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童話

愛しき君へ。
僕は捧げる。
他の何にもならない。
この物語を。

病弱で体の小さな僕は毎日いじめの対象になっていた。
イジメっ子たちは僕をイジメることに生き甲斐を感じていた。
そうあの日が来るまでは......

それはある日の寒い日のことだった。

雪の塊が飛んできた。
ぎゅっと握りしめられた雪玉は当然のごとく痛い。

痛いから泣く。
泣くから投げる。

僕の反応が面白いからコイツらは牙を剥く。

頭の中ではわかっている。
わかってはいるけど涙を堪えれるほど僕は大人じゃない。

僕はまだ幼く。
幼いかと言われれば幼くない。
10回目の誕生日の日。
僕は君と出会った。

「何しているの?」

転入してきたばかりの君は彼らのことなど知りもしない。
彼らがどんなに恐ろしいか考えもしない。

「雪当てゲームだよ」

イジメっ子のひとりが言う。

「なにそれ?楽しそう!」

イジメっ子がひとり増えた。
そう思った。

でも、雪玉はそのイジメっ子の顔に当たる。

「何すんだ!」

イジメっ子が怒鳴る。

「雪当てゲームでしょ?」

「私はこの子のチームにはいる!」

君はそう言って僕の手を握りしめた。
その手は冷たく寒いせいか震えていた。

「そんなにやられたいのか?だったら!」

イジメっ子が雪玉を君にぶつけた。
君は1個投げられたら1個投げ返し。
2個投げたら2個投げ返した。

「ほら!貴方も投げなきゃ!」

「でも......」

僕が迷っていると。
雪玉が僕の頭に当たる。

「こいや!」

なんだろう?
ここで投げ返さないとずっと投げ返せない気がした。
だから僕は勇気を振り絞って投げた。
するとなんだろう?
心が少し暖かくなった。

1個また1個投げた。
これはまるで雪合戦だ。

チャイムがなってもやめなかった僕たち。
あとで先生に怒られたのは内緒の話。
その日から僕はいじめられることはなかった。

友だちが出来た。
転入生の名前は、北山瑞希みずきちゃん。
僕をいじめていた子の名前は拝島はいじま灰司はいじくん。

今では僕の大切な人たち。

僕は君に恋をした。

ずっと一緒だったけど。
もっと一緒にいたかった。

サヨナラを言わない関係になりたかった。

だから僕は勇気を出していった。

「君とお別れしない関係になりたい」

かなり遠回しなプロポーズ。
通じるかな?

「お別れしない関係?」

「うん、バイバイするのいつも寂しいから。
一緒に暮らしたい」

「同居?」

君の目がどこか寂しそうでどこか優しい。

「結婚したい」

「えー」

君は少しがっかりした様子でうなだれた。
ダメだよねダメだよね。
当たり前じゃん。
僕だもの。

「ごめん」

謝っても取り返しのつかないこと。
バイバイすら言えない関係になる。

25歳。

最後の冬。
僕は失恋の1ページをめくろうとした。

「私の方が先にプロポーズしたかった」

君はそう言って涙を流した。

「え?」

「幸さちくん、気が弱いから押したら倒せると思ってたのに先に押されちゃった」

「ごめん」

「謝るな!謝るなら取り消せ!そしたら私がプロポーズする!」

「じゃ、取り消す」

「え?」

「プロポーズどうぞ」

すると真顔で君はいった。

「幸くんたまに意地悪になるよね。
そんな意地悪にはこうだ!」

君はそういって僕の体を抱き締めた。

そして思う。

これがしあわせなんだって。

そして感じる。

これからもしあわせなんだってことを。

そして僕たちは結婚した。
誰も反対しなかった。

みんなに囲まれしあわせだった。

子どもが生まれる。

「ペータとかどうだ?
今、流行りのキラキラネーム」

灰司くんが言った。

「女の子なんだ」

君が笑う。

「じゃ、クララは?」

「アルプスの少女意識してる?」

「ああ、折角の子どもだ!楽しまなきゃだ!」

「僕たちの子どもなのに」

「今年産まれたらウチのガキと同じ歳かー」

灰司くんが嬉しそうに言う。

「いじめちゃダメだからね!」

君が笑う。

「ああ!勿論だ!」

そして子どもが産まれた。
早良という名前をつけた。

「なんで早良なんだ?」

「なんか出世しそう!」

灰司くんは僕の目を見ていった。

「それ絶対、早良ちゃんに言うなよ?」

その目はどこまでも真剣だった。
とりあえず親友の言葉は受け入れよう。
そう思った。

僕は今、製本会社に勤めている。
いい給料とは言えないけれど。
君の給料と僕の給料。
合わせればなんとかなる。

そんなことを思っていた。

早良の2歳の誕生日。
それは来てしまった。

「幸くん、大事な話があるんだけどいい?」

いつもは見せない真剣な目。

「どうしたのかな?」

「私、癌なんだって」

その言葉を聞き僕は戸惑う。

「治るんだよね?」

「末期なんだって」

「そんな......」

「ごめんね」

「瑞希ちゃんが謝ることじゃない」

「でも、仕事が......」

「僕が仕事を倍がんばる」

僕はその日から積極的に残業を受けるようにした。

朝も昼も夜も。
ずっと仕事。

お金を稼ぐって大変。

「大丈夫か?無理してないか?」

灰司くんが仕事の休憩時間に声をかけてくれた。

「無理はしないと、瑞希ちゃんと早良を守れるのは僕だけなんだから」

灰司くんはなにかを言おうとして言葉をやめた。

「そうか、そうだな。
守るって約束したもんな」

「うん」

僕は頑張るよ。
君のためならこの身が果てようと。
この体が壊れようと。
僕は耐えて見せる。

それから1年が過ぎた。
早良を保育園に預けることにした。
君はとうとう寝たきりになってしまった。

「幸くん、ごめんね」

「謝らないで」

「うん」

「今度謝ったらキスの刑だからね!」

「ごめんごめんごめんごめんごめん!」

君は何度も謝った。

「えー」

「だってキスしてくれるんでしょ?」

僕は無言で君の唇にキスをした。

「えへへ、なんか久しぶり」

「なんか照れるね」

それでも僕はしあわせだった。

それからさらに1年後。
君は今の病院より少し大きな病院に転移した。

早良はなにもいわない。
ぎゅっと僕の手を握りしめた君の姿を見ていた。

ある日、僕は早良がいじめられていることをしった。

理由は早良のいったさりげない言葉に隠れていた。

「ねぇ、パパ。
どうしてママはずっと寝ているの?」

君はずっと入院していた。
保育園の子どもたちは、ずっと母親と一緒だったのに対して早良はひとりぼっちだった。

僕は仕事、君は入院。

早良と向き合う時間なんてきちんと取れてなかった。

「みんながね。言うの
早良ちゃんのお母さんおかしいって」

「そっか」

「私みんなと違うの?」

僕はどう表現していいかわからなかった。
だから、昔聞いたお話を早良に話した。

「むかーし、むかし。
あるところに真っ赤なお鼻のトナカイさんがいてね。
いつもみんなにバカにされて笑われていたんだ」

そうこの話は、真っ赤な鼻のトナカイ。
昔この話を聞いて思ったんだ。
この物語の主人公ルドルフは僕なんだと。

みんなにバカにされサンタのソリを引くこともできないルドルフ。
明るく光る鼻。
その光はルドルフのなかでは闇だった。

そんなある日。
サンタクロースのソリを引くメンバーのひとりが怪我をする。

センターのトナカイだ。

ソリを引くことに憧れを持つルドルフは自分をアピールすることにした。

なにができるか?

それが永遠の課題だった。

ルドルフは何もできない。

ただ鼻が光る。

それだけだ。

だからトナカイは泣きたくなった。
なにもできない。
そんな現実を突きつけられても。
泣くしか出来ない。

クリスマスの前日。

サンタクロースがルドルフの前にやってきた。

「ルドルフくんだね」

「はい」

ルドルフは緊張して固まる。

「ワシのソリを引いてくれないかな?」

「え?」

ルドルフは戸惑う。

「僕はなにもできないよ?」

「鼻が光るんじゃろ?」

「はい」

「暗い夜道を照らす光になって欲しい」

ルドルフは舞い上がりました。

「僕でよければ!」

ルドルフは今宵こそは立派なトナカイになると誓いました。

「トナカイさんいいなー
みんなと仲良しで」

早良が寂しそうにそういった。

「早良はみんなと仲良くできないの?」

「みんなママがずっと寝てるっていってるの。
ベッドに横になって病院で怠けてるって......」

「そっか」

僕ら何も言えなかった。

怠けて病院にいる訳ではないというは僕も早良も知っていた。

僕は思った。
早良がみんなと仲良くできる方法を。

そんな話を君にしたら、こういったよね。

「じゃ、今度のクラスの発表会。
早良が絵本を作ればいいのよ。
私とパパも手伝うからさ!」

「わかった!
私、絵本作る!」

そして僕たちは、最初と最後の共同作業をした。

それから毎日。
君の病室で絵を描いたね。

灰司くんも手伝ってくれた。

そしてクリスマス前の発表会。
君は体調不良で参加できなかったけど。
早良はがんばったよ。

一生懸命言葉を出した。
大きな声で聞き取りやすく。
最初はざわついていたクラスメイトたちも静かに聞いてくれた。

最後には涙を流す子どもたちもいた。

早良が最後まで読み上げ拍手をもらったとき。

病院からの電話が僕の携帯を震わせる。

僕は覚悟した。

君の危篤の知らせだった。

僕は早良を呼び病院に向かった。
僅か10歳。
どこまで理解しているかわからない。
でも、その目はまっすぐでどこまでも透き通っていた。

静かに機械の音が鳴り響く部屋。

病院の先生が早良に言った。

「早良ちゃん、ママに話しかけてあげて。
耳はね最後まで聞けるんだよ」

早良はうなずいた。

「ママに絵本読んであげてもいい?」

早良はそういうと先生はうなずいた。

すると僕の知らない早良お手製の本がでてきた。

「むかしむかし。
ルドルフといういじめられっ子がいました」

それは僕の知らないルドルフの話。

むかしむかし。
あるところにルドルフという名前のいじめられっ子がいました。

なにをしてもどんくさく。
なにをされても泣いて。

でも、女の子はそのルドルフのことが気になって仕方ありませんでした。

はじめて見たときも泣いていました。
最後に見たときも泣いていました。

ある日、雪をぶつけられていました。

助けても一時的なものにしかなりません。

どうすればいじめられなくなるか。
考えました。

友だちになればいいのかな?

そう思っていじめている男の子に声をかけます。

「なにをしてるの?」

「雪当てゲームだよ」

もしもこの人たちがゲームと思っているのなら......

女の子は淡い希望を持ち今度は自分がいじめの対象になることを覚悟の上でいいました。

「なにそれ?楽しそう!」

ルドルフの顔に悲しみが溢れます。
女の子は雪を固めいじめっ子の顔に当てます。

「何すんだ!」

「雪当てゲームでしょ?
私はこの子のチームにはいる!」

女の子の声は震えていました。

「そんなにやられたいのか?だったら!」

いじめっ子は、女の子に向かって雪玉を投げました。

すると女の子は雪玉を2個投げ返しました。
いじめっ子は、ムキになりさらに雪を投げ返しました。

女の子は小さく笑いいいます!

「ほら、貴方も投げなきゃ!」

「でも......」

迷っているルドルフの頭に雪がぶつかります。

「こいや!」

いじめっ子がどや顔でいいます。

ルドルフは勇気を出して雪玉をいじめっ子にぶつけました。

そして、はじまったのは不正なしの雪合戦。

服がびちょびちょ。
なのに心はぽかぽか。

チャイムが鳴っても雪合戦。

先生があらわれみんなで怒られる。
でも、なぜか笑えた。

みんな一緒でみんなしあわせ。

ルドルフはそのいじめられっ子に、いじめられることは2度とありませんでました。

早良が小さく震える。
僕にはわかる。
泣きたいんだ。
泣き虫な早良は誰よりも優しい。

だから泣いてもいいんだ。
泣かずに生まれてきた子なんていない。

「それでね、それでね」

君の胸が鼓動が小さくなる。
機械の音が早く聞こえる。

早良はなにかを悟り。

「みんなしあわせなりました!
女の子とルドルフはしあわせになりました!
子どもも生まれました!
女の子とルドルフのあいだには女の子が生まれました!」

機械の音が荒々しくなる。
そして......

僕は早良を抱き締めた。
それしか出来ない。

早良は泣かない。

「ママ、ありがとう」

早良がそう言ったとき。
君の匂いがした。
優しい匂いがした。
あまいあまい香りだ。

君に抱き締められた気がした。
僕たちは優しさに包まれた。

小さな小さな箱に収まった君。
僕は涙を流せない。
僕が泣けば早良が泣けなくなる。
自分に無理をする。
それが早良なのだから。

こんなに早く君と別れるとは思わなかった。

でも、さよならは言わない。

目を閉じれば君が見える。

そんな気がするから。

今、時期外れのクリスマスソングが流れる。

真っ赤のお鼻のトナカイさんは。
いつもみんなの笑いモノ。

笑われてもいい。
だってそれは弱点でも欠点でもない。
自慢にしていいのだから。

僕は君と違うんだよ!

ってね。

-終-

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