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オネの弁当 その2

 オネの弁当の準備を進めていると、それを見学に来たルアが目を丸くしました。
「ちょ!? た、タクラ!? こ、この赤いのって、まさかエビランか!?」
「ん? あぁ、そうだよ。ティーケー海岸でおもてなし商会のファラさんに狩ってもらったんだ」
 僕がそう答えると、ルアはすごい勢いで僕に迫ってきました。
 で、僕の両肩をむんずと掴むと、
「殻! 殻はある!?」
「殻?……あぁ、一応回収してるけど……」
「くれ! 言い値で買うから!」
「え?」
 と、まぁ、すごい剣幕だったわけです。
 
 で、まぁ、ルアが落ちついたところで事情を聞いてみますと、
「エビランの殻っていったらさ、武具屋が一生に一度は素材にして武器を作ってみたい素材のトップクラスにランクされる代物なんだよ。何しろ海の生き物じゃないか? だから滅多にお目にかかれないんだよ」
 とのことでして……
 素材のレア度で言えば、龍の鱗の方が上なんだそうです。
 性能も圧倒的に龍の鱗の方が上回っているそうなんですけど……
「こいつの価値は、この色にあるんだよ」
 僕から受け取ったエビランの殻の一部を受け取ったルアは、そう言いながらでっかい火ばさみでその殻を掴み、火の中に突っ込んでいきます。
 十分熱した後、巨大なハンマーでそれを打ちまくっていくルア。
 その行程を何度か繰り返した後、盾の原型が出来上がったのですが……

 真っ赤です。
 赤く輝いています。
 思わず見惚れてしまう輝きです。

 僕が見惚れている様を満足そうに見つめているルア。
「昔、勇者と一緒に魔国軍と戦った王国軍の騎士団の一群がさ、このエビランの殻で作った甲冑や兜、盾で武装してすごい戦果をあげたって言われてるんだけど、その部隊は『アカソナエ』って言われて畏敬の念を持って語られ続けてるんだ」
「はぁ、そうなんだ……」
「だからさ、武具作ってる奴なら誰もが一度はこのエビランの殻を使って、伝説になってる騎士団が使っていた武具を作ってみたい……そう思ってる幻の素材なんだよ」
 ルアは、そう言いながら盾の仕上げ作業を続けています。
 で、ルアが言うように『武具を作ってる奴なら誰もが……』ってのがですね、僕も実感出来ているわけです。

 と、いうのも

 盾の仕上げをしているルアの後方で、ルアの一番弟子のパラランサを始め、工房のみんながルアの後ろに並んでいてですね
「し、師匠……つ、次は是非俺に武具を打たせてほしいっす……」
「そ、その次は俺に……」
「次はアタイが……」
 みるからにウズウズした様子で、待ち構えているわけです、はい。

 ちなみに、武具に使用したのは大人エビランの殻なんですけど、子供エビランの殻も甲冑の細かい細工に適しているそうです、はい。

 で、ルアと相談した結果……
 ルアがエビランの殻を使って作成したアカソナエ武具をコンビニおもてなしで仕入れて販売させてもらうってことにして、その際に素材の代金を仕入値から引かせてもらうことで合意しました。
「いやタクラってば、ホントすごいな。まさかこんな幻級の素材まで手に入れてくるなんてさ」
 ルアはそう言って嬉しそうに笑っていました。
 工房の皆も、嬉々として大金槌を振るいまくっています。

 1匹50mありますんでね、大人のエビラン。
 殻はまだまだあるわけです。
 ルア達には思う存分腕を振るってもらおうと思っています。

◇◇

 さてさて、そんな予想外デースな出来事もありながらも、オネの弁当の試作品も無事完成しています。

 準備したのは2種類。
 1つは、通常のタテガミライオンの焼き肉弁当を増量したもの。
 もう1つは、『オネの弁当』として、あれこれ料理を詰め込んだ弁当。
 オネの弁当には、

 エビランの子供の塩焼き
 伊達巻き
 紅白かまぼこ
 タテガミライオンの焼き肉とウインナー
 ウルムナギの照り焼き
 バックリンきんとん

 こういった物を詰め込んでみました。

 で、宣伝用ポスターには、今回はルアとオデン六世さん、それにビニーちゃんの3人に登場してもらいました。
「な、なんか照れるな」
 撮影時に、真っ赤になって照れまくっていたルアですが、撮影本番ではノリノリで
「こんなポーズはどうだ? この角度の方がよくないか?」
 と、率先してあれこれやってくれました。
 釣られて、オデン六世さんもノリノリだったおかげで、撮影は無事終了。

 ……まぁ、撮影と言っても、僕がデジカメで撮影しただけなんですけどね。

 で、例によってその画像をパソコンで加工。
 出来上がった原稿を、
「はいはい、お呼びですね?お呼びですよね?」
 と言いながら転移魔法で現れた魔女魔法出版のダンダリンダに印刷を依頼しました。

 で、無事『オネの弁当はコンビニおもてなしで』ってキャッチフレーズの入った予約受付ポスターが完成しました。
 早速このポスターをコンビニおもてなし各店と関連店舗に掲示し、予約受付を開始しました。

 で、ルアが写っていますので、こっそりオトの街の、ルアの親友ラテスさんと、ルアのお母さんネリメリアさんにも差し上げたんですけど、
 ネリメリアさん、
「店長さん、悪いけどあと10枚ほどくれない?あぁ、弁当もしっかり買わせてもらうからさ」
 そう言ってこられました。
 なんかね、そのポスターを眺めながらすごくいい笑顔をされていたんですよね。
 で、弁当の注文は1つでいいですから、ってことにしてポスターを10枚追加で差し上げました。

 で、ネリメリアさんは自分が経営している雑貨屋に、ラテスさんは自分の食堂にそのポスターを貼ったらしいのですが
「おい、この弁当って注文出来るのかい?」
「予約したいんだけど」
 って声があがったらしく、思わぬところからも予約が入ってきたわけです、はい。

 ちなみに、このオネの弁当ですが、予約数は今のところボチボチといった感じです。
 今まで、オネの弁当と言えば、食べ慣れた料理をたくさん準備しておくのが普通だったらしいので、豪華なお弁当いかがですか?ってのが、まだ受け入れられていないというか、みんな『どうしようかなぁ』って感じですね。

 まぁ、それなりに注文も入ってきていますので、このオネの弁当に関してはのんびりやっていこうかなと思っています。

◇◇

 その日の夜……
 寝る前に今日の各店舗の売り上げを集計していてフと思ったのですが……
「そういえば、昔、勇者と一緒に戦った王国軍の騎士団の一群がエビランの殻を使った武具で武装してたっていうけど……そんなに大量の武具をどうやって作ったんだろう」
 って思った訳です。
 というのも、このエビラン殻ってとにかく硬いんですよ。
 ルアが工房で使用している最新鋭の作業道具を使ってどうにか加工出来ている状態なんですけど、そんな昔の工具で、そんなに大量のエビランの武具をどうやって作ったんだろう……
「……魔法でちょちょっとやっただけ、よ」
 いつの間にか僕の横に寄り添ってきていたスアがそう言いました。

 あぁ、なるほど。
 魔法で加工か……強力な魔法を使用出来る魔法使いがいればそれも可能だよね。

 そう考えた時、僕はあることに気がつきました。
「……スア、今さ、『魔法でちょちょっとやった』って言ったよね?……君がやったの?」
 勇者が魔国軍と戦ったのって、確か数百年昔の話です。
 で、僕がそう聞くとスア、
「……そ、そう聞いたのよ、うん……聞いた、の」
 そう言いながら、忙しく視線をウロウロさせ始めました。

 はい、嘘がつけないスアです。

 まぁ、伝説級の魔法使いですしね、どう見ても幼女ですけど二百才超えてるわけですし、今更驚きません。
 で、スアですが、
「……それよりも、ね」
 そう言いながら、僕の袖をひっぱりました。
 その頬が少し赤く染まっています。

 あぁ、おねだりですね。

 と、いうわけで、ここからはいつものように黙秘権行使ってことで、よろしくどーぞ。

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