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パルマの夏、ガタコンベの‎夏祭り その6

 ガタコンベで開催されている周辺都市との合同夏祭りも2日目です。

 この日はビアガーデンの世話を徹夜で行い、そのまま弁当作りになだれ込んでいます。
 通常なら相当疲れ切っているところなのですが、スアが合間に回復魔法をかけまくってくれているおかげで、24時間戦えますよ状態の、私、田倉良一です、はい。

 とはいえ、スア曰く
「あくまで、一時的、よ」
 とのこと。

 やっぱ、あとで体にはくるらしいので、無理のしすぎは禁物らしい。
 とはいえ、祭りは今日までだし、明日は、商店街は休日なわけだし、というわけで、がんばるぞ、と。

 僕が弁当作成作業を開始すると、
 ほぼ同じ頃合いに、ヤルメキスと、猿人4人娘が厨房にやってきました。
「タクラ様、まさか寝てないのではおじゃりませんか?」
 ヤルメキスが、するどく突っ込んで来たんだけど、
「大丈夫、今日1日だ。頑張ろう」
 って、言って作業を再開したわけです。

 すると、作業途中にヴィヴィランテスが早くもスアビールとパラナミオサイダーの第一便を持ってやってきました。
 いつもは朝食時間にあわせてやってきて、そのまま朝食を食べてから帰るくせに、なんて思ってたら
「何言ってるのよ。スアビールもパラナミオサイダーも昨日売れ過ぎちゃって、こまってるのよぉ」
 って、え? 嘘? そんなに?
 言われて、僕は巨木の家の地下、巨大冷蔵庫へ移動してびっくり。
 昨日の祭り開始前には部屋一杯にあったスアビールとパラナミオサイダーのケースがほぼ空っぽになってました。
 唯一、タクラ酒だけ残っていますが、これも数ケースのみという状態。
「あんたは忙しいだろうからって、スア様が直々に使い魔の森にいらして、バルンカッス達に増産をお願いされたのよぉ」
 と、ヴィヴィランテス。
 憎まれ口を叩きながらも、テキパキと荷をおろしては、そそくさと次を運びに戻っていきます。
「すまない、助かるよ」
 そう言う僕に、ヴィヴィランテスは
「私はスア様にお仕えしてるのよぉ、スア様のためならなんでもするだけよぉ」
 そう言いながら、使い魔の森に戻っていこうとしたんだけど、その手前で一度立ち止まると
「アンタのことも……まぁ、嫌ってはないんだからね」
 そう言って、戻っていきました。
 なんというか……次は酔っ払って寝てても、額に「肉」とは書かないでおいてあげようと、強く心に誓ったわけです。

 この日も、
 適宜好きな物を食べてもらう形でみんなの朝食を終了させ、
 その間に僕は2号店・3号店への納品を済ませると、その足で出店へと走りました。

 中央広場は、まだ開会まで時間があるにも関わらず、すでに結構な数の人々で賑わっています。

 とはいえ、
 閉店している出店に客が勝手に入っていては大問題なため、この出店部分は、商店街の自警団がばっちり監視しています。
 元猿人盗賊団の面々なんですけど、この50人近いメンバー、本当に規律正しくよく働きます。
 春の花祭りでも、その勤勉ぶりが超話題になっていたんですけど、この夏祭りでも、24時間、きちんと交代しながら警備任務をこなしています。

 で

 周辺で、自分達の手に負えない魔獣なんかが出た日には
「姉さん、助力願うキ」
 と、即座にセーテンに加勢を求めにやってくるんですけど、自分達の限界をよくわかってて、絶対無理しないその姿勢はむしろすごいなと思うわけです。
 で、まぁ、セーテンに助力を求めにくると言うことは、必ずイエロが一緒に動くことになるわけです。

 最近は、本当に息のあったコンビになってるこの2人にかかれば、このガタコンベ周辺の魔獣くらいでは相手になりません。
 ちなみに、この2人に、
「たまにはアタシも腕ためしにいってみっかぁ」
 と、工房の猫人ルアが加わったトリオになったときには、店の冷蔵庫に収まりきらない程の獲物を狩ってきて、困惑しきりだったこともあるわけです。

 んで、
 そんなみんなに
「いつもご苦労様」
 と、差し入れの弁当を人数分渡してあげると、みんな嬉しそうに笑い
「タクラ、いつもありがとキ」
 そう言ってくれるんですけど、なんかそれがまた嬉しいんですよね。

 さて
 僕が出店に入ったことで、
 中央広場をウロウロしていた皆さんが徐々に、コンビニおもてなしの出店に集合してきます。
 っていうか
 この時間に、この中央広場をウロウロしてるってことは、かなりの確率で、本店裏で未明まで開催されてたビアガーデン参加者の方々だと思われまして……ということは、目当ては皆さん、スアビールなわけで……

 僕の予想どおり、ヴィヴィランテスが運び込んでくれたスアビールに、早速注文が殺到します。
 昨日から、あまりに売れすぎるため、
『1度に1人5本まで』
 との制限を設けてはいますけど、買っては、並びなし、また買って……を繰り返す人がホント多いわけです、はい。

「グーグス、早くもう1度並ぶであります」
「ちょっと待てって……少し眠らせろってんだ」
「何を言っているでありますか、皆への土産分も買うんでありますよ」
 と、家族か同僚へのお土産にしようとする人も多いようで……なんか申し訳ない次第です、はい。

 とはいえ
 結局、ヴィヴィランテスが運び込んでくれたこの第1便は、ものの30分もしないうちに完売。
 パラナミオサイダーの方がまだ残っているのであれですが、客のほとんどがスアビール目当てのため、皆さん、ウチの出店を再度遠巻きにしながら、次便の到着を待ってる状態です、はい。

 すると、 
 スアが例によって木箱で転移してきたんだけど、すごい量の木箱と一緒にやってきました。
「バルンカッスのとこから、直接持って来た、よ」
 と、スア。
 開けてみると、これが全部キンキンに冷えたスアビール!!

「さぁ、スアビール届きましたよぉ!」
 と、僕が声を上げると、出店を遠巻きにしていた皆さんが、うわっと再度集まってきます。
 あ、これって、商品の入荷待ちで並ぶのが禁止されてるからなんですよね。

 いつ入荷するかわからないような品物を、ただそこで待たれるよりは、周囲の品を見て回ってくださいな、って配慮なわけですけど、本当に欲しい品がある人は、それでもその店の周囲で待つわけで……

 とはいえ、
 このスアの機転のおかげで、出店のスアビール枯渇状態がどうにか解消され、日が昇り始めたこともあって、弁当も売れ始め、さぁ、2日目が徐々に始まったなって感じです。


 程なくして
「パパ! お手伝いに来ました!」
 と、昨日と同じく、僕と同じエプロンをつけたパラナミオが満面の笑顔でお手伝いに来ました。
 パラナミオには、今日もウルムナギの蒲焼き弁当の試食と、パラナミオサイダーの販売の手伝いをお願いする予定なんだけど、
「パパ、任せてください! パラナミオは昨日以上に頑張りますよ!」
 と、朝一番から気合い満々です、はい。

 スアのアナザーボディも展開し始め、出店は早くも満員御礼状態。
 中央広場も、人でごったがえし始めています。
 
 人手は、毎年2日目の方が多いとは聞いていたのですが、これは多いってレベルじゃないんじゃ……ってくらいの人の波が押し寄せているわけです。

 そのため
 昨日から飛ぶように売れている、スアビールとパラナミオサイダーに加え
 冷蔵魔石や弁当類、それに薬なんかも飛ぶように売れていきます。

 んで、お昼がこようかってくらいの頃に、本店の方からヤルメキスが
「た、た、た、大変でおじゃります~~~~」
 って、駆け込んで来ました。
 すわ!? またぞろ上級魔法使いのお茶会の奴らがなんかしてきたかと思ったら、
「あの……でごじゃりまするね、ビアガーデンはまだかと、矢のような催促が来ているでおじゃりまするぅ」
 とのこと。

 どうやら、昨日営業後にビアガーデンを利用したお客さん達が、
 ビアガーデンの営業が、店の終了後ってのを知らないで殺到してきてる様子なわけで……

 さて困ったぞ……
 この時間、イエロとセーテンの2人は狩りと、自警団の周辺警備の手伝いに出向いているはずだし、ビアガーデンに避ける人員がないぞ……

 僕が腕組みしながら考え込んでいると、出店にルアが走ってきて
「タクラ、話は聞いたぞ、アタシにまかせな」
 って、

 姉さん! 一生着いていきます!

 で、ルアが工房の皆を引き連れて本店裏の河原でビアガーデンを開始してくれたわけです。
 肉の輸送なんかは、ヴィヴィランテスが酒とか輸送する合間にテキパキやってくれてて……いや、ほんとヴィヴィランテスにもすごくお世話になってるわけです、マジで。

 で、この日は早々に開店したビアガーデン。
 当然、ここ本店だけで、夏祭り限定ってわけですけど、開店早々大賑わいだったようです。
 僕は、出店の客をさばくので精一杯だったんですけど、
 ここを担当してくれたルアの話だと、
「もうね、開店早々、ここでスアビール飲みながら、お昼食べる人や、このまま腰を落ちつけて飲むぞって人らで、すごかったんだぜ」
 って状態だったそうです。
 中には
「ミラッパと、ウインダの永遠の愛を祝って、乾杯っぱぁ!」
 と、なんか新婚ほやほやみたいな方々もいたそうなんですけど
「そんなこと、誰が許したかぁ! これは私のだ!」
「いやまて、これってなんだ、これって!」
 とまぁ、とにかくなんかすっごく賑やかな3人組もいたそうです。

 んで
 ルアはこっちで、飲み比べもやってたそうで
「買ったら飲み代タダにしてやる上に、スアビール1ケース進呈だぁ」
 ってやったそうなんだけど、

 ルア1人で挑戦者を全員倒したそうです、はい。

 で、負けた方には、飲み代全額請求……えぇ、勝負に際して飲みまくったルアの酒代込みで……
「ちゃんとさ、アタシの歌をサービスしといたから、問題ないだろぉ」
 って、後でルアは笑ってたけど、まぁ苦情は一件も来てなかったし、よしとしよっか。

 気がつけば、日も傾き始め、中央広場の空に、花火が上がっています。

 これ、夏祭り終了の合図です。
 これ以降の、出店での販売行為は禁止となり、皆、速やかに撤収作業にはいります。

 お客も、そこらは手慣れたもので、
 皆商店街の方へと流れていきます……気のせいか、コンビニおもてなし方面へ流れていく客の流れがすごい気がしないでもなかったんですが……まさかあれ全部がビアガーデン目当てなんじゃ、とか思ったりしつつも、僕は出店の片付けを急ぎます。
「パパ、この木箱はここでいいですか?」
 と、朝から動き回りっぱなしのパラナミオは、ここでも休むことなくお手伝いをしてくれてます。
 ホント、良い子です、はい。
 スアも、日中、おそらく暑さでやられた時間帯があったみたいで、アナザーボディがしばし消えていた時間帯があったものの、それ以外はほとんど休みなくアナザーボディを指揮しつづけていくれていました。
 それでいて、あくせく動き回っている僕の心配をしてか、その後方を木箱でついて回ってくれたりと、ホント、こういうのって、内助の功っていうんですかね。

 皆の作業のおかげで、日が暮れるまでには出店の撤収作業を終えた僕らは、周囲の皆さんに挨拶をしながら本店へと戻っていきました。
 すると、本店の方はいまだ大盛況です。
 店本体は閉店しているんですが、ビアガーデンがお客で超満員状態でして、河原に入り切れていない客が街道にまで溢れています。

 こりゃ、まずいんじゃ……
 って思っていたら、役場のエレエがやってきて、
「今日は無礼講で結構ですので」
 って……

 というわけで、出店の荷物を片付けた僕は、本店の営業も再開して、この客の山に対処していきます。
 すると、ヘルプに来ていたメイドからこの状況を聞きつけたらしい、2号店店長のシャルンエッセンスが
「助太刀にまいりましたわよ!」
 と、転移ドアからすごい勢いできてくれました。
 このシャルンエッセンスと、一緒に来てくれたシルメールらメイド軍団の加勢のおかげで、ごった返していた店の周囲の客もうまくさばけていき、いつしか客の山は街道を埋め尽くすかのように広がっていきました。

 んで、
 この客を目当てにか、他の、すでに閉店していた店まで営業を再開したりして、なんか、コンビニおもてなし界隈だけは、日が暮れてもすごく賑やかです。

 そんな、楽しそうな皆を見つめながら僕は
「これで花火でもあれば、最高のしめになるんだけどなぁ」
 って、思わず呟いた。

 すると
「花火?」
 と、スアが怪訝そうな表情で聞いてきます。

 あぁ、そっか、
 こっちの人達は花火って言葉使ってないもんな。
 あのポンポン音がするやつのことも「合図」って言ってるくらいで、あれを花火って呼んでるのも僕が勝手に言ってるだけだし。
 

 そんなスアに花火を説明するとあると……
 しばし考えた僕は昔、デジタルビデオカメラで動画撮影した花火の動画を見せたところ、スア、すごいカガクだねぇ、って目を輝かせます。
 んでもって、
「……このカガクの仕組みはよくわからないけど、似たことなら出来る、よ」
 そう言うと、夜空に向かって召喚したばかりの杖を振りかざしました。

 すると
 夜空に極彩色の光が舞っていきます。
 音が一切しないんですけど、とにかく、夜空が次々と極彩色に彩られていく。

 例えるなら、そう、万華鏡が夜空全部を使って展開しているような……

 僕は、思わずその光景に見惚れていきました。

 それは、お客の皆も同様だったようで
「何これ!?」
「す、すごいよ、これ」
 と、その日、その場に居合わせた全員が、その時間は夜空を見上げていました。

「パパ、夏祭りって楽しいですね」
 と、その光を見上げながら、パラナミオが嬉しそうに言いました。

 僕は、そんなパラナミオと
 僕の横で、夜空に光を展開させ続けているスアを抱きしめ
「みんなで一緒だから、最高だね」
 そう言うと、
 スアもパラナミオも嬉しそうに頷きました。

 こうして、バトコンベの夏祭り最終日の夜は更けていったのでした。

しおり