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管理者3

 本気を出すまでもなく決着した戦いを思い出した後、オーガストは人形の可能性について思案する。
 仮にソシオが作製した人形を参考にして、オーガストが全力で人形を作製したとしよう。そうした場合の個体としての性能は、おそらく狭間の住民達を統合した個体よりも劣るだろう。それぐらい狭間の住民達を統合した個体は強かったのだ。
 しかし、狭間の住民達を統合した個体と人形との最大の違いは、数を揃えられるかどうか。
 狭間の住民達を統合した個体は、全ての狭間の住民達を一つに統合したので、当然ではあるがそれ以上数は増やせなかった。
 だがその代わりに、個としては最強と言ってもいいほどの強さに到達出来た。無論、それ以上に強いオーガストや始まりの場所の主は含まない。その二人は例外過ぎる。
 そんな最強の個でさえ、戦う気になったオーガストの前には立てない。もしかしたら正面でなければもう少し楽しめたかもしれないが、結果が全てだろう。
 替えの利かない個体が消滅し、それで終わり。しかし、数を揃えられる人形であれば、一つが壊れても沢山用意出来る。なんだったら同時に相手して包囲攻撃を経験してもいい。そうすれば少しは楽しめるかもしれない。
 そこまで考えたところで、オーガストは無理かと内心で溜息を吐く。
 どれだけ数を増やそうとも、人形とオーガストでは個体の性能差がありすぎるのだ。なので、人形を無数に集めてオーガストを一斉に攻撃したところで、オーガストにはかすり傷一つ付きはしない。
 そんな性能差でどうやって戦えというのか。そもそもの前提として間違っている。

(人形をより強化は・・・今の知識では難しいか。更に上の理を理解させるのが特に難しい。処理能力が絶対的に足りていないな)

 どうにかならないものか。そう考えるオーガストは、頭の中で色々と候補を挙げていく。しかし、やはり結果は芳しくない。

(処理能力を上げるとなると、もっと大型の人形にするべきか? 連結するだけでも処理能力は上がるだろうから、情報を処理する領域を拡大してみて・・・いや、そうなると各駆動部分を動かすのに情報量も増えるから、その調節分を加味すると、処理能力が向上するのも少しか。であれば。極力従来の大きさで処理能力を向上させないといけない訳か。しかしそうなると、うーむ)

 オーガストは思案しながら軽く顎を撫でる。
 別の方法が在るはずだと思いながら暫く思案すると、一つの考えが浮かぶ。

(情報を処理する領域を空間内に閉じ込めるか? 空間を広げてそこと繋げば、拡張した空間内に情報を処理する部分を設けられる。あとはそれをどうやって繋げておくかだが・・・人形に背嚢を背負わせる? しかし、そんな分かりやすい弱点を晒すのはな。であれば、内蔵するべきか? 体内に空洞を作り、その空間を拡張して繋げる。そうすれば、弱点を常時外に晒すような事態にはならない)

 それでよさそうだと思いながら、オーガストは他に何かいい方法はないだろうかと思案する。ソシオは未だに抱き着いたまま離れそうもないので、まだ時間はありそうだ。

(体内の空間を拡張させてそこに頭脳を持ってくるとして、どれぐらいの大きさがいいだろうか? 大きすぎても扱いにくいが、大きくなければ目的には沿わない)

 さて、どうしたものかと思うも、これといった妙案は浮かばない。
 いくら置き場所の問題が解決したとはいえ、情報を処理する部分を肥大化させると、処理能力は向上しても伝達に僅かに遅れが生まれてしまう。
 そして、その僅かな遅れでも致命傷になるほどの戦いをする予定なので、オーガストとしてはそこは是が非でも解決しておきたいところ。
 オーガストは最低限戦いになりそうな強さはと考えるも、その為には処理能力だけではなく、素材にもこだわり抜かなければならないだろう。

(うーん、人形を構成する材質か。柔軟性がありながらも硬い方がいいだろうが、そもそも今までの世界に僕の攻撃を一撃でも防げた物があっただろうか?)

 オーガストは今までの歩みを振り返ってみるも、実際に戦った相手の中に現在のオーガストの一撃を受け止められそうな存在は覚えがなかった。十分に手を抜いた一撃でも防ぐのは難しそうだ。

(難題が多いな。一撃すら防げない、かすり傷すら負わせられない。せめてこの二つを解決したいところだが・・・こちらの防御を最低まで下げれば、かすり傷程度ならばいけるか? その分人形側に隙が生まれてしまうが・・・うーむ)

 何か名案が浮かびそうで、中々浮かばない。そんなもどかしさを覚えるが、冷静になって考えてみると、その全てを解決出来たとしても何の意味も無いだろう。お遊戯をするにしても質が悪すぎる。

(やはり始まりの場所を参考に創るしかないか。その為には再度あの部屋に行って主の解析を進めなければな)

 最初から解っていた事ではあるが、結局そうとしか結論が出せない自分に、オーガストも限界を感じていた。
 結局のところ、オーガストの力の源は歪みなのだ。それも修復不可能なまでに歪んだ影響で、他の影響を受けなくなったのがそもそもの原因。
 それもはじめの頃はまだ歪みが小さかったので、他の子達よりも頑丈というだけで怪我ぐらいは普通にした。しかし、時と共に歪みは増していき、今ではほぼ傷を負う事はなくなった。傷を負うにしても自傷ぐらいか。もっとも、始まりの場所の主に関しては考慮に入れない。あれは始まりなだけに存在そのものの立ち位置が異なる。
 そして、それは今なお進行しているので、この先にどうなるのかはオーガスト自身も分からない。
 歪みの原因については未だに完全には判明しいないし、そもそも歪みについては詳しく解っていないのが現状である。オーガストは穢れを起因とする突然変異に近いとは考えてはいるが、結局は推測でしかない。
 何にせよ、オーガストは既に万能に近い力を有しているも、未だにそれは成長途中。自身の力と向き合ってもいるが、時と共に様相を変えていくので、全容を完全に掴むには至っていない。
 もしかしたらそれが解れば望む存在を生み出せるのかもしれないが、おそらく生み出した時には既にオーガストは更に先に進んでいるのだろう。
 なんともやるせない未来しか視えないが、そもそも歪みが増していく身体でどこまで生きられるというのか。
 そんな事を考えたところで、すっかり暗くなった周囲に目を向けたオーガストは、流石にそろそろいいだろうと考えて、やや強引にソシオを引き剥がす。ソシオの方もそろそろ限度だろうと感じたのか、それに対する抵抗は少なかった。

「この後はどうするの?」

 ソシオを引き剥がしたオーガストは、目の前のソシオに問い掛ける。このままソシオがこの世界に閉じ籠っているとは思えなかった。
 しかし、外の世界は現在かなり数を減らしている。その原因は言うまでもなく、オーガストと狭間の住民達である。
 それだけの対価と引き換えに最強の個体を生み出したので、その結果が一瞬で事が終わるというのは、やはりつり合いが取れていないだろう。それに、それだけしなければ育たないというのも問題だった。やはり人形の方が可能性はありそうだ。
 思案げな仕草を見せたソシオの答えを待つ間に、オーガストは内心でそう答えを出す。それが現状での最適解だと思われた。

「・・・叶うのであれば、以前のようにオーガスト様の御傍に控えさせていただきたいのですが」

 僅かに考えた後、ソシオは覚悟を決めたような顔でそう頼む。しかし、オーガストは直ぐに首を横に振る。

「それは無理だ。ソシオでは力が足りない」
「・・・・・・そうですか。どうにもなりませんか?」
「今はまだどうにもならない。せめてもう数段上であれば考えたのだが」

 オーガストはこの後、始まりの場所へと赴く予定であった。あの地に赴くには、相応の実力が必要になってくる。普通は存在さえ知る事が出来ないような場所なだけに、オーガストのように簡単には入れないのだ。
 それはたとえソシオが肉体を棄てて昔のようにオーガストの中に宿ったとしても同じ事。一定の水準に達していない者はどのような形であれ、あそこからは弾き出されてしまう。それどころか、実力が足りなさ過ぎれば近づくだけで消滅という結果もなくはないだろう。
 オーガストからみてソシオは、ギリギリ消滅はしないだろう程度。それではとてもじゃないが連れてはいけない。

(ただ世界を回るだけであれば問題なかったのだが)

 現在のソシオであれば、以前オーガストがやっていたように世界を回るというのであれば何とかついていけた事だろう。実力的には狭間の住民達の中でも中ほどだと思われる。
 なので、世界を回るというだけであれば合格であるのだが、始まりの場所に行くとなると不合格となった。彼の地に踏む入れるのであれば、狭間の住民達の集合体ぐらいの実力がなければ弾かれてしまう可能性が高い。

「そうですか・・・・・・残念ですが、これも実力不足なのが悪いのですから致し方ありませんね」

 泣くのを堪えるような声音ながらも、ソシオは諦めたように力なく首を横に振った。

「では、外の世界を回ってみようかと考えています」
「それなら大丈夫だろう」

 オーガスト達のように世界を壊していくというのであれば、ソシオ一人では些か心配な実力ではあるが、そうでないのであれば問題はないだろう。オーガストは今まで戦ってきた者達を思い浮かべて、ソシオであれば各世界の上位者とも問題なく渡り合えそうだと思い、問題ないと頷いた。

「この世界でない以上、その地の管理者でも相手になるだろうし」

 たまたま現在ソシオが構築している理と一致する世界に行き着くという事がない限りは問題ないだろう。もっとも、そんな可能性はほぼ無いが。
 オーガストの肯定に、ソシオは嬉しげに笑う。ついていけないのは非常に残念ではあるが、それでも成長が認められたようで嬉しかったのだ。
 それからオーガストもこの後は別の世界に向かうことをソシオに伝え、少しソシオの成長の補助をする。ソシオが創った人形を視たオーガストは、ソシオ自身の構成にも興味が湧いていたから。
 それから二人は人形の作製について話しをした後、朝どころか昼過ぎまで共に過ごしたのだった。





 予定外の事というのは突然起きるもの。予定外なのだからそれが当然なのかもしれないが。

「建国祭?」

 それはある日の朝。朝食を終えて食休みをしていると、プラタからそんな相談を受けた。
 詳しく聞いてみると、どうやら住民達からそういった声が以前から出ていたらしい。しかし、建国当初は色々と忙しかったし、その後に死の支配者の軍は来るしで中々余裕がなく、更には最近まで死の支配者の大軍が近くを通っていたので、開催したくても出来なかったとか。
 しかし、それも最近は目っきり確認出来なくなったらしい。包囲されている状況は依然として変わらないが、それでも遠巻きに包囲しているだけでそこまで根を詰めて警戒するほどではないのだとか。それに包囲している軍程度であれば、プラタが張っている結界すら突破出来ないだろうとの事だった。

「それで建国祭を?」
「はい。最初はいつを建国の日にするかという事だったのですが、それは住民達との話し合いの結果、国名が決まった日という事に決まりました」
「・・・決まったんだ」
「はい。それで、まだその建国の日までには日があるのですが、現状がいつまで続くかは不明なので、とりあえず一度開催してみようという話になりまして」
「ふむ」
「それで国主であらせるご主人様に開催の裁可を願いたいと存じまして」
「む? それは別に構わないけれど、建国祭って何をするの?」

 人間界に居た頃は、建国祭などというものは無かった。いや、厳密には何処の国も首都の方では開催されていたようだが、それ以外の場所では特に騒いだりも無かった気がする。精々が店先で何か飾りが増えたぐらい。それも全ての店ではなく、祭りに乗じて売り出しをしたりしている店の目印みたいな扱いだった覚えがある。
 首都に住んでいた訳ではないボクの知る建国祭などその程度なものだ。
 なので、建国祭といっても何をするのか疑問に思った。形だけの存在とはいえ、わざわざ国主まで話を通すのだから、店先を飾るだけという訳ではないのだろう。
 であれば、普通の祭りのように出店を出してみんなでワイワイやるのだろうか? でも、出店は既に出てるしな。お酒でも配るのだろうか? 酔っぱらいは面倒なのだが、その辺はプラタが何か考えているだろう。
 もしくは何か記念品を配布するとかかな。うーん・・・分からないな。首都プラタはこの前見て回っただけでも結構賑やかではあったが。

「実は開催の裁可を待ってから決めようと考え、まだほとんど何も決まっていないのですが、まずはご主人様の御言葉を賜りまして――」
「え!?」
「どうかなさいましたか?」

 思わず上げてしまった大声に、プラタは言葉を止めて心配そうに首を傾ける。

「えっと、ボクの言葉を賜るって?」

 先程プラタが口にした事をそのまま、恐る恐る問い掛けてみると。

「はい。最初に国民に向けてご主人様の御言葉を賜りたく。それを開始の合図に建国祭を開催いたしますので」
「言葉って、何を言えば?」
「ご主人様の御言葉であれば何でも構いません。長さも問いませんので、何も思い浮かばなければ建国祭の開催を宣言されるだけでも構いません。これは国主の御披露目と共に、この祭りが国主からの厚意である事を国民に示す為ですので」
「そんなものなの? 助かるけれども」
「はい。これにより、国民に今の安穏が国主のおかげで享受出来る事を知らしめると共に、国主であるご主人様が国民を慈しむ偉大なる国主である事が示せますので」
「えっと・・・なんか大仰だけれども、要は国主の存在感を示せるという解釈でいいの?」
「はい。これで一部の無知蒙昧な民に己の立場を解らせる一助になるかと」
「・・・そ、そうか」
「はい」

 何処までも真面目な様子のプラタに、何も言えなくなる。というか、国の運営を任せすぎて何も言えない。もしかしたら何かあったのかもしれないし、何かある前に手を打とうとしているのかもしれない。
 これからこんな事が増えるのだろうが、しかしそれも平和である証なのかもしれないので、そう思えばまだ何とかやっていけそうだ。
 無論、依然として脅威は外にあるのだが、それとこれとはまた別の話だろう。というか、名ばかりとはいえ普段から国主らしい事をしていなかったボクが悪い訳だし。

「そうしてご主人様から開催を宣言して頂いた後、建国祭が開催されます。建国祭は試験的に三日間開催する予定です」
「三日も?」
「はい。朝も夜も関係なく、三日間通しで行います」
「通しで!?」
「勿論で御座います。むしろご主人様の偉大さを鑑みますれば、最低一月は開催したいところです」
「一月は流石に・・・」
「はい。それは流石に現状では各所で支障をきたしますので、今回は試験も兼ねての三日予定です。憂いが無くなれば一月ぐらいの開催は問題ないかもしれませんが」
「いや、三日でも十分過ぎると思うよ」
「そうですか?」
「うん」
「そうですか・・・」

 ボクの頷きに、プラタは何かを考えるように言葉を返す。とりあえず今回は三日という事なので、今後もそれを続けてほしいものだ。それか縮めてもいいぐらい。
 まぁ、祭りは娯楽にもなるので、あまり短すぎてもいけないのかもしれないが。・・・そういえば、これがジュライ連邦最初の祭りになるのだろうか? 今まで何かしらの祭りを催したという話はボクの耳に入っていないと思うが・・・多分。

「それで、建国祭が始まった後はどうするの?」

 とりあえず、話を先に進める。まだ朝なので時間はあるが、建国祭について興味があるのでどんな祭りなのか早く聞きたい。

「店に関しては、ある程度の規則を設けるだけで後は各自に任せるつもりではありますが、見世物などの催しに関しては各広場にて行う予定です」
「広場・・・狭くない?」

 プラタの言葉に記憶を探り、一応各方面の大通りの途中に憩いの場となっている広場があったなと思い出す。
 しかし、以前から少し手狭に感じていたので、さらに人口の増えた現在では狭すぎると思うのだが。他の場所に設けた休憩場所も使うのだろうか? そちらは更に狭かった気がするのだが。
 そう思っていると、プラタは一瞬どういう意味かと小首を傾げてこちらを見た後、何かに気づいたのか直ぐに納得の色が表情に表れる。

「以前街の拡張や区画整理を行った際に、こういう催しを想定して広場も規模を大きく拡げましたので問題ありません」
「そうなんだ」
「はい」

 プラタの頷きに、そんな報告を受けただろうかと記憶を探ると、随分前に受けたような記憶が微かに浮かび上がる。いや、報告者がプラタのはずなので、記憶が曖昧なだけで報告はちゃんと受けていたのだろう。そう思えば、先程のプラタの反応も納得がいく。おそらくだが、報告したはずなのにな? ああ、覚えてないのか。といった感じの流れがプラタの頭の中で構築された事だろう。そう思い至ると、途端に何だか申し訳なくて恥ずかしくなった。

「その広場で行う催しに関しましては、各街の責任者に任せる予定です。首都に関しましては私が担当します。まだ具体的な内容は決まっておりませんが、一応事前に何をするかは全体で共有する予定になっております」
「なるほど。それは楽しみだね」

 ボクが観られるかどうかは分からないが。

「初日はそうして街全体で騒いだ後、二日目は兵達が着飾って大通りを行軍する予定です。武威を民に示す良い機会ですから。そのついでに街の外で演習も行いたいという嘆願もありましたが、それは却下しました。兵達は分かりやすく民に自らの武威を示したかったようですが、今は一区切りついたとて囲まれているのには変わりありませんので、それほど楽観も出来ませんからね。まぁ、それに関してはまた別の機会に民達への娯楽も兼ねて検討してもいいかもしれませんが。そうして二日目の見せ場としての行軍を終えた後は、初日同様に街全体で騒いでいきます。各地で独自に何かしらの催しを計画するでしょうから、その街に合った何かをする事でしょう。三日目は最後にご主人様の御言葉で締めたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」
「始まりのように終わりを宣言すればいいの?」
「はい」
「・・・まぁ、それならいいけれど」
「ありがとうございます」
「そういえば、どうやって街中に声を届けるの? 拡声器でも使うの?」

 声を大きくする魔法道具は存在しているが、街全体となると心許ない。それに、街は一つだけではない。

「映像を各街の上空や各所に投影し、御声もそこから出るようにする予定です。そちらに関しましての魔法道具の手配は既に完了しております」
「そ、そうなんだ」
「はい。ですので、直接御尊顔を拝する事が叶うのは、首都プラタの一部の者だけです」
「あ、やっぱり顔は出すのね」
「勿論です。建物の上の方にはその為の場所を用意しておりますし、数は少ないですが、その日は中庭にも少し人を入れる予定です」
「なるほど」

 多分、というか確実にこれは止められないだろう。プラタにとっての建国祭の中心はそこだろうし、話を聞く限り他はまだ草案も出来ていないのだろうが、尋ねれば始まりと終わりだけは結構細かに決まっていそうだ。

「それで、建国祭はいつ頃開催する予定なの?」
「はい。まだ外の情勢が少し落ち着いて間もないので、これから話し合いを始めるとしまして、早くて一月後でしょうか。情勢に変化がなければ、遅くとも二ヵ月以内には開催したいところです」
「そうなんだ」
「決まり次第改めて御報告致します」
「うん、よろしくね」

 色々とやる事はあるだろうに、それでもそれぐらいで予定やら段取りやらを組むというのは流石と言えばいいのだろうか? 祭りの準備とか何すればいいのか分からないし。
 それにしても、遂に顔が知られる事になるのか。今までは名前だけだったから外に出ても問題なかったが、建国祭が終わった後は外に出られないかもしれないな。・・・今でもほとんど外には出ないけれど。
 あれ? という事は、今までと然して変わらない? まぁ、積極的に表に出るつもりはないからいいけれど。それでも人前に出るのは気が重い。
 それにいくら魔法道具越しとはいえ、沢山の人の前というのは緊張してしまう。これは建国祭開催の許可を出したの早まったかな・・・まぁ、なるようにしかならないか。





 建国祭について。そんな話をしたのがどれぐらい前だったか。
 少し集中して思い出してみると、建国祭開催についての許可を出したのは、一月と少しぐらい前だった気がする。
 その間にも報告は何度か受けたが、話し合いをしたとか大まかな内容が決まったとかの報告だけで、詳しい内容については触れなかった。ボクも最初に話を聞いた時には興味津々だったが、時が経つにつれそれも弱まり、祭りの内容にも詳しくなかったのもあって、その報告について詳細を求めるような事はしなかったのも原因ではあるが。
 そして、今し方ふと思い出したので考えてみたが、プラタからは依然として祭りについて日程が決まったという話は聞いていない。なので、まだ詰めている最中なのだろう。それか外の情勢に変化でもあったか。
 地下空間というのは邪魔が入らなくていいのだが、こういった部分で不便だよな。しかし、だからといって外に出ようとも思わないのだが。
 まあ気にするほどの事でもないか。皆の前に出るというのは今からでも緊張するのだが、それでもそこまで思い詰めるほどの事でもなし。

「皆の前に出るといっても、プラタの話し振りからして面と向かって話す訳でもないようだし」

 であれば、その時に身だしなみに気をつけておけば十分だろう。あまり深く考えたら駄目なような気がしているのもある。

「そんなことよりも、今は修練に集中しなければな」

 遠くに在る的を睨みながら、意識を集中させていく。
 現在行っている修練は、大小様々な同心円が何重にも描かれ、そこに数字が書かれた遊び用と思われる的を用いた修練。まぁ、遊びの延長のようなものだな。
 使う魔法は暗黒系統の魔法。これは重力系統の上に位置する系統で、兄さんに強化される前はろくに使用出来なかった、かなり高度な魔法。
 その暗黒魔法を細く短い針のようにして、それを維持しながら遠視を用いて的を絞る。身体強化でも視力は良くなるが、遠視はそれを眼に集中させた魔法である。
 おかげで広い第一訓練部屋の端から端までの距離でも的がよく見える。というか、見え過ぎてほぼ的しか見えない。まぁ、今回はそれでいいのだが。
 そうして魔法を幾つか併用させながらも、魔法を維持していく。これだけでも結構大変で、能力が強化される以前のボクであれば、暗黒魔法だけでも数秒発現させるのがやっとだったかもしれない。

「やはり処理能力の向上が一番大きいな」

 兄さんが失望して能力を強化してくれる要因となったボクの処理能力。そのついでに全体的に能力の向上が図られた訳だが、多分最も向上したのがその処理能力だと思われる。そして最も恩恵を受けているのが、その処理能力だろう。結構幅広く活用出来ている。
 この処理能力のおかげで、背嚢も結構解明出来てきた。
 時空魔法に関しては相変わらず再現は上手くいっていないが、解析だけなら結構終わったと思う。まぁ、解析している部分だけだが。
 収納魔法に関しては解析は終わっている。再現も半分ほどは出来ているが、それ以上はもう少し時間が掛かりそうだ。それでも不可能というほどではないで、やはり処理能力の向上は凄いと思ったものだ。
 その他の部分に関しては、残念ながらあまり変わっていない。僅かに解析は出来たが、処理能力を向上させてもその程度。どうやら法則がボクの知っているモノとは異なるらしい。
 まあ何にせよ、今のところ処理能力の向上が一番恩恵を受けている部分という話だ。閑話休題。そういう訳で現状についてだが、簡単に言えば、暗黒魔法で的を射抜く遊びをしている最中という事である。
 的に書かれている点数については無視している。今回必要なのは、標的とする部分が解りやすい事だから。

「・・・すぅ・・・はぁ」

 狙いを定めたところで、ゆっくりと呼吸をする。心を落ち着け、的との距離と周辺の環境、構築した暗黒魔法の状態などを頭の中で計算してから、的へと暗黒魔法の針を放つ。
 魔法なので、意図しない限りは真っ直ぐ飛んでいく。ただ、途中で魔力切れを起こして消滅する事はあるが。
 そして、今回選んだ暗黒魔法は魔力の消耗が激しい魔法でもある。階梯が高いのだから当然だ。
 それを針のような小ささにして、距離のある的に届ける。それだけでも結構魔力を使用するのだが、今回はそれに加えて、的に当たると同時に消滅するぐらいの魔力量に調整して、この的当てを行っている。
 これは相手の魔法を見極める最初の段階の修練だが、自分の魔法だけでも苦労する。これを自分だけではなく相手もと、見極めを双方で行ううえに、この安定した空間とは違う変化の激しい外の世界でその計算を導き出さなければならない訳だ。

「つまり、こんなところで躓いている場合ではないという事だ!」

 飛んでいった魔法の行方に注視していると、無事に的まで到着した暗黒魔法は、的にぶつかり消滅・・・せずに貫通していった。そのまま壁に中って消滅したようだが、壁の方は大丈夫だろうか? 的が邪魔でよく見えなかったが。

しおり