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タクラ店長、大いに悩む その1

 この日の僕は、仕事が終わると自分の部屋でコンビニおもてなしの収支決算書を確認していました。

 コンビニおもてなしの収支決算書は、各店の魔法レジが自動で行ってくれますのでいつでも確認することが出来ます。
 現金もすべて自動で集計してくれていますので、その点では各店に苦労をかけずに済んでいます。

 で、どの店も毎月順調に売り上げを伸ばし続けています。
 特に顕著はのは3号店と4号店です。

 3号店は、元は僕が暗黒大魔道士を討伐した恩賞としてもらった別荘で魔法書を販売し始めたのが最初だったんですけど、滅多に手に入らない魔法書が大量に販売されているっていうのが魔法使い達の間で話題になり、今では僕の別荘でもあるコンビニおもてなし3号店の周辺にはすさまじい数の魔法使い達が集まって暮らしていまして……正直、ちょっとした街規模になってるんですよね……しかも、まだ増え続けているもんですから、その分売り上げが上がり続けているわけです、はい。

 4号店は、温泉街として生まれ変わったララコンベの中にあります。
 このララコンベですけど、それまでの主要事業だった魔石鉱脈が尽きたために街消滅の危機に陥ったんですけど、新たに温泉街として復興することが出来まして、非常に緩やかではありますが都市民や観光客が増え続けています。
 それに比例して、コンビニおもてなし4号店の売り上げも右肩上がりの状態です。

 それに対して、本店と2号店の売り上げは良い意味で横ばいです。
 どちらの店も、弁当やパン、お菓子なんかは毎日全部売り切れています。
 今までただの一度も在庫廃棄をしたことがありません……元いた世界で営業していた頃から考えたら夢のような話です。
 毎日閉店する際に売れ残っている品物といえば、高額なスアの薬や、高額なルアの武具、高額なペリクドさんのガラス商品と、まぁ、そんな物だけなんですよね。
 でも、油断してると最近はそんな高額な品まで売り切れたりして
「て、店長! 売り物が無くなりましたわぁ」
 って言いながら2号店店長のシャルンエッセンスが本店に駆け込んできたことが何度かあったりします。

 とまぁ、そんなわけで……

 元いた世界では倒産寸前だったこのコンビニおもてなしですが、今ではコンビニ4軒、食堂1軒……まぁ、食堂は名前を貸してるだけなんですけどね。
 とにかく、そんな企業に発展し、順調に営業し続けているわけです。

 あとは、背伸びをしないで、地道にこつこつやっていけば、と思っている僕なわけです、はい。


 そんな事を思っていると、僕の部屋にスアがトコトコと入って来ました。
「……お客さん、よ」
 そう言われて、スアと一緒に巨木の家の玄関に出てみますと、そこには商店街組合のエレエがいました。
「タクラ店長、いつもお世話になってます」
 そう言いながら頭を下げるエレエ。
 よく見ると、その後方には組合の蟻人さん達が5人一緒にやってきています。

 はて? 何かあったのかな?……商店街の寄り合いはまだ先だったと思うんだけど……

 するとエレエは
「今日はですね、タクラ店長に折り入ってお願いがあってまいりましたのです」
 そう言い始めました。
「まぁ、立ち話もなんですから中へどうぞ」
 僕はエレエ達を巨木の家の中へと招き入れました。

 一階のリビングに座ってもらって、僕は話を聞くことにしました。
 エレエは、改めて僕に向かって
「タクラ店長さん、改めてお願いでごます。このガタコンベの街長になっていただきたいのです」
 そう言って頭を下げてきたわけです。


 って、街長? はい?


「え~っと、ちょっと待ってよ……街長っていえば、この街の行政のトップってことだよね?」
「はい、そうでございます」
「えっと……その街長に僕が?」
「はい、そうでございます」
「え? 何? 現街長さん、急に辞めちゃったとか、そんな話?」
「いえ、我がガタコンベには、もう長いこと街長さんがいないのですよ」
「え?」

 って、言われて……あぁ、そう言えば、そんな話があったなぁ……僕はようやくその話に思い当たりました。

 ここガタコンベって、昔は今の何倍もの人口がいて、すっごく賑わってたそうなんですよ。
 それが、もともとド田舎のド辺境だったもんですから、だんだん人口も減っていってですね、街長さんがいなくなっても、その後任のなり手がいない、と……
 で、仕方なく商店街組合が役場の代行みたいな事を何年もやり続けていたそうなんですよ。

「それがですね……王都から通達がありましたのですよ。
 領主のいない辺境都市は、至急領主を任命するようにって」
 僕は、その話を聞いて首をかしげました。
「いや……王都がそう言って来たってのはわかったけどさ……だからといってなんで僕が領主にって話になるんだい?」
 僕がそう言うと、エレエは一度咳払いをして言い始めました。
「タクラ店長様はですね、人種であられますし、さらに暗黒大魔道士討伐で、王都から表彰されたという実績がございます。さらにさらにお店も順調に経営しておられますし、こういう方に領主になっていただいておけば、王都の審査も通りやすいんですよ」
 あぁ、なるほどねぇ……確か王都って人種至上主義とかで、人種の方が好ましいって考える人が多いんだっけ。しかも、その人種の僕は、その王都から表彰もされてるし、しかも優良企業の社長だし……そういった意味で適任はないかって話なわけだ。
「そうですそうです。それでですね、タクラ店長にはとりあえず名前だけ貸していただければ、あとは全て私達商店街組合が全員でサポートと言いますか、今まで通り全ての業務をさせていただきますので、タクラ店長には一切ご迷惑もご負担もおかけしないお話なのです」
 エレエ達はそう言って改めて頭を下げていきました。

 ってことは、ようは名義を貸してくれって話なのか……

 う~ん……僕としても、エレエにはいつもお世話になっているし、何にもしなくていいのなら、名前くらい貸してもいいかなって思わなくもないんだけど……
 ただ、この世界の行政の仕組みなんてさっぱり知らない僕が、名だけとはいえ、こんな話をほいほいとお受けしちゃっていいのかしらと思ってしまうわけですよ。

 ってなわけで、エレエには申し訳ないけど、少し考えさせて欲しいってことにして、この日は帰って貰う事にしました。

「タクラ店長、どうか助けると思ってよろしくなのですよ」
 エレエ達は改めてそう言い、みんなで頭を下げてから帰っていきました。

 僕は、みんなを見送るとスアに話を聞いてみました。

 ……ただ

「……街長って、よくわかんない、ごめん、ね」
 って言いながら、シュンってなっちゃったんですよね。
 
 まぁ、確かに、スアは魔法のことは詳しいけど、僕と出会うまでは超絶引きこもりしてたわけだしねぇ。無理も無いか。

 で、エレエが置いていった王都からの通知を見てみるとですね、
『辺境に、領主不在にも関わらず辺境都市を名乗り続けている都市が多数見受けられる。
 そういった都市は、速やかに領主を任命し。王都の審査を受けること。
 この指示に従わない都市は、辺境都市としての資格を剥奪し、以後、補助金を支払わない』

 まぁ、大まかに言えばこんな内容なわけです。

 エレエ達が必死になってるのは、最後の「補助金」の部分なんですよね、おそらく。

 確か、辺境都市は王都から公共施設の維持補修費や、治安維持のための衛兵雇用費用なんかを補助金として基本全額支給されているはずです。 
 ちなmに、この衛兵雇用費用で雇われているのが、盗賊だった頃のセーテンの部下だった猿人達なんですよ。

 で、この補助金がカットされたら、城壁や公道、上下水道が壊れたら全部都市民からお金を集めて直すしかなくなっちゃうわけで、その分住人が負担するお金が増加するってことなんですよ。
 そうやって負担するお金が増えていけば、それを嫌がって街を出て行く人達も増えちゃうんじゃないかって話です。

「まぁ、エレエ達が手伝ってくれるって話だし……受けてあげても……」
 僕がそう思っていると、そんな巨木の家にですね、今度はシャルンエッセンスと、クローコさんがやってきました。

 はて、なんか珍しい組み合わせでやってきたなぁ、って思っていると、
「いえ、出くわしたのは偶然でございますわ」
「そうよ、アタシ、もう寝るとこだったしぃ」
 シャルンエッセンスとクローコさんはそう言いながら、改めて僕に向き直ります。

 まず、シャルンエッセンスが言いました。
「今日ですね、コンビニおもてなし2号店にブラコンベの商店街組合の皆さんがこられまして、『タクラ店長にぜひブラコンベの街長になってほしい』って言ってこられたのでございますわ」

 次に、クローコさんが言いました。
「なんかねぇ、組合のペレペちゃんが来てさ、タクラっちにぃ、ララコンベの街長になってくれってお願いしてって頼まれちったのさ」

 ……なんですかね?……僕には街が違うだけで、まったく同じ用件が3件、同時に舞い込んできたように見えるんですけど……

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