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春の訪れはドコログマで その4

 黒装束の男達を蹴散らした僕らの前に、馬車から降りたお姫様みたいな女の子が歩み寄って来ました。
 その女の子は、パラナミオの上に乗っている僕の近くへと歩みよってくると、
「あぁ……伝説の勇者様……私達ロクマ王国を救いに来てくださったのですね」
 そう言いながら、深々と頭をさげていきました。
 気がつくと、その後方にこのお姫様らしき女の子のお付きの人達みたいな方々が歩み寄ってですね、女の子と一緒になって頭をさげています。
 中には、感涙を流している人もいます。
 さらに、拝んでいる人までいます。
 その上、なんか土下座までして……
「ちょ、ちょっと待ってよ……そんな、いきなり勇者とか言われても、僕も困るし……」
 僕はそう言いながら慌ててパラナミオから降りると、女の子達の方へと向かって行きました。
 すると、女の子は僕に向かって跪きました。
 当然のように、それに後ろの一同も続いています。
 で、さらに感涙を激しくしていく人、拝むペースを倍にする人、土下座し過ぎて頭が地面に……
「だ~! もう! とにかく事情がさっぱりわかりません! 事情を説明していただけませんか!」
 僕は、そんな一同を見つめながら思わず声をあげました。
 そんな僕の後方では、人型に戻ったパラナミオが
「パパ、伝説の勇者様だったんですね! すごく格好いいです!」
 そう言いながら目をキラキラさせて僕を見つめています。
 よく見ると、スアの横にいるリョータやアルトまで目をキラキラさせながら僕を羨望眼差しで見つめています。
 さらに
「さすがはリョウイチお兄様……なんてすごい人……」
 シャルンエッセンスまでもが、頬を上気させながら僕を見つめているではありませんか。
 とにもかくにも、全員一度落ち着け、こら!

 で、しばらく時間が経過しました……

 ようやく落ちついた女の子から事情を聞くことができました。
 なんでも、彼女達はこの土地を支配しているロクマ王国の人達だそうで、彼女はそのロクマ王国のお姫様で、ポラネというそうです。
 で、ポラネの国は、隣国アラホラサーサ国に常に狙われているんだとか……

「アラホラサーサの国力は増大です……私達ロクマ王国ごときではとても太刀打ち出来ません……そこで私達はロクマ王国の守り神とされています魔人様を蘇らせるべく、魔人の谷に向かっていたのですが……」
「そこを、待ち伏せていたアラホラサーサの連中に襲われたってわけか?」
「はい、そうなのです……まさかアラホラサーサの手の者達がこんな奥地にまで侵入していたなんて……」
 そう言いながら、顔を曇らせていたポラネなんですが、ここで急に笑顔になりました。
「その時です! ロクマ王国の守り神とされています、龍にのった勇者様が出現なさったではありませんか!」
「……なんか、守り神だらけでござるな」
「アタシもそう思うキ」
「奇遇だな、イエロにセーテン、僕も今そう思ってたとこだよ」
 そんな僕達の会話など何処吹く風とばかりに、ポラネは両手を胸の前で握り合わせながら僕の前へとにじりよってきました。
「お願いします伝説の勇者様。これまでロクマ王国の守り神とされています暗黒の大魔道士や、光と闇の魔人や、伝説の魔王や……」
「ホントに守り神だらけなのですわねぇ……」
「……数打ちゃあたる?」
「奇遇だな、シャルンエッセンスにテンテンコウ、僕も今さらにそう思ってたとこだよ」
 乾いた笑いを浮かべている僕達の前で、ポラネ達は目を輝かせながら僕を見つめています。
「とにかく、始めてこの国に現れた、この国も守り神様! どうか私達をお守りください!」
 ……なんかもう、誰でもいいからとにかく助けて~って風にしか聞こえませんよ、ほんと……

 で、僕は
『とにかく僕は勇者じゃないので、せめてその魔人を復活させるお手伝いくらいはさせていただきますから』
 ポラネ達をようやく納得させました。
 ……相当渋られましたけどね……
 
 馬車で進むことおよそ1時間。
 
「ここです、ここが魔人の谷です」
 ポラネが、笑顔でそう言いながら前方を指さしました。
「あの奥にあるのが、伝説の魔人さ……え?」
 そう言いながら、ポラネが固まりました。
「ん? どうした?」
 僕も前方へ視線を向けていきます。

 すると、なんということでしょう……

 谷の奥にはですね、確かにハニワみたいな顔をした巨大な魔人の像があるにはあるんですけど……その横にですね、紫の肌をしたインド風顔立ちをしたでっかい人が立っていて、魔人像をぶん殴っているんですよ。
「きゃ~!? ま、魔人様が大変です! さぁ、伝説の勇者様、すぐに魔神様をお救いくださいませ! あの正体不明のでっかいのを倒してくださいませ」
「ば、馬鹿言うなって!? なんで急にそうなるんだよ!」
「と、と、と、とにもかくにも、私達にはもうロクマ王国の守り神であられます伝説の勇者様のお力におすがりするしか……」
「諦めるの早すぎだろ!」
 そんなやりとりをしている僕とポラネ。 
 そんな僕達の周囲に、なんか女の甲高い笑い声が響いてきました。
「久しぶりだね、ポラネ姫」
「あ、あなたはアラホラサーサ国のドロージョ姫ではないですか!」
 ドロージョ姫と呼ばれたその女は、先に髑髏の彫り物がされているキセルをふかしながら谷の方から歩いてきます。
 なんかすごいレオタード姿です……ちょっとお年を召していらっしゃるせいか、若干ムッチリ感がヤバすぎる感じですが……
「とにかくだ、守り神だらけのあんたの国の最後の守り神、あの魔人像もさ、アタシ達アラホラサーサ国の秘宝、魔人のランプで呼び出したランプの魔人にもうすぐ破壊されちゃうわ。さ、これでこの国にはもう守り神が残ってないでしょう? おとなしく観念なさいな」
「なんですか! ドロージョ姫だって秘宝秘宝秘宝秘宝で、秘宝がなかったら何にも出来ないくせに!この年増ばばあ!」
「な!? 何を言うのよこのチンチクリン!」
「うるさい! その衣装、正直きついんですけど! 見た目やばいのわかってますか!?」
「キー!あんた今、言ってはいけないことをいったのわかってんの!」
 
 ……なんですかね、これ……

 ポラネとドロージョってば、周囲そっちの気で口げんか始めちゃいました……すっごい低レベルな……
 その様子に、ロクマ王国の衛兵達だけでなく、ドロージョ姫の配下の者達……さらに、魔人までもが近寄ってきて、なんかみんな一緒になって苦笑しています。
 で、そんなみんなが見守っている中、2人の言い争いはまったく終わりそうにありません。

「おいおい、これ、どうなるんだ、おい……」
 僕は思わず頭をかいていきました。

 すると、その時です。

 スアがゆっくりと歩み出ていきました。
 その肩がプルプル震えています。
「……ドゴログマに……早くいきたいのに……この……この……」
 そう言いながら、スアは右手に持った水晶樹の杖を振り上げました。

「スカポンタ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン」

 スアの、信じられないほどの絶叫とともに、周囲がまばゆいばかりの光に包まれていきました。

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