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パラナミオ狂想曲 その4

 おもてなし1号に、僕とスア、パラナミオと、スアに抱っこされてるリョータ。
 それに加えてテマリコッタちゃんとクロガンスさんをのせたところ、
 
 車体が5cmばかり沈み込みました。

「クロガンスさん……結構重いっすね」
「い、いやいや、これでも若い頃はじゃな」
「いや、この際若い頃はどうでもいいんで……」

 っていうか、さすがに5cmも沈み込むとちょっとやばいかな、と思っていたんですけど、ここでスアが魔法を使ってクロガンスさんの体を浮かせてくれました。
 おかげで、沈み込んでた車体は元の高さに戻りましたとさ
「む、むぅ!?」
 その事実を前にして、クロガンスさんは照れくさそうに頭をかいていました。
 すると、そんなクロガンスさんに、テマリコッタちゃんが腰に手をあてながら
「クロガンスお爺様、だから日頃から食べすぎは禁物だって言っているでしょう」
 なんか、すごい剣幕で怒っています、はい。

 そんなみんなをのせたおもてなし1号は、ようやく集落を出発しました。

「お疲れ様」
「また来てくれよ~」
「パラナミオちゃ~ん、またあ~んしてくれ~」
「テマリコッタちゃんも待ってるわよぉ」

 集落のみんなは口々に声をあげながら手を振ってくれています。

 いつのまにか2つに増えていた物見櫓の上にも多数の人々が登っていまして、みんなして手を振ってくれています。
(あの櫓、そのうち絶対増えるな)
 僕は確信を持って頷きました。

 助手席のスアもコクコクと頷いています。


 ちなみに、おもてなし1号の中ですけど、
 クロガンスさんには申し訳ないけど後部座席の後ろにある荷台部分に座ってもらってます。
 後部座席にクロガンスさんが座っちゃうと、パラナミオとテマリコッタちゃんが見事に押しつぶされちゃったんですよね……申し訳ないんだけど。
 僕がそんなことを思っていると、
「この席、なかなか快適じゃな」
 クロガンスはそう言いながら笑っていました……ごめんなさい、そこ席じゃないんだ……

 僕は、罪悪感をひとつまみくらい感じながらガタコンベに向かっておもてなし1号を走らせていきました。

◇◇

「しかしこのおもてなし1号とかいう乗り物はすごいですな……こんなに早く、ガタコンベについちまうとは……」
 クロガンスさんは、おもてなし1号の後部座席から降りると、感心しきりといった様子でおもてなし1号を眺めていました。

 まぁ、そりゃそうだよなぁ……
 この世界には馬車くらいしか乗り物がないらしいし、それらよりもこのおもてなし1号は圧倒的に早く走れるわけですから。

 あ、でも、王都には魔道船とかいう空飛ぶ幽れ……じゃなかった、飛行船みたいなのが飛んでるらしくて、それはおもてなし1号より断然早いみたいです。

 僕は、車を降りたクロガンスさんとテマリコッタちゃんを巨木の家に案内しようとしたところ
「あれ? クロガンスさん?」
 ビアガーデンの方からルアの声が聞こえてきました。
 するとクロガンスさんも笑顔をうかべ
「おぉ! ネリメリアのとこのお転婆娘か!」
 そう言いながらルアのところに歩みよっていきました。

 お転婆娘……あの、姉御肌のルアをそう呼ぶ猛者がこの世に存在していたとは……

 そんなルアは、お転婆娘呼ばわりされたにもかかわらず
「なんだよ、クロガンスさんってば、まぁた太ったんじゃねぇの?」
「ち、違うわい、これは毛が伸びただけで……」
 なんか、楽しく会話を続けています、はい。

 気がつけば、イエロとセーテンがスアビールを手渡していきまして、クロガンスさんってば
「乾杯じゃ! はっはっは」
 って笑いながらビールをごっごっと飲み干しています。

 うん、これは酒飲み娘48の、クロガンスプロデューサーってとこでしょうか。
 なんとなく体型が似て無くもない気が……

 と、まぁ、大人達はそこに置いておいて、僕はテマリコッタちゃんを巨木の家の中へと連れて行きました。
「テマリコッタちゃん、こっちがパラナミオの部屋なんですよ」
「そうなの? ぜひ見せてほしいわ」
 家に入るなり、テマリコッタちゃんはパラナミオに手を引かれながらパラナミオの部屋へ移動していきました。

 部屋といっても、リビングの奥を少し間仕切りしただけの場所なんですけどね。

 その中には、パラナミオお気に入りの積み木と絵本が綺麗に並べられています。
「この木はなんなのかしら?」
 テマリコッタちゃんは、積み木を手にして不思議そうな顔をしています。
 その横でパラナミオは、テマリコッタちゃんが手にしていない他の積み木を組み合わせていき
「ホラ家が出来ました! こうやって色々組み合わせて遊ぶんです」
 テマリコッタちゃんに説明しながら、笑顔を浮かべるパラナミオ。
「そうなんだ! じゃあ私も何か作って見るわね!」
 遊び方を教えてもらったテマリコッタちゃんは、パラナミオと競うようにして積み木を手にしていき、それをみ上げていきます。
 その横で、パラナミオも笑顔で積み木を組み合わせています。

 二人とも良い笑顔です、はい。

 楽しそうに遊んでいる二人の横で、僕は夕食を作っていきます。
 寮のみんなの夕食の方は、今日はブリリアンに指揮をまかせて、僕達はスア・リョータ・パラナミオにテマリコッタちゃん、そして僕の、合計5人で夕飯を食べることにしました。

「店長さん、このお肉とってもおいしいわ!? 何か味をつけているのね!」
 テマリコッタちゃんは、肉を口に頬張るなり目を輝かせていました。
 その横で、パラナミオもニッコリ微笑んでいます。
「そうなんです、パパの料理はとっても美味しいんです!」
 パラナミオは、どうやら僕の料理が褒められたことが嬉しいみたいです。
 二人は、終始笑顔を交わし合いながら食事を口に運んでいきました。

 食事を終えた二人は、仲良くお風呂に入っていきました。

 いつもは、僕がパラナミオと一緒にお風呂に入っていますけど……き、今日は血の涙を流しながら我慢しましたとも……えぇ……

「せっかくだから泊まっていけばいいのに」
 そう言う僕の前で、テマリコッタちゃんは
「家に帰らないといけないの……ヨーコさんが戻ってきてるかもしれないから」
 そう言うと、パラナミオの手をギュッと握っていきました。
「パラナミオちゃん、また遊びにきてもいいかしら?」
「もちろんです! パラナミオ待ってます!」
 二人は笑顔で抱き合っていきました。

 その後、しこたま酔っ払ったクロガンスさんも戻って来たので、スアの転移魔法で二人を家まで送ることにしました。
「移動魔法が使えるの!? パラナミオのお母さんってすごいのね! まるで物語に出てくる伝説の魔法使いみたい」

 げ、ゲフンゲフン

 目を輝かせているテマリコッタちゃんに、『その人が、その伝説の魔法使いだよ』と教えて上げてもよかったんですけど、リョータをフロント抱っこしているスアは無言で首を左右に振っていました。
 スアは「伝説の魔法使い」扱いされるのが嫌いなんですよね。
 おそらく、上級魔法使いだからってんで偉そうにしていた、あの上級魔法使いのお茶会倶楽部の面々を見てるからだと思いますけど……そういや、あいつらどこにいったんだろう……最近とんと噂を聞かないけど……

 で、スアは、クロガンスさんに家の場所を聞きながら、フンフンと頷いていきます。
 で、だいたいの場所を把握したスアが転移魔法を使おうとすると、
「あの、ちょっと先に寄って欲しい場所があるの」
 テマリコッタちゃんがそう言いながらスアに駆け寄りました。

 で

 テマリコッタちゃんに場所を聞いたスアが、その場所へ向かって転移魔法を使いました。
 スアの転移魔法により出現したドアを開けると、そこには小さな家が立っていました。
 なんか家のベランダの前にはやたら立派な窯付きのデッキがあります。

 その家は、無人らしく家の中は真っ暗です。

 テマリコッタちゃんはその家の玄関に駆け寄っていくと
「ヨーコさん、帰ってない? 私よ、テマリコッタよ」
 そう話しかけていきました。

 ですが、やっぱり家の中からは反応がありません。

 テマリコッタちゃんは、残念そうに肩を落としながら戻って来たのですが、僕達の前に到着すると、背筋を伸ばし、笑顔になっていました。
「お待たせしました、お家にお願いします」
 その笑顔で、テマリコッタちゃんは言いました……まだ小さいのに、しっかりしてる子だなぁ。

 その後、スアが新たに転移ドアを作成し、今度こそクロガンスさんとテマリコッタちゃんの家に着きました。
「パラナミオちゃん、またね!」
 家の前で、笑顔で手を振るテマリコッタちゃん。
 その後方で、クロガンスさんも手を振っています。

 そんな二人に見送られながら、僕達は転移ドアの向こうへと帰って行きました。

◇◇

 その夜、パラナミオは
「テマリコッタちゃん……むにゃ」
 と、そんな寝言をよく口にしました。
 おそらく、テマリコッタちゃんと遊んでいる夢でも見ているのでしょう。

 スアも、夜中に起きるであろうリョータに備えて熟睡モードに入っています。
 その横で、リョータもスヤスヤ寝息をたてています。

 明日はパラナミオと一緒にお風呂にはいるぞ、と心に誓いながら、僕も布団に潜り込んでいきました。

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