ストームクォーツのスイートルーム 春を届けにきました

乾為天女

 三月、波が荒い岬に建つ老舗リゾートホテル「ストームクォーツ」は、閉館の噂が客の足を止めていた。広報担当として着任した奏太は、噂のスイートルーム“Quartz 901”を売り文句にして数字を作ろうとするが、現場責任者の紗希は「噂より先に、掃除と点検」と言って段取り表を開く。
 そこで紗希は、花屋の協力を得て、客が言葉にできない気持ちをそっと渡せるように、チェックインから夕食、花束の受け渡し、部屋までの導線を細かく組み直す。厨房で鍋を振る央雅、客の仕草を見て気配を読むにちか、安全点検に厳しい海凛、口は率直で手が早い莉理香、廊下を走って笑いを生む岳志――七人の手順は失敗しては直され、客の「言えない事情」を少しずつほどいていく。
 しかしある夜、ロビーのスピーカーから奏太の音声メモ「俺の成果になる?」が流れ、信頼は崩れる。嵐の海を背に、奏太は初めて“正しい言い方”を捨て、謝罪と埋め合わせを手で示す。四月、スイートルームの窓に桜色が映る頃、ホテルは「春を届けにきました」という合言葉を、本当の意味で客へ渡せる場所になる。

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