店とビールと魔法使いと村と…… その2
駐屯地からやってきた、騎士団長の女騎士ゴルア。
……っていえば、なんか格好いいんだけど
ちょっと前まで
「イエロお姉様ぁ!」
って言いながら、鬼人イエロの後をついて回ってた姿がまだ鮮明に目に焼きついているだけに
今、目の前で凜々しく立っている姿を見ても、なんかどこか違和感を感じまくっているのですが……
そんな僕に、
店の奥で片付けをしていた、ヤルメキスや、猿人4人娘達が、大きく頷いています。
そんな僕達に、ゴルアは大きく咳払いをすると
「私にも立場という物がありますからな……あの当時のあの姿というのはですな……」
そう、語り始めたんだけど
そこに
「ご主人殿、今帰りましたぞ!」
そう言いながら、イエロが狩りから帰った来ました。
「今日も大量キ!」
と、セーテンも上機嫌でイエロと肩を組んでいます。
で
その2人の姿を見たゴルア
「そこの猿! イエロお姉様から離れなさい!」
そう言いながら、剣を抜いて……って、おいおい、立場がどうのこうの言ってたのはどうした!?
「タクラ殿! それとこれとは話が別です!
イエロお姉様に悪い虫がついていたとなれば、このゴルア、命にかえてもその虫を駆除してみせましょうぞ!」
そう言うが早いか、剣を抜いて……
で、1分少々
「だからぁ、お前の剣の腕じゃ、まだまだアタシの相手にゃならないキ」
ゴルア
地面に押し倒され、その背にセーテン、どっかと座ってます。
なんていいますか
元猿人盗賊団を率いていた猛者ですしねぇ……駐屯地の隊長になったとはいえ、いまだ剣の腕は発展途上の下の方なゴルアでは、歯が立たないといいますか……
「く、殺せ!」
とまぁ、どっかで聞いたような台詞を吐きながら悔しそうなことこの上ないゴルアですけど
とにかく、どうにか騒動はおちついたようなので、この隙にゴルアから手渡されていた書類に目を通します。
……って、いうか……ゴルア、なんだい、この「村登録申請書」って?
そうゴルアに言葉をかけたんだけど
未だにセーテンの尻にしかれているゴルアは、まったく言葉を発する事が出来ない状態なわけで……
……おいおい、隊長さん、そんなんで大丈夫か?
「か、代わりに私がご説明いたしますわ」
そう言いながら、ゴルアと一緒にやってきていた騎士団副隊長のメルアが僕の前に出てきました。
「タクラ様は、先日の暗黒大魔道士討伐の恩賞として、ブラマウロ休火山一帯の土地を入手なさったと思いますが、最近、あの一帯に魔法使いが住み着いていますよね?」
……うん、住み着いてるね……ざっと500人くらい
「それでですね、
『そんな集落を村登録していないのはおかしいんじゃありませんのこと?』
なる苦情が王都の地方辺境局に寄せられまして……
辺境局としては、確かに魔法使いは住んでいますけど、周囲から隔絶されてますし、孤立してますし、ぶっちゃけ、なんであんな辺鄙な場所に好んで住んでるの? な、わけですし、まぁそこまでしなくても……的なスタンスではあるんですよね。
ですが
『そんな理由で村登録しないのはおかしいのではないですか?』
とか言って、この苦情の方々がなかなか引かないんですよ……」
ん~、メルアさん、それに関して、1つ質問いいかな?
「はい? なんでしょう」
「今回、その村登録をしろと中央辺境局とかいう場所に苦情を言ってるのってさ、
上級魔法使いのお茶会倶楽部のヤツだな?」
僕がそう言うと、メルアは
「いえ、その……そう、直接的なお言葉にお応えするわけには……守秘義務もありますので……」
そう言い、ゴニョゴニョしながら言葉を濁していく。
そこで僕は、
右手の甲を頬にあて
左手を腰にあて
ふんぞり返りながら
お~ほっほっほっほ、と
「こんな格好するやつらじゃないか?」
「あ、はい、そうです」
うん、メルア、あっさり頷いた。
うん、まぁ、こんな辺鄙な土地のことをわざわざ陳情に行くような暇人は、こいつらしかいないよなぁ、あとは思った訳です。
要は、僕やスアに対する……あ、いや、奴らの場合は
僕や、自分達に従わない中級以下の魔法使い達に、とにかく難癖つけて困らせてやろうって魂胆なんだろうな……
「そうですね……村登録するとなると、何かと面倒ですので……」
メルアも、なんかそう言いながらため息をついています。
まぁ、駐屯地としても困ってるんだろうなぁ
あの土地は村登録するとなると、多分、ゴルア達があそこも定期的に警邏しないといけなくなるんだろうし……
上級魔法使いのお茶会倶楽部の奴ら、こんなせせこましい嫌がらせまでしてきやがったか……
なんて僕が頭をかいていると、
なんか店の裏で、ずし~ん……ずし~ん……って、すっごい音が
「……ちょっとあいつら、踏みつぶしてくる、よ」
って、スア。
その馬鹿でかい岩石巨人は何者ですか!?
気持ちはわかるけど、その直接的な報復は待ちなさいって!
岩石魔人の頭の上にのっかって、なんか格好良く杖を振りかざしていたスアを
どうにか思いとどまらせた僕。
なんか、いつものように、頬をプゥット膨らませて怒っているスアをなだめながら、
「まぁ、ちょっと時間をくれないかな。
すぐにすぐと言われても、何かと準備の都合もあるしさ……」
そう言う僕に、メルアは
「いえ、こちらとしても即決をお願いしにきたわけではありませんので、また方針が決まりましたらお知らせくださいませ」
そう言うと、セーテンの下敷きになって『くっ殺せ!』と繰り返し続けていたゴルアを助け起こして帰って行きました。
「……あ、スアビールを木箱で5つお願いします」
と、そこは忘れないのね。
◇◇
で、その夜
皆での夕飯を済ませ、パラナミオとひとしきり遊んだ僕は
パラナミオとスアがお風呂に入っている間に、本を開いていました。
『辺境地における村制度について』
さすがにスアも、魔法以外の分野の書物は書いていないため
この本は、中央辺境局が出版している本なわけです。
総ページ数129,037ページ……うへぇ……
僕はその中をぺらぺらめくっていってたんですけど
まぁ、ぶっちゃけ
あそこを村登録して一番面倒くさいのが、税金云々なわけです。
課税台帳を作って、税を徴収し、その何割かを王都に納入する……と
で、
王都はその見返りに村の整備や、警護を行う
陳情に応じ、整備費の支給が行われるらしいんだけど
それには、相応の資料を作成して提出する必要があって、しかも、それを受領し、予算執行するための役場的な組織も必要になってくる、と……
なんか、調べれば調べるほどめんどくさいことばっかり増えていくなぁ
まぁ、住んでいる魔法使い達にあれこれしてもらえばいいんだろうけど
一応家を建ててすんでいるとはいえ、いつでも旅立てる彼女達です。
中には、役場の仕事をお願いしたら、どっか余所の森の奥に移住して、で、本だけ読みに来かねないし……
などなど、
あれこれ考えていると、
僕は、その本の終盤、
『例外事項』
の項目を眺めながら、ふと、考え込み始めました。
「……あれ、これひょっとしていけるんじゃないか?」
僕が見ているページには
貴族が私有地としている場合云々な文言がかかれていたのですが……