バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ポスター効果と、ダークエルフ10人衆

 コンビニおもてなしで販売を始めた化粧品ですが、せっかくなのでポスターを作成しました。
「そうと決まれば、クローコはりきっちゃう!」
 と、クローコさんがメッチャ気合い入れて化粧したヤルメキスのビフォーとアフターの画像をですね上下分けにした写真を使用してですね、キャッチコピーは一言

『同一人物です』

 という文字を、真ん中に入れてみました。
 ……すると、なんということでしょう。

 ポスターの前に徐々に人が集まり始めました。
 ↓
 レジにいるヤルメキスに、皆が注目し始めました。
 ↓
 ヤルメキスが、皆の前でお化粧実演を行いました。
 ↓
 化粧品コーナーに人が殺到しました。

 恥ずかしがり屋のヤルメキスですので、お化粧の実演の際には真っ赤になってすっごく恥ずかしそうにしていたんですけど、クローコの作った化粧品の実演ってことで、すっごく頑張ってお化粧していったんですよ。
 で、例によって緊張し過ぎてすっごくたどたどしい手つきだったんですけど、その素人っぽさを前にした周囲の皆さんがですね
「頑張って!」
「落ちついて!」
 思わず手に汗を握りながら応援していくほどでして……
 で、そんな感じで頑張って頑張ってお化粧していくヤルメキスがですね、徐々に綺麗になっていくもんですから、その行程を見つめていたお客さんがですね、みんな目を丸くしていったわけですよ。
 そう言うわけで、実演が終わったとたんに、化粧品コーナーにお客さんが殺到したのも当然なわけです、はい。
 まぁ、でも、これ、当然といえば当然だと、僕は思うんですよね。
 と、いうのもですね、ヤルメキスは恥ずかしがり屋なもんですからいつもうつむき加減にしているせいで目立ちませんけど、かなり可愛い顔をしているんですよ。だからきちんとお化粧すれば綺麗になるのは当然です。
 そういう意味では、彼女のハートを射止めたパラランサくんはかなりお目が高いと思っています。

 そんなわけで、ポスター効果のおかげで本店での化粧品の売り上げが一気に増加したもんですから、今までのように4号店に優先的に化粧品を回すわけにいかなくなってきたわけです。
 で、クローコさんと対策を相談したのですが、
「店長ちゃん、これ、もう作業場拡大しちゃうしかないっぽい?」
「そうだなぁ……それしかないよなぁ」
 って、話になりました。
 さて、化粧品工場を拡張するといいましても、スアの巨木の家の周囲には、もうそんなスペースは残っていません。
 となると、どこか他の場所に巨木の実の作業場を複数作成する必要があるわけです。
「スア、どっかいい場所ないかな?」
「……そうね、3号店の裏のプラントの木なら、1本につき実1つくらいなら出来るかも」
 スアは、そう言うと早速転移ドアをくぐって3号店のある魔法使い集落へ移動していきました。
 3号店は、魔女魔法出版の本を買いに来たり立ち読みに来ている魔法使い達で相変わらず賑わっていました。
 で、そんな魔法使い達はですね、スアに気がつくと、
「……あれ、スア様じゃあ」
「ホント、スア様よ」
「伝説の魔法使いの……」
「やだ、素敵……」
「サインもらえないかしら……」
 なんか、そんな事を口々に言い合いながら、スアの後方を遠巻きにしてついて来ていました。
 一方のスアですが、そんな魔法使いのことなどお構いなしといった様子で、テクテク店の裏へ歩いて行きました。
 で、そこに林立しているプラントの木を見回すと、
「……うん、いけそう、ね」
 そう言いながら詠唱していきました。
 すると、複数のプラントの木にですねみるみるうちに実がなっていきまして、それが一箇所に集まっていきました。
 この実1つ1つの中が、スアの巨木の家に併設してあります化粧品精製室と同じ作りになっています。
 その光景を、後方から見つめていた魔法使い達はですね、
「……あんなに短い詠唱で、あんなにたくさんの実の部屋を作り出すなんて」
「ホント、さすがスア様ね」
「伝説の魔法使い、さすが過ぎるわ……」
「やだ、素敵……」
「サインもらえないかしら……」
 そんな事を口々に言い合っていました。

 さて、これで作業場の増築は完了しました。
 今度は、作業員をどうするかです。
「店長ちゃん、それはクローコにバチッとおまかせ!」
 クローコさんはそう言うと、舌出し横ピースをしながら僕に向かってドヤ顔をしました。

 で

 そう言ったクローコさんが集めてきたのは、いつも4号店に化粧品を買いに来ているダークエルフの皆さんの中の10人でした。
「この子達、クローコとやばいくらい仲良しで、化粧ぱないの!」
 クローコさんがそう太鼓判を押す皆さんですし、まぁ問題ないだろうということで、バイト扱いで化粧品作成業務についてもらうことにしました。
 それをお知らせすると、ダークエルフの皆さんは跳びはねながら喜んでいました。
 クローコさんによると、
「この子達ね、真面目で一生懸命お仕事する子達なのにね、見た目でどこも雇ってくれなかった、みたいな?」
 だそうなんですよ。
「でもね、店長ちゃんはさ、クローコのことを普通に雇って、普通にお仕事任せてくれたじゃん? だからさ、この子達のこともきっと雇ってくれると信じてた、みたいな?」
 クローコさんは、そう言いながら、なんか感涙を流しています。
 その周囲では、今回雇ったダークエルフの皆さん、総勢10名が同様に喜んでいたのですが、
「店長ちゃん、やっぱ好き! マジ好き!」
「「「「マジ私達も~」」」
 そう言いながら、みんな一斉に僕に向かってブチュ~っとキスをしようと突っ込んで……

 がささささ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……きたんですけど、そこに転移魔法で出現したスアがですね、転移魔法でみんなを一斉にプラントの木のてっぺんに放り投げていったわけでして……

 と、まぁ、そんなわけで、どうにか化粧品の増産体制も整っていったわけです、はい。

◇◇

 しかし、ポスター効果ってやっぱすごいですね。
 もっと前から張っていますセツブンのポスターの影響で、恵方巻や厄災魔獣のおめんと豆のセットの予約も好調に推移していますし。
 元いた僕の世界では、どこか儀礼的にポスターを掲示していただけだったのが否定出来ないのですが、ここまで効果があるのを体感出来ると、ホントやった甲斐があったなぁ、と実感することしきりなんですよね。

 店の壁に貼ってあるポスターを見つめながらそんな事を考えていると、組合の蟻人エレエが尋ねてきました。
「店長さんは、ホント色んな事を思いつかれますねぇ」
 エレエはそう言いながら感心しきりの様子なんですけど、
「いえいえ、僕が元いた世界ではみんなやっていたことを、思い出しながらやってるだけですよ」
 そう言って苦笑する僕だったわけです、はい。
 で、エレエは改めて僕に向き直ると、深々と頭を下げました。
「店長さんが頑張ってくださるおかげで、このガタコンベの商店街も活気を取り戻したのです。店長さんにはいくらお礼をいっても足りないです」
 エレエは、そう言いながら何度も何度も頭を下げていきました。
「いやいや、そんなお礼を言われることじゃないですって」
「と、言うわけで、次の組合長よろしくお願いしますです」
「いや、だから……って、ちょっとまて、どさくさ紛れに何言ってんの!?」
「ダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ! 僕、店の経営でいっぱいいっぱいだし、一応このガタコンベの臨時領主もやってるんだしさ……これ以上肩書き増やさないでよ、マジで」
「そうですか……では、臨時組合長ってことでひとつ……」
「なんでそうなるの!?」
 で、この後、なかなか引き下がらないエレエとの間で、丁々発止のやりとりが繰り広げられたわけです。

 最終的にお断りしましたけど、エレエってば
「私、諦めません。アイルビーバックです」
 と、どこかのT-800みたいな台詞を言いながら帰っていったわけです、はい。

 エレエには悪いけど、僕的には家族とのんびり出来る時間がこれ以上削られるのは、ホント勘弁してくださいなわけです、はい。

しおり