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No.4 姉ちゃんたちのU・R・A・G・A・W・A

一方、姉たちは一通りご令嬢たちに挨拶を済ませると、3人交代でメイドに変装して、耳を澄ませていた。

「アナ姉、さすがだね。身長偽造してメイドに変装って。誰も私たちが王族って気づかない」
「誉め言葉はありがたいけど、カレミナ、この変装した目的忘れてるわよ」
「ごめーん」

普段は問題児、アメリナ、カレミナは部屋の隅に立っていた。
他の3人はというと、出世で必死な子息と令嬢たちの相手をしていた。
特にミーシャはこういう場ではとてつもない力を発揮するため、無口なメルンとBSのラニーニャはミーシャに合わせて、なんとか頑張っている。
そして、四女のミーシャの双子の姉で最も仕事ができる人間、ヒラリーは大胆な行動をとっていた。
動きやすいズボンをはき、メモ帳とペンを持って、お菓子などが上に並べてある長机の下に潜んでいた。幸いテーブルクロスは床のギリギリまであり、尚且つ透けてはいないため、隠れるのに絶好の場所であった。
まぁ、全部セッティング図を考えたのは全て彼女たちであったが。
ヒラリーが息を潜め、耳を澄ましていると、離れたところでドスゥンドスゥンと音が聞こえ、床が揺れていた。

「まぁ、アメリア様はお姉様方とは違い…凄くふっくらなお体をなさっているのね」
「……あんなに走って……気品もない。あっ、フレイ様をどこかへお連れなさいましたわ」
「……フレイ様って、ウィンフィールド国の?」
「ええ。殿方の手を引っ張るなんて……」

ヒラリーは令嬢たちが小声で話していたことを想像していた。
やはりか……アメリアには教育が必要だな。
姉たちみたいに手もつかけれない状態になる前に。

「アメリナ様やメルン様のお姉様方はお国のため熱心に勉強なさっているとか。アメリナ様、ラニーニャ様、カレミナ様に至っては街の様子を積極的にご見学なさっているとか」
「まぁ」
「はぁ……ちがうなぁ」
「??」
「!!」

しまった…、声に出してしまった。あまりにも世間の姉と現実の姉が違いすぎて、つい。
彼女の心臓は異常なほどバクバクと音を立てていた。

「今、何かおっしゃいました??」
「いいえ??」
「何か聞こえましたか??」

ヒラリーはそうめったに失敗はしない。そのため、他人にあまり迷惑をかけないし、自分自身そんなことをするのはとても嫌っている。
こんなところで失敗すれば計画だけでなく、王家の名が……。

「いいえ?」

令嬢は聞こえていなかったようだ。
ヒラリーは声に出すことはなかったが、息をつき安堵した。
今までの人生の中で2番目に緊張した。
気が抜けてしまった。
1番目は何かって??
そりゃ、アナ姉、ラニャ姉、カレミナたちと行事に参加するときよ。
責任は大体私にあるからね。

「はぁーもー、姉たちのせいだ」

ヒラリーは現実の姉たちを知ってもらえることができたらなぁと思いつつ、むしゃくしゃしていた。
ちなみにアメリナ、カレミナはヒラリーと違い、変装がバレてもよいと思っているが(正直、バレて面倒なことになってもどうでもよいと思っている)、自然に仕事ができすぎて、ベテラン使用人として見られていた。
しかし、アメリナ、カレミナの2人はただ変装してメイドの仕事をしていたわけではない。
仕事をしつつ、アメリアを観察していた。

「アメリア、やっと王子と出てきたね。あれっ、王子と2人きっりって…」
「いいじゃない。パパはあっちのおじさんと仲がいいし。あの王子とは同い年でしょ?」
「そうだけど、あの王子、顔はいいから、アメリアが他の国の姫や令嬢に目を付けられそうだなぁって。めんどそー」
「そん時はアメリナ姉さんに任せなさいっ!2人の恋の邪魔はさせないわっ!」
「2人はそういう関係じゃないけどね、多分」

カレミナは耳を澄ませ、2人の会話を聞いてみた。

「アメリア様、このお菓子美味しそうですよ」
「ええ、そうね……私に勧めないで頂戴な、フレイ様。私に喧嘩を売っているのですか??」
「え?? まずくないですよ、僕の持ってきたお菓子ですよ」
「あんた……じゃなかった、フレイ様がお持ちなさったものでもまずくても美味しくても食べることはできません。っ!! 嫌味ですかっ!! そんな美味しそうに食べるんなんてっ」
「食べますか?? 食べますかぁ??」

その後、ずっと様子を見ていたが、王子はずっとアメリアにべったりで離れることがなく、それを気にしていないアメリアにとても引っかかる姉、いや、顔がニヤけてしまうカレミナであった。

「ごめん、姉さん。私の間違いだわ」

そして、数時間後。

「あー!! やっと終わった!」

アメリアはあの令嬢たちのキツイ目からやっと解放されたのだ。
アメリアは自室のソファにドカッと王女らしからぬ座り方をする。
非常に激しいオンオフ。
先ほどまでトップレベルの子息・令嬢の相手をした人にはとても見えない。

「アメリア様、その座り方はあまりよろしくないかと……」
「いいのよ。それなりに仕事をしたんだから、子守りという仕事をさぁ……」

アメリア専属メイド、ティナはアメリアの座り方に思わずため息をつく。
私の主人、アメリア様はこのところ様子がおかしい。
以前までは、気品のある口調で私のことを虐げていたのだが、ここ数日はそんなことを言う気配は一切なく、逆にアメリア様が異常なほどフレンドリーになっていた。
堅い口調はなさらず、私のことを「あんた」から「ティナ」になり、また、私に対し「呼び捨てにしろ、その口調堅いやめろしんどい」という始末である。
アメリア様はどうしたのだろうか??
そんなティナの疑問なんてよそにアメリアはすやすやとソファの上で寝ていた。
それを目にしたティナははぁ……とため息をつき、

「アメリア様!! 起きてください!! そんなところで寝ないでくださいっ!」

とアメリアがソファに寝る度叫ぶのが日常になりそうである。


そのころ、姉たちは再度集合しアメリアについて話していた。

「……という感じです。私からの評価となりますが、非常に令嬢としての言動がなっておりません」
「要するにヤバいってことね」
「そうです。このままではいけません」
「まぁ、それは私も傍から見ていて思いましたが、アメリアをまともな王女にするといってもどうするんです?」

ミーシャもゲストを相手にしていたとはいえ、盗み見るようにアメリアの行動を見ていた。
正直、すべての行動が酷すぎてどこから手を付ければよいか分からなかった。

「うーん、そうだなぁ、まずはべ……」
「ダイエットよっ!! さらなるダイエットが必要だわっ!」
「別に見た目は気品さと関係ないんじゃない?? アナ姉」
「いや、関係あるわ。今のアメリアは私たちにとってはとっても可愛いけれど、自分があの体型だと生きる希望がなくなるわ」
「……そうね」
「?!」

思わずヒラリーはアメリナとメルンの方を見る。
アナ姉はともかくメルンが言うとは思ってもいなかった。
意外と気にしているのか……。

「つまり、太っていると自分の自信がなくなってしまうのよ。私は自信があれば何かに挑戦しやすくなるし、勉強だって少しはやる気になると思うのよ」
「なるほどね」

ミーシャはアナ姉の説明にとても納得していた。

「それはアナ姉たちの出番ですね」
「そうよっ!! 任せなさい!」

そして、数日後、アメリア、アメリナ、カレミナの3人はマジギレヒラリーから怒られる羽目になるのである。

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