第七十五話
「違うって。まぁ聞いてくれ。…………日の丸テレビ局のプロデューサーになったって、前に話しただろ? 実は、2年前にクビになった」
母さんの息を呑む声が聞こえた。明らかに動揺している。
「え…………じゃああんた、今何の仕事をしてるのよ」
「今は………今は、株式会社オーリーズっていう制作会社で、プロデューサーの仕事をやってる」
「そうなの……。大変だったわねぇルーク。でもお仕事決まって働いてるのね」
「あぁ。……だがそれも辞めようと思ってる」
「なんで?」
「母さんたち、前に言ってただろ。本当は英語教室を継いでほしいって。
そっちに帰ったら俺にも英語教室を手伝わせてくれないか? 父さんにも話をしておきたいし」
「ルークっ……………………ちょっとビデオ通話に切り替えていいかしら?」
「あ、あぁ」
スマホを耳から外し、ビデオ通話に切り替えた。
スマホの画面には真剣な顔をした母さんと、同じソファに座り、隣で画面を覗き込む父さんの姿が映っている。
顔を見て話をするのは数年ぶりくらいだろうか。
リビングのぼんやりした照明の下にいるせいか目元が陰り、少し年老いた印象を受ける。
美しい髪の毛が自慢だった母さんの髪は白髪になり、目尻には深い皺がいくつも出来ていた。
父さんは相変わらずの厳格な顔つきだ。
横から母さんに眉間の皺を伸ばされ、鬱陶しそうに手で跳ねのけている。
(この感じ、懐かしいな)