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ドンタコスゥコ商会がやってきたYAーYAーYA! その2

 翌朝、いつものように夜明けとともに厨房へ顔を出すと、
「おはようございます、店長様」
 と、魔王ビナスさん。
「……おはです」
 と、テンテンコウ♂。
「おっはようございますぅ、さぁ今日も頑張りましょうねぇ」
 と、ルービアス。

……あれ、1人足りない。

 うん、いつもならすでにカップケーキを焼き始めているはずのヤルメキスの姿がないんです。

 そういえば昨日、ドンタコスゥコに、
「結婚決まったおめでたい人を酒の肴にするですよ」
 とか言いながら連行されていったんだっけ……
「みんな、作業を続けててね」
 僕はそう言うと厨房の勝手口を通ってコンビニおもてなし本店に隣接しているおもてなし酒場へと移動していきました。
 ドンタコスゥコ商会の皆はここで飲んだくれているはずだから、ヤルメキスもここにいるはずなんですが……
 で、まだ入り口の所の看板が「OPEN」になってたもんですから、そこから入っていきますと、
「「「ドンタコスゥコったら、ドンタコスゥコぉ! ドンタコスゥコったら、ドンタコスゥコぉ!」」」
 と、ドンタコスゥコ商会の皆さん、肩を組んでなんか妙な歌を歌っています。
 元の世界で聞いたことがあるような気がしないでもない……そんな歌を歌いながら、ドンタコスゥコ商会の皆さんは、肩を組んでスアビールをグビグビ飲んでいます。
 さすがに、すでに酔い潰れてしまって床で寝息をたててる人も少なくないんですけど、まだ半分以上の皆さんがスアビールを飲みながら歌を歌っています。
 ……君たち、全員女だよね?

 で、そんなドンタコスゥコ商会の皆さんが輪になって囲んでいる、その中央部分にはですね、店のイスをピラミッド状に積み上げた建造物が出来上がっていまして、その頭頂部に乗っかっているイスの上に、

 ヤルメキスが鎮座していました。

 すでに、酔いつぶれているらしいヤルメキスは、イスに座ったまま、首を後方に倒したままピクリともしていません。

 そんなヤルメキスの周囲をドンタコスゥコ商会の皆さんが取り囲んでいてですね。
「さぁ、みんな、この幸せ絶頂の方にあやかるのですよぉ」
「「「お~!」」」
「私達も結婚したいですよぉ!」
「「「したい~!」」」
「ヤルメキスさんの幸せパワーをもらうのですよ!」
「「「ください~!」」」
 
 って、イスのピラミッドの横で煽りまくってるドンタコスゥコを中心にして、ドンタコスゥコ商会の皆さんってば、なんかもうやけくそ気味に声をあげまくっています。
 中には、例の奇妙な歌を歌ってる人達もいます。
 その光景はまるで、ヤルメキスを教祖にして、ドンタコスゥコが広報官となっているどっかの新興宗教の風景に見えなくもありません。
 
 ったく、イエロとセーテンがいながら、なんでこんなことになってんだ?
 そう思って店内を見回していくと……なんか、イエロとセーテンの2人ってば、常連の客達と少し離れた場所で飲み続けているではありませんか。
 僕は慌てて2人に駆け寄ると、
「なんでヤルメキスがああなるまでほったらかしてんだ? すぐ助けだしてくれ」
 そう言ったのですが、そんな僕の前でイエロはご機嫌な様子で笑っています。
「主殿、まぁいいではござらぬか、あの商会の女共も彼氏がいなくてあやかりたいだけでござる。月に1度くらい大目に見てやってもいいではござらぬか」
「アタシにはダーリンがいるから関係ないキ」 
 その横にいるセーテンもそう言ってまして、結局2人とも全然動こうとしません。

 ……えぇい、仕方ない

 僕は、意を決してドンタコスゥコ商会の皆さんの輪に近づいていき、どうにかしてヤルメキスを救出しようとしました。
 すると
「……男よ」
「……男だわ」
「……やだ、ちょっと好みかも」
「この際、アレがついてりゃなんでもいいわ」
 って、なんかドンタコスゥコ商会の皆さん……全員女性なんですけど、その方々がですね、目をぎらつかせながら僕の周囲を取り囲んできました。

 なんでしょう、これって蛇に睨まれた蛙?……ラテスさんに睨まれたヤルメキス?

 とにかく、僕はあっという間に周囲を何重にも取り囲まれて身動き出来なくなりました。
 で、ドンタコスゥコ商会の皆さんってば、両手をワキワキさせながら近づいて来ます……中にはすでに服を脱ぎ始めてる人までいます。
「……やべ……全員酔ってるもんだから、マジだ……」
 僕は、額から大量の汗を流しながら周囲を見回していました。
 そんな僕に、ドンタコスゥコ商会の皆さんがどんどんにじり寄ってきます。

 で、次の瞬間

 そんなドンタコスゥコ商会の皆さんの姿が一瞬にして消え去りました。
 同時に、外の川の方から、まるで大量の人々が川に落下していくかのような音と、悲鳴が響いてきます。
 で、僕の目の前には、スアが一人立っていました。
 スアは、まだ寝ぼけてはいるものの、目がすわっています。

 おそらく、僕の貞操の危機を感じ取ったスアは、寝ぼけたまま僕の前に転移してきて、ドンタコスゥコ商会の皆さんを全員外の川の上空へと転移させたのでしょう。
 よく見ると、イエロとセーテンの姿も消えています……うん、スア、グッジョブ!
 スアは、まだ寝ぼけたままの状態で僕に抱きつくと、
「……私だけ、の物」
 そう言いながら、にへらぁって、幸せそうに笑いました。

◇◇

 この後、僕はヤルメキスを救出すると、店で売ってるスア製二日酔い撃退飲み薬「キクリーゼ」を飲ませたところ
「ほ、ほぁ!?」
 って言いながらたちどころに復活しました……相変わらず、スアの作ってる薬の即効性のすさまじさに唖然とするしかない僕だったわけです、はい。
 で、すっかり正気に戻ったヤルメキスを店に戻し、僕はスアをお姫様抱っこして巨木の家へと連れていきました。
 いまだに寝ぼけているスアですが
「……ふふ、ふふふ」
 僕に抱っこされたまま、幸せそうな笑みを浮かべつつ、僕の首に抱きついていました。
 で、巨木の家に戻った僕は、パラナミオとリョータが寝息をたてているベッドの端にスアを降ろし、布団をかけたのですが、スアってば寝ぼけたまま僕の首から手を離そうとしません。
「……やだ、まだ、一緒……」
「スア、気持ちは嬉しいけど、仕事がさぁ」
「……やだ、まだ、一緒……」
 僕の言葉など無視して、ニヘラァと笑いながら僕に抱きついているスア。
 で、スアはそのまま僕に口づけてきまして……えぇ、結構ディープなのを……
 で、そんなことをされてしまうとですね、僕もほら、やっぱ男なわけですので……

◇◇

「あら店長さん、ずいぶんお時間かかったのですねぇ」
「あ、はい、魔王ビナスさん、ホントすんません」
 僕は、やや前屈姿勢になりながら厨房に戻ったのですが、スアをベッドに送り届けてから結構時間がかかってしまいました。
 その結構かかってしまった時間に何をしていたかは黙秘しますが、魔王ビナスさんってば
「もう、朝からお元気ですこと」
 って言いながら、ニマニマ笑ってるんですよねぇ……うん、この人には確実にバレてます。
 僕は、頬を赤くしながらも、弁当作成作業に戻りました。

 その後方では、完全復活したヤルメキスが、大慌てしながらカップケーキを作っています。
 慌ててはいますけど、すでに作り慣れてるカップケーキですから失敗することなく作業を進めているヤルメキス……これが店に来てすぐの頃のヤルメキスだったら確実に材料をひっくり返して半泣きになってるとこですけど、やっぱしっかり成長してるわけです、はい。

 僕が、そんなヤルメキスを暖かい眼差しで見つめていると、
「店長、ちょっといいですか?」
 おもてなし酒場の2階にあります宿泊施設の受付当番をしていたコンビニおもてなし2号店のメイドの1人が僕を訪ねてやってきました。
「あの、ドンタコスゥコ商会の皆さんがですね、お風呂に入ってそのままみんな寝ちゃってるんですよ……で、お風呂の掃除が出来ないんですが……」
 
 ……まったく、あいつらは

 僕は思わず、大きなため息をもらしていきました。

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