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リグドと、そいつの名は その2

 苦笑しながら頭をかいているリグド。

 そんなリグドの前で、一角犬(ホーンドッグ)は
「ワホン!」
 再び嬉しそうに一鳴きすると、リグドの顔をベロベロ舐め回しはじめた。
「うわっぷ!? こ、こらやめねぇか」
 手で舌を食い止めようとするリグド。

 しかし、一角犬は

 ワホ!ワホ!ワホ!
 合間に嬉しそうな鳴き声を挟みながらリグドをなめ回し続けていた。
 その尻尾が千切れんばかりに左右に振られている。

 クレアは、そんな一角犬を見つめていた。
「まったく……人前であのように尻尾を振り回すなんて……同じ犬種の亜人として、見てて恥ずかしいっす」

 クレアの言葉を聞いたエンキ達が一斉に目を丸くし、クレアへ視線を向けていく。

……クレアの姉さん……あんたリグドさんに褒められたとき、あれ以上に尻尾を振ってるじゃないっすか……

 エンキは心の中でそう思った。
 他の皆も同様だった。

 口に出したら命が危ない。
 本能でそう判断しているため、消して口にはだしていない。

◇◇

 クレアの
「お座りっす!」
 この一言でその場にお座りした一角犬。

 おかげでリグドはようやくなめ回し攻撃から脱出することが出来た。
 
 しかし、その体は一角犬の唾液でベトベトになっている。
 そんな自分の姿に苦笑するしかないリグド。
「……まったくよぉ……大人しく森に帰れってんだ」
 
 リグドの言葉に、一角犬は
「ワホン、ワホン」
 不満そうな鳴き声を上げながら、左右に首を振っていく。

「なんだお前ぇ、じゃあ、俺のとこにいたいとでも言うのか、おい?」

 リグドの言葉に、今度は
「ワホ!ワホ!ワホ!ワホ!」
 嬉しそうに吼えながら何度も頷いていく。

 その姿を前にして、苦笑しながら首をひねるリグド。

「おいおい……まさかお前ぇ、俺の飯が美味かったからと……」

 今度はリグドの言葉が途中にもかかわらず、
「ワホ!ワホ!ワホ!ワホ!ワホ~ン!」
 何度も頷きつつ、最後に歓喜の遠吠えまであげていく。

「おいおいまじか……」
 リグドはそう言うと腕組みをしていった。

「……そりゃまぁ……こんだけ懐かれちまうと、なんとかしてやりてぇと思わなくもねぇんだが……」
「リグドさん、いいじゃないっすか」
 悩んでいるリグドに、クレアが言葉をかけた。

「このワホなら、リグドさんと自分と一緒に狩りに行っても十分な戦力になるっす」
「ワホワホワホワホ……ワホ」
 クレアに、一角犬が口を寄せ鳴き声を向けていく。
 それに対し、クレアはふんふんと頷いていく。
「ワホは、『狩りも手伝うし、自分の餌の材料は自分で確保するから調理だけしてほしい』と、言ってるっす」
「クレア、お前ぇ、そいつの言葉がわかるのか?」
「はいっす。なんとなくっすけど」
 頷くクレア。
 同時に一角犬も頷いていく。

 そんな2人を交互に見つめるリグド。

 しばし思考を巡らせた後、
「……まぁ、狩りの手伝いもしてくれて、自分の食い扶持まで自分でなんとかするって言ってんなら……置いてやるか」
 ニカッと笑みを浮かべていく。

 その言葉に、一角犬は
「ワホーーーーーーーーーーーーン!」
 歓喜の遠吠えをあげながら、チンチンよろしく二本足で立ち上がっていく。
 その尻尾が歓喜を表すようにすさまじい勢いで左右に振られていた。
「ワホ、人前で尻尾を振りすぎっす。もう少し自重するっす」
 そんな一角犬に、厳しい表情で言葉をかけるクレア。

 しかし

 その表情とは裏腹に、クレアの尻尾もまた千切れんばかりに左右に振られていた。
 それは、クレアが内心で喜んでいることを意味していた。

……なんでぇ、お前ぇも、一角犬(こいつ)のことを、なんとかしてやりたかったんじゃねぇか

 クレアの尻尾を見つめながら、リグドはその顔に苦笑を浮かべていた。
 
 その視線を、エンキ達に向けていくリグド。
「こいつは狩りの手伝いまでしてくれるって言ってるぜ? お前ぇらも、負けずに頑張ってくれよな」
「う、うぐ……」
 リグドの言葉に、言葉に詰まるエンキ。

 今まで何度もリグド達と狩りに出向いているエンキ達。
 にも関わらず、いまだに突進兎しか仕留めることが出来ずにいたのである。

「わ、わかって……ます、よ……頑張るっす……」
 そう言うと、エンキはバツが悪そうにそっぽを向いていく。 

 他の面々も、
「が、頑張ります……」
「す、すんません……」
 そんな言葉を口にしていく。

「あぁ、期待してるぞ」
 そう言うと、リグドはエンキ達の肩をバーンと叩き、楽しそうに笑い声をあげていく。

「……ところでクレア」
「なんすか?」
「お前ぇ、さっきから『ワホ』とか言ってる気がするんだが……そりゃなんだ?」
 リグドの言葉に、クレアは一角犬を指さしていく。

「こいつの名前っす」
 
「は?」
 クレアの言葉に、目を丸くするリグド。

 その後方で、エンキ達もリグド同様に目を丸くしている。

……なんだそりゃ? まさか鳴き声か?

……クレアの姉さん……いくらなんでもそりゃ安直すぎませんか?

……俺だったら、そんな名前つけないっす

 リグド以下、皆がそんなことを思っている中……

「ワホーン!」
 一角犬は、嬉しそうに一鳴きしながら大きく頷いた。

「こいつも気に入ったみたいっす」
 クレアはそう言うと、一角犬を見上げていく。

 クレアの言葉に、さらに目を丸くするリグド。

 その後方で、エンキ達もリグド同様にさらに目を丸くしている。

……なんだそりゃ? マジで気に入ったのか、おい!?

……ありえねぇ……そんなダセェ名前を気に入るなんて……

……俺だったら、そんな名前絶対嫌っす

 リグド以下、皆はそんな事を思い続けていた。

 こうして……
 リグドの酒場に、一角犬が加わることになった。
 
 名前をワホという。

◇◇

 大型の魔獣を使役する場合、冒険者組合に登録するのが義務となっている。

「俺とクレアが冒険者組合に登録するのはなぁ……」
 リグドはそう言いながら首をひねった。

 各地の冒険者組合は情報を共有している、
 そのため、下手に冒険者組合に登録してしまうと、片翼のキメラ傭兵団の面々に居場所を突き止められてしまう可能性が高くなってしまう。
 団長をぶん殴ってから脱退してきたクレアがいる以上、リグド的には出来れば避けたいところだった。

 だが

 渋るリグドに対し、ワホが土下座せんばかりの勢いで
『僕の使役主になってほしいワホ』
 そう、何度も何度も懇願してきたため、最後はリグドが折れる格好で、自分が使役主として登録したのであった。

 一応『ガッハ』という偽名で登録したものの、水晶撮影機によって使役主の上半身の画像と、使役魔獣の上半身の画像が保存される仕組みになっているため、ガッハの個人データを照会されてしまうとリグドの上半身画像が出てくることになるため、一発でバレてしまうのは確実だった。

「……まぁ、そんときゃそんときか」
 冒険者組合でワホの登録を済ませたリグドは、ワホを見上げた。
「ワホ!」
 嬉しそうに一鳴きするワホ。
 リグドの使役魔獣になれたことが嬉しいらしく、尻尾を左右に振り続けている。
「だからワホ、人前で尻尾を……」
 そんなワホに、クレアが声を荒げていく。

 そんな2人と1匹は、酒場へ向かっていた。

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