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シフト狂想曲 その2

 メイデンを連れてやってきたゴルアは、僕に向かって言いました。
「実はですね、このメイデンなのですが……」
「断る」
「は?」
「いや、どうせあれだろう? そのメイデンをうちのコンビニおもてなしで働かせてほしいって話なんじゃないの?」
 僕は、話を切り出し始めたゴルアにそう言いました。

 いえね、確かに今は猫の手も借りたい状態ですよ。
 ……でもねぇ、このメイデンはねぇ……
 何より、すぐに『私はここで陵辱されるのですね』っておっぱじめてしまうメイデンです。
 何より子供達に悪影響を与え兼ねません。
 僕がそんなことを考えていると、ゴルアは和やかに微笑みました。
「あぁ、店長殿、違うのですよ。このメイデンなのですが、今回の取り調べにおきまして非常に協力的でしてね、自分の知っている闇の嬌声に関することを聞いてもいないことまでしっかり話してくれましてね……」
 
~タクラリョウイチ脳内劇場~
ゴルア「闇の嬌声の事で知っていることを話してもらおうか」
メイデン「そんなこと出来る訳がありませんわ。闇の嬌声がこの街でこんなことをしようとしているとか、そんな街でそんなことをしようとしているとか、そんな事を話してしまったら私、闇の嬌声からどんな仕打ちを受けてしまうのか……あぁ! そ、想像しただけでイッてしまいそうですわぁ」
ゴルア「ならもっとしゃべったらどうだ?」
メイデン「そんなこと出来る訳がありませんわ。闇の嬌声があの街であんなことをしようとしているとか、どんな街でどんなことをしようとしているとか、そんな事を話してしまったら私、闇の嬌声からさらにどんな仕打ちを……」

 ……うん、多分こんな感じだったんだろうな……
 僕は、強く確信しながら頷いていきました。

 で、ゴルアですが……
「……で、このメイデンなのですが、闇の嬌声に関することを洗いざらい喋ったことに関して恩赦がだされる見込みになっているのです。ただ、その条件として社会貢献活動を相当時間こなす必要が生じるのですよ。で、メイデン自身に『何か出来ることはあるか?』と聞きましたら、闇の嬌声の施設では主に料理番をしていたと言うのです。それでちょっとこちらの厨房を使わせていただいてその腕前を確認しておきたいと思いまして」
 そんなことを言い出しました。
「料理の腕を見るのなら、辺境駐屯地の台所を使えばいいんじゃないのか? 確かあったよね?」
「あぁ。確かにそうなのですが……ちょっと問題がありまして……」
「問題?」
 ゴルアの言葉に、僕の脳内にクエスチョンマークが飛び交っていったのですが……
 まぁ、ウチの店で社会貢献活動させてくれって話でないのならってことで、僕とゴルアは、拘束されまくっているメイデンを連れて厨房へと移動していきました。
 で、ゴルアに引っ張られる度に拘束している荒縄が体に食い込むらしく、メイデンはその度に顔を赤らめ、顔を上気させています。
 ……うん、マジでこれ勘弁してほしい。パラナミオ達の教育にマジよくないです。

 で、ゴルアはメイデンの上半身を拘束していた荒縄をはずしていきました。
「おいおいゴルア、いくら拘束するためとはいえそこまできつく縛る必要はなかったんじゃないの」
「いえ……それがですね、この女に荒縄を巻いていると、どういうわけかあっという間にこうキツーい拘束になってしまうのです」
 そう言いながら困惑しているゴルアなのですが……なんでですかね、妙に納得してしまうのですが……

 というわけで、メイデンが要求した食材を準備し、厨房で調理をさせてみたのですが……
 ……うん、ここで僕はゴルアがメイデンをここに連れてきた理由がようやくわかりました。
 厨房のメイデンはですね、
「こ、こ、こ、この包丁が……一歩間違えたらこの私を刺し貫き……あぁ」
 とか
「あぁ、この肉の塊……私も虐待されまくったあげくこの肉の塊のように丸く拘束されて……あぁ」
 とか
「卵……こ、これを私の (これ以上はいけない)

 とまぁ……終始こんな感じで、食材一つ一つに対していちいちオーバーアクションしながら声をあげていくもんですから、狭い場所だったら、そりゃすぐにドンガラガッシャ~ンになってしまうでしょう。
「終始こんな感じなもんですから、辺境駐屯地では料理の腕前を確認する前に、台所が破壊されてしまいましてね……」
 ゴルアは困り顔でそう言いました。
 ……とはいえ、ここでも同じことをしでかしているわけですからね……これではどうにも先に進めません。

◇◇

 数分後……
 僕とゴルアの前で、メイデンは静かに料理を作成していました。
 相変わらずハァハァと荒い息は漏らしていますが、オーバーアクションを起こすことなく、ひたすら料理に打ち込んでいます。

 で、そんな僕の横にはスアがいます。

 はい。
 スアにですね、メイデンの周囲を魔法壁で囲ってもらっているんですよ。
 そのため、今のメイデンはですね自分の体の周囲を常に左右から圧迫されている状態なんです。
 で、無駄口を叩くとその圧迫が緩和される仕組みになっています……普通逆ですけどね。
 で……その圧迫の支配下にいたくて仕方がないメイデンは、ひたすら無言で作業を続けているわけです、はい。
 そんなメイデンの後ろ姿を見つめながら、スアが言いました。
「……旦那様、こいつ絶対に子供達には見せないで、ね」
「うん、よくわかってる」

 とまぁ、そんな会話が交わしていると、メイデン製の料理が出来上がりました。
 野菜と肉の炒め物とスープです。
 念のためにスアに変な物が入っていないかどうかチェックしてもらいましたけど、どうやら大丈夫なようです。

 で、早速実食してみたのですが……普通の味です。
 いえ、ダメと言っているわけではありません。
 野菜は丁寧に切り刻まれているし、火もちゃんと通っています。
 焼け焦げもありません。
 スープも、ちゃんと下味が付けられていて、具の野菜にもしっかり味がしみこんでいます。
 普通の味ですが、十分客に出すことが出来るレベルには達しています。

 で、そんな事を考えている僕にゴルアが言いました。
「店長殿、もしよろしかったらなのですが、メイデンをしばらくこの店で働かせてやってはもらえないだろうか? 当然その間の給料は我が辺境駐屯地が受け持つし店側に対して協力金を支給しよう。王都からこの者の正式な処分が決まるまででいいのです…… (正直、駐屯地でも持て余しておりまして) 」
 ……なんか最後に変な一言が聞こえたような気がしたんですけど……
 通常であれば笑顔でごめんなさいをするところなのですが、今のコンビニおもてなしは若干非常事態なわけです。
 何しろ弁当作りのエースだった魔王ビナスさんが期間未定でお休み中ですからね。

 僕は腕組みしながらメイデンを凝視していきました。
 で、僕に凝視されながらメイデンはその顔をどんどん赤くし、どんどん息を荒げています。
 きっと今のメイデンは、僕に視姦されてるっていう妄想を脳内で炸裂させてるんだろうなぁ……
 で、それを口に出したくて仕方ないんだろうけど、それをしちゃうと自分を左右から締め付けている魔法壁の圧迫が弱くなってしまうので……

 僕は散々迷った挙げ句……

◇◇

 翌朝のコンビニおもてなしの厨房にメイデンがいました。
 首にでっかい鉄製の首輪をはめているメイデン。
 当然その周囲にはスア製の魔法壁が展開されています。
 で、きちんと料理が出来て、僕から褒められたら、その魔法壁と首輪から微弱な電気が流れる仕組みになっています。
 で、メイデンはですね……その刺激を得たいがために、すごく真面目に、かつすごく高速で料理をしています。
 基礎がしっかりしているメイデンは、僕が少し指導しただけで一気にレベルアップしたんですよね。

 どうにかこれで魔王ビナスさんがかえってくるまでの間のシフトを埋めることが出来そうですが、メイデンがいる間、パラナミオら子供達には厨房進入禁止令を発動した次第です。

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