店長の休日 その1
朝が来ました。
まだ夜明前ですが、この時間に起きるのが僕の日課です。
いつもですと、このまま厨房に行ってコンビニおもてなし全店用のお弁当を作るわけなのですが、
「パパ、おはようございますですけど、どこに行くのですか?」
そんな僕に、目を覚ましたパラナミオ話しかけてきました。
「そりゃ、パパはお仕事に決まってるじゃないか」
そう答えたのですが、そんな僕にパラナミオは不思議そうな顔をしています。
「でもパパ……今日はパパはお休みじゃなかったのですか?」
「え?」
パラナミオにそう言われて、僕はきょとんとしていたのですが……
あぁ、そうだった!
僕は昨夜のことを思い出して手をうちました。
それは昨夜、みんなで食事を食べていた時のことでした。
コンビニおもてなし本店の2階は社員寮になっていまして、本店のヤルメキスとテンテンコウとイエロ、2号店のシャルンエッセンスとメイド達、コンビニおもてなし食堂エンテン亭の猿人四人娘達が入居しています。
で、この寮は朝晩食事付きってことで契約してたもんですからみんなは基本的にタクラ家と一緒に食事を取ってるんですよね。
で、昨夜もみんなで集まって食事をしていたのですが、そんな中シャルンエッセンスがおもむろに立ち上がりました。
「タクラ店長様、私、一言申し上げたいことがございますの」
そう切り出したシャルンエッセンスは、そう言いながら僕を見つめています。
「タクラ店長様が、いつも私達のことを気にかけてくださり、常に働きやすい職場環境を整えてくださっていたり、店の新商品を考案なさったり、店で販売するための商品の準備をあれこれしていただけているのはとても素晴らしいことだとは思いますの……でもですね」
そう言うと、シャルンエッセンスはズイッと身を乗り出しました。
「タクラ店長様は、いくらなんでも働き過ぎではありませんこと?」
そう言いながら僕をまっすぐ見つめてくるシャルンエッセンス。
その周囲では、シャルンエッセンスのメイド達やテンテンコウ、ヤルメキス達がウンウンと頷いています。
その横に、寮住まいではないはずのブリリアンとセーテンの姿を見つけて突っ込もうとした僕に対し、シャルンエッセンスはさらに言いました。
「タクラ店長様、明日から数日お休みをとられてはいかがでしょうか? お店のことは私達みんながフォローいたしますので」
ってなやりとりが昨夜ありまして……で、僕はあれこれ予定を確認した上で、
「じゃあお言葉に甘えて2日ほど休ませてもらおうかな」
って、話になったわけです、はい。
一応コンビニおもてなしって、日曜は休みにしてるんだけど、その日はだいたい新商品の開発してたり、新商品を仕入れるための交渉をしていたり……最近は、このガタコンベの仮領主になったもんですからその仕事をしたりしてるもんですから、実際のところろくに休んでないんですよね、僕ってば。
そんなわけで、今の僕はお休み初日なわけなんですよね。
そんな僕に、パラナミオは満面の笑みを浮かべながらベッドの上を移動して、僕の横へとやってきました。
最近は、僕→スア→リョータ→パラナミオの順番に並んで寝ているもんですから、ベッドの上のパラナミオは僕から一番遠い場所にいるんですよね。
で、パラナミオは、ベッドの上で上半身を起こしていた僕の体を押し倒していきました。
「ですから、パパもたまにはお寝坊してください。今日はパラナミオもお休みですから一緒にお寝坊しちゃいますから」
そう言いながら僕を横にならせると、パラナミオはそんな僕に寄り添って横になりまして、ポンポンと胸を叩いてくれたんですよね。
想像してください。
可愛い娘が自分の真横に寄り添って寝てくれているんですよ?
しかも、僕の胸の上に手を乗せたまま……そのまま寝息を立て始めたんですよ?
この状態に抗って起き上がれる人間が、この世にいるでしょうか?
断言します。絶対にいません。
いるはずがありません。
そんなことを思いながら、パラナミオを見つめていると、反対側でリョータの方を向いて寝ていたスアがむくりと起きてきました。
スアは、パラナミオが僕に抱きついて寝息をたてているのを寝ぼけ眼で確認すると
「……ずるい、私も」
そう言うと、パラナミオと同じように……いや、スアはその上を行きまして、僕の上にのっかってきまして、そのまま寝息を立て始めました。
僕の胸の上には、スアの寝顔が乗っかっています。
横にはパラナミオの寝顔です。
スアがさっきまで寝ていた方には、幸せそうな笑顔で寝ているリョータの寝顔があります。
この状態に抗って起き上がれる人間が、この世にいるでしょうか?
断言します。絶対にいません。
いるはずがありません。
と、いうわけで、僕は2度寝をしようと目を閉じたのですが……なんか幸せ感最高潮になってしまいまして、まったく眠ることが出来ませんでした。
で、寝るのを諦めた僕は、みんなの寝顔をデレデレしながら見つめていたわけです、はい。
◇◇
結局、ほどなくしてミルクを要求して泣き始めたリョータの声を合図に、僕らは起きだしていきました。
「改めまして、パパおはようございます」
「はい、おはよう」
僕とパラナミオは改めて頭を下げあいながらベッドから降りていきました。
そんなベッドの上では、スアが眠たそうな表情のままリョータにミルクをあげています。
「パパ、今日はのんびりしてくださいね。パラナミオがなんでもしてあげますから」
パラナミオはそう言うと、僕の横に立ってニッコリ微笑んでいます。
この様子だと、パラナミオはこの休みの間中、僕にくっついて離れないつもりのようです。
しかし、こうして休みをもらってみて自覚したんですけど……僕って、休み下手なのかもしれません。
いざ、休みだ!ってなったんですけど……何をしようってのが何ひとつ思い浮かばないんですよね……
なんか考えると
……そう言えば、あのお菓子の試作をしてみたかったんだよなぁ
とか
……あの野菜を使って弁当のおかずを増やせないかなぁ
とか
すぐに店絡みのことが頭にうかんできちゃうわけです、はい。
あ、でも待てよ。
僕はここであることを思いつきました。
「スア、みんなで海を見に行ってみない?」
僕がそう言うと、パラナミオが満面の笑顔を浮かべました。
「海ですか! パラナミオ見たことがないです、すごく興味あります!」
そう言いながら、パラナミオもスアへ視線を向けていきました。
まぁ、これ……若干仕事も入っているんですけどね。
例のすり身を作れる白身の魚がいるのかなぁ……って思ったりもしたわけですけど、それ以上に、この世界にやってきて海にいったことが、まだないわけですよ。
やっぱ気になるじゃないですか。
すると、スアは少し考えを巡らせていきまして、
「……せっかくだから、空を飛んで行く?」
僕へ視線を向けるとそう言いました。
……っていうか、え? 空?
僕が目を見開いていると、スアはニッコリ笑って右手を振りました。
すると……あれ? なんか家の窓の外が急に暗くなったような気が……
僕は、そんな気がして窓に寄っていったんですけど、するとその窓の外にですね、でっかいワイバーンがいたんですよ。
「ひょっとして、このワイバーンって、スアの使い魔なのかい?」
「……うん、そう、よ」
スアはそう言いながら笑っています。
気のせいか、ワイバーンもスアに呼んでもらえたのが嬉しいみたいで、なんか喜んでいるように見えます。
すると、そんなワイバーンを見つめながらパラナミオも目を輝かせています。
「パパ、ママ、この龍さんにのるんですか? パラナミオすごく感動です!」
それもそうだよなぁ……パラナミオってば、自分がサラマンダーっていう龍なんだけど、自分で自分には乗れないし、たまに遊びに来てくれるサラマンダーのサラさんに乗せてもらう機会もなかったもんなぁ。
ってなわけで、僕らは簡単なお弁当を持ってワイバーンの背中に乗り込んでいきました。
「お、おでかけですね、主殿。しっかりお休みを満喫してきてくだされ」
ちょうど狩りに出かけようとしていたイエロが僕達を笑顔で見送ってくれています。
そんなイエロに見送られながら、僕達を乗せたワイバーンは大空に向かって舞い上がっていきました。
さてさて、この世界の海ってどんなんだろう。
一応釣り竿も持って来たけど……パラナミオと一緒に釣りを楽しんだいとか出来るといいなぁ。