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愛、それは……バレンタイン~ その3

 一応、お客様には、あのポスターの男役の正体は伏せています。
 ですので、週に一度はガタコンベの街に見回り兼酒の買い出しでやって来ているゴルアですけど、街の若い女性達に囲まれてキャアキャア言われて困るようなことは起きていません。
 で、以前からイエロをお姉様と呼んでべったりだった時期があったように、若干そっちの性癖を持ち合わせているような気がしないでもないゴルアはですね、なんか妙にそわそわし始めている感じです。
 気のせいじゃなく、街に来たらですね若い女性達をチラチラ横目で見ているんですよね……いやはや困ったもんです。
 しかもゴルアは、辺境駐屯地のやり手の若き女隊長として辺境駐屯地の女騎士達の間でも人気があるらしいと聞いていますし……はてさて、当日はどうなりますやら……
 とりあえず、コンビニおもてなしでは、バレンタインデー用のチョコレートを絶賛予約を受付中なわけです、はい。

◇◇

 そんな中……
 バレンタインデーに関しまして、我が家でもちょっとゴタゴタが起きていたわけです。
 ゴルアが大人気になるきっかけになったあの宣伝用のポスターですが、そのポスターって元々は僕とスアで撮る予定だったわけです。
 そこに、パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの四人がやる気満々で参戦表明をしてきたもんですから、揉めに揉めた結果、ゴルアとメルアを起用することになったわけです。
 家族の皆が僕にチョコを渡しているシチュエーションでポスターを作成することも考えはしたのですが、この世界最初のバレンタインデーですし、やはり女性から男性へ渡すイメージの方がいいよなぁ、と思ってこうした次第だったんです。
 そんなタクラ家ですが……最近、ちょっと様子がおかしいんですよね……一人だけ。

 様子がおかしいのは、パラナミオです。

 パラナミオはですね、バレンタインデーのポスターのことでもめた際にも一歩もひかなかったんです。
 ところが、その翌日。
「パラナミオはですね、パパにチョコを渡せるのなら一番でなくてもいいのです」
 って、言い出したんですよね。
 相変わらずリョータ・アルト・ムツキの三人は、僕にチョコを渡して一番になろうとしていた矢先だっただけに、僕だけじゃなくて、当事者のリョータ達までびっくりしていたんですよ。
 さすがに僕も心配になってパラナミオを家の裏に呼んで事情を聞いてみたんですよね。
 するとパラナミオは、ちょっと困った表情を浮かべながら僕の前で少しずつ話してくれました。
「あの……パラナミオは一番上のお姉ちゃんなんです……その一番上のお姉ちゃんが我が儘を言ってはいけないのではないかと思ったのです……パラナミオは、みんなのお姉ちゃんなんだから、みんなの応援をしてあげないといけないのではないかと思ったのです……
 パラナミオは、パパが大好きです。
 ママも大好きです。
 リョータも大好きです。
 アルトも大好きです。
 ムツキも大好きです。
 みんなとずっとずっと仲良しでいたいです……ずっとずっとみんなに大好きと思ってもらえるお姉ちゃんでいたいです……」
 そうやって言葉を続けていきながら、パラナミオは一生懸命涙をこらえていました。

 お姉ちゃんだから

 そのことを、いつも一番に考えているパラナミオです。
 だから、この間みんなと言い合いになったことを、後で自分の中で猛反省したんでしょう。
 だから、自分から一歩引いたんでしょう。

 僕は、パラナミオの頭を優しく撫でていきました。

「パラナミオ。別に無理する必要はないと思うぞ。お前は僕の大事な娘なんだしさ、泣きたくなるほど我慢する必要はないと思うぞ」
「……そうなのでしょうか?」
「あぁ、少なくともパパはそう思うぞ。
 リョータ・アルト・ムツキの三人はさ、成長が早すぎてしっかりとした自我をもうもってるけど、まだ子供なんだ。パラナミオと違ってまだまだ色んな事を未経験なんだからさ。今回のことも、パラナミオがこう思ったんだ、っていうのを皆に話をしてみたらどうだい?きっとみんなもわかってくれると思う。その上でづしたらいいか考えてくれるはずだし、そうさせてあげるべきだと思うよ」
「……あの、そんなことをしたら、パラナミオは嫌われちゃうんじゃないでしょうか?」
「ん? それはないと思うぞ」
「どうしてですか?」
「そりゃ、リョータもアルトもムツキも、パパのことを好きだと思ってくれてるけど、同じくらいパラナミオの事も好きなはずだ。間違いない」
「……そうでしょうか?」
「あぁ、パパが保証する。絶対だ」
 僕が、何度絶対だ、大丈夫だ……そう繰り返しても、パラナミオはなかなか納得しませんでした。

 僕が思うに、ですが……
 パラナミオは、きっと自分だ養女だというのを気にしているんだと思います。
 他の三人は、僕とスアの子供です。
 長女のパラナミオだけは、かつて山賊に捕まってこき使われていたところを助け、その後色々あって、僕とスアの養女に迎えた経緯があります。
 
 僕としては、パラナミオにそんな事を気にして欲しくないし、リョータ・アルト・ムツキの三人だって、そんな事を気にしていないと信じています。
 リョータ達は自分達の行動がパラナミオをここまで悩ませていることに気がついていないだけだと思っています。

 僕が粘り強く説得した結果、パラナミオはようやく
「わかりました。みんなとお話してきます」
「なんならパパも一緒に行こうか?」
「いえ、大丈夫です。パラナミオはお姉ちゃんですから」
 そう言いながら大きく頷きました。

 パラナミオそのままリョータ達がいるリビングに向かって、トボトボと歩いて行こうとしたのですが、そこで一度立ち止まると、僕の真正面に駆け寄ってきました。
「……あの、パパ……パラナミオ、ひとつだけ我が儘を言ってもいいでしょうか?」
「なんだい?」
「あの……勇気が出るように、ギュってしてもらえないでしょうか?……一ギュ、でいいんです」
 そう言いながら、パラナミオはうつむき、顔を赤くしながらモジモジしています。
「よしきた」
 僕は、そんなパラナミオをギュッと抱きしめました。
 パラナミオは、そんな僕を抱きしめ返してきます。
 しばらく僕に抱きしめられていたパラナミオは、
「ありがとうございます、パパ。パラナミオとっても元気でました!」
 笑顔でそう言うと、改めてリビングに向かっていきました。

 今度は、駆け足で

◇◇

 で? どうなったかって?
 そりゃ、もう、見ての通りです。
 
 パラナミオは台所に立って、チョコレートの試作をしています。
 講師はヤルメキスです。
 で、そこにはリョータ・アルト・ムツキの姿もあるのですが、3人はパラナミオに寄り添いながら、パラナミオと一緒にチョコレートの試作をしています。

 皆で話合いをした結果。
 リョータ・アルト・ムツキの三人はパラナミオに泣きながら謝ったそうです。
「パラナミオお姉ちゃんに、そんな思いをさせてしまってごめんなさい」って
 3人は、みんなすでに自我を持っているほどしっかりしていますので忘れがちですが、まだみんな1才にもなっていない子供なんです。
 言われないとわからないことなんて、まだまだいっぱいあるんです。
 そして、3人もパラナミオの言葉を聞いて改めて自覚したんでしょう。
 自分達が、僕の事を好きなのと同じくらいパラナミオお姉ちゃんのことも好きなんだということを。

 4人はですね、僕へのチョコレートを4人一緒に作ることにしたそうです。
 4人で1つのチョコレートケーキを作って、バレンタインデーにくれる計画にしているそうで、ヤルメキスからケーキの焼き方を学んでいるところなんですよ。
 
 ヤルメキスの説明に4人一緒に仲睦まじく聞き入っている様子を、僕は台所の入り口の端から見つめていたのですが、
「あ~!? パパダメです! 見ちゃダメです」
「ぱぁぱ! め!」
「あ~!」
「いくらパパでも、今はダメにゃしぃ!」
 あっさり見つかった僕は4人がかりでリビングに押し戻されていきました。

 その時、みんなは良い笑顔をしていました。
 その笑顔のおかげで、僕も安堵しきりだったわけです、はい。

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