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双子とコンビニおもてなし その3

 昨日のパラナミオの事は、スアにも伝えておきました。
 夜中、スアの研究室にある簡易ベッドの上でそれを聞いたスアはですね
「……言われてみれば、ちょっとパラナミオの事、放り気味だった、かも」
 そう言って反省しきりの様子でした。
 伝説の魔法使いとはいえ、子育ては勝手が違うようです。
 僕は、しょんぼりしてしまったスアの肩を抱き寄せると
「子供達みんなの面倒を見ていけるように、改めて気合いを入れないとね。僕も頑張るよ」
 そう言いました。
 するとスアはですね、
「……うん、私も頑張る、よ」
 そう言うと、僕に抱きつき、僕の顔を見上げてきました。
「……まだまだ、いっぱい子供欲しい、し」
 スアは、そう言うとゆっくり目を閉じました。
 で、僕は、そんなスアに口づけると……はい、ここからはいつものように黙秘させていただきますね。

◇◇

 翌朝、いつものように夜明け前に目を覚ました僕。
 スアと別室でいたした後、子供達が眠っている寝室のベッドに戻って眠っていたんですけど、僕が目を覚ますと僕の体にパラナミオががっちりと抱きついて寝ていました。
 なんといいますか、すっかり甘えん坊になった感じのパラナミオですけど、こうして甘えてもらえるのも父親冥利に尽きますので無問題なわけです、はい。

 で、パラナミオを起こさないように起きた僕は、いつものようにコンビニおもてなし本店の厨房へと移動していきました。
 すると
「店長様、おはようございます」
 と、いつものように魔王ビナスさんがすでに出勤していてですね、調理の下準備を始めていたのですが……なんか、魔王ビナスさんってば、妙な物を被っています。
 キョルンさんとミュカンさんが、化粧を落とした後の素顔を隠すために被っているマスクをですね、すっぽり被っているんですよ。
 白地で顔の部分に蚊取り線香みたいなマークの入ったマスクを被っている魔王ビナスさん、
「キョルンさんとミュカンさんが被っていたマスクがとても楽しそうでしたので、予備のマスクをお借りしてみましたの」
 魔王ビナスさんは、そう言って笑いました。
 マスクのせいで表情はまったく見えませんけどね。
 で、すでに出勤しているキョルンさんとミュカンさんは、同じくすでに出勤しているヤルメキスと一緒にスイーツ作りを開始していました。
 昨日と同じく、マスクを被って体にびちっとフィットしている衣装姿の2人なんですけど、そんな2人を前にしているヤルメキス、
「で、で、で、ですね、ここで、この粉をかき混ぜるでごじゃります」
 と、落ちついた様子で指導しているんですよ。
 なんといいますか、出会ったばかりの頃のヤルメキスでしたら、こんな姿の2人を前にしたら
「よ、よ、よ、よくわかりませんけど、申し訳ありませんでごじゃりまするぅ」
 とかいって、いきなり土下座してたと思うんですよね。
 頭に小さなコック帽を乗っけてですね、年上のおばさま2人を相手にスイーツ作りの手ほどきをしているヤルメキスは、どこか頼もしく見え……
「ほ、ほ、ほ、ほわちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃあああああああああああああああ、て、て、て、鉄板、あ、熱かったでおじゃりまするうううううううううううううううううううう」
 せっかく脳内で褒めてたんですけど、右手を抱えて右往左往し始めたヤルメキスを見つめながら。僕は苦笑しながらも、どこか安堵してたわけです、はい。
 やっぱ、ヤルメキスはこうじゃないと、ねぇ。
「そ、そ、そ、そんなドジっ娘みたいに言わないでほしいでごじゃりまするぅぅぅ」
 ヤルメキスってば、必死に否定してますけど……こればっかりはねぇ……

◇◇

 さて、そんなわけで新しい店員を加えたコンビニおもてなしは、今日も元気に営業しています。
 キョルンさんとミュカンさんは、魔王ビナスさんと同じお昼までのバイト扱いなんですけど、
「私たち、お金には困っていませんの。ねぇ、ミュカンさん」
「えぇ、その通りですわキョルンお姉様」
 そんな事を言われたわけですよ。
「え? で、でもお給料は……」
「ですから、お給料はお金ではないもので結構ですわ。ねぇ、ミュカンさん」
「具体的に言いますと、ヤルメキスさんのスウィーツでお願いしたいということですわ。ねぇ、キョルンお姉様」
 と、お2人は申し出てこられたわけです。
 というわけで、ヤルメキスにお願いしてですね、店で販売するスイーツを作成し終わった後に2人に希望を聞いてですね、所望されたスイーツを作ってもらうことにしました。
「ヤルちゃまのスゥイーツは、お金以上の価値がありますもの。ねぇ、ミュカンさん」
「はい、その通りですわ。キョルンお姉様」
 今日の勤務を終えた2人は、ヤルメキスから受け取ったスイーツの袋を手にして、本当に嬉しそうに微笑みながら帰って行きました。
 その後ろ姿もですね、どこか妖艶で色気たっぷりなんですよ。

 この世界に転移してくる前の僕だったら、思わずぐらっときたかも知れません。
 なんせ、かつてはおっぱい星人でお尻魔人でしたからね。
 でも、今の僕は、スアのストーンボディをこよなく愛しておりますので、まったく触手が動くことはありません。
「まったく、ダーリンさえよければ、このボディを好きにしてくれていいのに、手も出してくれないキ」
 そんな僕を、細身ながらもいい胸をしているセーテンが不満そうな表情で見つめているわけですけど、そんなセーテンが僕ににじり寄ってこようとすると、即座にスアが転移してきてしまいますので、セーテンも警戒しきりなわけです、はい……なんせ、セーテンは常にガチですからねぇ……

 そんなセーテンですが、イエロとのコンビで毎日狩りに行ってます。
 ガタコンベの周囲に出没している害獣たちを狩ってくれているんですけど、ガタコンベの周辺に多く出没する害獣ってタテガミライオンって言われる奴なんですけどね、こいつ肉がすっごく美味しいんです。
 ただ、このタテガミライオンって、普通なら複数の冒険者パーティーが共同して、ようやく1頭倒せるくらい厄介な相手なんですけど、イエロとセーテンは2人で難なくこいつらを倒しまくっているんですよね。
 おかげで、ガタコンベの周辺のタテガミライオンが減って、旅人や街の人が大喜びしてますし、コンビニおもてなしはその肉を調理に使えるし、で、イエロとセーテンは狩った魔獣の耳を商店街組合に持ち込んでですね、害獣討伐の報酬を受け取ってそのお金で毎晩おもてなし酒場で酒を飲めているわけです。
 まさに、ウインウインウインな関係が出来上がっている感じですね。

 で、そんなイエロとセーテンが魔法袋に入れて持ち帰って来たタテガミライオンの肉を、今日も地下貯蔵庫の中に保存していると、
「パパ、ただいま!」
 学校から帰ってきたパラナミオが、元気に僕に抱きついてきました。
「お帰りパラナミオ。今日も学校お疲れ様」
 僕はパラナミオを抱き寄せると、その頭を優しく撫でてやりました。
 すると、そんなパラナミオの後方に、リョータがテクテクと歩いてきましてパラナミオに抱きついていきました。
「ねぇね、おかえぃ……」
 リョータは、あえて思念波ではなく、自分の口でそう言いました。
 するとパラナミオは、
「はい、パラナミオねぇね、ただいまですよ、リョータ」
 そう言って、リョータを優しく抱きしめていきました。
 その顔は、満面の笑顔です。
 で、しばらく抱き合っていた2人ですけど、
「リョータ、今度はアルトとムツキにただいまを言いに行きますよ」
「あい」
 そう言い合うと、2人はそのまま地下室を出て、巨木の家に向かって行きました。
 昨日、ちょっとセンチメンタルになってたパラナミオですけど、どうやらもう大丈夫みたいです。

 僕がそんなことを思っていると、横にスアがそっと寄り添って来ました。
「……パラナミオ、元気になった、ね」
 スアは嬉しそうにそう言いながら、僕の腕に抱きついて来ました。

 アルトとムツキ……双子の赤ちゃんが生まれた事はとても嬉しいですけど、同じくらい、長女のパラナミオと、長男のリョータのことも大事に思っている僕達です。

「今夜も、お風呂に一緒に入ってご機嫌とっておくよ」
 僕がそう言って笑うと、スアは
「……口はほどほどに、ね」
 そう言ってきました。
 でもまぁ、相手が娘ですし、スアも本気で怒っているわけではありません。

「あ、ダーリン発見! 構ってぇキ!」
 そんな僕の後ろ姿を見つけたらしいセーテンがですね、いきなり僕に向かって飛びかかってきました。
 スアが僕に寄り添っているもんですから、その姿が見えなかったみたいです。
 加えて地下室でしたので、スアもすぐには気がつかないかも……そう思ったのかもしれません。
 ジャンプすると同時に、空中で服を脱ぎ捨てながら、まるで僕に向かって飛び込みしてくるような姿勢で突っ込んでくるセーテンなんですけど……スアの死角にスアがいるわけですよ。
 スアは、いつものようにセーテンに向かって右手をかざしました。
 同時に、セーテンの体は僕の目前で消え去ってですね、同時に、外の川に何かが落下したような音が響きました。
「……まったく、あの猿だけ、は……」
 で、まぁ、相手がセーテンなので、スアは本気で怒っているわけでして……

 とにかく、下着姿で川に突っ込まれたセーテンが風邪をひかないように祈るしかない僕だったわけです、はい。

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