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温泉に絡んであれこれと その1

 ヤルメキスがここ数日、非常に機嫌が良いです。
 毎朝、店で販売するためのお菓子を作りながら、いきなりニヘラァと笑い出したと思ったら
「うふ、うふふ……」
 とか、声をあげて笑い出し、その頬を赤く染めていたりします。

 まぁ、確実にルア工房のパラランサくんの影響でしょうけどね。
 
 ヤルメキスとはブラコンベの裏通りで偶然出会ったのが最初でした。
 祭りの際に、ほとんど路上生活みたいなのをしていたヤルメキスと出会って、そこで彼女が売っていた自作のお菓子を口にしたのが最初だったんですよね。
 あの時のお菓子って、お世辞にも美味しいとは言えない品物ではあったものの、独学で、しかも粗悪な材料を使ってここまでの物を作り上げたということは、むしろすごいんじゃないか? そう思った僕がスカウトしたわけなんですけど……その思惑通りヤルメキスは、きちんとしたお菓子の作り方を教えてあげて、さらにきちんとした材料を使ってお菓子を作らせて見たところ予想以上にすごい物を作り始めたわけです、はい。
 ヤルメキスの場合、覚えるのが遅いものの、一度覚えてしまえばそれを忘れることがほぼありません。
 なので、一歩ずつ成長しているヤルメキスを暖かく見守っていたわけですけど、そんな彼女に春が到来した様子なわけで、僕としてもなんか感慨深いわけです、はい。
 そんなヤルメキスを見つめながら、店長補佐のブリリアンが
「ヤルメキスってば、ちょっと浮ついてますね。とっちめておきましょうか?」
 腕まくりしながらそんなことを言い出すもんですから、必死に止めました。

 しかしまぁ、このブリリアンにしても縁あって一緒に働いているわけですけど、彼女の方がヤルメキスよりも一回り近く年上なんですからそろそろ浮いた話のひとつでも……と思ったりするんですけど、
「は? 何を言っているのですか? 私にはスア様の一番弟子としてしなければならないことが山ほどあるのです。そんな色恋沙汰にうつつを抜かす時間なぞもったいないだけですわ」
 と、真顔で言うもんですから、僕的にもそれ以上何も言えなくて……冬、になってしまうわけです、はい。
 ただ、この話が出る度にスアは
「……弟子にした覚えは、ない、よ」
 と言いながら困惑しきりなんですけどね……いやはや。
 
 そんなスアですが、最近温泉にはまっています。
 というのもですね、ララコンベの温泉宿なんですが、かなり奥深いところで新しい温泉源が発見されまして、温泉の成分がすっごいことになったんですよ。
 なんか、温泉がぬめっとしてる感じといいますか、滋養強壮、疲労回復作用がマジですごいことになっていまして、利用者からも
「こりゃすごいよ! 傷があっという間に癒えちまった」
「あんだけしつこかった腰痛がピタッとおさまっちまった」
 とまぁ、喜びの声が多数寄せられておりまして、その結果、リピーターの数もどんどん増えている状態です。
 で、その新しい温泉に興味をもったスアがですね、その温泉水を入手してきてあれこれ調べ続けた結果、
「……これは……魔法薬の成分に近い効能……ね」
 と、興味津々になりまして……

 で、どうなったかと言いますと……家の裏に、でっかい露天風呂が出来上がりました、はい。
 当然、スアが魔法で作り上げたこの露天風呂ですが、湯船の湯はすべてララコンベの地下水源から拝借してきています。
 ちゃんとララコンベの温泉に影響が出ない量だけこちらに魔法でくみ上げているそうで……っていうか、ほんとスアの魔法ってすごいなと、つくづく思うわけです。惚れ直したのは当然ですとも。
 で、スアは、その温泉水を使ってあれこれ研究をしながら、その研究で疲れた体を露天風呂で癒やすのがいつの間にか定番になりはじめているんです……えぇ、当然僕も一緒に入っていますけど、なにか?

 で、まぁ、せっかく露天風呂にしたんだし、僕達家族だけで独占するのもあれだし……ってなわけで、スアに温泉を少し大きくしてもらいまして、

 僕達家族の湯
 コンビニおもてなし寮のための湯

 の2つに分けてもらいました。

 一般開放もして……ってのも少し考えたんですけど、それをやっちゃうとララコンベの営業妨害になっちゃうよなぁ、と思った訳です。
 ……ただでさえ、温泉の湯を魔法でくみ上げているのは内緒といいますか……スアがいつの間にかやっちゃってたわけですしねぇ……あはは。

 寮のための湯は一応男性用と女性用に別れてはいるものの、今のコンビニおもてなしの寮に住んでいる男性となるとテンテンコウ♂しかいないわけで……しかも、テンテンコウ♂は、朝が早いもんですから夜はいつも精神的には眠っている状態でしてテンテンコウ♀の人格と体で過ごしているもんですから、お風呂も女風呂ばかり利用しているわけなんです。
 ……つまり、せっかく作った男風呂がまったく利用されていないんですよね。

 で、それは勿体ないなと思った僕は、

 ルア工房の男性陣
 ブラコンベのペリクドさんの工房の皆さん
 スアの使い魔の森の面々~ただし人型サイズの皆さんに限る

 こういった皆さんにも開放することにしました。
 ルア工房の男性陣は、主にオデン六世さんとパラランサくんですが、パラランサくんはよくヤルメキスと待ち合わせて一緒の時間にお風呂に入って、その後ビアホールで楽しそうにお話しながらお酒を飲んでいる姿をよく見かけるようになっています。

 ペリクドさんも、2日に1度は工房の皆さんやご家族を連れて温泉に入りにやってきています。
「いや、この風呂いいね! 一発で疲れが吹っ飛ぶよ」
 と、ペリクドさんも大のお気に入りになっているようです。
 このペリクドさん達が温泉に入りにくるのにも、スアの作成している転移ドアが使用されているわけですけど……ホントすごいよなぁ、スアって……さらに惚れ直す僕なわけです。

 使い魔の森のみんなも、ちょくちょく連れだってやってきては温泉でワイワイ楽しそうに声をあげています。
 一応男性陣にも開放はしているんですけど、頻繁にやってきているのはやはり女性陣のようで、温泉を利用したあと、ヤルメキス達と同様にビアホールでお酒や料理を楽しんで帰宅するのが常になっているようです。

 と、まぁ、温泉とビアホールの相乗効果がなかなかな物になり始めるとですね、やはり料理をもう少しなんとかしたいな、と思い始めてしまうわけです。
 今のビアホールは、以前のビアガーデンもどきの際の流れで、主に焼いただけの料理が中心です。
 一応、スープ類は新メニューとして追加して好評を博してはいるのですが、やはり専用の調理人を一人雇えたら、と思わざるを得ないわけです。
 そんなことを考えていると
「店長ちゃん、そこの料理人、アタシだめかな?」
 そう言い出してきたのは、四号店の店長補佐をしてくれているダークエルフのクローコさんでした。
「いや、そりゃありがたくはあるけど……体大丈夫なのかい?」
「さすがにぃ、朝までは無理っぽいけど、深夜までなら超オッケーって言うかぁ、アタシも結婚資金とか、マジ貯めときたいしさ、働けるウチに働いておきたいのよ。でさ、店長ちゃんの関連の店なら安心して務められるじゃん?」
 そう言って、クローコさんはニカッと笑いながら横ピースして舌を出していました。
 ……うん、何度も見てもその仕草って時代お……
「店長ちゃん、なんか今、失礼なことを考えてなかったかな?」
「考えない、考えない、考えたこともない」
 とまぁ、そんなわけで……
 ビアガーデンに、クローコさんが料理人として参加することになりました。
 クローコさんの勤務時間は、コンビニおもてなし四号店を少し早めにあがってもらって、午後6時くらいから午後11時頃まで。
 ただ、毎日となると通算の勤務時間があれなので2日ごとに勤務してもらうことにしました。
 クローコさんが早上がりの際は、四号店はララデンテさんに仕切って貰う事にしています。
「べっつにぃ、毎日でもぉ、クローコ的にはオールオッケーなんだけどなぁ」
 そう言ってくれるクローコさんですけど……まぁ、この世界には労働基準法とかないんですけど、さすがにだからといってブラックな勤務を強要するのもねぇ……

 あ、イエロやセーテンが朝までビアホールを取り仕切りながら飲み続けているのは自主的といいますか、別に1時でも2時でも、良い時間に閉店してくれていいからね、と、言っているのですが自分達が飲んで騒ぎたいがために店を開け続けているので、あえて気にしないことにしています、はい。

 で、そんな温泉成分を研究していたスアが、一本の飲み薬を僕に差し出して来ました。
「……お試し、よ」
 そう言って差し出された飲み薬を、僕は一気に飲み干したのですが……はて? これは何の効能があるのだろう? 特にこれといって体に効果があらわれてこないというか、遅効性なのかな?
 そんなことを僕が思っていると、スアも同じ薬をクイっと飲み干しまして
「……お試し、よ」
 そう言いながら、僕の袖を引っ張ってベッドへ連れて行きます。
「スア、これって何の成分が入ってたの?」
 僕がそう言うと、スアが頬を赤く染めながら
「……子宝成分」
 そう、ボソッと言いまして……え? そんな物が抽出出来たの? と、僕が目を丸くしていると、
「……だから、お試し、よ」
 そう言いながら、服を脱ぎはじめまして……

 あ、ここからはいつものように黙秘ということでよろしくお願いします。
 ……まぁ、いつも以上にハッスルしましたとだけ……

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