どっこい生きてる○き○の中 その1
色々ありまして、コンビニおもてなし本店の店員が一名増えました。
ウルムナギ又のルービアスです。
ルービアスはですね、毎朝、夜明け前にスアの使い魔の森からコンビニおもてなし本店へやってくると、店内の掃除をしながらみんなを出迎えてくれます。
調理は苦手らしいので、僕と魔王ビナスさんが調理したおかずと、ご飯を詰める作業をしてもらっているんですが、まぁ僕と魔王ビナスさんが調理するスピードってかなり早いもんですから、ルービアスはいつもひぃひぃ言いながら、でも弱音を吐かずに頑張ってくれています。
まぁ、僕と魔王ビナスさんが調理を終えたら手伝ってますんで、店的には支障ないんですけど、早く一人でこなせるようになるか、他のウルムナギ又候補生達が、ルービアスのように尻尾が割れて人型になってですね、店の手伝いをしてくれたらいいなと思っていたりします。
そんなコンビニおもてなし本店なんですが……最近、奇妙な噂を聞くことが多くなっています。
~某コンビニ勤務・店長補佐Bさんのお話
「閉店後にレジの残金確認していたらですね『ちょっと』とか『そこの女』みたいな感じで声を掛けられたんですよ。でも、周囲には店員Yしかいませんでしたし、明らかに店員Yの声とは違っていましたしね……」
~某コンビニ勤務・店員Yさんのお話
「あ、あ、あ、あれはでごじゃりますね、店がお休みの日に厨房でお菓子作りの練習をしていたときでごじゃります。店の方から何やら『誰かいないの』とか『チョー暇ぁ』とか声が聞こえてきたんでごじゃりまするよ。そ、そ、そ、そういう言葉遣いはでごじゃりまするが、店員TTK♀くらいしか使用しないでごじゃりまするけど、その時店員TTK♀さんは、その時コンビニおもてなし食堂エンテン亭に行っていたでごじゃりまするよって……」
~某コンビビニ勤務・店員TTK♂さんのお話
「僕が……厨房の掃除をしていたら……『根暗』とか『ウザイ』とか女の声がして……なんか、すごく落ち込んでいます……なので最近はパン作りが終わったらすぐに♀に姿を変えています……」
と、まぁ、そんな感じで色々な証言が集まっています。
ただ、この声をですね、僕と魔王ビナスさんは一度も聞いたことがありません。
「へぇ、そのような声がするのですかぁ……」
ちょうどお昼前の時間帯にですね、僕と魔王ビナスさんがレジ担当になった時間がありまして、その話をしてみたんですが……すると、魔王ビナスさんは頬を押さえながらレジの奥をジッと見つめていきました。
「店長さん」
「はい、なんでしょう?」
「その声の元凶ですけど……破壊したほうがよろしいですか?」
「へ?」
僕は、魔王ビナスさんの言葉の意味がわからなくて思わず呆けた声をあげていったんですが、そんな僕の目の前で、魔王ビナスさんはレジの奥にある、ある物を指さしました。
「おそらくですけど、これが原因ですねぇ」
魔王ビナスがそう言いながら指さしている先には、
でっかくて黒い招き猫がありました。
「……はて……この招き猫……いつからここに置いてたっけ?」
僕が腕組みしながら考え込んで行くと
『ちょっとちょっと、忘れるなんてひどいじゃないの、あんなに激しくやりあった間柄でしょう?』
その招き猫の中からそんな声が響いてきました。
あ
この声、聞き覚えがある。
「……もしかして、お前……ダマリナッセ?」
『ピンポーン、だいせいか~い』
そんな妙に陽気な声が返ってきました。
~暗黒大魔道士ダマリナッセ
詳しくは、異世界コンビニおもてなし繁盛記27話~30話「暗黒大魔道士騒動」参照ということで、以前ガタコンベの街に襲いかかってきた悪い人です。
僕が散々な目にあって、スアが大魔神怒る状態になりました。
「まぁ、そんな人だったんですねぇ? じゃあ壊しておいた方がいいですわねぇ、これ」
「えぇ、魔王ビナスさん、出来るんでしたらひと思いにやっちゃってください」
僕の言葉を受けた魔王ビナスさん。
「じゃあ力を込めていきますねぇ」
そう言うと、黒くて大きい招き猫をむんずと掴んでいきまして、
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」
そう言いながら、徐々に力を増大させていっています。
まるでどこかの星の宇宙鉄人のような力の込め方に僕が恐怖を覚えていると、
『ちょ、待って! お願いだから待って! 私、話しか出来ないから! これ以上魔力も増大しないから! ってか、あの伝説級の魔法使いに色々がんじがらめにされてるから、ホントもう何にも出来ませんから、存在まで消さないでぇ~、お願いします~』
「って言ってますけどぉ、店長さんどうしますぅ?」
そう言いながら、魔王ビナスさんは困ったような表情を僕に向けて来ました。
僕的には、『おく、ちょう、きょう』までいって欲しかった気がしないでもないんだけど、とりあえず魔王ビナスさんに招き猫をレジの上に置いてもらいました。
『はぁ……まぁじ死ぬかと思ったわ……ここでこの魂の入れ物を破壊されたらマジで存在まで消えちゃうからね、アタシ』
そんな声が聞こえてきながらですね、その招き猫はカタカタ動いています。
……これ、知らない人が見たら確かにホラーだよなぁ。
「で、ダマリナッセさん、急に言葉を話し始めたりして、何か用事でも出来たんですか?」
『用事?……用事ねぇ……』
ダマリナッセ招き猫は、そのまましばらく沈黙すると
『特にないわね』
そう言い切りました。
僕はニッコリ笑いながら魔王ビナスへ視線を向けると、
「ビナスさん、億からお願いします、億から」
「は~い、了解しましたぁ」
そう言いながら魔王ビナスさん、両手をワキワキさせながらダマリナッセ招き猫へ歩みよっていきます。
ワキワキしている手からですね、ありえない程のゴキゴキ音が聞こえてきているんですけど、見た目がすっごいロリおかんな魔王ビナスさんが、その音をさせているのがすっごい違和感なんですけど、そんな魔王ビナスさんが近づいていくとダマリナッセ招き猫は
『ごめんなさい! 嘘です! 嘘じゃないんだけど……と、とにかく助けてぇ』
絶叫しながら、ガタガタ本体を動かしてじわじわと店の向こうへ逃げようとしてるんですけど……まぁ、ミリ単位でしか動けてないんですよね。
ほどなくして、魔王ビナスさんにガッシと捕まれたダマリナッセ招き猫、
『な……なんでこの店ってば、伝説級の魔法使いだの、魔王だのって、超規格外なやつらばっかりいるのよぉ』
なんか、そんな涙声を発していますが……うん、それは僕もすごく思ってる。
で、まぁ、改めまして、魔王ビナスさんにストップをかけまして、ダマリナッセ招き猫に対峙していく僕なんですが、そんな僕にダマリナッセ招き猫さんは
『と、とにかく、温情には感謝するわ、この暗黒大魔道士ダマリナッセ・ザ・テリブルアの名にかけて、この店では二度と悪戯しないと誓うわ』
なんか、心なしかゼェゼェ言いながらそんなことを言ってきました。
ってか、やっぱり悪戯だったのか……まったく。
「しかし、お前。なんでまた急に話せるようになったんだ?」
『あのね……この招き猫に封印されて半年近く経つわけなんだけど……なんか魂が馴染んできたからか、こうして言葉くらいなら出せるようになったのよ……あ、でもこれ以上の力を出そうとか蓄えようとすると、あのロリ魔法使いが掛けまくってる封印魔法のせいで魔力が全部蒸発しちゃうのとねぇ』
ダマリナッセ招き猫がそう言うと、
「……誰がロリ魔法使い、よ」
そう言いながら、いつの間にか僕の隣に立っていたスアが鬼の形相をしていました。
なんか、その右手にばかでっかいゴーレムの拳みたいなのを装着してるんですよね。
で、その手を豪快に振り上げていく。
『ご、ごめんなさい、わ、悪気があったわけじゃないの、言葉のあやというか、つい本音がぽろっと……』
この後、僕と魔王ビナスの二人がかりで必死にスアをとめていったんですよねぇ。