【web版】異世界酒場のおっさんと美女　～元傭兵のおっさんが若い奥さんと一緒に酒場を切り盛りするお話

　その日の夕刻。
　リグドは商店街組合へ顔を出していた。

「……というわけで、あの店に巣くっていたチンピラ共は全員排除したからよ」
　受付でニカッと笑うリグド。
　そんなリグドを前にして、受付の女の子は目を丸くしていた。

「あの……し、失礼ですが……エンキとその一味を、その、お1人で、ですか？」
　その女の子は、カララの対応をしていたあの女の子だった。

　その口ぶりからして、カララの店に巣くっていたエンキ達が10名という大人数であったことを知っているらしい。

「いや、俺1人じゃねぇ」
「で、ですよね……やはり、冒険者組合で助っ人を雇われて……」
「いや、かみさんと2人で、だ」
　きっちり3歩分後方に控えているクレアを親指で指さすリグド。
「うっす」
　それを受けて、きっちり45度傾けたお辞儀をするクレア。
「え？　……あ、あの、奥様と2人で、って……え？　え？」
　ニカッと笑い続けているリグド。
　その眼前で、受付の女の子はただただ目を丸くするばかりだった。

　エンキ達は決して弱いわけではなかった。
　エンキ達の横暴を見かねた冒険者グループと小競り合いになったことが何度かあったのだが、エンキ達はその度に冒険者達を返り討ちにしていたのである。
　同じ人数の冒険者達に負けなかったエンキ達。

　それを、リグドは自分と妻の2人で片付けたと言っているのである。

　受付の女の子が、目を丸くするのも無理はなかった。

◇◇

　カララが、商店街組合に加盟していないため組合からチンピラ排除に対する謝礼金などは支給されなかった。

「……申し訳ありません、これも規則でして」
「いいっていいって、わかってっからよ。その代わりといっちゃなんだが、この手紙をナカンコンベに届けてくれねぇか？」
「ナカンコンベにですか？」
「あぁ、ちょっと知り合いに頼みたいことがあってな」
「はい、それでしたらちょうど鳥人の空輸便があちらに向かいますので、それでお届けさせていただきますね。謝礼代わりにお代はサービスさせていただきます」
「あぁ、助かるよ」
　そう言うと、リグドは女の子に右手を振りながら商店街組合を後にした。

　その後方を、クレアがきっちり3歩下がった状態を維持しながらついていく。

「……かみさんと2人……」
　クレアは、その脳内で先ほどのリグドの一言を思い出していた。

　……つまりあれは、結婚後最初の共同作業ということだったんすね……

　そう、脳内で結論を出したクレア。
　その瞳が、ハート型になっていたのは言うまでもない。

◇◇

　その後、2人は商店街組合近くの店を回って買い物をしていった。
　最初の店で借りた木箱の中に、

　野菜
　肉
　果物
　パン粉
　酒

　あちこちの店で購入したそれらの品物をどんどん突っ込んでいく。

「あの、自分がもちます」
「あぁ？　いいっていいって」
　荷物が満載になった木箱を、軽々と肩に乗せているリグド。
　そんなリグドに対し、クレアは先ほどからその木箱を自分が持つといい続けていた。
「大事なかみさんに、重い物をもたせるわけにはいかねぇだろ？」
「ですが……って、えっと、あの……大事なかみさん……」
　その一言に反応したクレアは、そのまま再びリグドの3歩後方へ下がっていく。

　だが

「いえ、やっぱり駄目っす。大事なリグドさんにそんな重い物を持たせるわけには」
　ハッとなったクレアがそう言いながら、再びリグドに歩みよっていった。

　2人はそんなやりとりを繰り返しながら街の中を買い物して回っていった。

　買い物が終わると、2人は宿へ移動していき、部屋を引き払った。
　精算を終えると、荷馬車の中に木箱を突っ込んでいきそのままカララの酒場へ移動していく。
　　
「あ、お帰りなさいませ」
　2人が荷馬車で帰り着くと、ちょうどカララが酒場の前を掃き掃除しているところだった。

「カララよ、無理しなくていいんだぜ」
「あ、いえ……お2人があれこれ頑張ってくださっているのですもの。私も出来る事をがんばらせていただきませんと……」
　にっこり微笑むカララ。

　そんなカララの視線の先には、操馬台に並んで座っているリグドとクレアの姿があった。

「あ……」
　その2人を見たとたんに、扉の向こうから聞こえてきたあの声のことを思い出し、カララはその顔を真っ赤にしていった。

「……やっぱ、体調が悪いんじゃねぇか？　なんか顔が赤いぞ？」
「あ、いえ……その……そういう訳ではないのですが……すいません、やっぱりちょっと少し休んでまいります」
　そう言うと、カララはそそくさと酒場の中へと入っていった。
「おう、あとは任せときなって。晩飯が出来たら声すっから」
「あ、は、はい……きゃあ」
　リグドの声を受け、振り返りながら返事をしたカララ。
　気恥ずかしさのあまり、早足になっていた彼女は、階段を踏み外してしまい、その場で倒れこんでしまった。
「おいおい、だから言わんこっちゃない」
　リグドは、カララの元に駆け寄ると、その体をひょいとお姫様抱っこしていった。

　ふ、ふええええええええええええええええええええ！？

　自分がリグドにお姫様抱っこされている。
　殿方に抱っこされている。
　その現実を前にして、年齢に反比例するかのように男性経験の少ないカララはその顔をさらに赤くしていった。

　だが、そんなことなどお構いなしとばかりにカララを抱き上げているリグド。
「クレア、すまねぇが荷馬車を裏に回しといてくれ。俺もカララを部屋に送り届けてから行くからよ」
「了解っす」
　リグドの声を受けて、クレアは荷馬車を店の裏へ移動させていった。
　
　リグドは、カララをお姫様抱っこしたまま階段を上がっていく。

　その腕に抱かれながら、カララは真っ赤になったまま身動きひとつ出来なくなっていた。

◇◇

　クレアが荷馬車を店の裏に移動させると、
「……いっててて……あ、て、てめぇ」
　山積みにされていたエンキをはじめとした数人が意識を取り戻したらしく、頭を振りながらクレアへ視線を向けていた。

「お前、俺たちにこんなことをして、ただで済むと思ってんのか？」
「さっきは酒を飲んでたせいで不覚をとっちまったが、今度はそうはいかねぇぞ」
　そう言いながら、エンキをはじめとした数人がクレアに歩みよっていく。

　多勢に対し女1人。
　その状態ゆえに、エンキ達はクレアを見下していた。

　しかし、クレアはそんなエンキ達を無視するかのように、荷馬車の係留作業を続けていく。

「おいこら、ねーちゃん、無視してんじゃねぇぞ」
「それともあれか？あのおっさんがいないもんだからびびってんのか？」

　その言葉と同時に、クレアの動作がピタッととまった。

「お？　図星か？　まぁ、あのおっさん、年寄りのくせに少しは力があったがな」
　そう言うと、エンキはクレアの肩に手をかけた。
「おめぇ、あの男の女か？　あんなおっさんじゃ、夜の方も満足させてもらえてないんじゃないのか？　おら、若い俺たちが一晩中可愛がってやって満足させてやっからよ、そこで股を開けって」
　下品な笑いをその口に浮かべるエンキ。

　その、エンキの顔を、クレアが睨み付けていく。

「馬鹿っすね」
「え？」
「リグドさんはすごいんす。知りもしないで、リグドさんを侮辱するんじゃないっすよ」
　そう言うと同時に、クレアはエンキの顔面をわしづかみにすると、そのまま地面に叩きつけていった。

◇◇

「おう、お待たせ……って……」
　店の裏に顔を出したリグドは、思わず目を丸くした。
「リグドさん、お疲れさまっす」
　そんなリグドの視線の先では、クレアが荷馬車の荷物を降ろしているところだった。

「あ、ど、どうも……」
「ご、ご苦労さまです、リグドの旦那……」
　そんなクレアの後方では、エンキの部下達が荷下ろしを手伝っていたのである。

　皆、真新しい傷が体のあちこちに出来ている。

「おいおい、どうしたんだこいつら？」
「はいっす。心を入れ替えて自分達の役にたちたいそうっす」
　クレアの言葉を受けて、荷物を持っている男達はすさまじい勢いで頷いていく。

「……はぁ、そりゃわかったが……で、あいつらはなんなんだ？」
　リグドが指さした先。
　店の裏に生えている木の幹のあたりに、エンキと数人の男達が転がっていた。
　
　全員、股裂きよろしく無理矢理足を広げられた状態で、足首のあたりを木の棒にくくりつけられている。

「はい、股を開きたいと言ったので手伝ってやったっす」
「は？」
　クレアの言葉を聞いたリグドは、首をひねった。

　その視線の先。
　股を開いた格好で固定されているエンキ達は、完全に意識を失っているらしく、大股を開いた状態のまま、ピクピク痙攣し続けていた。