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パルマの夏、ガタコンベの‎夏祭り その3

 僕達の住んでいるガタコンベの街で開催される夏祭り。
 辺境5都市とその周辺の町や村の住民が大挙して訪れるというこの祭りですが、

 春の花祭り
 秋の収穫祭

 この2つの祭りと会わせ、3大祭りって言われているらしく
 どの都市もすっごい気合い入れているんだとか。

 とはいえ、
 このガタコンベ周辺に限らず、ここいらの辺境都市の周辺地域には、辺境特有の、害獣や魔獣が多数住み着いている森林が広がっている。
 そこで、
 我がガタコンベの誇る自警団の出番となっている。

 元は、猿人セーテンが率いていた猿人盗賊団の面々が中心のこの自警団なんですけど
 とにかく評判が良くて、この夏祭りに際しても、各都市からここガタコンベに至るまでの間の警護を頼まれまくっているそうです。

 というのも
 春の花祭りの際に、それまで『よくて7割』と言われていた護衛確率の中、
 この猿人達は、警護成功率95%を成し遂げたわけです。
 失敗に終わっている5%に関しても、城の軍隊を動員しないと退治出来ないであろうと言われているサーベルタイガーの大群を前にし、依頼主の命を最優先にした結果であったためであり、むしろそんな状況の中から雇い主の命を助け出してる方がすごいんじゃないかって思うわけです。
 ちなみに、このサーベルタイガーの群れですが
 この数日後に、イエロ・ゴルア・メルアの3人に退治されたんだよなぁ……
 ちなみに、この頃のゴルアとメルアは、まだまだ剣の腕も……な状態だったため、実質イエロの独壇場だったらしい。

 そうなんだよなぁ
 今は、駐屯地に戻って隊長やってるゴルアも、このコンビニおもてなし本店で一緒に働いていた時期があったんだよなぁ、って、思わず思い出に浸ったり……

 まぁ、そんなに懐かしがらなくても、ゴルアやメルアの顔は週に2,3度は見てるんですけどね。
「こんにちはタクラ殿」
 そう言ってる側から、ゴルアが店に入ってきた。
 僕はニッコリ笑うと、
「やぁゴルア、いらっしゃい。今日も警邏かい?」
 そう声を掛けていく。


 ゴルアが隊長をしている辺境駐屯地ですが
 ぶっちゃけて言えば、
 王都に税金治めてるんだから、周辺の警備くらいしてよねってので設置されてる王都の施設です。
 で、ガタコンベを含めたここいらの辺境5都市とその周辺の町や村の警護を承ってる、この駐屯地の隊長をやってるゴルアは、勤勉に周辺都市と、その周囲を警邏して回っています。

 特に最近は
 このガタコンベで夏祭りが開催されることもあり
 日に1度は、駐屯地から誰かがやってくるのですが、その中に、ゴルアか、副隊長のメルアが含まれている可能が高いわけです。

 ちなみに
 本来であれば、隊長職に就けるほどの年齢でもなく、経験もないゴルアなんだけど
 この駐屯地の隊長ってのが立て続けにあれこれ問題起こしたもんだから、ただでさえなり手の少ない辺境の駐屯地と言うこともあり、たまたまその時派遣されていた人員の中で一番役職名の高かったゴルアが抜擢されたそうだ。

 とはいえ
 以前は1度もみたことがなかった、警邏がこうして定期的に行われているだけでも賞賛に値するというか、今までの奴ら、どこまで手を抜いてたんだって話なわけです。


 んで、ゴルアです。
 僕に声をかけられたゴルアは、にっこり微笑むと、
「えぇ、定期巡回の最中です。
 特にここガタコンベは、夏祭りがありますので、周辺の警護を特に厚くしていますので」
 そう言いながら、自腹で店の飲み物に目を向けていったのですが
「……なんですか? このパラナミオサイダーというのは?」

 うむ、ゴルアさん。
 とてもお目が高いですね。

 それ、ちょうど今日から新発売の炭酸飲料水ですよ。


 このパラナミオサイダーですが
 スアの使い魔の1人である、酒の精霊バルンカッスが、スアビールを生成している合間に作ったジュースです。
 というのがですね、バルンカッスから
「スアビールを作っていると、炭酸水が余剰に余るのですが、何かいい手はないですかの」
 と相談を受けたわけです。
 詳しく話を聞いてみると
 このスアビールは、特別な材料をプラントの木に吸わせ
 それをバルンカッスが、酒の妖精特有の魔法によって調整を加えて完成させているのですが
 その製造過程において、一定量、アルコール分を全く含まない実が出来てしまうんだとか。
 んで、試しに飲ましてもらったんですけど
「……バルンカッス、これ、普通に美味しいじゃないか」
 と、なったわけです。

 と、いいますのが
 スアビールは、果物のフレーバーをふんだんに含んだ味わい深いビールなのですが
 そこからアルコール分を抜いただけといった感じの味なわけです。
 
 味はそう濃くはありませんが
 僕が元いた世界でいうところの味つき炭酸水的な味わいは十二分に持ち合わせているわけです、はい。

 そこで、試しにこれをスアビール同様に小型の木の樽に詰めて試しに飲んでみて貰ったのですが、

「うむ……アルコールがはいっていませんな」
 と、イエロ
「キ?……これは酒じゃないキ?」
 とセーテン
「あれ?……これじゃ酔えないじゃないか」
 とルア

 ……しまった……人選を誤った
 酒にしか興味を示さない酒飲み娘48の神3に味見をお願いしたことを後悔しつつ、
 僕は改めてメンバーを入れ替えて試飲をしてらったところ

「これはさっぱりで、シュワシュワで、とてもオイシイでおじゃりまする!」
 と、ヤルメキス
「夏の暑いときにグイッとやると、良さげですねぇ」
 と、ブリリアン
「パパの作る物はどれも美味しいです! これもとても美味しいです!」
 と、パラナミオ

 うん
 しきりなした後の試飲結果は上々だったわけで、
 早速これも売り出してみたわけです。

 バルンカッス曰く、スアビールを生成していると、一定量出来上がってしまう物らしいので、
 こうして販売出来るのならありがたいとのことでして……

 で、商品名ですが
 スアの使い魔が生成に深く関わったのでスアビール
 僕が愛飲していた日本酒から生成されたのでタクラ酒
 と続いたので

 パラナミオサイダーとしたわけです。

 ちなみに、パラナミオ本人は
「このパラナミオサイダー、学校から帰って汗をいっぱいかいた後に飲むと、とっても美味しいですパパ」
 そう言って嬉しそうに笑っているのですが

 商品名に自分の名前が入っているのに、未だに気がついていないようです。
 おもしろいので、気がつくまで黙っていよう、と、スアともクスクス笑いしてるんですけどね。


 とまぁ、そんな経緯で販売初日の商品を早速購入したゴルアは、それをゴクリと……
「……ほう、これはいいですな」
 そう言うと、一気に飲み干しました。
「いや、タクラ殿、警邏後などの勤務時間に飲むのにピッタリですな、これは」
 そう言い、ニッコリ笑ってくれました。

 で、
 早速駐屯地用に、このパラナミオサイダーを2箱と
 スアビールを5箱買って帰ったゴルア。

 ビールは、仕事後の駐屯地勤務の隊員達のために買って帰っている品なのですが
 これ、ゴルアの自腹なんですよね。

 田舎で、ろくに楽しみのない辺境勤務のため
 攻めてうまい酒でも飲んでもらおう、というわけで、ゴルアが自腹で買って帰っては皆に分けてあげているんだとか。
 まぁ、そのおかげで、非番の騎士さんたちが
「隊長が配ってくださる、うまいビールを買いたいんですが」
 って、結構頻繁に来店なさってもいるんですよね。

 まぁ
 そんな裏事情も知っているので、ゴルアがまとめ買いしていく際には
 いつも値引き販売してるんですけど、これはくれぐれもご内密にお願いします。


 と、まぁ、そんな感じで
 ゴルア達の警邏も本格化していて
 猿人達による自警団も、フル稼働状態に入っています。

 そんな中
 我がコンビニおもてなしの出店もすでに稼働開始しています。
 2号店からヘルプにきてくれているメイドと
 3号店からヘルプにきてくれている小型木人形のチカラン

 この2人が

 スアビールとタクラ酒
 これにパラナミオサイダーもラインナップに加えつつ
 冷蔵魔石
 弁当やパン
 これらを出店で販売し始めているんですけど、弁当なんかは今日は昼前に売り切れになってました。
 本番は明日からですが
 すでに……なわけです、はい。


 ちなみに、
 この出来たてほやほやのパラナミオサイダーですが、
 スアビールやタクラ酒同様、ハニワ馬のヴィヴィランテスが、その背にのっけて輸送してくれています。

 ……ハニワ馬~
 ……ハニワ馬って言ってるんだけど~
「はい? それがどうかしまして?」

 ……最近は、ハニワ馬よばわりしても、まったく反応しなくなった元水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族のヴィヴィランテスなわけです、はい……


 で
 そんなこの日、

 学校から帰ってきたパラナミオが
 すごい剣幕で僕に駆け寄って来ました。
「ぱ、パパ……あ、あの……ぱ、パラナミオサイダーって、……ひ、ひょっとして……」
 あぁ、やっと気がついたのか。
「そう、パラナミオの名前がついた飲み物だよ」
 僕が笑顔でそう伝えると。
 パラナミオ、顔を真っ赤にして
「ダメです。あ、いえ、ダメじゃないです……あ、でも、やっぱりダメです……」
 と、もうアタフタしまくりだったわけです、はい。

 ちょっと意地悪しちゃったかな、って思った僕ですけど
 そんなパラナミオがすごく可愛かったんで、僕的にはよしとしておこうと思います。

 いつの間にか、
 僕の横にスアもやってきて、そんなパラナミオを優しい笑顔で見つめていました。


 さぁ、明日から夏祭りです。
 パラナミオサイダーも売って売って売りまくるぞ、と。

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