肉まんの季節に起きたこと その3
先日から販売を始めた肉まんですが、各店で好調です。
それに伴い、生産量をアップしなければとも思っていたものの、
弁当制作作業を行っている僕と、スイーツ制作を行っているヤルメキスの2人ではこれ以上の増産は難しいな、と思っていました。
ここでバイトの魔王ビナスさんが登場です。
和装の、どう見ても幼女なお姿の後家魔王様~現在同棲中の彼氏有~なんですが、
「こういう作業は得意ですわ」
ホホホと笑いながら10個/分単位で皮からすべて作り上げてしまいます。
なんか、蒸し上げも魔法で時間短縮出来ちゃうみたいで……なんていいますか、この人ホント有能すぎです。
ビナスさんには同時に弁当作成の補佐と、開店してから昼間でのレジも担当してもらっています。
この接客の方も非常に好評で、ビナスさん目当てで通ってくるファンの方々も多いようです。
もっとも、嫁がロリな魔法使いで、バイトにロリ後家魔王様、社員にロリ蛙人とまぁ、見事に容姿幼い3人が店に集結しているもんですから、一部では僕のロリコン説が囁かれているそうです……
いや、スアが奥さんな時点で言われてもしょうがないですけど、
スアはウン百才なわけだし
魔王ビナスさんも同様で
唯一ヤルメキスだけが20代なんだけど……
見た目年齢ではブリリアンが一番上に見えることこの上ないんですよね、本店では。
◇◇
新商品の肉まんが好調な中、ララコンベの組合から使者がやってきました。
以前、魔石鉱山の発掘に失敗して廃都市寸前にまでなってしまっていたララコンベですが、温泉を掘り当てたことで、温泉都市として再出発したのですが、
「今のところ順調です。出て行った都市の者達も少しずつですが戻って来ていますし、客も少しずつですが増えています」
使者の人はそう言って嬉しそうに笑っていました。
正直、僕は提案して施設の整備をお手伝いしただけだし、害獣カウドンの肉や、カウドン乳を商品として仕入れさせてもらっているわけなので、ある意味お互い様といえば、お互い様だと思っているわけです。
「で、今日はどういったご用件で?」
僕がそう言いますと、使者の人はニッコリ笑っていいました。
「それで、組合の総意としてお願いに上がったのですが、コンビニおもてなしをララコンベにも出店して頂けないかと思いまして」
……う~ん、やっぱりそう来ましたか
いえね、実はララコンベの復興のお手伝いをしている時にも、組合の蟻人ペレペ達からそれとなく打診はされていたのですが、やんわりお断りしていたんですよ。
と、いうのがですね
コンビニおもてなしは、この辺境一帯では、結構影響力が強くなってきているんですよね。
弁当はうまいし
柔らかいパンや、甘いスイーツ
スアビールやタクラ酒、パラナミオサイダーもいつも冷えててうまい
武具もこのあたりでは最高峰の物を扱っているし、調理器具も然り
薬はあの伝説の魔法使い製品をこの世界で唯一独占販売している
まぁ、そんな店なわけなんで、コンビニおもてなしが出店しちゃうと、他の店の客まで取り込んじゃうんじゃないかな……そんな思いがあったもんですから、とりあえず温泉事業開店当初は遠慮していたんですよね。
一時の集客にはなるかもしれないけど、都市として復興するためには最初は街の皆さんで足場をしっかり作らないと、と思ったりしたわけです。
ただ、ペレペからの伝言だと
「都市の皆もしっかり頑張っているので、その都市の皆の利便性の溜にもお願いしたいですです」
とのことだったので、
「少し考えさせてください」
と言うことで、一時預かりとさせてもらった次第です。
まぁ、店を増やすにしてもですね、パートさんは出来ればララコンベの住人から選んであげたいなと思うし、店長にしっかりした人を据えればうまくいくだろうし……それに、店長にふさわしい人は実際いるわけだし……
本店で副店長をしてくれてるブリリアン。
僕が新商品開発や、仕入関係で飛び回っている間、本店だけでなく2号店の諸問題まできっちり解決してくれているんですよね。
3号店は客層が特殊といいますか、客の99%が魔法使いという状況なのでそもそも問題が起きないといいますか、もしコンビニおもてなしが閉店したら、魔女魔法出版の本をこんなに大量に扱っている店は王都にすらないらしいので魔法使い達も死活問題になるため、問題らしい問題が起きたことがないわけです。
で
ブリリアンにこの話を打診したのですが、
「お断りします。私はスア様の一番弟子としてこの店を離れたくありません」
と、頑として断られました……まぁ、そうだよねぇ。
ブリリアン的には、副店長をしているというよりも
「スア様の薬を売っている店を切り盛りしている」
という感覚に酔ってるところがありますんでねぇ……
と、言うわけで、これを店長会議で話題にしたところ
「それでしたら、シルメールを推挙させていただきますわ」
と、2号店店長のシャルンエッセンスが言いました。
シルメールと言いますと、貴族時代のシャルンエッセンスの屋敷に務めていた最後のメイド長……といえば聞こえがいいのですが、要はシャルンエッセンスの父母兄らがですね、自分達で借金まみれにして逃げていった屋敷から有能なメイド達もどんどん逃げ出してしまい、最終的に「どこも雇ってくれないような不良メイド」ゆえに屋敷に残っていたメイド達の中で一番発言力があったってわけです。
と、ここまでは悪いことしか書いていませんが
コンビニおもてなし2号店になってからの彼女は本当によく頑張ってくれています。
最初の頃は、僕に対してもかなり反抗的な態度をとっていたシルメールですが、僕が1つ1つ粘り強く説明を続けながら指導をしていくと……一度自分の中で合点がいけば一生懸命やってくれはじめたわけです。
確かに、彼女なら任せてもいいかもな、
そう思い、一度研修として本店にきてもらう方向で調整することになりました。
ちなみにこの2号店では、最近新しくパートを雇ったそうなのですが、
なんでも魔王ビナスさんの知り合いの僧侶さんらしく、テキパキ仕事をこなしてくれているそうです。
新婚さんらしくて、旦那さんの仕事の都合でときどきいなくなるそうですけど、まぁいい人が見つかってよかったよかったと思った次第です。
……しかし、魔王ビナスさんって、知り合いに僧侶までいるんだ
「あと、魔王の娘さんや、魔王のお友達もいますわよ。あと内縁の夫は勇者ですわ」
……笑顔でしれっとそう言われたんですけど、えっとこれ、どこまで本当なんだろか……それともちょっとしたジョーク? 魔王ビナスさんって真面目な顔をしてよく冗談を言うから、時々反応に困るんだよねぇ。
◇◇
と、まぁ、そんな感じでコンビニおもてなし4号店の話を少しずつ始めようとしていたところ、
「この店の店長さんはおいででしょうか?」
と、何やら女性の集団がやってきました。
なんだなんだ?
僕が
「はい、私が店長のタクラですが?」
そう声をかけると、その女性……ってか、この人もなんか幼い容姿だな……
僕の顔を見てニパッと笑うと
「ドンタコスゥコはですね、ドンタコスゥコ商会の会長なのですよ、以後よろしくなのですよ」
そう言って僕と嬉しそうに握手をしていきました。
で、その後方にいるのは彼女の部下と言いますか、そのドンタコスゥコ商会の社員達なんだとか。
「今日は折り入って相談があってまいったのですよ」
ドンタコスゥコさんがそう言うので、僕はとりあえず皆を連れて応接室へと異動しました。
で、そこでドンタコスゥコさんは言いました。
「単刀直入に申し上げます。コンビニおもてなしさんの商売のお手伝いをさせていただきたいのですよ」
そう、ドヤ顔で旨を張るドンタコスゥコさんですが……いや、見事に絶壁……いや、なんでもありません。