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春の訪れはドコログマで その1

 コンビニおもてなしは今日も元気に営業しています。
 バレンタインデー以降チョコレート人気が好調でして、どの店舗でも午前中には全て売り切れてしまっています。
 あわせて、神界にもコンビニおもてなし系列のスイーツ店がオープンしたこともあり、スイーツ担当のヤルメキスやバイトの……
「あら、店長さん。私達、バイトじゃなくてよ、ねぇ、ミュカンさん」
「えぇ、キョルンお姉様、私もそう思いますわ」
 そうでしたね、「ゴージャスサポートメンバー」でしたね、すいません。
 で、そのゴージャスサポートメンバーのキョルンさんとミュカンさん達は連日フル回転しています。
 僕や魔王ビナスさんも弁当の調理が終了次第手伝いに回ってやっとどうにかなっている状態です。
「このチョコレートは私の旦那様も美味しいと言ってくださっておりますわ」
 魔王ビナスさんはそう言って和やかに笑っていました。
 魔王ビナスさんの内縁の旦那さんって、確かどこかの世界の元勇者だったっけ。
 そんでもって、魔王ビナスさんみたいな内縁の奥さんがあと2人いるんだとか……
 まぁ、僕はスア一人で十分ですけど、世の中には色んな人がいるんだなぁ、とつくづく思ったわけです、はい。

◇◇

 そんなある日のことです。
 閉店したばかりの店内に、いきなり妙な人物が出現しました。
 
 半身が幼女
 半身が骸骨
 ボロボロの外套を身に纏い、手にはでっかい鎌……じゃなくて、なんかブレスレットみたいな物を持っていますね。
「あれ? 帰った来たのマルン?」
「あ、いえ、私はマルン姉さんの妹で、ジャクナと申します」
 なんかよく見たら外套の箸になんか二重線のような縁取りがされていますね、確かに。
「で、そのマルンの妹さんがなんでまたこの世界にこられたんです?」
「あ、はい。実はですね、姉が急に仕事を辞めたもんですから、妹の私が姉の仕事まで引き継ぐことになってしまいまして……」
 そう言いながら、ジャクナは一通の書状を僕に手渡してきました。
「これ、奥方様のステルアム様が申請されていましたドゴログマへの侵入許可書です。お手数ですが奥方様へお渡しください」
「あぁ、そう言えばスアがなんか申請したとか言ってましたね。了解です」
 僕はそう言いながらそれを受け取りました。
 さて、これでジャクナの仕事も無事終わり……かと思ったのですが、ジャクナはですね、なんか店内をキョロキョロ見回しています。
「……あの、ジャクナさん、どうかしました?」
「あ、いえ……その……」
 少しどもりながら、ジャクナは少し恥ずかしそうに僕へ視線を向けてきました。
「……すいません、姉が販売しているヤルメキススイーツというのはどれでしょうか?」
「え?」
「あ、いえ……実はですね、急に仕事を辞めた姉に、私、ちょっとカッとなってしまいまして……姉が販売しているスイーツを食べもしないで反対して大げんかをした後、家を飛び出しているんです……ですが、今や神界では姉の店で販売しているヤルメキススイーツの噂で持ちきりになっているのです……」
「あぁ、気にはなるけど、お姉さんと喧嘩したもんだから、買いに行きづらいんだね」
「お、お恥ずかしながら……」
 そう言うと、幼女側の顔の頬を赤らめながらうつむくジャクナ。
 そんなジャクナに、僕は店の奥からイルチーゴのショートケーキを持って来ました。
 これ、パラナミオが帰って来たら家族みんなで食べようと思って残しておいた内の僕の分です。
「生憎、この店でも売り切れててさ。これ、僕のおやつだけどこれでよければ食べてください。店で売ってる物とまったく一緒だからさ」
「え、でも……よろしいので?」
「あぁ、いいからいいから」
「で、では……」
 僕に即され、ジャクナはおずおずとしながらイルチーゴのショートケーキを手にとり、口に運んでいきました。

 パクリ……モグモグ……

「んん!?」
 一口食べた途端、ジャクナは目を見開きました。
 そのまま、手に持っていた残りのショートケーキをあっという間に食べ尽くしていくジャクナ。
 指についているクリームまでなめているジャクナに、僕は笑顔で言いました。
「まぁさ、急に辞めたのはマルンも悪かったと思うけど、これを食べたらお姉ちゃんの気持ちも少しはわかるんじゃないかな?」
「……」
「お姉ちゃんとお話してみなよ。そうすればこのショートケーキを神界で食べることが出来るようになるんだし、さ」
 僕の最後の一言に、ジャクナは明らかにぐらっとしていました。

 で

「店長さん、ありがとうございます。姉に謝罪し話をしてみようと思います」
 そう言いながら、ジャクナは自ら魔法陣を展開し神界へと帰って行きました。
 そんなジャクナを僕は笑顔で手を振りながら見送っていきました。
 
 まぁ、あれです。
 家族も兄弟も仲良しが一番ですってことで、ね。

◇◇

 その後、学校から帰って来たパラナミオのダイビングを笑顔でキャッチした僕は、2人仲良く巨木の家に帰っていきました。

 リビングでは、そろそろパラナミオが帰ってくるタイミングだったのを察知していたスアが、すでにお茶の準備をしてくれていました。
 で、リョータとアルトも椅子に座って笑顔で待っています。
 ムツキだけは熟睡中のためベッドの上ですね。

 僕は魔法袋からみんなの前にショートケーキを並べながらスアへ視線を向けました。
「あぁ、そうだスア、さっきマルンの代理のジャクナって人が来てこれをスアにって」
「……ん」
 スアは笑顔で僕から書状を受け取ると、その中身を確認していきます。
「なんか、ドゴログマへの侵入許可書とか言ってたけど」
「……うん、そう」
 そう言うと、スアは僕にその書状を見せてくれました。
 その書状には、『ドゴログマ侵入許可書』と書かれており、神界の地下世界ドゴログマへの侵入を許可する旨が記されていました。
 スアを含めた10人までの侵入を許可し、この書状が届いた日から一ヶ月以内の間であればいつでも2泊3日の滞在を許可するとの内容が記されています。
 このドゴログマって、なんでも「神界の神々すら放置している魔性の土地」とか言われているそうでして、僕も最初はちょっと不安を覚えたりもしていたんですけど、スアってば今までこのドゴログマに時々行っては薬の調合に使用する珍しい薬草なんかを採って帰っていたそうなんですよね……当然無許可で。
 神界が常に防御魔法を展開しているそうなんですけど、スアってばそれを難なく突破出来ちゃうっていうんですから、ホントなんだかなぁ、なわけです、はい。
 ただ、スアのドゴログマ密航が発覚して以降は、
「必ず正規の手続きを踏むこと」
 そう僕と約束したスアは、こうしてちゃんと手順を踏んだわけです。
 まぁ、相当イヤイヤそうだったんですけどね……スアってばマイペースなとこがありますから。
「スアの魔法があれば大丈夫だろうし、今度の休みにでも家族みんなで行ってみるかい?」
 僕がそう言うとスアは笑顔でコクンと頷きました。
 それを聞いたパラナミオが笑顔で立ち上がりました。
「なんか楽しそうです! パラナミオ、すごく楽しみです!」
 そう言いながら、パラナミオは自分のケーキを口に運んでいきました。

 その時です。

 パラナミオは、僕の前に紅茶のカップしかないのに気付いたようで
「パパのケーキはどうしたのですか?」
 食べかけたケーキを皿に戻しながら小首をかしげました。
 で、僕は、
「あぁ、ちょっと急なお客様があってさ。あ、パパの事は気にしなくていいからみんなお食べ」
 ボクは笑顔でそう言いました。
 するとパラナミオは、
「パパ! パラナミオの分を食べてください! パラナミオはいりません」
 そう言いながら僕に、皿に戻したばかりのケーキを皿ごと差し出してきました。
 すると、それに続いて
「ぱぁぱ、おーたのも」
「あ~」
 リョータとアルトまで皿を僕の方に押しています。
 で、そんな子供達の気持ちを無碍にするのもあれかな、と思いまして、僕はみんなのケーキを一口ずつ食べさせてもらいました。
 もちろん、みんなが大好きなイルチーゴの実は食べてませんよ。
「みんなありがとう、おかげで美味しいケーキを食べることが出来たよ」
 僕が笑顔でそう言うと、子供達も笑顔を返してくれました。
 そんな中、パラナミオってば、僕が一口食べたところを見つめながら
「えへへ……パパとかんせつきっすってやつです」
 そういいながら、その部分にかぶりついていきました。
 頬を赤くしながらモグモグしているパラナミオですけど、ほんとおませさんです、はい。

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