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No.33 その笑みは相当機嫌の悪いヒラリー姉さんじゃん

あのイベントの後、うちは植木鉢令嬢にあとで自分の研究室に来るように言い、解放した。
その時、植木鉢令嬢の婚約者、トマスにとんでもなく睨まれていたが、中指を立て挑発してやった。
しかし、うちの行為が理解できなかったのか、トマスは奇妙な目を向けつつ首を傾げ、婚約者を連れてその場を去った。
トマスが去った後、トマスのデュエルを受けたうちはワクワクしていて仕方がなかった。
そのことに気づいたのか、フレイが話しかけてきた。

「アメリア、デュエルってどういうものか分かっているの?」

心配そうな声でフレイは訊ねてくる。
まぁ、そんな顔をしなくても。

「ああ、分かってるよ」

デュエル。
本来の乙ゲーの中にもその設定はあり、ハオランルートで主に使われていた。
フレイとハオランはエリカをめぐって男らしくデュエルで決める。
当然、2人がデュエルで死ぬことはない。乙ゲーのプレイヤーは死ぬと予測しがちだが、デュエル=競り合いという設定にこの世界ではなっている。
しかし、たまにデュエル=決闘になることもあるが、そう滅多にない。
デュエル(競り合い)は前世元ヤンのうちにとっては、もうただのケンカである。
観客がおり、少々異なる部分もあるが基本同じなのでケンカ(そう)とらえてもよいだろうと考えていた。

「ならいいけど。でも、アメリア。彼、大分強いよ」
「ふーん。どうでもいいや」

先ほどまでエリカが座っていた椅子にドスンと座る。

「アメリア様、先ほどはありがとうございました」

近くにいたエリカはうちにペコペコとお辞儀をしていた。

「ああ、お前怪我ないか??」
「ええ、私は全然。しかし、アメリア様の主魔法ってバリア魔法だったんですね。初めてみましたバリア主魔法の方」
「珍しいのか??」
「ええ、私も珍しいと言われている光魔法ではありますが、光主魔法の方はバリア主魔法よりもいると思いますよ」
「へぇー」

何が嬉しいのか知らないが、エリカは微笑みながら答える。
うちは試しに手のひらサイズの小さなバリアを作っていると、フレイが真顔でこちらを見ているのに気が付いた。

「どうした、フレイ。おーい、違う世界に行ってないかー?」

意識がどこかにぶっ飛んでいるフレイの顔の前で手を振る。

「大丈夫だよ。僕も何度かバリア魔法を見たことあるのだけれど……」
「ど……?」

フレイの次の言葉をじっと待っていたが、また、フレイが考え込んでしまい始めたのでうちは席を立ち、歩き始めた。

「お前ら、次授業だろ、行くぞ。あ、しくった。ルイ行くぞ」
「はい!! 姉さん!!」
「私も一緒に行きます!! 同じ授業ですし!」
「……」

いつもなら『僕も行くよ』とかなんとか言ってそうなフレイが立ち止まっていたので、うちは様子がおかしいフレイの肩にポンと手を置く。

「お前気にすんなよ。イベントは逃したけど、次は楽しい楽しいデュエルがあるから」
「はぁ?」

アメリアは親指を立てるサムズアップサインをして先を歩いて行ったが、フレイは『なぜそこで??』というような顔をして不思議そうにアメリアを見ていた。



★★★★★★★★★★



「あ、アメリア」
「アメリアさん」

教室に行くとクルス兄妹がすでにおり、2人はパソコンを使っていた。

「お前ら何してんだ?? 授業始まるぞ」

ルースの机にある魔法動力のパソコンの画面を覗く。
そこにはうちが作ったビデオ通話ができるスカイぺがあった。
あれっ??
これ専用の魔法道具のみで使えていたはずなんだが……。

「お前、そのスカイぺっ……」
「これ?? ああ、アメリア王女様がもともと開発したものなんだけど、トッカータ王国の王女様のご友人ノアさんがパソコン用に改良したものなんだ。初めてみるのか?」
「いや、私がそれを開発し……」
「ええっ!! アメリアさんが開発したのですか?? でも、世間では王女様が開発なさったって……」

あ、しまった。
しまったぁーーーーーーー!!!!!!
自分が開発したのは間違いない。
しかし、現在のうちはアメリア・ホワード。
王女ではなく公爵令嬢だ。
その公爵令嬢が開発したといえば王女がウソをついたのか、それとも公爵令嬢が?? というふうに問題となる。
うちは全身から冷や汗が出ていた。
言い訳を作らねば……。

「あぁー。世間で言われているとおり王女さんが開発したものなんだが、その時うちもちょっと関わってな……」
「ええっ。アメリア、王女に会ったことあるのっ?」

ルースや妹のクリスタ、付近にいたその他の人物もうちの発言に驚いていたのだが、一番驚いていたのはフレイだった。

「アメリア、最近王女と会った??」
「い、いやっ……??」

会うも何も自分ですが。
すると、うちはフレイに両肩をグッと掴まれた。
な、なんだ??
顔を近づけてきたフレイははぁと長い溜息をつく。

「やっぱりか……アメリア王女には誰も会うことができないんだな……」
「……フレイ、君婚約破棄したんじゃなかったけ?」

クルス兄妹同様先に教室にいたハオランは席についていた。

「ハオラン……君には説明したはずなんだけど」
「……多分、そのとき僕は研究に集中していたと思う」
「了解。じゃあ、一から説明だね。僕はアメリア、あ、王女の方ね」

フレイはわざわざ説明し、うちの方に向く。

「分かってるよ」
「そのアメリアと婚約破棄したのは事実だけど、ここだけの話……」

フレイは声を小さくし、ルース、クリスタ、エリカ、ハオラン、ルイは近づく。
うちはフレイの横にいたので、彼の声は十分聞こえていた。

「破棄の提案は国王からだったんだ。僕、始めは断ろうとしたんだけど、トッカータ国王にアメリアの状態も良くないし、アメリアから婚約破棄とあれば僕にまるで非があったようになるからと言われて……」
「そうだったのか……」
「それで僕は丸一日考えて、婚約破棄にいったたのさ。彼女のことがまだ好きなのにね」

フレイはお手上げと言わんばかりに両手を挙げた。
聞いていた5人は悲し気な表情をしていた。
全てを知っているうちを除いて。

「お前、まだう…、アイツのこと好きなのか……??」
「姉さん、さすがに王女様をアイツ呼ばわりするのやめようよ」
「いいんだ。アイツとうちはダチだから」
「えっ。姉さん、アメリア王女様と友達なの……??」
「あ……」

何軽々しくこんなウソついてんだー!!
頭の中では大混乱だったが、平常の態度で言った。

「ああ、そうだ。そんで、フレイ。もうアイツのことを考えるのはやめてやれ」

うちがもたん。
お前がいくら変な虫がつくのが嫌だからってアメリア王女(うち)を利用するのは良くないぞ。

「アメリア、それ王女が言ってたの?」
「ああ、最近な」

うちがそう言った瞬間、フレイは笑っていた。

「最近??」

小悪魔のように。

「最近、アメリアは王女と会っていないって言ったよね?」

因みに目は笑っていない。

「あ、あぁあ、うち最近会ったの思い出して……」
「ふーん」

フレイはこちらにどんどん近づいてくる。
それに従ってうちは足を後ろへ後ろへと動かし後ずさりする。

「ねぇ」

後ろに下がっていたうちは背中に壁があたり、フレイに追い込まれていた。
横に逃げようとするが、目の前にフレイの手がどんと現れる。
最悪…。
こんなイケメンに壁ドンされているのに全然嬉しくない……。

「なんだ……??」

無理に作って見せた引きつったような笑顔を見せる。
フレイはうちのスマイルに答えるようにさらに作り小悪魔笑顔をしていた。

「アメリア。僕をさ、王女様に会わせてくれない?」

ああ。
相当機嫌が悪いヒラリー姉さんに追い込まれている気分だ。

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