話になっているわけですしね、これを断るはずがありません。
「何をおっしゃいます。むしろこちらからお願いしますよ。ぜひ参加させてください」
「おぉ! そう言って頂けると本当にうれしいですにゃあ」
 僕の返答に、ネンドロさんも微笑んでくれました。
 で、どうやらこの声がお酒の列にならんでいる皆さんにも聞こえたみたいでして、
「おぉ! 来週の感謝際におもてなしさんも参加してくださるのか!」
「こりゃ、ありがたい! 祭りがさらに楽しくなるぞ!」
 そんな感じで大歓声を上げていった皆さんなんですが、気がつくと
「パラナミオちゃんありがとうございます!」
 って、何故かみんなパラナミオに向かって一礼し始めていまして、事態がまったく飲み込めていないパラナミオは、
「あ、あの!? な、何があったのでしょうか、パパぁ!?」
 困惑しながら、僕に助けを求める視線を向けてきていたんですよね。

 とまぁ、そんなわけで、僕達コンビニおもてなしは、テトテ集落で開催される感謝祭に参加することになりました。
 ネンドロさんの話では友好関係にありますオトの街からも何人か出店してくれる話になっているそうです。
 ルアのお母さんのネリメリアさんの雑貨屋と、ルアの親友のラテスがやってる食堂、それにラテスさんの友人がパンの出店をするって聞いてます。
 で、どうせやるのなら、皆さんに楽しんでもらいたいな、と思った僕は、このお祭りで魔道船をお披露目することにしました。
 テトテ集落には乗降タワーはありませんが、幸いなことに物見櫓が2つも建っていますので、そのうちのひとつの頭頂部を乗降タワーの魔道船接岸箇所と同じ形状に改造してもらうよう、ネンドロさんにお願いしておきました。
 設計図をわたされたネンドロさんは
「改造するのは簡単ですにゃあけど……一体何をなさるおつもりなんですかにゃあ?」
 そう言って首をかしげたんですけど、そんなネンドロに僕は笑いかけていきました。
「あはは、まぁそこは当日のお楽しみってことで。あ、かかった費用はこっちでもちますから」
「いえいえ、それはもう、集落の手の空いた者が手がけますのでお金は結構ですにゃあ」
 というわけで、週末までに物見櫓の1つが魔道船の臨時発着場に改造されることになりました。

 翌日、毎週恒例の店長会議が本店の応接室で行われたのですが、そこでこの話をしてみたところ、
「お祭りですか? それはアルリズドグあたりに話をすると喜びそうですわ」
 そう言って、まずおもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんが反応し、
「そうですわね、おもてなし酒場として飲食の出店を出してみましょうか」
 そう言ってくれたのは2号店店長のシャルンエッセンスです。
 おもてなし食堂エンテン亭の猿人4人娘の1人も、
「じゃ、うちからも誰か一人派遣して軽食の屋台を出しますキ」
 そう言ってくれました。
 メインの販売物が魔女魔法出版の書籍の3号店は、さすがに本の屋台をだすわけにはいきませんので今回は見送り。
 ララコンベの4号店は、
「店長ちゃん、一度持ち帰って店のみんなと相談したいっぽい!」
 と、先日正式に3号店店長に昇格したばかりのクローコが気合い満々な感じで右手を何度もあげてきました。
 一応お祭り当日は、3号店以外はすべて定休日ですしね。
 できる限りみんなで参加して、お祭りを盛り上げてあげたいなと思っている訳です、はい。

◇◇

 翌日。
 店が閉店した後、魔道船を試験運転してみることにしました。
 すでに、スアが調整までしてくれていますので大丈夫とは思いますが、一応お試しはしておいた方が、と思ったわけです。
 で、最初は僕達一家だけが乗り込む予定だったのですが、
「おいおい、アタシらも乗せてくれよ」
 と、ルア一家がどこからかこの話を聞きつけて、魔道船を停泊させている池まで駆けつけてきました。
 旦那さんのオデン六世さんと長女のビニーも一緒です。
 ビニーは、デュラハンであるオデン六世同様、頭が胴体から離れているため、赤ちゃん用のおんぶ紐みたいなのを体につけていて、そこに頭をのせています。
 お腹の前でしっかり固定しているので、落下する心配はありませんが、まだヨチヨチ歩きのためたまにそのまま転びそうになってしまうことが多いんだとか。
 で、その度にルアが猫人特有のすばしっこさで駆け寄ってキャッチし続けているそうです。
 なんのかんので、仲良し一家なんですよね、ここも。
 で、さらに、
「おばちゃまもね、パラちゃまとヤルちゃまとね、魔道船というのを是非堪能してみたいのね」
 そう言いながら、オルモーリのおばちゃま・パラランサ・ヤルメキスの仲良し一家も駆けつけて来ました。
 よく見ると、なんか木陰からシャルンエッセンスと元メイド達や、イエロとセーテン、ルービアスの姿までチラチラ見えているではありませんか。
 その光景を見回しながら、僕は
「わかったわかった。みんな一緒に乗って行こう」
 そう声をあげました。
 すると、木陰に隠れていた全員が一斉に姿を見せ、僕の方に駆け寄ってきました。
 結構な数になりましたけど、実際に運行する際には、この倍以上の人数を乗せた上に、荷馬車も積む予定にしていますからね。
 ある意味試験運転にはちょうどいいと言えるわけです、はい。

 で、操舵はスアに……

「店長様、試験運転の折りからこのメイデンを酷使なさるというのですね? まさに鬼畜の所行。そして私が疲れ果てた後に、この体を……」
「ブリリア~ン! メイデンが脱走してるぞ~」
「あぁ!?そ、そこにいましたかこんちくしょうめ!」
 荒縄を手に駆けつけて来たブリリアンが、メイデンを拘束して連れ去っていくのを確認した僕は、改めて
「スア、じゃあ操舵を頼むね」
「……うん、まかせて、ね」
 今度こそ、舵を握ったスアが、周囲に配置されているパネルを操作していきます。
 すると、魔道船が池からゆっくりと浮上していきました。
 なんの振動もなく、騒音も全くしません。
 魔道船は、まっすぐ上昇していき、あっという間に上空高くへと舞い上がっていきました。
「なんと、すごい! 一瞬でござるな!」
「すごい眺めキ」
「こりゃ酒の肴にはもってこいの光景だなぁ」
 みんな、それぞれに簡単の声をあげながら、魔道船の窓のところに殺到しています。
 窓は大きめにしてもらっていたので全員が殺到してもかなり余裕があります。
「……では、前進、ね」
 スアがそう言うと、魔道船はまっすぐ前進し始めました。
 その光景に、再度皆から歓声があがっていきます。
「この調子だと、テトテ集落の皆さんにも喜んでもらえそうだな」
 僕は、みんなの様子を見つめながら、笑顔で頷いていきました。

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