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魔道船狂想曲 その2

 そしてゴルアは晴れやかな笑顔を浮かべながら帰っていきました。
 ……メイデンを残して。
 で、そのメイデンは手足だけでなく口まで拘束された状態で僕の目の前に立っているわけですが……まぁ、魔道船とセットで押しつけられた以上、社会貢献活動従事期間である約1年が終了するまでは面倒みないといけないでしょう……不本意極まりないんですけどね……
 ただ、そうなるとメイデンにどこで暮らしてもらうかという問題が出て来ます。
 ずっとこの拘束をしたままって訳にはいきませんしね……もっとも、メイデンの場合、それはそれで喜びそうな気がしないでもないんですけど。
 で、普通なら本店の2階にある社員寮のどこかにと考えるところなんですけど、今の社員寮は全室相部屋です。
 空きはありますが、そこにメイデンを入れると、何かあるとすぐに「私はここで始めてを」だの「陵辱の限りを」だのと発言しながら顔を赤くして興奮しまくっていくメイデンの被害者を増やすことになってしまいます。
 被害者は少しでも少ない方がいいよなぁ……そう考えた僕は、コンビニおもてなし本店の裏に住んでいるブリリアンの小屋へと出向きました
「……店長殿、何故私の小屋にメイデンを連れておいでになったのですか?」
 僕が小屋に出向くと、ブリリアンは警戒心バリバリの様子で、小屋の戸を少ししか開けずに僕達を凝視しています。
「いやぁ、ブリリアンは一人暮らしじゃないか。そこでこのメイデンを一緒に住まわせてやってもらえないかと思ってさ」
「なぜ私がその変態女の相手をしなければならないのですか? 目一杯お断りいたします」
「そこをなんとか頼むよブリリアン。こいつの面倒をみれる人間はお前しかいないと見込んで、お願いしているんだ」
「繰り返しお断りします。そんな変態と一緒に暮らしているという風評が広がったら、スア様の一番弟子として、スア様に顔向け出来なくなってしまいます」
 そう言うと、ブリリアンはすごい勢いでドアを閉めてしまいました。
 その光景を、僕の後方で見つめていたメイデンはですね、拘束を最低限にまで解除してたもんですから
「あぁ、この仕打ち……あれですね、これから私は放置ぷれいというやつによる責め苦を体感するわけですね、のぞむところですわ、このメイデン、見事にこの試練に打ち勝って見せますわ」
 顔を真っ赤に上気させて荒い息を吐いています。
 そんなメイデンと、閉まった扉を交互に見つめながら、僕は思わずため息をもらしました。
「やれやれ……となるともう一件の小屋に一人で住んでるセーテンにお願いするしかなくなるわけだけど、セーテンは滅多に小屋にいないし、メイデンの監視役には向いてないからなぁ……」
 それに僕が住んでいる巨木の家に住まわせるにしても、子供達の教育上問題がありますからねぇ……
 僕が、そんな感じで今後の事を思案しながら首をひねっていると、スアが巨木の家からトコトコと歩いてきました。
 で、スアは、ブリリアンの小屋の扉の前にたつと、
「……ブリリアン。メイデンのお世話をお願い……師匠からのお願い、よ」
 そう言いました。
 するとですね、ブリリアンの部屋の戸が瞬時に開きました。
「何をしているのですか店長殿! さぁ、メイデンを小屋の中に入れてくださいませ! 社会貢献活動従事期間が終了するまで、不肖この私、スア様の一番弟子ブリリアンが責任をもってその面倒を見させていただきますとも」
 満面の笑みでそう言いました。
 いや、ホントに嬉しそうです。
 ずっとスアに「弟子じゃない」「認めてない」って言われ続けていたブリリアンですからね……まぁ、その気持ちもわからないではありません。
 ……ですが、
「スア、よかったのかい? 今まであんなに弟子を取ることを嫌がっていたのにさ……」
 ブリリアンがメイデンと一緒に小屋に入り閉じられている小屋の戸を見つめながら僕はそう言いました。
 すると、スアは、
「……旦那様のためなら、別に」
 そう言ってくれました。
「………それに、ブリリアンの師匠、とは言ってないし」(ボソ
「え? スア今何か言った?」
「……何でも無い、よ」
 僕は、スアが今、なんかすごくあくどい一言を口にした気がしたんだけど……ま、まぁいっか。

◇◇

 メイデン問題はとりあえず一段落しましたので、僕は次の作業にはいりました。
 辺境都市連合に参加している辺境都市などの間を魔道船で結ぶ計画の実践です。
 まず、魔道船から乗客を乗降させる場所の確保をしなければなりません。
 魔道船はそれなりに大きいです。
 その魔道船を地面に着地させて乗員を乗降させようとすると、相応に広い場所が必要になります。
 しかも魔道船の船底は普通の船と同じ形をしていますので、そのまま着地したのでは魔道船が倒れてしまいます。
 なので、今、魔道船を停泊させているように大きな池や湖に着水させるか、空中に浮かんだままの状態で乗降タワーに接岸させ、そのタワーの中を通ってもらうか、そのいずれかの方法で乗客を乗降させる必要があります。
 で、現在魔道船が停泊する場所として予定しているブラコンベとララコンベには、そんなに広い場所も、池や湖もありませんので、乗降タワーを作ることで話がまとまっています。
 ブラコンベとララコンベにはコンビニおもてなしがありますので、店舗の横に乗降タワーを設置し、その乗降口を店内のレジの真横にしておけば、レジ作業を行っている店員がそのまま乗降する乗客の応対を出来ますので、その方向で乗降タワーを建築する手はずになっています。
 本店にもこの乗降タワーを建てようとしたんですけど、本店の屋上には太陽光発電パネルが設置されています。
 魔道船が万が一この太陽光発電パネルにぶつかったりした場合、取り返しがつきませんので、本店では、魔道船が現在停泊している湖に発着することにして、湖岸に乗降用の小屋と桟橋をつくることになりました。
 何しろ、この太陽光発電パネルは換えが効きませんからね……この世界には存在しない品物なわけですからね。

 とりあえず運行開始当初はこの3都市の間をグルグル回って運行することにしています。
 で、利用者の状況や、要望などを聞きながら随時その発着地を増やしていく計画です。
 なにしろ、この一帯で魔道船を運行するのなんて初めてですからね。
 焦らずにゆっくりやっていこうと思っているわけです。

 で、魔道船の中には当初の予定通り、コンビニおもてなしの売店を作ることになりました。
 お客さんが空の旅を満喫しながら食べ物や飲み物類を提供しようというわけです。
 スアが魔道船の整備をしてくれていたんですけど、すでに売店スペースも完成しているとのことでしたので、僕はパラナミオ達を連れてその様子を見に行きました。

「……スア?」
「……何? 旦那様」
「あのカラーリングは……どうしたの?」
「……コンビニおもてなしの、お店の色に合わせてみた、の」
 スアがそう言うようにですね、魔道船は木の上に塗装がなされていたのですが……コンビニおもてなしのカラーである明るめの茶色を中心にした色でばっちり塗られていたんです。
 で、帆にもですね、でかでかと『コンビニおもてなし』って書かれているんですよ……
 最初僕は「ちょっと小っ恥ずかしいなぁ」と思ったんですけど、これは別の考え方も出来るわけです。
 魔道船の就航が軌道にのったら、船体に広告をだす権利を販売してもいいかもしれません。
 で、帆や船体に、権利を購入した店の広告を掲載するわけです。
 そう考えると、コンビニおもてなしカラーになっている魔道船も、いいPRになるなと思えてきたわけです。
 パラナミオ達も
「パパ! お店の色ですね!格好いいですね!」
 そう言いながらはしゃいでいます。
 で、そんなパラナミオ達の様子を見たあたりで、僕もようやくこの色合いに納得したんですけど、そんな僕の様子を心配そうに見つめていたスアも、僕が納得したことを悟り、安堵のため息をもらしていきました。
「スア、ありがとう。スアのおかげで魔道船の利用方法がいろいろ思いついたよ」
「……旦那様の役に立てたのなら、嬉しい、の」
 僕に抱き寄せられたスアは、嬉しそうに微笑みながらそう言いました。
 そして、僕の脳内にですね
『……今晩、ご褒美ほしい、です』
 そう思念波で語りかけてきたわけです。
 うん、これはあれですね。子作りの催促ってやつですね……まぁ、ほぼ毎日やってるんですけどね。
 僕は、スアの体をさらにギュッと抱きしめました。
 ま、それは僕的にもどんとこいなわけですから、今夜はいつも以上にがんばらせてもらおうと思っています。

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