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節分と厄災の…… その4

 と、いうわけで……
 ティーケー海岸に押し寄せてきた厄災の蟹と厄災の龍を無事一網打尽にすることが出来ました。
 沖から戻ってきて、人型に戻って服を着たファラさんは、一網打尽にされている厄災魔獣達を見つめながら、
「数百年前に厄災の蟹が出現したときは、当時若かった私じゃあ手も足も出なかったんです……あの時は伝説の勇者とともに戦った魔法使いがやってきてくれたおかげでどうにかなったんですけど、……」
 腕組みしながらそう言いました。
 すると、そんなファラの横でスア、
「……だから、勇者マックスとは一緒には戦ってない……ってば」
 ぼそっとそう言いうと、網の方へと歩いて行きました。
「店長殿……い、今、奥方様はなんともうされました?……気のせいか、一緒に戦ってない……とか申されたような……」
「あぁ、うん、気のせい!……気のせいだと思うよ、うん」
 僕は、ファラさんに大慌てでそう釈明しました。

 今回の件なんですけど……
 当然スアの魔法で一網打尽にしたんですから、そうみんなに公表しようとしたんですよ。
 そしたらスアがですね
「……目立つのは、嫌……旦那様がやったことに、して」
 そう言って聞かなかったんですよね……困ったことに。

 そのせいで

 イエロは
「やはり主殿はすごいでゴザル!」
 って感動しながら僕の肩をバンバン叩いてくるし、
 ゴルア達辺境駐屯地部隊の皆さんは
「さすがは暗黒大魔道士討伐の功労者ですね」
 って言いながら、なんか英雄でも見るかのような眼差しを僕に向けてくるし、
 魔法使い集落の魔法使い有志の皆さんにいたっては
「「「弟子にしてください!」」」
 って、なんかもう皆して目を輝かせながら殺到してくる始末です。
 で、その合間にセーテンが
「ダ~リ~ン!ウチがしっぽり慰労して上げるキ!」
 って言うやいなやジャンプと同時に服を脱ぎ、パンツ一枚になって僕に飛びかかってきたんですけど、スアの魔法で海のかなり沖の方に一瞬にして放り投げられちゃったんですけどね。

 で、問題なのはこの捕縛した厄災魔獣達をどうするか、なんですよね。

 まず、厄災の龍です。
 厄災の龍と、その使役魔獣達の鱗はそのまま武具の素材として使用出来そうでした。
 それを嗅ぎつけたルアがですね
「な、なぁタクラ、この龍の鱗、ウチの店で扱わせてくれるんだろ? な? な?」
 と、今にも涎を垂らしそうな顔をしながら僕に迫ってきました。
 で、スアに相談したところ、スアも研究素材として使用したいとのことだったので、鱗は2対1でわけることになりました。
 スアが2・ルアが1ですが、鱗を剥がす作業を全てスアがするから、との条件付きです。
 まぁ、スアってば右手をくるっと回しただけで、一瞬にして鱗を全部剥いじゃったんですけどね。
 で、龍達の肉の方なんですけど……こっちはちょっとどうにもなりそうにありません。
 死んだ龍の肉はですね、なんかすっごく硬くなってたんですよ。
 レア素材として焼き肉にして売れるかな、とか、思っていたんですけど、どうも無理っぽいです。
 ですが、スアによりますと、
「……この肉をすり潰すと、すごい粉薬が出来るの、よ」
 だそうでして、スアは嬉々としながら龍の死体を魔法袋につめていました。

 で、残ったのは厄災の蟹です。
 まず、その殻。
 コンビニおもてなし防衛軍のみんなが戦ってる時はあんなに硬かった殻なんですが、蟹達が死んでしまうとその殻は嘘みたいに柔らかくなってしまいました。
「ありゃあ……こっちはダメみたいだなぁ」
 これには、この殻を使って武具を作れるんじゃないかと期待していたルアもがっかりな様子です。
 で、蟹の身の方ですが……
「お、これは……」
 見た感じ、僕が元いた世界の蟹と同じ感じです。
 殻が柔らかくなっているので割きやすくなっているもんですから、試しに使役魔獣の手の爪を割ってみましたら肉厚で良い感じに身が詰まっています。
 一応、スアにチェックしてもらいましたけど、
「……うん、毒はない……食用可、よ」
 と、お墨付きをもらえました。
 と、いうわけで、僕はスアの転移ドアをくぐって一度コンビニおもてなし本店に戻るとカセットコンロと土鍋、それにポン酢を持って来ました。
 土鍋にはとりあえず水を張っています。
 で、それをカセットコンロにかけてですね、くつくつ煮立つまで待ちます。
 その間に厄災の蟹の使役魔獣達の足を何本かもいでいってですね、殻を割って身をむき出しにしていきます。
 で、僕は、それをクツクツ煮立ったお湯の中でしゃ~ぶしゃ~ぶと茹でていってですね、身が白くなったところで、器に入れたポン酢に付けて、そして口の中へ……
「うん、こりゃまさに蟹だ、うん」
 いい味です。
 まさかこんなところで蟹しゃぶが食べられるなんて夢にも思っていませんでした。
 で、僕が美味しそうに蟹の足を食べているもんですから、パラナミオがツツツと寄って来てですね、
「パパ、それ美味しそうです……」
 そう言いました。
「よし、じゃあパパと同じようにやってごらん」
 そう言って、僕が身を向いた蟹の足を一本分けて上げました。
 で、パラナミオは僕がやるのを見つめながら、
「はい、お湯につけてしゃ~ぶしゃ~ぶ……」
「しゃ~ぶしゃ~ぶ……」
 と、同じようにお湯の中に蟹の身をつけてグルグルまわしていきます。
 で、身が白くなったところでお湯からあげて、僕が持っているポン酢にちょちょっと付けまして、で、ぱくんと一口で……
「んん!? これ、美味しい! パパ!これ美味しいです!」
 パラナミオってば、目を見開きながら大喜びです。
 すかさず、僕の後方に山積みになっている厄災の蟹の使役魔獣のところへ駆け寄ると、その足を何本ももいで、それを手で割っています。

 で、そんなパラナミオの様子を見た、コンビニおもてなし防衛軍のみなさん。
 最初は、
「……や、厄災の蟹なんて食べられるの?」
 と、みんなして戦々恐々としていたんですけど、まず僕が食べて美味しそうにしてですね、次いでパラナミオが美味しそうに食べた様子を見たもんですから、
「て、店長! 私にもぜひ食べさせてもらいたい!」
「あら、私も食べたいですわ」
「主殿!せ、拙者にもぜひ!」
 そんなゴルア・魔王ビナスさん・イエロを先頭にして、みんなが一斉に厄災の蟹の使役魔獣に群がっていきました。
 で、カセットコンロの鍋の周辺にはすごい人だかりが出来てですね、みんな一心不乱に蟹の足の殻を剥いては、それをしゃぶしゃぶして、で、ポン酢を付けて口に運んでいます。
「んん!確かにうまい!」
「あらあら、上品なお味ですねぇ」
「こ、これは酒が欲しくなりますぞ!」
 そんなゴルア・魔王ビナスさん・イエロの喜びの声を筆頭に、みんなも歓喜の声をあげていきました。

 そんな皆の横でですね、僕はもう1つ持って来ていたカセットコンロに新しい土鍋を乗せて調理を始めました。
 カツオ節ならぬカルツーオ節で出汁をとって、プラントの木で増産している醤油を少々加えて味を調えていきます。
 で、本店から持って来た白菜モドキをざく切りにしたものを入れて、その上に蟹の身をどさっと加えてから、一度蓋をして一煮立ちさせます。
 すると、鍋から良い匂いが立ち上っていきました。
 で、それに釣られるようにして、パラナミオや、海から戻ってきたセーテンなんかが鍋に寄って来ます。
 で、そんな皆の前で蓋を開けると、蟹が良い感じで煮えています。
 蟹すき鍋の完成です、はい。
「うわぁ、パパ、これも食べていいんですか?」
「あぁ、熱いから気をつけるんだよ」
 パラナミオは、僕の忠告を聞いてですね、上手に使えるようになっている箸を使って蟹の身をとってポン酢につけています。
 その横で、セーテンは
「こんなの大したことないキ」
 って言いながら鍋にそのまま手を入れたんですが
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃああああああああああっきぃ!?」
 やっぱり熱かったらしく、悲鳴を上げながら海に向かって走って行きました。
 海の水で冷やそうとしてるんでしょうね。

 で、こっちの蟹すき鍋にもすぐに人だかりが出来ました。
 気がつくと、避難していたティーケー海岸の皆さんも戻ってきてですね、この輪に加わっているんですけど、ちょっと人が多すぎて土鍋が2つじゃ、全然足りません。
「こりゃ困ったな、すぐに土鍋やカセットコンロを取りにいかないと」
 僕が慌てて立ち上がると、
「お兄様、このシャルンエッセンスが助っ人に参りましたわ!」
 そう叫びながらシャルンエッセンスが駆け寄ってきました。
 その後方には、シャルンエッセンスのメイドのシルメール達が続いているんですけど、みんな手にカセットコンロと土鍋を持っているではありませんか。
 シャルンエッセンス達が、一度やって来た際にですね、僕が調理しているのを見て
「これはきっと、もっと土鍋がいるようになりますわよ。カセットコンロもですわ」
 そう予測し、みんなで土鍋とカセットコンロを取りに戻って来てくれたようです。

 しかし、シャルンエッセンスってば、僕の事を違和感なくお兄様って呼ぶようになっちゃったなぁ……
 まぁ、それだけ慕ってくれてるってことなんだし、ま、いいけど。

 で、そんなシャルンエッセンス達が持って来てくれた土鍋を使って僕はどんどん蟹すき鍋を作っていきました。
 そのうちのいくつかは、かにしゃぶ用にお湯だけを煮立たせています。
 そんな鍋の周囲を、コンビニおもてなし防衛軍やティーケー海岸の皆さんが笑顔で囲んでいます。
「一時はどうなるかと思ったけど、被害はなかったし」
「何より、こんなに美味しい物を食べられるなんて」
 そんな声とともに、みんなの笑い声が海岸に響いています。

 と、まぁ、そんな感じで、厄災魔獣騒動は大団円で終わりを告げました。

 僕は、パラナミオに蟹を食べさせてもらっているリョータの所に歩みよると、
「リョータ、お前がママを呼んでくれたおかげだよ。よくやってくれた」
 そう言って、リョータの頭を撫でてやりました。
 するとリョータは嬉しそうにニッコリ微笑みました。
『パパのお役にたてて、ボクもすっごくうれしいです』
 そんなリョータの思念波がボクの脳内に流れ込んできました。
 当のリョータは、まだ声帯とかが発達してないもんですから
「あ~」
 としか声を出せてないんですけどね。

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