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 Ⅲ アイリスが目にしたものは

「あわわわわわ。おばあちゃ……! はやい……!」
「がまんおし! あと、おばあちゃんって呼ぶんじゃないよ!」
 おばあちゃんが作った枝のほうきに乗って私たちは世界樹に近づいていく。でも、その途中で木の構造が大きく変わってしまった。おばあちゃんが創った木の道はあっという間に、花の道に変わった。私たちを飲み込もうとするように後ろから迫ってくる花たち。前にも広がっていくから、急いで飛んで、そこを脱出しようとする。迷路のようなそこを飛び回っていくと、大きな花が私たちを邪魔しようと、ぐわんと襲いかかる。
 右、上、左、下。一回転、半回転、ぐるぐるぶんぶん。目が回ってきた。
「ひゃぁ!」
「うるさいよ!」
「だってぇ!」
「しゃべるんじゃない! 舌を噛むよ!」
「ふひゃい(はい)」
「口を閉じてもいっしょだよ!」
「ひょんにゃぁ」
 おばあちゃんが言っていたこと。お母さんが好きだった人の話は気になったけど。今はそれどころじゃない。おばあちゃんの木の力がだんだんと小さくなって。お母さんの花の力が大きくなっているのを、私は感じた。そしてカドゥケスの杖、豊穣の麦のブローチが輝いて。大きな胸騒ぎを感じて、お腹がチクチクと痛んだ。そして、頭の中にお母さんが枝で、種で、引き裂かれる光景が流れてきた。すごく、いやな感じ。それをおばあちゃんに伝えてたら、私たちはもう飛び出していた。
「あいつ……あえて私を遠ざけたね」
「おうひへ(どうして)」
「【母なる自然】に干渉するためだよ。一応これでも木の元素の長。覚悟しなさい。アイリス。この花たちの洞穴を抜けて見えるもの、それも予想がついている。取り乱すことのないように」
「……?」
 花たちが大きな壁を作って私たちを通さないようにするけど、おばあちゃんは迷わずそのまま突っ込んでいった。枝のほうきがぎゅっと硬くなって。大きなとんがりが花の隧道に刺さる。ぐぐぐぐぐ、と伸びていって。花弁がブチブチと音を立てる。
「やめて! おばあちゃん!」
「やめないよ! このまま貫く!」
「お母さんが痛がってる!」
「っ!」
 一瞬、枝のほうきが緩んでしまった。そうすると花たちがまた集まって。元の壁に戻ってしまった。そして、私だけ『ぽーん』と放り出された。

「え?」
 
「アイリス!」
「ひゃぁぁぁぁ」
 おばあちゃんが木を伸ばしてくれるんだけど、それには届かなくて。私は真っ逆さまにお花の絨毯の上に落ちて……行くと思ったら、ぼふっ! と抜けて。空。落ちながら、地面もなく浮いている大きなマリーゴールドを目にしていた。
「なにあれ……のまえにおちるぅぅぅぅ! ひゃぁぁぁ――」

「――ぁぁ……あれ……? 落ちてな……え……?」
 私が、花の隧道から抜け出したころから薔薇の蔦。そう『クライミングローズ』が私を包み込んだ。まるで絵本で見た大きなゴンドラのようにして、ゆっくりと降りていく。
「ふぅ……たすかった……」
 バラの香りに懐かしさと落ち着きを取り戻した。そして、分かった。今お母さんは……。

 殺されている。

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