バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

おでんにまつわるエトセトラ その1

 テトテ集落におもてなし商会テトテ集落店を開業することになった僕は、集落から帰るとその足でおもてなし商会本店にあたるおもてなし商会ティーケー海岸商店街店へと出向いた。

 ……と、まぁ、口で言ってしまえばなんか隣のお宅にでも行ってきました的な感じなんですけど、実際は馬車を飛ばして数ヶ月かかる距離を、スアの転移ドアであっという間に移動しているんですよね、これ。
 ホント、スアの魔法はすごいです、はい。

 そこで、早速ファラさんに事情を説明したところ
「はいはい了解しました。じゃあ明日にでも出向いてきましょうか」
 そう言ってくれました。
 
 で、テトテ集落にコンビニおもてなし関連の店が出来たので、これを機会にテトテ集落にも転移ドアを作ることにしました。
 以前は、テトテ集落に転移ドアを作ったら集落の皆さんが際限なくガタコンベにやってきてえらいことになるんじゃないかと思ってその作成に二の足を踏んでいたんですけど、村の人達は僕達が迷惑に思うようなことは極力しないようにと気を使ってくださっているし、心配しなくても大丈夫かな、と思った訳です。
 それに、転移ドアは作りますけどいままでどおりパラナミオやスア、リョータを連れて行くときはおもてなし一号に乗っていくつもりですしね。
 で、一応、リンボアさんと集落の長のネンドロさんにはその旨を伝えておいて、緊急の時は遠慮無く使用してくださって構わない旨をお伝えすることにしました。

 で、翌日。

 コンビニおもてなし本店の営業が終了した頃合いに、おもてなし商会ティーケー海岸商店街店からファラさんがやってきました。
「しかしホント、この転移ドアは便利ですわねぇ」
 ファラさんは、そう言いながら自分が今くぐってきた転移ドアを見つめています。
「そうでしょうそうでしょう」
 そんなファラさんに、自称スアの一番弟子ブリリアンが胸を張りながらドヤ顔で笑っていたのですが、僕はそんなブリリアンを華麗にスルーし、ファラさんを出来たばかりの新しい転移ドアへと案内しました。
 すると、開いたばかりの転移ドアの向こうでリンボアさんがびっくりした顔をしていました。
「あらあらまぁまぁ、見慣れないドアがあると思ったら!?」
 と、いきなり開いた扉の中から僕が出てきたもんだから、リンボアさんは目を丸くしていました。

 で、まぁ、ここで事情を説明。

「なんとまぁ……タクラ店長の奥さまはそんな魔法も使用出来るすごいお方なのですめぇ」
 リンボアさんは、そう言いながら何度も頷いていました。
「まんるで、私が子供の頃にお話で聞いた伝説の魔法使いのような方ですめぇ……確かぁ、スンテルゥアム様って言ってためぇ」
 ……ど、どこかで聞いたような気が……と、言うか、スアの結婚前の名前、ステルアムにとってもよく似てるなぁと、思ったりしたんですけど、あえて気がつかなかったことにしてスルーしました……恐らく、本人のことでしょうしね……あはは。

 で、早速ファラさんと打ち合わせをしてもらおうと思ったのですが、
「あぁ、そうそう店長さん」
 そう言いながらリンボアさんが、何やら皿を差し出してくれました。
「この村の名物というほどでもないんですめぇけど、料理がちょうどありますめぇで、食べて見てくださいめぇ」
 リンボアさんの言葉を聞いて改めて皿を見てみますと、確かに料理が盛り付けられていました。
 何やら、野菜の煮込み料理みたいな感じです。
「ありがとうございます、では早速頂いてみますね」
 僕はそう言いながら、皿に添えられていたフォークを手にとりました。
 まぁ、田舎の山奥の集落だし、特産といっても山の幸とか農作物くらいだろうから、こんな料理が出てくるだろうなと予想はしていたのですが、まさに予想どおりの品物が出てきたわけです。
 でもまぁ、味付けとかが凝っていればこれはこれで使えるかも……

 そう思いながら皿の中の品々を見つめていた僕は、その中の一品に目が釘付けになりました。

 黒っぽくて、なんか点々がいっぱいついていて、プルプルしているそれ……
 僕は、それをフォークで突き刺して口に運んでいきました。
「……これ、こんにゃくだ」
 僕は思わず目を見開いていました。
 すると、僕の言葉を聞いたリンボアさん、
「店長さん、それがこの村の特産品といいますかぁ、このあたりで取れるコルブンニャックの実からつくるコルブンニャックですめぇ……そんな物しかないめぇけど、どうですかめぇ?」
 そう言って笑うリンボアさん。
 僕はそんなリンボアさんの手を取ると、
「リンボアさん、これいけますよ!」
 そう言いながらその手を何度も振り回していきました。

 で

 リンボアさんから見せてもらったコルブンニャックの実ですけど、まさにこんにゃく芋でした。
 ガタコンベやブラコンベの市場では全然見かけなかったんですけど、まさかテトテ集落で取れてたなんて、まさに灯台もと暗しです。
「このコルブンニャックならぁ、村のみんなで作ってますから、お売り出来ますめぇ」
 そう言ってくれるリンボアさんに、
「是非お願いします」
 僕は即座にそうお願いしました。

 さてさて、こうして思いがけず、この世界ではコルブンニャックという名前のこんにゃくを入手することが出来ることになったわけですが……こうなるとやはり手に入れたいのが練り物なわけです。

 ちくわやはんぺんなんかを、なんとか出来ないものかと、ティーケー海岸のアルリズドグ商会から仕入れてくる海の魚を使ってあれこれ試作を続けているところなんですけど、どうにかなりそうな感じになってきていたんですよね、ちょうど。

 なかなか練り物の材料に使えそうな白身の魚が見つからなかったんですけど……なんか、不思議なくらい白身の魚が入ってこなかったんですよね。
 で、僕はアルリズドグ商会に直接行ってみたところ、卸売り市場の片隅に何やら山積みになってる魚達が……
 近寄ってよく見てみると、そこに山積みになってる魚って、どっか鱈や鯛に似ているような……で、その場で早速さばいてみると、見事に白身なんですよ、これが。
「あ? こんな魚がほしいのか? これ、味が薄いってんで人気なくてなぁ……家畜の餌として引き取ってもらってんだ」
 そう言いながら首をかしげるアルリズドグさん。
 そんなアルリズドグさんにお願いして、この日その場に山積みになっていた白身魚の山を全部譲ってもらった僕は、その魚を使って早速練り物を作って見たところ、無事にちくわを作ることに成功しました。
 早速、その試作品をパラナミオやスアに試食してもらったところ
「パパ! これすごく美味しいです」
 パラナミオは目を輝かせながら、串に刺して焼き上がったばかりのちくわを食べていました。
 普段食の細いスアもこの味が気に入ったらしくすごい勢いで食べています。

 うん、これはいける。

 僕はすぐにティーケー海岸に戻るとアルリズドグさんに事情を説明して、この白身の魚を卸売りしてもらうことにしたのですが、
「こいつらはさ、網漁の際にかかってしまうゴミみたいなもんだから金をもらうのがなんか申し訳ないなぁ」
 そう言い、アルリズドグさんは僕がお金を払うと言ってもなかなか首を縦に振ってくれませんでした。

 よく考えたら不思議な光景ですよね。
 売ってくれと言ってる方が金を払うといい、売るよって言ってる方があんまりお金をもらいたくないって言ってるんですから。
 
 で、まぁ、散々押し問答した挙げ句、白身魚を二束三文で卸売りしてもらうことになりました。
 なんか、ホントに申し訳ないなぁ、と僕は何度も言ったんですけど、
「もともと捨ててた物に金をもらう方が申し訳ないわ」
 アルリズドグさんはそう言って苦笑していました。
 ある意味、本当に誠実に商売してる人なんだなぁ、と、つくづく思ったわけです。

 で、ちくわに続いてはんぺんの作成にも成功した僕は、これにテトテ集落のコルブンニャックも加えた合計3品を新たにおでん弁当の具材に加えることにしました。
 今まで販売していたおでん弁当に加えて、この練り物入りのおでん弁当は『上おでん弁当』として、少し高めの値段で販売することにしました。品数が多くなる分、通常のおでん弁当に入っている具材よりも1品1品を小さめに加工したりして、容器の大きさは同じになるように調整してあります。

 で、販売初日。

 ちくわとはんぺん、コルブンニャックだけの試食を準備して、ルービアスに店の前で配布してもらいました。
「はいはい、上おでん弁当に加わった新しい具材ですよぉ、ちくわとはんぺん、それにテトテ集落のコルブンニャックですよぉ。試食ありますよぉ」
 すごく手慣れた感じで試食を配布していくルービアス。
 その試食を食べた皆さんは
「ん? このちくわっての、美味しいな」
「はんぺんってのも味が染みてて美味しいわ」
「このコルブンニャックってのもなんか面白い味だなぁ」
 と、どれも好評でして、試食を食べた皆さんはすぐに店内にやってきて上おでん弁当を購入していかれました。
 結構な数の上おでん弁当を準備していたんですけど、お昼前にはすべて完売してしまいました。

 ちなみに、ちくわの方は、

 ちくわのまま販売
 ちくわパンに加工して販売
 
 と、2種類の販売方法も試してみたのですが、特にちくわパンの方が大人気になりました。
 ちくわの中に自家製マヨネーズを詰めているんですけど、これが子供達にすごく好評でして、テンテンコウ♂がいくら追加で作っても、作った端から売れていく始末でして……

 と、まぁ、こうしてコンビニおもてなしに新たな商品が加わったわけです、はい。

しおり