主人公の富岡昌平は今置かれている自分の境遇を僻んでいた。周りは幸せそうに見え、自分だけが置いてきぼりにされていると感じていた。昔の自分を捨てるため、三重県渡鹿野島に一人でやってきた。その島に存在した湖畔の民宿で、ある女子高生に出会った。その子は当時十七歳で非行を繰り返し、家出状態となっていた。名前はアンといって、援助交際、売春、パパ活とお金になることや快楽のためなら何でもやる子であった。一見してヤンチャな女の子といった感じではなくて、今どきの、心に闇を抱えており、何を考えているかよくわからない子という風であった。補導された度に、親からは、「せめて高校ぐらいは出て」と泣きながら言われてきたが……「今度ばかりは……」と何回同じことを言われたか数知れない。それぐらいその子はずいぶんと荒れていたらしい……。家を出るまでは京都で親と暮らしていたのだが、非行を繰り返す中で、親に勘当され、里親に育てられることになった。それがきっかけとなり、こちらにあるフリースクールで学ぶことになり、この民宿でアルバイトをすることになったわけである。渡鹿野島に来てからは、荒れていた性格も落ち着き始め、アルバイトの仕事もそつなくこなすようになった。
しかし、ある夜、恐ろしい殺人事件が起きてしまう。容疑者となったアンは逃亡したまま捕まることはなく、そのまま行方知れずとなり、事件は未解決状態となった。
月日だけが過ぎていき、その後、アンの姿を見ることはなかった。それを機に富岡は三重県渡鹿野島を去ることになる。その後、何か始めなければいけない気持ちが強くなっていき、最近はマッチングアプリにハマるようになり、「サトウセイラ」という女性と出会うが、なんとその正体は自分が売れない絵描き時代にしていたアルバイト先の昔馴染みのアンだったのである……。
紆余曲折はあったが、このアンとこれからの一生を共にしていく決心を富岡は固め出す。そこで、少し強張った自分の頬を引っ張ってみた。どうやら、今自分がいる世界は夢ではなく、明らかに現実世界であると確認することができた。どう考えてもリアリティ溢れる世界だった。
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