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天下への階段11

 朝日姫が家康に嫁いだ。家康が上洛しないので秀吉が策を弄する。この話も宗矩と黒田官兵衛が内々話し合っていたと言う。それと揚羽らしい腰元が黒田家に入ったと潜入させていたくノ一から報告があった。最近この二人は表向きにはあまり顔を出さない。鼠から繋ぎがあって狗はいつものように寺の庫裡に潜り込む。
 天海の前に座っているのは法師姿の家老だ。
「ご苦労。旅はどうだった?」
「しばらく北条におりました。宗矩殿も動かれておりますが、今回別の伝手で話が進みそうです」
「姻戚関係だな?これは私が乗りだそう」
 やはり家康としてはどうしても後ろを固めたい。天海がいよいよ乗り出した。
「胡蝶はどうしている?」
「浜松の奥の秋葉山に修験者たちを移動させております」
「よしここに来るように伝えてくれ」
「どうされるので?」
「気になることがあるのだ。これにはまだ柳生を使えない。じっくり時間をかけねばと思っている。柴田勝家の自害の後お市の方の3姉妹を覚えておるか?」
 狗は助け出した3姉妹を覚えている。とくに茶々が気になる。だが天海が言うまですっかり忘れていた。
「胡蝶にこの3人を見させて怨念の深い娘を選ぶのだ」
「術をかけさせますか?」
「そうだ。今のままでは年齢からみて家康の方が分が悪い。秀吉はお市の方が好きだった。当然今はいないから娘に気があるはずだ。秀吉を狂わせるには格好の題材だ」
 そこまで考えているのか?
 その時鼠の鳴き声がした。すでに高窓から出て屋根を走っている。狗も高窓に近づいて屋根から飛び降りた鼠を見た。その後を追いかけるのは修験者が3人だ。鼠はわざと囮になって走り出したようだ。

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