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バトコンベの大武闘大会 その1

 スアの新刊が、異常な人気だとか。

 例の「魔法使いの娘の成長期記録 1巻」なわけなんだけど
 これ、通常の魔法書ではないため、1冊が僕の元いた世界でいうところの、約1000円程度と安いのと、これを記載しているのが伝説の魔法使い・ステル=アムだっていうので、すごい反響なんだとか。
「単価が安い分、他の書籍と比較しにくいですけど、部数的には間違いなく魔女魔法出版始まって依頼の新記録ですね」
 スア担当であるダンダリンダが、そう言いながらすごく嬉しそうに笑っている。

 最近
 スアがノリノリで執筆していることもあって、ダンダリンダが巨木の家にいる率がすごく高い。

 でも
 その待ち時間にこの世界のことを聞かせてもらえるので、僕としても非常に興味深いわけです。

 たとえば、
 この辺境都市ガタコンベ。

 昔はもっと巨大な都市だったらしいんだけど、今は、本来なら辺境小都市に分類されなければおかしいほどに規模が小さくなっているんだとか。
「まぁ、こんな辺境だから、王都も都市のルールをそこまで厳格には適用しないんでしょうね」
 そう言って笑うダンダリンダ。

 そんなこんなで会話をしていると
「そうそう、今度辺境都市バトコンベで大武闘大会が開催されるみたいですよ」
 そんな話題になったところで
「なんですと! 大武闘大会ですと!」
 と、イエロがすごい勢いでこの話にくいついた。

 なんでも
 イエロのように、辺境で己の腕を磨いている者達にとって、このバトコンベの大武闘大会は羨望の的なんだとか

「王都あたりでも大会はありますが、ああいった場所は、人種至上主義の宗教を推奨している国の方針もあって、拙者のような亜人は、そもそもエントリーすらさせてもらえないのでござるよ」
 へぇ、そうなんだ
「ですが、このバトコンベだけは違っておりまして、
 強さこそ正義、を旗印に、亜人でも参加は容易でございましてな、その実力に見合った報酬も保証されますし、何より、この大会でその武を見せつけることにより。
 王都から仕事をもらえることもあるのでござるよ」
 そう言ってカラカラ笑うイエロ。
「して、ダンダリンダ殿、大会はいつでござるか?」
「そうね、確か明日予選開始じゃなかったかしら?」

 その言葉に、イエロが瞬時に真っ白になった。

「ここからバトコンベまでですと、どんなに急いでも2ヶ月はかかるでござるよぉ」
 なるほどなぁ、そりゃさすがに無理だよなぁ

 そんな話をしていると、
 執筆が完了したらしいスアが、新しい原稿を持って部屋に入ってきた。
 その途端に、ダンダリンダは、満面の笑みを浮かべ
「ステル=アム先生! 早速献本作業に入りますわぁ」
 って、いつものように、すぐに消えていった。

 いつもなら、この後10秒もしないで戻ってくるダンダリンダなんだけど
 この子育て本シリーズには、挿絵がのっており、
 その絵を描いて貰う時間が、多少かかっている。

「……バトコンベ?」
 ダンダリンダを見送ったスア、
 先ほどの僕らの話が聞こえていたのか、イエロと僕を交互に見ながらそう言った。
 そんなスアに、イエロ、半泣きになりながら
「そうなのでござるよぉ、奥方様ぁ。参加したかった大会が、開催されるというのに、間に合いそうにないのでござるよぉ」
 そう、声をあげたんだけど
 そんなイエロのスア、
「……バトコンベ」
 そう言っていく。
 そんなスアに、イエロは
「そう、バトコンベでござ……」
 そう、言葉を返しかけて、なんか絶句した。

 ん?

 僕は、イエロの視線の先に、自分の視線を向けた。

 すると、そこには
 壁の一角に魔法陣を展開しているスアの姿があり
 その魔法陣の向こうには、なんか見慣れない街並みが……

 で、スア
 そこを指さして、再度
「……バトコンベ」
 そう言った。

◇◇

 スアの転移魔法で、即座にバトコンベに行けることが確定したイエロは、
 早速仲間を探しに走って行った。

 なんでもこの大会
 3人一組での参加なのだそうな。

 しかし
 有名なこんな大会に、さぁ出ようぜ! っていきなり言われて承諾するようなメンバーが、こんな辺境に……

「なんだって!? イエロがバトコンベの大武闘大会に参加するって? アタシも混ぜなって!」
 と、向かいの店の猫人・ルアが両手に戦闘斧を抱えて入ってきた。

……いたよ、1人目

 で
 部屋に駆け戻ってきたイエロに、ルアのことを話そうとしたら
「アタシも出キ! 店長も、アタシの雄志を見て欲しいキ!」
 と、イエロに続いて、猿人・セーテンが

……おいおい、なんかあっと言う間に3人集まっちゃったよ。

 辺境を彷徨って、自らの剣の腕を磨き続けている鬼人イエロ
 元盗賊団のボスである猿人セーテン
 かつて傭兵で稼いでいた猫人ルア

 ……すごい武闘派チームだな、これ

「拙者達の名を、バトコンベに知らしめてやるでござる」
 と気合い満々のイエロ。

 優勝目指して頑張れよ、と思ってたら
「いやいや、拙者達は予選にしか参加しないでござるよ」
 って、イエロ

 え・ なんで?

「拙者達は、いわば寄せ集めでござる。
 この大会のために、常日頃から努力している皆々様方が集う決勝トーナメントには、あいふさわしくないでござる」
 と、イエロ。

 なんとも、イエロらしい生真面目すぎる考えだけど
 そこがまた、イエロのいいとこでもある、僕はそう思ってる

「よし、じゃあ僕も精一杯応援するよ!
 とりあえずご飯の心配はしなくていいよ、僕が全部なんとかするから!」
 そう言うと、
「さすが店長キ! 愛してるキ!」
 と、セーテンがすごい勢いで僕を抱きかかえ
「さぁこのまま愛の逃避行キ!」
 そのままダッシュでこの場から離脱しようとしたのが、3秒前

 今のセーテン

 スアの足下で、魔法ロープでグルグル巻きにされて転がっている……

 うん、スア
 戦力にならなくなっちゃうから、それぐらいで勘弁してあげて。


 まぁ、せっかくなんで
 会場でコンビニおもてなしで売ってる弁当やパンを売れないかなとも思っているので、イエロ達が参加申し込みする際に、主催者の人達に相談してみようと思ってる。

 なんでもこの大会には、辺境で活動している冒険者も多く参加しているらしいし、
 そんな人達にアピールしておけば、利用してもらえるかもしれないしね。

 ちなみに
「……せっかく大会に出るんだから、ね」
 と、スア
 魔法で3人に揃いの衣装を作成してあげた。

 いわゆる武士、な姿のイエロ
 体に密着したタイトなコスチュームでスピード重視な姿のセーテン
 見るからにいかつい鎧姿のルア

 ルアの鎧は、見るからに重そうなんだけど
 見た目は重装・重さは紙らしく
「スアさん、この鎧、マジすごいよ! これすっごい売れるって!」
 って、ルアがすごく感動してたわけです。

 ちなみに、この3人の衣装
 いたるところに『コンビニおもてなし』の文字が入っています。

 うん、さすがスア
 広告も忘れてないって、さっすがだよ!

 親指をグッと立てる僕に
 同じ仕草で応えるスア

 そんなわけで
 準備が出来た僕らは早速バトコンベへ

「パラナミオも行きたいです!」
 そうパラナミオも言ってきたので、一緒に行くことにしたんだけど

「……サラマンダーの子供、心配」
 そう言いながら、スアが、隠蔽魔法をかけていた。

 サラマンダーの子供は
 空も飛べず、海にも潜れない龍であるがゆえに、龍討伐者(ドラゴンスレイヤー)の称号ほしさの冒険者達が狙いかねないとか、以前話になったもんな

 魔法もばっちりでいざ、バトコンベに……

「……おや? そこのお嬢さん、ひょっとしてサラマンダーかい?」
 って、なんかいきなりバレたんですけど!?

 見ると、そこには褐色の肌をした背の高い女性。
 僕が、警戒心バリバリの視線を女性に送りつつ、パラナミオを庇うようにその前に立っていくと
「お父さん、この人もサラマンダーです」
 って、パラナミオ

 え? そうなの?
 なんか横で、スアも頷いている。

 そんな2人の光景を見つめた目の前の女性
「あぁ、すまない。人前でいきなりサラマンダー呼ばわりしてはいけなかったな。
 配慮に欠けたことをお詫びしよう」
 そう言い、深々と頭をさげた。

 うん
 悪い人じゃないな、この人

「私はサラ。この近くの街で暮らしている。
 今日は、大武闘大会に参加しにやってきたんだ」
 そう言いながら、この女性、サラは、パラナミオの前でうずくまり、その目線の高さをパラナミオに合わせていく。
「……お嬢さん、この2人はお父さんとお母さんかい?」
「はい! パパとママです」
 サラの言葉に、そう即答するパラナミオ。

 とはいえ、
 サラ的には納得しにくい話じゃないのかな?
 
 何しろ、サラマンダーであるパラナミオの

 母親が魔法使いで
 父親の僕にいたってはただの人だ…なんで転移してんのにチートの1つもないのやら……


 もともと、盗賊団に奴隷にされていたのを助けたわけだし
 別にやましいことはない

 さぁ、なんでも聞いてくれ、って思ってたら
「……そうか、盗賊に捕まっていたのをこの2人に……」

 え?
 なんか話もしてないのに、なんかサラさん、語り始めてるんですけど……

 そんな僕に、スアが近寄って来た。

 スアによると、
 サラマンダー同士は、その目を合わせ得ることでお互いの脳内で会話が出来るんだとか。
 で
 今は、2人だけで秘密のお話をしている最中らしい。

 うん
 女性同士なんで許すけど
 サラさんが男だったら、僕、多分蹴りいれてるよ
『ウチの娘はやらん!』とか言いながら

 で
 なんか視線でひとしきり会話したらしい2人。

 おもむろに立ち上がったサラは
 僕とスアの手を交互に握ると
「この子のことを、末永くよろしくお願いします」
 そう言いながら、深々と頭をさげられてしまった。

 あ
 あれ……なんか、蹴りをどうとか思った僕が、なんかすごく気恥ずかしくなってきたぞ……

 とにかく、
「親として当然です」
 って応えた僕に、サラさんは笑顔で立ち去っていった。

 そんなサラさんの後ろ姿を、パラナミオは笑顔で手を振って見送っていた。
「あのですねパパ、私サラさんから召喚魔法の使い方を教わったのですよ!
 今まで以上に上手に出来ると思います!」
 そう言いながら、いきなり詠唱を始めようとするパラナミオを
 僕は慌てて引き留めた。

 うん
 ただでさえ、サラマンダーってばれたらまずいんだから、
 お披露目は家に帰ってからにしようね、パラナミオ

 ただでさえ、なんか僕達目立ってるんだから……

 なんかさっきから、周囲の皆が、えらく僕らを見てるんだよなぁ

……あの魔法使い
……ひょっとして伝説の
……間違いない、ステル=アム

 はい?
 目立ってるの、スア?

 慌ててスアへ視線を向けてみると
 
 魔法使い然とした尖り帽子
 魔法使い然としたローブ……

 スアの著作には、スア自身の肖像画が入ってるんだけど
 その肖像がとまったく同じ格好で、しかも顔もそのまんまなわけで

 そりゃバレますってば!?

 僕は、スアとパラナミオを連れて近くにあった洋服店に

 ここで、スアを白いワンピース姿に強制着替え。

 うん、よく似合ってる

 でも、スア本人は
「……こ、これ……布が短すぎるし、布が薄すぎる……」
 って、モジモジしながら真っ赤になってた。

 そんなスアに、同じ服を着せてあげたパラナミオが
「ママ! 私おそろいですよ! 可愛いです!」
 そう言いながら満面の笑み。

 そんなパラナミオを前にして
 スアもようやく観念したらしく、パラナミオの背に隠れるようにしながら移動開始しました。

 まぁ
 こうして着替えたおかげで、どうにか、スアも目立たなくなったわけですけど
 やっぱ、あの尖り帽子とローブは目立つねぇ

 そうこうしていると、受付を終えたイエロ達が戻ってきた
「コンビニおもてなしの出店も許可がもらえましたぞ!」
 と、イエロ

 さっきサラさんが来てたんで、手続きをお願いしておいたんだけど
 これで、店のアピールも出来るわけだ

 じゃあ、早速道具を持って来たいから、スア、転移魔法を……

 って、スア
 ただでさえ小さいパラナミオの背後に、何、ぴったり隠れようとしてんの?
 どうせ後ろからは丸見えじゃあ

 あ
 魔法で姿消したよ、おい……

「……可愛い奥さんの、可愛いワンピース姿がもっと見たかったのになぁ」
 そう、僕がわざとらしく呟くと

 5秒後

 スアが、今度は僕の背に隠れるようにしながら、その姿を現した。

「……ずるい」
 そう言いながら僕の背中をつねるスア
 なんか、そんな仕草も可愛いんだよなぁ……って、スアさん、なんか魔法で力をブーストしてないか?
 
 あだ
 あだだだだだだだだ

しおり