バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

魔道船狂想曲 その3

 魔道船の乗降タワーの建築ですが、今後発着都市が増加していく可能性が高いため共通の物にする必要があります。
 なので、基本設計はルア工房のルアにお願いしました。
 で、ルアには現在魔道船を係留してある湖に乗降用の小屋と桟橋も作ってもらっています。
 で、ルアが作成した設計図を元にしてブラコンベとララコンベでも乗降タワーの建築が始まっています。
 ブラコンベでは、地元の業者に建築を依頼しているのですが、この業者はブラコンベにあります2号店の改築やコンビニおもてなし食堂エンテン亭の改造などでお世話になった、すっかり顔なじみの皆さんです。
「コンビニおもてなしさん、また面白いものを作るんだねぇ。ま、こんだけしっかりした設計図があればすぐにでも作れるぜ」
 なんとも頼もしい言葉とともに、工事は着々と進んでいます。
 で、ララコンベなのですが、こちらには大規模な工事を請け負えるような業者が存在していません。
 今でも、建物の改修工事や修繕工事などは、コンビニおもてなしを通してルア工房に依頼がきているくらいですからね。
 と、いうわけで、ここの工事はルア工房が引き受けてくれています。
 ルアの一番弟子であり、ヤルメキスの旦那でもありますパラランサくんが工事を取り仕切ってくれています。
 いつもコンビニおもてなしの中にある転移ドアをくぐって工事に向かっているパラランサくん一同ですけど、その都度ヤルメキスがパラランサくんの元に駆け寄っていきまして、
「ぱ、ぱ、ぱ、パラランサくん、き、き、き、今日も気をつけていってきてくださいでごじゃります」
 そう言いながらお弁当を手渡しています。
 なんとも初々しい光景です。
 ちなみに、ヤルメキス製のお弁当ですが、いつもご飯とおかずよりもデザートのスイーツの方が多いという、なんともヤルメキスらしい配分になっているそうです。
 パラランサくんは気にしていないようですし、まぁいいんでしょう。

 さて、こうして乗降タワーの準備は着々と進んでいます。
 次は他の事を進めなければなりません。

 まず料金ですが、乗降タワーが設置される都市、ガタコンベ・ブラコンベ・ララコンベの住人の方は無料で乗れることにしました。
 無料と言っても、正確には無料ではありません。
 商店街組合のエレエが各都市の商店街組合と交渉してくれまして、各都市の住人が魔道船を利用する場合、その都市が料金を肩代わりするよう承諾させてくれたんです。
 で、無料にしてしまうと乗客が殺到することが予想されますので、1回の航行に人数制限を設けました。
 事前予約のお客様を優先し、就航前に空きがあればその場で受け入れるという方式をとる予定です。
 で、この三都市以外の住人の人が利用する際には、1人500円/僕が元いた世界のお金換算を課すことにしました。
 魔道船は、ガタコンベ→ブラコンベ→ララコンベと回って、またガタコンベに戻りまして、山手線のようにグルグル周回しますので、その1周の代金ってことにしています。
 毎回の就航便には、この都市以外の人の利用枠を設けていますので、予約でいっぱいだから都市以外の人が1人も乗れないという事態が起きないよう配慮している次第です。
 で、この魔道船にはですね、僕発案のあるギミックが搭載されています。
 荷馬車を馬ごと10輛積むことができるコンテナを作ってもらいまして、これを魔道船の下部にドッキングさせることが出来るようになっています。
 で、このコンテナは操舵室で上下させることが出来るようになっていますので、乗降タワーに接岸する前に、荷馬車だけ広い場所に降ろすことが出来る仕組みになっています。
 荷馬車の輸送は当面の間は都市在住の人のみに限定する予定で、料金は各都市の商店街組合が負担してくれることになっています。

 次に、この魔道船を運行するために必要な人員ですが……
 操舵者が1人
 コンビニおもてなしの出張所に1人
 船内案内係として1人
 荷馬車コンテナ係に1人
 以上、ざっと見積もって4人は必要になります。
 乗降の対応はコンビニおもてなしの各店で対応してもらいますし、チケットの管理はエレエ達商店街組合の皆さんが代行してくれることになっていますので、こっちの人員を心配する必要はなさそうです。
「さて、新たに4人……どうしたもんか」
 僕がそんな風に悩んでいるとですね、
「1人心当たりがございますわ」
 魔王ビナスさんがそう言ってくれました。
「この方、一日中自分の部屋に引きこもっていますので、どうにかしないとって旦那様も悩まれていましたので、ちょうどよろしいですわ」
 そう言った魔王ビナスさんが翌日連れてきたのは、1人の女性でした。
 金髪縦ロールの髪型をしているその女性は、豊満な胸とお尻似たいし異常なまでに細くくびれた腰をしていまして……なんかどこかの国のお姫様じゃないのかってくらい美形の女性だったんですよね。
「こちら勇者ライアナですわ。遠慮無くこき使ってくださいませ」
 魔王ビナスさんは笑顔でそう言っているのですが、その後方で勇者ライアナは
「ちょっと待ってよ! ここに来たらマイラバーとお茶させてくれるって言うからついてきたのに、どういうこと? ちびっこ」
 なんかいきなり激怒モードで魔王ビナスさんに突っかかっていますが……
 で、そんな勇者ライアナに、魔王ビナスさんは
「あら? 来ただけですぐにとは言っていませんわ。ここで労働を行えば、その対価として……と私申したはずですわよ。まぁ、勇者ライアナさんは『マイラバーとお茶あああああああ、きたあああああああ』と絶叫なさっていたので聞こえてなかったのかもしれませんけどね」
「うきいいいいいいいい、ちびっこにやられたぁあああああああああ」
 と、まぁ、そんなやりとりがあったものの、お茶の約束は必ず守るとの密約が2人の間で交わされまして、この勇者ライアナさんが魔道船において船内案内係をしてくれることに……
「あら、私、分身魔法が使えるから、船内案内係と荷馬車コンテナ係と出張所の3箇所なら同時に受け持てるわよ」
 ……最初、なんてやつが来たんだ……って気持ちだった僕ですが、謹んで訂正させていただきます。
 なんてすばらしい方がいらしたんだ!
 で、勇者ライアナ的にはですね「さすがに操舵まで同時には難しいかな」ってことらしいので、そこには別の人材を探さないと
「何を言っているのかしら店長さん、そこはこのメイデンが受け持とうでありませんか。例え強盗に押し入られて手足を拘束さて、この身が陵じょ……」
「まったメイデン、それ以上はいけない。っていうか、なんでお前が魔道船の操舵をする話しになってるんだ、おい?」
「いえ、ブリリアン様から立候補してこいと、文字通りお尻を蹴り飛ばされて送り出されてきた次第です。しかしあのブリリアン様の蹴り、素晴らしいことこの上ありませんね。この私が思わず歓喜の嬌声を……」
 僕は、顔を上気させ恍惚とした表情を浮かべながら、ブリリアンの蹴りの素晴らしさに関する講釈を延々と話し始めたメイデンを、乾いた笑いを浮かべながら見つめていました。
 でもまぁ、確かにこのメイデン、魔法の力はそれなりに持っていますし、何より以前この魔道船を操舵していたわけですしね……適任と言えなくもないわけなんですよ……
 ……とりあえずスアに、操舵室を完全密閉構造にしてもらうようにお願いしておこうかな……

しおり