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戸締まり用心、火の用心 その2

 この夜、月に一度のガタコンベ商店街組合の定例会におきまして、
「夜の街中を、当番制で警邏しましょう」
 との申し合わせが決まりました。

 元いた世界でいうと、
「火の用心、マッチ一本火事のもと」
 って言いながら、カチカチって、拍子木をならしていく、あれのことのようです、はい……って、え? 知らない? あ、そう……

 で、僕も当然参加しようと思っていたんですけど
「店長はリョータくんの面倒を見てあげてください、私が行きますわ」
 本店副店長のブリリアンが、そう言って胸をドンと叩いてくれました。

 そう言ってくれるのは確かにありがたいんだけど、ブリリアンは女性だしなぁ……
 万が一ってことがないとはいいきれないこともあり、本店の男性店員を誰か……そう思って改めて店員を思い出して見るとですね、僕以外の男性というと、カタツムリ族のテンテンコウ1人しかいないんですよね、これが。
 しかもこのテンテンコウですけど、最近は元気でキャハキャハなテンテンコウ♀状態でいる事の方が多いこともあり……まぁ、やっぱり僕が行くことにしました。

 組合のエレエの話ですと、警邏期間はとりあえず1ヶ月で、1度に3人ずつで回るんだとか。
 とすると、商店街の全店舗数から考えましても1人が警邏する回数は多くても2回くらいでしょうし、それくらいならまぁ、問題ないかな、と思うわけです。

 ちなみに街の外……門の周辺は、街の衛兵である元猿人盗賊団の面々が交代交代で警邏していますし、ルアの旦那であるオデン6世さんも
「ぶぁ~か! な、何を勝手に人の旦那にしてんだよ! お、オデン6世はただの仲良しの同居人ってだけで、別に旦那ってわけじゃねぇんだよ!」
 と、壮絶に突っ込みを入れてくるルアをですね、生暖かい視線で見守りながら話を戻しますと、オデン6世さんも城壁周辺の警邏仕事をしてくれているわけです。
 そんな感じで門だの城壁だのがガッチリ警邏されていますので、街中で何か起きるってことも考えにくいわけです、はい。

 んで、商店街組合の警邏が始まって3日後に僕の番がやってきました。

「パパ、頑張って来てください!」
 パラナミオが笑顔で僕を見送ってくれます。
 その横にはリョータをおんぶ紐で背負った状態のスアが立っていてですね、パラナミオ同様、手を振ってくれています。

 僕はみんなに見送られながら役場の建物前に早足で向かって行きました。 
 すると、集合場所であるそこには、すでに僕以外の2店舗の代表の方が待っていました。

 1人は、飲み屋の店主である狐人のフォリドム。
 もう1人は洋服屋の店主である蜘蛛人のスルンパインの2人です。
「お、タクラさんお疲れドム」
「では、早速回りますパイン」
 そう言う2人とともに、僕は夜中のガタコンベの街中を2人と一緒に歩いて行きました。

 街中は真っ暗闇です。
 街灯もところどころにはあるんですけど、1個1個の間隔がかなり広いため、街中だといのに星明かりでしか足元を見ることが出来ない場所っていうのが結構あります。

 これに関しては、すでにエレエが報告書と予算要求資料を作成し終えているそうでして、
「近々、王都に提出するのです」
 そう言って、胸を張っていました。
 なんといいますか、エレエ達組合の蟻人さん達はとにかく働き者なんですけど、いったいいつ休んでいるんだろうね、って逆にこっちが心配になってくるんですよ。

 で、そんな中
 僕・フォリドム・スルンパインの3人は周囲を見回しながら街中を警邏して回りました。

 まぁ、警邏と言いましても街道を歩きながら、不審な人物が出歩いていないかとか、街道沿いの店の戸締まりがしっかり出来ているかどうかを見て回ることが仕事になります。

 店の出入り口の戸締まりを忘れちゃってたっていうのをですね警邏途中の今現在、すでに4件見つけています。
 なんと言いますか、まだ全体の半分も回っていないのに、すでに4件も見つかったわけです。
 こりゃ結構みんな不用心といいますか、ちょっと気合いを入れ直した方がいいんじゃないかって思ったりしてしまうわけです……とりあえず今日の警邏報告にはそう書いておこうと思います、はい。

 そんな中
「そう言えば、タクラさんところ、子供が生まれたんでしたドムね」
「おぉ、そうでしたパイン、おめでとうございますパイン」
 警邏途中に、不意にフォリドムとスルンパインの2人に、リョータのことで祝いの言葉を頂きました。
 僕は、2人に向かってにへらぁ、と頬を緩ませながら、
「いやぁ、ホントありがとうございますぅ。もう毎日幸せでしてねぇ」
 そんな感じで、お礼と赤ちゃんの最近の様子を言葉でたっぷりお届けした次第です。

「ウチもね、3人子供がいますけど……いやぁ、嬉しくなる気持ち、ホントよくわかるドム」
「赤ちゃんは天使パイン。いいもんですパイン」
「ですよねぇ、ホント赤ちゃんは天使ですよねぇ」
 とまぁ、赤ちゃんっていいね会話から、ウチの子供のこんなとこがすごいでしょ自慢に移行していったところで、無事警邏は終了しました。
 3人とも、自分の我が子自慢に熱中しすぎて、思わず警邏2週目に突入しかけたりもしましたけど、無事終了することが出来た次第です、はい。

 すでに夜半過ぎになっていました。
 そんな中、2人と別れた僕は組合の建物前から巨木の家のあるコンビニおもてなし本店の方へ向かって歩いていきました。
 その時、僕は初めて気がついたんですけど……なんか僕の足元に出来ている僕の影がですね、なんかおかしいんですよ。

 と、言うのがですね

 普通影って、光が当たってるのとは反対側の足元に出来ますよね?
 それが、今の僕の足元には、街灯の反対側に延びている影が1本と、その街灯に向かって伸びている影が1本の合計2本あるわけです。

 これが、元いた僕の世界であれば、街灯が数メートルおきくらいに建っていますので、それぞれの光が干渉しあった結果、影が複数出来るケースはあったように思いますけど、この都市の街灯はそんなに密には設置されていませんしね。

 僕がそんなことを思いながら街灯に向かって伸びている不自然な方の影を、立ち止まって見ているとですね
 その影の中から、不意に水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)が姿を現しました……って、あれ? スアが召喚した水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)ってコンビニおもてなし2号店とコンビニおもてなし食堂エンテン亭の2店舗にそれぞれ1人ずつしかいなかったはずじゃあ……そう思いながら、その水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)と肩を並べて帰宅していった僕。
 そんな僕を巨木の家で僕を出迎えてくれたスアに聞いて見ましたら。
「……うん、心配だったから、頑張ってもう1体、召喚した、の」
 との事でした。

 僕が警邏に向かった後で思い立ったらしくて、召喚出来たら即僕の元へと影状態で向かわせてくれたんだそうで……まぁ、何も起きなかったとはいえ、こうして一緒に警邏してくれてた人……あ、いや、魔族? いや、怪物?……ん~、まぁいっか、とにかく水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)が一緒に警邏してくれてたってだけで、こちらも安堵出来たわけです、はい。

 この後、この水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)は、この日以降に警邏をする3人にくっついていって一緒に警邏をしてくれています。
 組合のエレエを通して、警邏実施者の皆さんには伝えてもらったんですけど、その結果、警邏される皆さんからはですね
「いや、ホント助かりますよ」
「やっぱねぇ、もし本当に闇の嬌声とかいうグループの奴に出くわしても、僕らだけじゃどうにも出来なかったと思いますもの」
 そんな感じで、感謝感激な声が多数寄せられている次第です、はい。

◇◇

 そんな感じで警邏を終えて戻った僕の横をパラナミオがなんか胸を張って歩いています。
「パラナミオ、何やってんだい?」
 僕が聞くと、パラナミオは
「パパがいない間、パラナミオが巨木の家の中を警邏していました」
 そう言いました。
 なんといますか、頑張り屋さんなパラナミオなわけです、はい。

 僕は、思わずパラナミオを抱きしめまして、
「お疲れ様、とてもありがたいよ」
 そう言いました。
 するとパラナミオもにっこり笑顔を返しながら、僕を抱きしめ返してくれています。
 
 で、それをスアと、そのスアに抱っこされているリョータが手を伸ばして抱きしめていき、
「お、家族の輪でございますな」
「アタシも加わるキ」
「テンテンコウ♀、躍りながら加わりまぁす」
「なんかわかんないけど、いいよね、こういうのも」
 なぜか巨木の家に乱入してきた、ビアガーデンで酒を飲んでいた、酒飲み娘の、イエロ・セーテン・テンテンコウ♀・ララデンテさんが、僕らを抱きしめて、なんか、昆虫ゼリーを買いに来てた昆虫族の皆さんまでこの輪に加わって、と

 今日もタクラ家名物家族の輪が、でっかく出来上がったわけです、はい。

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