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おもてなし1号に乗って その2

 数日後。
「先日は本当にお世話になりましためぇ」
 テトテ集落のリンボアさんがコンビニおもてなし本店を尋ねて来まして、僕に何度もお礼を言ってこられました。
 この日の僕はたまたま本店にいたものですから、無事応対することが出来たのですが
「集落のみんながですね、よかったらまた遊びにきてくださいって言っておりますめぇ」
 リンボアさんはそう言いながら僕にお土産を手渡してくれまして……いや、そこまでしていただかなくても、と思ったんですけど、リンボアさんは
「いえいえ、あれだけのことをしていただいたのですから、気軽に受け取ってくださいめぇ」
 そう言いながら、全く引き下がろうとされないわけでして……で、あまり断り続けるのも失礼かと思い、ありがたく受け取った次第です。
 
 そんな中
「パパ、ただいま!」
 ちょうど学校が終わったパラナミオがお店に入ってきて僕に笑顔で挨拶をしてくれたのですが、そんなパラナミオを見たリンボアさん、
「まぁ! この可愛らしい娘さん、店長さんのお子様ですめぇ!?」
 と、なんかね、両手を頬の脇で組み合わせて興奮しきりなご様子なんですよ。

 なんでも、リンボアさんと旦那さんのランボアさんの間にはお子様がいたそうなんですけど、30年くらい前、皆さんが住んでいたオトって街が洪水にあったとかで……

「お嬢ちゃん、お名前は?」
「はい、パラナミオはパラナミオといいます!」
 膝を曲げて座り込み、目線をパラナミオに合わせて話しかけていくリンボアさんに、パラナミオはいつものように元気いっぱいに返事をしています。
 その笑顔が、リンボアさんも嬉しくて仕方ないみたいで、パラナミオを見ながら何度もウンウンと頷いています。
「店長さん、お子さんはお一人? 他にはいらっしゃらないめぇ?」
 なんか、興奮しきりなご様子のリンボアさんなんですけど、そんなリンボアさんに僕は
「先日産まれたばかりの男の子がもう1人……」
 そう言うと、リンボアさん、僕にズズイと近寄って来て
「て、店長さん、も、もしよかったらぜひお会いさせていただけないかしら!?」
 と、「もしよかったら」といいながらも「絶対合わせていただきます」的なオーラを出しまくってるリンボアさんだったわけです。

 年齢的にもかなりお年のご様子だし、旦那さんのリンボアさんも同じくらいの年齢のようだったし、
 それに、何よりあの集落には若い方々が皆無だったわけですし……よけいにこういった小さい子供に接するのが嬉しくて仕方ないんだろうな……

 そう思った僕は、巨木の家へ戻るとスアに事情を話しました。
 スアは、少し身構えたんだけど……例の対人恐怖症で、です、はい。
 でも
「……う、うん、そうね……が、頑張る、わ」
 そう言うと、リョータを抱っこひもで背中に抱きかかえながらお店へ移動していったんだけど

「まぁ! お姉ちゃんもいたのめぇ!」
 そう言いながらリンボサさん、一目散にスアに抱きついていってそのまま頬ずりしています。

 リンボアさん、それ、お姉ちゃんと違います!
 嫁です! 母です!

「え? えぇ!? こ、こんなにお若いのに、奥さんなのですめぇ? まぁまぁまぁ!?」
 そう言いながらリンボアさん、スアの顔をマジマジと見つめながら不思議そうな顔をしているんですけど、見知らぬ羊人にいきなり抱きつかれた上に超至近距離から見つめられ続けている対人恐怖症のスアは、なんかプルプル震えながら必死に我慢しているわけでして……

 ちなみに、リンボアさん……ウチの嫁、リンボアさんより年上ですよ。
「またまた店長さんたら、ご冗談がお上手めぇ」
 リンボアさんは、そう言って笑っているんですけど……いえいえ、マジですって……

 で、まぁ、散々リンボアさんに抱きつかれて疲労困憊状態のスアに、もう戻っていいよと伝えたんだけど
「……大丈夫、これくらい」
 そう言いながら、頑張っていたわけです。

 で、改めてリョータを見たリンボアさんは、また感激したご様子で
「もうホントに可愛いですめぇ」
 そう言いながらリョータを眺めていました。
 リョータがまだ産まれて間がないから、抱っこは我慢してくださってたようなんですけど
「どうそ、よかったら抱っこしてやってください」
 僕がそう言うと、
「え? よ、よろしいんですめぇ?」
 そう言いながら、リンボアさんはスアからリョータを受け取って優しく抱っこしてくれました。
「まぁまぁ、ホントに可愛くていい子ですわねぇ」
 リンボアさんは、嬉しそうに微笑みながらリョータを見つめています。
 そんなリンボアさんをリョータはキョトンとした表情でみつめていたんですけど、おもむろにその手を伸ばすと、


 リンボアさんの高い鼻をギュッと握っていきました。


 僕とスアは、慌ててリョータの手を離すために駆け寄ろうとしたんだけど、リンボアさんは、かなり力一杯鼻を捕まれているにもかかわらず、その顔ににっこり微笑みを浮かべていまして、
「ん? ばぁばの鼻が珍しいめぇ? ふふ、もっと触っていいめぇよ」
 そう言いながら、リョータをあやし続けてくれていたんです。

◇◇

 結局リンボアさんは、それから1時間近くリョータをあやしてから帰宅しようとされたんだけど、さすがに今から歩いて帰ったら途中で暗くなるのは間違いないわけです。
 なので、おもてなし1号で再度お送りすることにしたんですけど、今日はパラナミオも一緒に行くことにしました。
「まぁ、パラナミオちゃんも送ってくれるめぇ?」
「はい、パパと一緒にお送りします!」
 そう言いながら、元気いっぱいに応対しているパラナミオを、リンボアさんは嬉しそうに見つめています。

 本当はリョータとスアも一緒に、と思ったんだけど、僕達が集落に行ったら確実に集落の皆さんが大挙して押し寄せてくるわけです……あの大群にスアは耐えきれないだろうと思うわけです、はい。
 リョータもまだ赤ちゃんだし、悪路ゆえの振動も気にはなったんですけど、多分これは、スアが抱っこしていれば魔法でうまく処理してくれると思うので、家族みんなでのドライブはまた別の機会にでも、と思った訳です。

 で、おもてなし1号で山道を進んで行くこと1時間。
 無事テトテ集落に到着したんですけど、おもてなし1号が到着するやいなや
「おい! コンビニおもてなしの店長さんがきたぞ!」
 って、誰かが叫ぶと同時にですね、村中から人々がドドドと集まってきてくれたわけです。

 で、今日はパラナミオが一緒なわけですよ。

「うぉ! なんて可愛いお嬢ちゃんなんだ!」
「こんにちは、お嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃん、なんか食べるか!」
 と、まぁ、集落の皆さんは一斉にパラナミオに殺到していったわけです、はい。
 その集団に囲まれているパラナミオですが、
「パラナミオ・タクラです。こんにちわ」
 集団に怯むこと無く、満面の笑顔でみんなに挨拶をしているわけです。

 その挨拶が行われる度に
「か、かわいい!」
「天使だ!」
「飴いるかい?」
 とまぁ、みんなから歓声があがっていたわけです、はい。

 そんな皆さんを見つめながら、リンボアさんは
「この集落のみんなはねぇ、とっても人が好きめぇけど、最近はほとんど村に人が来てくれることがなかっためぇから……このあいだ店長さんが来てくれてね、みんなとっても喜んだめぇ」
 そう言いながら笑ってくれたんですけど、村の皆さんの関心は、今、間違いなくパラナミオに完全移行しているぞ、と思っている僕の考えは、きっと勘違いではないと思うんだ、うん。

 まぁ、パラナミオが可愛いのは事実なので、仕方ありませんけどね。

 パラナミオが集落のみなさんに愛想を振りまいているのを、リンボアさんと見つめていると
「店長さん、ちょっとよろしいかニャあ?」
 なんか、すごくお年を召した感じの人猫さんが僕に声を掛けてきました。

 そのお爺さんは、ネンドロさんと言ってこの集落の長なんだそうです。
 で、そのネンドロさんが言われるにはですね
「もしよかったらなんじゃが……月に何度か物資を持って来てもらうわけにはいかないかニャあ?」
 そう言われたわけです。

 お話をよく聞いてみますと、この村には昔は行商人がちょくちょく寄ってくれていたそうなんですけど、最近は全然寄ってもらえないそうでして、で、食べ物は農業をしているのでなんとかなっているそうなんですけど、魔石とか農具とかいった一般雑貨が不足することが多くて困っていたそうなですよね。
 で、村で一番若いリンボアさんが、村を代表して一番近い街であるガタコンベのコンビニおもてなしへ買い出しにいらしていたんだとか。

 リンボアさんが一番若いっていうのもびっくりだったんだけど、言われて見ればリンボアさんって、結構重たい鍬や鍋なんかも買って帰っていくことがあったってブリリアンが言ってたし、それにはこういう事情があったんだなぁ、と、納得しきりだったわけです。

 行商人のことは事前に組合のエレエからも聞いていたし、この集落の皆さんに何か出来ることがあるかな、って思ってもいたところでもあったので、僕はネンドロさんには少し時間をくださるようお伝えし、この日は一度帰ることにしました。
 
 今日はパラナミオもいたもんですから、集落のお見送りが前回以上の数でした。
 歓声を上げながら手を振ってくれている皆さんに、パラナミオは窓から身を乗り出して手を振り返しています。

 そして10分後

 それまで色々お話していたパラナミオがですね、急に静かになったなと思って助手席へ視線を向けると、パラナミオはシートにもたれて熟睡していました。

 元気に笑顔で振る舞い続けていましたけど、やっぱりあれだけの人々に囲まれたもんですから疲れたんでしょう……なんといいますか、ホントに頑張り屋さんなパラナミオです。

 僕がそっと頭を撫でると、パラナミオは眠ったまま嬉しそうに微笑んで
「パパ大好き……」
 そう寝言を言ってくれました。

 なんと言いますか、マジで天使です、この子。

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