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No.5 デブと野獣

「ねぇ、ヒラリー。これでアメリアも痩せたんだからいいじゃない?? ねぇ??」

隣にいるアナ姉は命乞いのように必死に頼んでいた。

「ダメなもんはダメなんです。何てことしてくれたんですか」
「こうなるとは思ってなかったのよ!!」

うち、アメリアとアメリナ、カレミナは正座をして、ヒラリーに説教を受けている最中だった。
この世界って正座って概念あるんだな。
アジア圏だけかと思っていたけど……。
てか、正座をしても足の痺れを感じない。
おお!!
痩せてるっていいな!!
うちは姉たちと同じくらいに痩せることに成功していた。
が、しかし。
怒られている現状は変わりない。
今、うちらが怒られている原因は1ヶ月前から始まっていた。
あのお茶会の次の日、うちはアメリナから動きやすい服装をして1人で庭園に来るように言われていた。
何をするつもりなんだか……。
と半ば訝し気に足を進めると豪勢な庭園にはすでにアメリナが来ていた。
アナ姉専属メイドは誰1人としていなかった。
それでいいのか王女様。

「アナ姉、来たけどなんすんの??」
「ダイエットのためにこの城をぬけだしてみるのよ!!」
「それってアナ姉がただ抜け出したいだけじゃん」

アナ姉が相変わらずすぎて思わずため息をつく。
これだからアナ姉は。

「ちがうわ。ただ、走ってダイエットするのはつまらないでしょ?? だから、スリルを味わいながら、痩せるのよっ!! さぁっ!! いこー!!」

そんなスリルいらないでしょ。
ダイエット中は太るスリルが常にあるのだからさぁ。

「っていってもどこから抜け出すの??」
「私ね、この城にいっぱい脱出口を作ってるの。まぁ、見つかったら潰されるんだけど……」
「なっ」
「でも、しょっちゅう作り直しているから心配しなくて大丈夫よ!」

この姉さん、なんてことしてんだ。
何が心配しなくても大丈夫だ。
刺客がきて王家が終わってしまうぞ。

「じゃあ、せっかくだし今日はここから抜け出そう」

いやいやながらも仕方なく先々に進んでいくアナ姉に付いて行く。
一時歩いてツタだらけのレンガ壁の前に来るとアナ姉は地面にあった緑色のボタンを押した。
すると、ツタとレンガが動き一つの通路ができた。

「あっ、アナ姉。1人でこれ作ったの?」

しかも、まだ10歳。
アパレル業界じゃなく、違う方へ進んだ方がよいのでは??

「そうよーと言いたいところだけど違うわー。ラニャ達と作ったの。さぁ、ここを通って町を走るわよ!!」

アナ姉はそういうとうちの手を掴み、すぐに街へ走り出した。
うちら王族はたまーに街へ出かける時があるが、そのときはいつも護衛やメイドが常に一緒にいるため、当然ながらあまり自由にできなかった。
そのためか分からないが街のレンガの道をかけぬけるのはどこかとても心地が良かった。
解放されたように街へ出かけることを好む姉たちの気持ちが少し分かったような気がする。
でも、体力はもってくれない。
500mも走っていないにも関わらず、息切れをしていた。

「ま、待って、アナ姉。体力がもたないよ……」
「あとちょっとだから、頑張って!」

あとっ、ちょっとって??
目的地があるのか……??
目的地のことが気になり、少し踏ん張って走り出す。

「そうよっ!! そのいきっ!!」

応援してくれるアナ姉は少しうちの背中を押してくれた。
全然あとちょっとどころではなかったが、それでも頑張って歩いた。
重くデカい体を必死に動かしていると、先を行くアナ姉がある一軒の家の前で立ち止まった。

「目的地ってここ??」

その家はいかにも中世のヨーロッパの街並みありそうな家だった。

「そうよ。ここにね、私の友達がいるのよ」
「友達??」

外に友達なんて作っていたのか……。

「あっ、今日アメリアが来ることは知ってるから大丈夫よ。あと、私たちが王家の人間ってことも」

おい、最後の一文重大じゃねーか??
見逃さねーぞ。
そんなうちの心配を気に留めることなんてなく、アナ姉はドアを叩く。

「すみませーん。わたしでーす!! 私!! 私よ!!」

それ詐欺じゃん。
私私詐欺。
しかし、家の主はその詐欺を疑うこともなくドアを開けた。
出迎えてくれたのは1人の少年だった。
メガネの少年の年齢はアナ姉と同じくらいに見えた。

「さぁ、入って」

彼はうちらを当然のことのように招き入れた。
こやつ、慣れているな。
家の中はほのかに木の香りが漂う。
いかにも一般的な家。
ほとんどの家具が木材、王城とは違い、質素。
しかし、その部屋の雰囲気はどこか安心感を感じさせた。

「アメリア、この人は私の友人、ノアよ。機械とかをいじることが好きなのよ」

アナ姉の友人?? 黒髪のノアはきれいな白い肌をしていた。
うらやましい。
そんなノアは微笑みながらこちらに挨拶をしてくれた。

「よろしく」
「ちなみにあの隠し通路は私とノアとラニャ、カレミナで作ったの」
「えっ!?」

その後、3人でゆっくり話をした。
主にノアとアナ姉の出会いについてだけど。
本当どこで出会ったんだよ、こんな姉ちゃんと真面目そうなやつ。
話を聞くと桜色の髪の人を見つけ、もしかしてと思ってノアが話しかけたのがきっかけらしい。
アナ姉はうまくノアをとらえ、手下に……じゃなかった、友人となった。
そして、街へ出かけやすくするため、ノアに協力を募り、あの隠し通路たちを作ったのだという。
全く何してんだか。
また、彼に服を作ることも協力してもらっているらしい。
機械といっても、この世界では魔法機械みたいなもので、原動力は魔力。
それを扱うことが得意なノアにボタンやアクセサリーを作ってもらっている。
もちろん、王城にもそういった機械があるが、アナ姉いわく、あまり面白くない?? らしいので、発想が面白いノアに頼んでいるらしい。

「で、あの服のことなんだけど…」

そうしているうちに服の話題になりちょっと飽きてきていたので、裏口から外に出てみた。
2人が話しに夢中になっているうちにドアを開けると、少し離れた場所に森の入り口を感じるものがあり、その奥になだらかな丘が見えた。
丘の頂上には1本の木が静かに立っている。
遠いけど、あそこに行ってみようか。
歩いていくと森は意外と範囲が狭くすぐ抜けることができた。
ただ、丘が広かった。
そのため、脂肪という名の重い装備を持つうちは1本の木にたどり着くまでに汗を大量にかいた。
まぁ、ノアの家に行くまでよりマシであったが。
でも、来たかいはあり景色は最高といえるほど絶景であった。
正面に来た道があり街が広がっているのだが、左手の方の離れた先に王城が見えた。
外にこんな景色があったとはな。
少ない体力を回復させるため、木のふもとのかげで寝転ぶ。
程よい風が吹き睡魔に襲われ、そのままうちは目を閉じた。

「!!」

一時経って目を覚ますと、近くに自分と同じくらいの大きさの狼がいた。
その狼はじっとこちらを見ている……というか睨んで唸ってるっ?!
これはピンチじゃないかっ!!
あっちは凶暴な狼、こちらは太りに太った豚だ。
死ぬっ!!
絶対嫌だ!!
何か武器はないかっ??
あたりを見渡し、武器になるようなものを探す。
幸い近くにある程度丈夫そうな木の棒があった。
それを手に取り、狼に対し構える。
そして狼がこちらに向かって走り出した。
やってやるっ!!
アメリアは狼が目の前に来た時、木の棒を振る。
えいっ!!
すると、狼は運よく気絶した。
よしっ、逃げよう!!
木の棒を捨て、ノアの家へ走り出す。
無我夢中で走って走った。
そして、森の中に入ったとき一応後ろを確かめると、気絶したはずの狼はこちら追いかけてきていた。
あちらの方が足が速い!!
追い付かれるっ!!
アアァー!! 死ぬ!! 噛まれる!!
とその瞬間、狼に飛び乗られ……。

あー、死んだ。

死を悟ったが、痛みなど一切感じずおなかがくすぐったいだけだった。













これが天国??




……???
狼を見てみると、ポケットの方をいじっていた。
ポケット……?
そういや、ポケットにお菓子が入っていたはずだ。
でも、なんで狼が??
飛び乗ってきた狼をよく見てみると、さっきはパニック状態で気づかなかったがとても痩せていた。
こいつ、もしかしてお腹が空いているのか??
疑問に思いながらも狼を払いながらもポケットからクッキーを出した。
分かってるよ、なんでダイエットやってるつがお菓子を持ってると思うよな。
うちも思うよ。
でも、いつも気づいたら持ってんだ。
そのいつのまにかポケットに入っているクッキーを狼に投げつけると、すぐに食らいついた。
やっぱり、お腹が空いてたんだな。
うーん。
でも、これだけじゃ足りないだろう。
ノアなら何か食べ物をくれるかな??
ノアの家の方に行こうとすると、クッキーを食べ終えた狼がついてきた。
まぁ、途中までなら大丈夫か……。
そうして、うちと狼は一緒にノアの家の裏口付近までやってきた。

「おい、お前。あの草むらに隠れろ、見つかったら殺されるかもしれないからな。ちょっと待ってろ、食べ物をもって来るから」

そういうと狼はうちの言葉を理解したのか草むらに隠れた。
うちは家に入り、さっきまで2人が話していたダイニングの部屋までいくとノアが1人でいた。

「ノア、アナ姉は??」
「アメリア、いたの?? アメリアが先に帰ったと思って帰っていたよ」

マジかよ。
まぁ、いいや。
ゆっくり歩いたら帰れるだろう。

「ノア、なんか食べ物ある??」
「うん、あるけど、どうしたの??」

うっ、言い訳考えるの忘れてた。
さっきお菓子貰ったばかりだしな。

「え、ええと……そう!! 帰るときお腹がすくと思うから、少し食べ物ほしいなーってさ」

この言い訳、王女のプライドみたいなもの捨ててるな。
まぁ、別にいいけどさ。

「うん、分かった。気をつけて帰ってね」
「うん、今日はありがとう」

パンとハムを貰い、狼の方に向かった。
あたりを見渡し、誰も見てないことを確認するとあの狼を呼び出した。

「食べ物持ってきたよ、ほら」

地面にパンとハムを置くと、狼が出てきて食べ始めた。
結構量があったパンとハムをあっという間に狼は食べてしまった。
この量をあげるって、ノア、うちの体型を見て判断して渡したな。
はぁーとため息をつくと、さすがに戻らないとと思い王城に向かって歩き始めた。
そろそろ戻ってないと怒られそうだしな。
帰ろう。
そうやって、トボトボ歩いてあの隠し通路の前まできた。

「クーン」
「!?」

後ろから鳴き声が聞こえる。
パっと振り返るとあの狼がついてきていた。

「おまえっ!! 森に帰らなかったのか!?」
「クーン」

この狼完全にうちになついている。
狼ってなつくのか??
いや、今はそんなのどうでもいい。
こんなところにいたら、コイツは銃で撃たれて殺される。
隠れる場所があったらいいのだが。
周囲を見渡し良い場所がないか探す。
そういや、隠し通路の近くに林があったような。
見つからぬよう隠し通路周辺を少し歩くと林があった。

「お前、ここに隠れてろ、明日の朝には何か食べ物持ってくるから」

白い狼は林の中にすんなり行く。
狼が歩いているところをじっと見つめていると、狼の首元に光るものを見つけた。

「ちょい待て」

狼を引き留めその光るものを手に取る。
狼の首元を見ると革の首輪があり、プレートには”Sandy“と書かれていた。

「お前の名前、サンディというのか…」

てか、お前、誰かに飼われていたのか、それとも捨てられていたのか。
サンディの頭をワシャワシャと豪快に撫でる。

「また明日な、サンディ」

そうサンディに言うと誰にも見つけられないように隠し通路に向かった。
このサンディによって冒頭ごとくヒラリーに怒られる原因を作る羽目になることをこの時のうちは一切思いつきもしなかった。

しおり