バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

さて、どうする?

イーグを証人……いや犯人として出せば全ておさまる。しかしダチは売りたくねえ。
ネネルを犯人にするか? いやそれはまだ本人に聞いてみなけりゃ分からないことだ。
だがこの流れで行けば姫が黒幕なのは確実。だけどそれをどうやって俺の方から説明すればいいのか……

つまるところ「マティエがムカつく奴だから」に行きつくんだが、そんな解答でルースを悲しませたくない。
いっそのこと、俺が罪を被ろうかな……なんて思ったりもした。マティエ憎しで俺がやったんだと言えば……

いやダメだ、考えろ俺!
唯一の証拠であるこの空っぽの紙包みを空に掲げながら、俺の頭はもう煙が立ち上りそうだった。
しかし考えれば考えるほど袋小路に陥ってしまって……あああ、仕方がない。とりあえず教会へ帰るとするか。
……………………
重い足取りで教会へと戻った俺を待ち受けていたもの。それは安堵の表情の三人だった。

ルースにどうしたんだと訊ねると「おそらくこれは経年劣化による成分の変質だったんだ」と告げられ、またしても俺の頭はこんがらがってしまった。やめろ、もっと俺にも分かりやすく説明してくれ。

「つまり、別の甕に移したまま何年も放ったらかしにしておいたことで、酒に含まれていた成分が変わってしまったんだ」ま、まあそれならば分かる……
つまりは、その変化がマティエには強すぎたってことなワケだな。と聞くと「そういうこと。ラッシュが匂いの変化を感じたのは、そのためかもね」だとさ。

だけど……俺がこの前あのクソマズイやつを飲んだ時は、そんなこと一切起きなかったけどな。
「ラッシュの精神が肉体以上に頑丈だった……のかな?」久しぶりに見せたルースの笑み。

そうだ、コイツがそう結論付けたのならそれでいい。アスティもロレンタもなるほどねと納得してるみたいだし……俺が無駄な努力し過ぎてしまっただけだ。うん。助かった。
……………………
「ところでラッシュ、ずっとどこ行ってたんだい?」
ラボへの帰路、ルースが聞いてきた。
「ああ……家に戻って、その……トガリにな」
いい嘘が思いつかなかったから、とりあえずトガリを犠牲に。すまない……
「トガリはアラハスの香料の神ジックゥサがいたはず。ディナレ教会には行く必要性はないと思うけど……」
だよな、俺の全くの思い違いだよな。って笑ってごまかした。すまんトガリ、しばらく殴らないから。

「あとは……」
「ああ、マティエを覚まさせるには一体どうしたらいいか。タージアが見つけてくれればいいけど」
そう、つまるところそれに尽きるワケで。
成分が変わって……とかいう理由であの女が錯乱した(とみんな思ってる)んだが、問題はあいつをどうやれば治すことができるか。
ここはやはり、うやむやにするわけにもいかねーから……

「ルース……ひとつお願いできるか?」
「え、いったいどうしたの?」

「出来たら早くエセリア姫に会いたいんだが……どうにかできるか?」

「ど、どういうことラッシュ⁉︎ まさか……彼女を好きになっ……ぐはぶっ!」
これ以上ややこしくされると困るから、とりあえず一発殴って黙らせた。

しおり