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もう一人の秀長9

 初戦勝利が続いたが、だんだん物資が届かなくなり石田三成の横暴が聞こえてきた。三成は秀吉を茶々とともに思うように動かしている。秀長が言っていた通りになっている。
 残念ながら床の下も天井裏も服部に支配されている。秀長も秀吉に呼ばれることもほとんどなくなっている。三成がすべて秀吉の代弁をしている。三成の勢力は拡大している。武闘派はすべて朝鮮に送り込まれている。だが唯一家康は三成と組まない者達を石垣を積むように集めている。さすがだ。
 狗は僅かに残された暗がりの中で動き回っている。
「高虎殿から書簡が届いています」
 鼠に言われて屋根裏から下りてくる。秀長はもう眠っている。
「朝深い眠りから覚めることがなかった。だがまだ伏せておくようにと言うことだった。だがもうすでに豊臣家の生き残りは難しいと判断されていた。とくに朝鮮征伐後大きな変化があるだろうと・・・。生きて行く道は自ら探せと最後に言われた」
 遂に亡くなられたか。だが狗も方向性が見えないのだ。だから今更家康に付くことはできない。しばらく高虎に従い道を見つけるしかないのか。
「それでだ。秀長殿の死を伏せている間に各方面と接触したい。まず三成殿と会う。その段取りを狗にしてほしいのだ」
 これは高虎の意志だ。どうも大坂城に高虎が登城してくるようだ。それで高虎の文が入っている。
「文を持ってきた下忍は?」
「すでに年寄りに文を渡した時点で亡くなっています」
「服部か?」
「手裏剣が5つの刺さっていたようです」
「いつ引き上げるかだな?」

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