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春の訪れはドコログマで その3

「うわぁ!すごいです!早いです!」
「はあいはあい!」
「うきゃあ!」
 魔法の絨毯の上で、パラナミオ・リョータ・アルト達はみんな笑顔ではしゃいでいます。
 シャルンエッセンスやイエロ、セーテン達も感心した様子で周囲を眺めています。
「で、スア……この先に薬草を採取出来る場所が……」
 僕はそう言いながらスアへ視線を向けました。
 が、その言葉を思わず飲み込んでしまったんですよ……
 いえね……なんかスアがですね、水晶樹の杖を持ったまま目を丸くしているんです。
「す、スア、どうかしたのかい?」
 僕が思わずそう訪ねると、そんな僕の前でスアは言いました。

「……違う、の……ここ、ドゴログマじゃない、の」

 スアの言葉に、魔法の絨毯に乗っている一同は全員思わず目を丸くしていきました。
 そんな僕達の前で、スアは水晶樹の杖の中からドゴログマ侵入許可書を取り出すと、それを食い入るように見つめています。
 で、僕もその横からその許可書を眺めていきました……ですが、僕にはちょっと無理でした。
 その許可書の言葉って、神界の言葉で書かれているらしく僕には全く読めなかったんです。
 で、それを何度も読み返してたスアなんですが。


「……あ」


 スアにしては、かなり大きな声をあげました。
 目を丸くしたまま、スアはその許可書の一角を指さしています。
「……ドゴログマじゃない……ここ、ドコロクマって……間違ってる、し」
「「「え?」」」
 その言葉に、魔法の絨毯の上のみんなが一斉に声をあげました。
「えぇ? ドゴログマなんでしょ?」
「……ここ、ドコロクマになってる、の
「ドゴログマ」
「……コ」
 と、まぁ、スアの説明をみんなで何度も聞いてようやく僕達も理解しました。

 この世界は、スアが行きたかったドゴログマではなく、ドコロクマという別の世界のようなんです。

 よく見たら、今回の異世界コンビニおもてなし繁盛記のタイトルも「ドゴログマ」じゃなくて「ドコロクマ」になってますね……これ誤字じゃなかったんだ。
「リョウイチお兄様、誰に向かって何をブツブツ言っていらっしゃるのです?」
「あぁ、シャルンエッセンス、何でも無いよ」
 そんな会話を交わしていく僕達の前で、スアはプルプルと肩を振るわせています。
「……山を越えたのに……いつもの薬草の森がない、の、おかしいと思った、の」
 そう言うと、スアは水晶樹の杖を一振りしました。
 すると、魔法の絨毯は空中で180度方向転換すると、元来た場所へと向かい始めました。

 確かに、今回ドゴログマへ行こうとしたのって、スアがコンビニおもてなしで販売している魔法薬の原料になる貴重な薬草なんかを入手するためですんでね……世界が違ったら意味がありません。
「じゃあスア様、この世界は神界とは関係ないのでござるか?」
「……みたい、ね」
 イエロの言葉に、スアは周囲に魔法を展開しながら答えています。
 恐らく、この世界の情報を入手しようとしているのでしょう。
 とはいえ、もう少ししたら僕達は先ほどの地点に戻って、一度コンビニおもてなしのある世界に戻ることになるんでしょうけどね。

 すると、その時でした。

「パパ!あれなんかおかしいです!」
 そう言いながら、パラナミオが地面の方を指さしました。
 僕達は、一斉にそちらへ視線を向けました。

 そこは、森の中にある街道のようです。
 その中を馬車が疾走してるのですが……その後方を馬に乗った男達が追いかけているようです。
 後方の男達は火矢も放っているらしく、そのせいで馬車だけでなく周囲の森からも火の手が上がり始めています。
「ご主人殿!これは見逃せませぬ」
 そう言うが早いか、イエロが魔法の絨毯から飛び降りていきました。
「って、おいイエロ!」
 僕は思わず声を荒げました。
 なんせここ、相当上空です。
 いくらイエロが頑丈だからって、この高さから落下したら……
「あぁ、ダーリン、これぐらいならイエロは大丈夫キ」
「え?」
「いつもの狩りに行ってるとこじゃ、この倍はある高さの崖でも平気で飛び降りてるキ」
「え……そ、そうなの?」
 僕は、セーテンの言葉に乾いた笑いを浮かべるのがやっとでした。
 とはいえ、イエロをこのままおいていくわけにはいきません。
「スア!」
「……ん」
 僕の声を合図に、スアは水晶樹の杖を地上に向けました。
 すると、魔法の絨毯は先ほどイエロが落下してった森の中へ向かって急下降していきます。
 で、ある程度の高さになったところで、
「じゃ、ダーリン、アタシも行って来るキ」
 セーテンは僕に向かって投げキッスをすると、魔法の絨毯から飛び降りていきました。
 なんていいますか、鬼人と猿人とはいえ、イエロとセーテンの身体能力の高さに改めてびっくりするしかない僕だったわけです、はい。

 ほどなくして、魔法の絨毯が地面に着陸しました。
 で、僕は護身用にと魔法袋に入れて持って来ていた龍の牙製の剣を手にすると、イエロ達が向かって行った方向に向かって駆け出しました。
「パパ!パラナミオも行きます!」
 そう言うと、パラナミオも走って来ました。
「いや、パラナミオは危ないから、ママと一緒に待ってなさい」
 格好いいことを言ってますけど、僕とて戦闘経験皆無ですし魔法も使えないという……異世界に転移したのにチートゼロの凡人です。
 何が出来るとも思いませんけど、とにかくイエロとセーテンを見殺しには出来ないっていうその一心で走ってます。
 すると、パラナミオはですね。
「パパ! これなら大丈夫ですから!」
 そう言うと、その体をサラマンダーへと変化させていきました。
 その体は、以前の蜥蜴もどきだった頃とは比べものになりません。
 輝く緑の鱗、精悍な体つき。
 小型なのをのぞけば、立派にドラゴンです。サラマンダーです。
 パラナミオは、僕に向かって頭を下げてきました。
「ありがとうパラナミオ、ちょっと失礼するよ」
 僕は、パラナミオの頭の上に乗り、片膝をついて前方を見つめていきました。
 ほどなくして森が開け、イエロ達の姿が見えてきます。

 イエロとセーテンは、黒ずくめの男達を相手に戦っていました。
 イエロは剣を構え、セーテンは爪を振り回しています。
 2人とも敵なしの状態ではあるのですが、いかんせん黒ずくめの男達の数がすごいんです。
 ざっと見て100人はいるでしょうか。
 で、そんな多勢を相手に、イエロとセーテンは馬車を背にしながら果敢に戦っています。

 そんな中に、突如パラナミオが出現しました。
 でかいです。
 龍です。

 その姿を見た黒ずくめの男達は
「な!? ば、馬鹿な、ど、ドラゴンだと!?」
「し、しかも人が乗ってる……」
「ど、ドラゴンライダーがいるなんて聞いてねぇぞ!?」
 口々にそう言っています。
 とりあえず、パラナミオの事を恐れているのは間違いないようです。
 僕は、パラナミオの体に顔を寄せると
「パラナミオ、思いっきり吠えるんだ」
 そう言いました。
 その言葉を受けたパラナミオは、大声を上げました。
 いつもの可愛いパラナミオのそれではなく、龍の重低音のその鳴き声は黒ずくめの男達に恐怖心を植え付けるには十分でした。
 黒ずくめの男達は、手の武器を放り投げながら一目散に逃げ出していきました。
「やれやれ、どうにかなったでゴザルな」
 男達が去った後も、周囲を警戒しながらイエロは安堵の息を漏らしています。
 その周囲では、セーテンが男達が落としていった武器をせっせと拾い集めています。
 ここらはさすがセーテンです、ホント抜かりがありません。
 で、そんな2人を見ていると、馬車の中から1人の人が降りて来ました。
 お姫様ですかね、なんかすごく綺麗なドレスを着ています。
 その女性は僕とパラナミオの方へゆっくり歩いてきています。

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