バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

温泉に絡んであれこれと その2

 今日は電気自動車おもてなし1号にのってテトテ集落へと向かっています。
 いつものようにパラナミオとスア、そしてスアにフロント抱っこされたリョータの3人を乗せていつもの山道を通行しているのですが……
「……また石畳の道路が長くなっているな」
 僕は、思わず呟きました。

 僕らがおもてなし1号で集落へ向かい続けて数ヶ月。
 パラナミオやリョータといった子供も連れていくものですから集落の皆さんはいつも大歓迎してくださっているのですけど、そんな僕らが少しでも快適にやってこられるようにと、集落の皆さんがただの獣道だった山道に石畳をこつこつ敷き詰め続けてくださっているのですが……それがすごい勢いで伸び続けていまして……なんかもう集落とガタコンベの中間点近くまで敷き詰め終わっているんじゃないの? ってくらいのとこまで作業が進んでいるんですよね、これが……

 ただ、この森は昼間でも魔獣が徘徊しているし、あんまり無理をしてほしくないなぁ……と、思っていたんですけど、そんなことを思いながら僕が山道を進んでいると、そんなおもてなし1号にいつの間にか併走して走っている亜人が数人現れまして……
「あんた達、タクラ店長とそのご家族?」
 と、窓越しにそう聞いてきたその亜人さん。

 見た感じは豹人っぽいのかな? そんな女の人を中心にした3人組なんですよね。

「えぇ、そうですけど……貴方方は?」
「あぁ、アタシ達はテトテ集落で用心棒として雇われてる豹人のミミィ。あとの2人は双子の弟の」
「イェンです」
「ウェンです」
 と、どっちがどっちかさっぱり見分けがつかないほどそっくりな2人が、なんか親指をグッと突き上げながら歯をキラーンと輝かせていました。
「テトテ集落の皆から頼まれてね、アンタ達の集落までの道中を警護させてもらうよ」
 そう言うと3人は、ミミィがおもてなし1号の前、で、イェンとウェンが左右に1人ずつ移動していき、ちょうど三角形の形でおもてなし1号を守るようにして走り続けていきました。

 だいたい察しました。

 テトテ集落の皆さんってば、この石畳の道を作る際の用心棒として、ミミィさん達を雇ったんだな……何もそこまでしなくても……
 そんなことを僕が思っていると、石畳のおかげで速度にのったおもてなし1号はいつもよりかなり早くテトテ集落へと到着しました。
 っていうか、結構スピード出てたのに、ミミィさん達涼しい顔をしてついて来ちゃったなぁ……やっぱ豹人さんって身体能力もすごいんだな……と、おもてなし1号を警護しながらついてきてくれた3人の身体能力に驚いていた僕なんですが、すぐに別の物に驚きました。
「な、なんだありゃ?」
 思わず僕は声をあげながら集落の方を見つめていたのですが……
 その先、集落の入り口の左右に建っています物見櫓からは
右の物見櫓に『歓迎! コンビニおもてなし一同様』
左の物見櫓に『歓迎! パラナミオちゃん リョータくん スアさん』
 と書かれた垂れ幕がでで~んと垂れ下がっていまして、皆が手に手にボンボンみたいなものを手にして大歓声をあげまくっているんですよね。

 ……えぇ、垂れ幕に僕の名前がないですけど、僕は大人ですので突っ込みませんよ……えぇ、突っ込みませんよ……すいません、やっぱり少し泣いてもいいですか?

 で、砦に近づいて見てわかったんですけど……パラナミオからスアまで描かれている垂れ幕なんですけど、その先、スアの名前の下に僕の名前もあったんですよ……ただ、垂れ幕が長すぎたせいで、僕の名前の部分だけ、地面にべたっと横たわってる状態でした……ま、まぁ、名前を忘れられてなかったってことで、よしとします、はい。

 で、集落に入ると、集落の皆さんはいつものように道を空けてくれます。
 いつもおもてなし1号を停車させる集落の中央にある広場まで、まるでモーゼの十戒のようにさ~っと人の波が割れていく様は、どこか爽快でもありました。

 で、おもてなし1号をいつもの場所に止めてですね、
「みなさんこんにちは」
 満面笑顔のパラナミオが元気な声でそう言いながらおもてなし1号の後部座席から降り立ちますと、周囲に集まっていた皆さんが一斉に
「「「「こんにちはパラナミオちゃん」」」」
 と、息もばっちりあった大合唱で返してくれました。
 この声の圧力には、さすがのパラナミオも少し押され気味でした。

 で、パラナミオの周囲に人だかりが出来るのと同時に、おもてなし1号の横にも行列が出来て行きました。
 当然、あれです。
「タクラ店長、早く! 早く、パラナミオちゃんに『あ~ん』してもらうための温泉饅頭を売ってくれ!」
 と、まぁ、ソワソワしながら集落の皆さん、手に手にお金を握りしめて待ち構えている状態です、はい。
 で、僕は取る物もとりあえず、テーブルを並べて温泉饅頭だけをまず並べていくんですけど
「これ買う! おつりはいいから!」
「い、いえ、そりゃ困りますから」
「まぁ、そう言うなって!」
 とまぁ、皆さん、手慣れた様子で机の上にお金を若干多めに置きながら温泉饅頭の入っている紙袋を掴んでは、パラナミオの所に駆けていくんですよね……パラナミオに、「はい、あ~ん」ってしてもらって食べさせてもらうために……
 ただ、多めにお金を置いて行ってお釣りを受け取らないのは勘弁してくださいって言ってるんですけど、
「まぁまぁ、店長さん。いつも来てくださっているお駄賃だと思ってもらってくださいな」
 そう言いながらリンボアさんがニッコリ笑ってくれるんですけどねぇ……

 あ、でも、今日はその恩返しも兼ねてといいますか、このテトテ集落に良い物を作って差し上げようと思っているんですよね。

 持って来た品物があらかた売り切れ、パラナミオと、自分に『私は対人恐怖症じゃない』との自己暗示魔法をかけているスアが、リョータと一緒に村人達に取り囲まれている間に、僕は集落の長のネンドロさんと一緒に集落の一角へと移動していきました。

 で、そこにあるのが、共同浴場跡地でした。
 ここ、ネンドロさんによると
「昔は、この近くの沢水を引きましてニャあ、ここで皆が入れる浴場をやっておったのですニャあけど……いつしか沢の水が涸れてしまいましてニャあ……使われなくなってもう結構経ちますニャあ」
 とのことだったんですよね。
 
 で、そんな共同浴場の中に入ってみますと……結構長いこと使われていない割に、中はすごく綺麗です。
「あぁ、掃除は皆でやっておりますニャあで」
 と、ネンドロさん。
「なるほど……となると、思ったより簡単に出来そうですね」
「簡単に……とは、なんですかニャあ?」
 僕の言葉に首をかしげるネンドロさん。
 僕は、そんなネンドロさんの目の前で、スアから預かっていた蛇口を魔法袋から取り出し、それを湯船の脇に取り付けて、グイッとひねりました。


 ドドドドドドドドドド


 その途端、その蛇口からすごい勢いでお湯が流れ出してきました。
 えぇ、これ、あのララコンベの地下温泉源から直接流れ出しているんですよね。
 スアの魔法で、この蛇口とララコンベの地下温泉源がつながっているんです。
 あの温泉は、直接出してもちょうどいい温度のお湯ですし、この共同浴場のお湯として使うくらいの量なら、このまま出し続けても全然問題ありません。
 で、僕は、この蛇口を男風呂と女風呂にそれぞれ設置し、湯船を温泉で満たしていきました。

 綺麗に掃除されていた共同浴場の中は、あっという間にあったかなお湯と湯気で満たされていきました。

 パラナミオ達の周囲に集まっていた集落の皆さんも、さすがに気付いたらしく、
「な、なんだこりゃ!?」
「き、共同浴場にお湯が!?」
 と、皆さん、まず驚き、そして歓声を上げ始めました。

「た、タクラ店長、こりゃあどういうことですかニャあ?」
 そう言いながら、呆然としているネンドロさんに、僕はニッコリ笑いかけました。
「いつもご贔屓にして頂いているお礼ですよ」
「そ、そんな……いつもお世話になってるのはワシらですニャのに……」
 そう言いながらも、ネンドロさんはすごく嬉しそうに笑っていました。
「おいおい、こりゃすごくいい温泉じゃないか……早速入ってもいいのかい?」
 そう言って来たのは、ミミィさん。
「えぇ、皆さんも遠慮無くお入りくださいな」
 僕がそう言うと、
「へへ、じゃ、一番風呂いっただきぃ!」
 ミミィさんはそう言うが早いかその場で真っ裸になりながら女風呂へと駆け込んでいきました。
 僕が振り返ると、平均年齢相当高めなお爺さん達、皆、その様子を凝視していました。

 まだ皆、若いな、おい。

 で、そんな事を思っている僕の背後にはスアがちょこんとおりまして、
「……ねぇ、見た、の?」
 そう笑顔で言ってきました。

 でも、目は全然笑っていません。

 で、僕はそんなスアに言いました。
「見た……でも、僕はスアのことが大好きだ!」
「……なら、言い」
 スアは、僕の言葉を聞きながら頬を赤く染めると、満足そうに頷いていました。

 そんな僕らを、集落の皆さんが
「まったく、見せつけてくれるねぇ」
「ラブラブだね、店長さんとこは」
「このこのぉ」
 と、まぁ、冷やかされまくること仕切りだったわけです、はい。

 で、せっかくなんで、この日の僕らは、集落の皆さんと一緒にお風呂に入ってから帰ることにしました。

 当然、スア・パラナミオ・リョータの3人は女風呂だったのですが、
 そんな状況に、男風呂は見事にお通夜状態で……い、いや、あの、僕いるんですけど……
 
 で、そんな男風呂にですね、
「パパ、皆さん、お背中流します!」
 そう言いながら、体にバスタオルを巻き付けたパラナミオが乱入してきまして
「いけません! 女の子がそんなあばばばばばばば」
「店長さん、そう固いことを言うなって」
「さぁ、パラナミオちゃんワシの背中から頼むぞい」
「いやいや、ワシが先じゃ」
「なんじゃと、喧嘩を売る気か、おい」
 と、まぁ、必死にパラナミオを押し返そうとしている僕をよってたかって押さえつける集落の皆さんと、見事なまでのハンディキャップマッチになりましたけど、まぁ、まったく勝ち目はなかったんですけど、集落の皆さんが、そんな僕の暴れっぷりも込みで喜んでくださったので、よしとします……パラナミオも、バスタオルの下にちゃんとスクール水着を着ていましたしね。

 そんなわけで、久々のテトテ集落で、僕らは少し長居を楽しみました。

しおり